不完全な人達

神崎

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受け入れたくない

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 祖母の四十九日が終わり祖母の納骨を済ませた清子は、今からどうやって生きていくのかとずっと考えていた。祖母のかけていた保険と貯蓄で何とか、葬儀も四十九日も無事にすませることが出来た。重要なのはこれからだ。
 高校は辞めてしまった。バイトをしながら、就職の口を探すしかないと思っていた矢先だった。家の電話が鳴る。
「清子ちゃん。母の納骨は終わったかな。」
 葬儀にも四十九日にも出なかった叔父からの電話だった。
「はい。」
 今更何を言うのだろう。清子は不審に思いながらその相手の出方を聞いていた。
「清子ちゃん、今住んでいる家だけどさ。俺らで財産分与することになったから。」
「は?」
 祖母の子供は三人。食品加工会社を経営している叔父、小説家の叔父、そして行方知れずになっている自分の父親。どうやら父親とは連絡が付かなかったらしく、財産を放棄するという話になったらしい。
 そこで二等分した財産の件で連絡をしたらしい。借金がなかったのが良かった。
「君の父親が財産を放棄したということは、その家は俺たちのモノだから。君を住まわせる権利はない。家賃でも払えば話は別だけど。」
 この男はおそらくこの家が欲しいのだ。売っても二束三文にしかならないような家と土地をどうして欲しいのか、清子には理解できない。
「祖母のモノはどうしますか。」
「そのままにしておいて。祥吾が処分するらしい。俺が欲しいのは家と土地だから。」
 それが叔父の最後の言葉だった。
 清子はその言葉に従い、自分の荷物をまとめた。そのとき唯一こっそりと持って行ったのが、祖母が大事にしていたジッポーなのだ。古いもので、手入れをちゃんとしてある。それだけは手放したくなかった。

 そして今になり、叔父の会社の不正が表に立った。障害者の雇用の不正。障害者を雇えば、国からの補助が出る。それを自分の懐に入れて、当人にはほとんど給与の支払いをされていなかった。もちろん、それも誤魔化していたが。
 晶は携帯電話のニュースを見ながら、ため息を付く。
「すげぇな。不正のオンパレードだ。」
 元々「瀧本食品」は二、三代前から健在する会社で、現社長である清子の叔父の頃から、急激に業績を伸ばしている。特に障害者雇用に力を入れていて、加工する食品を彼らに作らせてその食材なんかをレストランや弁当屋に卸していた。
 安心、安全を唱っていたが、その実際はあくどいことばかりだった。家畜に与えられていた餌も、どこのモノかわからない。間に合わないときはよその国からの仕入れに頼っていた。野菜にしてもそうだった。
「偽造と、傷害と、あと詐欺。主なところはそんなところか。」
「それでも謝罪会見とか、記者会見をするつもりはないらしい。責任感は全くないみたいだね。」
「あぁ。何でも海外に今行っているから、そのまま戻らないんじゃないのかって。」
 史と晶はカウンター席に座り、そのニュースを見ていた。会社には、雇用されている障害者の親族がつめかけている。だが会社の回答はなく、ただじっと黙っているだけだった。
「最悪の展開だ。」
「集めれる財産を集めて、ほとぼりが冷めたらこっちに戻るのか。刺されるぞ。この社長。」
 そのときカウンターテーブルに置いてあった、清子の携帯電話が鳴った。ちらっと史はそれを見ると、どうやら会社からのようだった。当の清子は、さすがにもう脱ぎたいとバーの奥にある更衣室でドレスを脱いでいてここにはいない。手に取ろうかと思ったが、さすがに清子の携帯に出るというのは気が引ける。
 しばらくしたら電話が切れた。そしてすぐに史の携帯電話が鳴る。取り出してみてみると、そこには会社の電話番号があった。
「もしもし。」
 迷わずにそれをとると、相手は予想もしない人だった。
「正木史編集長か。」
 その声に聞き覚えがある。それはさっきまで一次会の会場でステージ上にいた社長の声だった。
「社長……。」
 史は慌てて席を立ち、外に出る。そして改めて挨拶をする。
「今日は、お世話になりました。」
「堅苦しい挨拶はいらない。用があるのは一つだけだからな。」
「何でしょうか。」
「そこに徳成清子はいないだろうか。」
「……今、別室で着替えをしてます。」
「そうか。タイミングが悪かっただけか。無視をしたのかと思ってな。」
 この社長は世襲制で次いだだけの社長だ。歳は史と二、三個くらいしか変わらないが、前の社長よりも頭が切れるように感じる。
 どうやら一次会で、清子と社長は接触したらしい。社長は清子が住んでいたあの街の土地を買い上げたのだ。動画が出る前の話らしい。清子たちの街は過疎しているが、その奥に建設予定の工場が出来るのは決定している。海が近いその土地であれば、海外に輸出するのも楽だという理由だ。
 その社宅なり寮なりを作るのに土地が必要だった。そして清子が住んでいた土地は、例の食品加工会社のモノであり社長はそれを言い値で買い上げたのだという。
「もしも、徳成がうちに籍を置くというのであればあの家で在宅勤務をして良いという話をしている。社宅として多少の金を置いてもらうが。」
「……それを徳成さんが了承したと?」
「いいや。もし了承せず、正攻法で土地と家を買いたいというのだったら、二千万円用意しろと言っている。」
「にっ……。」
 そんな無茶な話をしたのだろうか。だから清子の様子がおかしかったのだろう。
「そこまでして欲しい人材ですか。」
「それは一緒に働いたお前が一番知っているだろう。数字だけを見れば、「pink倶楽部」の部数が上がっている。他社の本は廃刊に追い込まれているというのに。」
「……。」
 確かにそうかも知れない。前にエ○メンの特集をしてから、手に取りやすいエロ本というレッテルが付いたからかも知れない。
「徳成にはそこだけではなく、会社全体のIT、ウェブの管理をして欲しいと思っている。それはある程度なら会社でなくても出来ることだ。」
「しかし……当人がそれを望んでいないでしょう?」
 すると電話の向こうでかちっという音がした。ライターか何かを付けた音だ。
「だったら情で落とすしかない。お前か、久住か……無理だったら俺が出て行っても良いが。」
「体では言うことを聞きませんよ。強情です。」
「催淫薬でも使うか?」
「死にますよ。」
「死なれては困る。」
 冗談か冗談ではないのかわかりづらい。
「……会社が出来るのはここまでだ。正木。何としても引き留めろ。」
 そういって社長は電話を切った。そんな事情で清子を抱きたくない。会社の為などではない。この胸を焦がすような感情をぶつけて、愛して愛されたい。それを教えてくれたのが清子だったのだ。
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