不完全な人達

神崎

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受け入れたくない

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 史の部屋までは階段で上がらないといけない。その階段すらきついと思っていた。だから部屋にあがり、素足になったとたん清子はほっとした。床が足に吸い付くようだと思う。
 それから風呂を沸かしてもらい、化粧を落としてゆっくり湯船に浸かる。体がじんわりと温まるようだった。きちんと洗濯されている下着は、以前ここに置いていったものだ。そして上下のスウェットに袖を通す。良かった。前のようにワイシャツを渡されないだけましだ。
 バスルームから出ると、史は少し笑って清子をみる。
「良かった。サイズが合っていたね。」
「用意していたんですか。」
「あぁ。また泊まりに来ればいいと思って、買っておいたんだ。」
「泊まりに来ない可能性の方が高かった。」
「だけど来てくれた。」
 認めたくない。なのに事実を受け入れないといけないのだろう。
「俺も風呂に入ってくる。大人しくしてて。」
 そう言って史は手に持っていた紙袋をソファーの上に置いた。
「何?」
「あぁ。明日君が着るもの。」
「え?」
「これを着てくれる?俺が風呂に入っている間に見てて良いから。」
 ベッドルームへ向かってその手に下着などを手にすると、史もバスルームへ向かった。その間、清子はその紙袋の中身を確認する。
 その中には白いニットのワンピースと、タイツ、そして濃い緑色のジャンパーがあった。清子が服を買うときはあまりない。少しヨレてきたり、痛んできたと思ったら買い換えるくらいでこだわりもない。
 だがその紙袋にプリントされていたメーカーは、清子でも知っている若い人向けのブランドだった。安くもないが、びっくりするほど高くもない。おそらくあまり高いと清子が受け取らないと思ったのだろう。
 どちらにしても清子が手に取るようなものではないのだ。それにこの服は史の好みだろう。この様子だと靴も用意されていそうだ。
 そう言えば香子が言っていた。史のこう言うところがイヤだったと。自分好みに変えたいと思っているのだろうか。それが清子の一番いやがることだとわかっていながらするのだったらたちが悪い。
 そのとき清子のバッグから携帯電話の音がした。清子はそれに手をかけると、携帯電話を取り出す。相手は晶だった。
「もしもし……えぇ……もう帰りました。そちらは?えっ……えぇ……帰るときに、編集長から聞いたんです。」
 煙草に手を伸ばしかけてやめた。今日は吸いすぎだと思うし、それに史がまた抱きたいと思っているのだったら、余計な臭いを付けない方が良いのだろう。それくらいの気遣いはしないといけない。窓の方に体を向けて、話をはじめる。晶は事情を知っているから、説明をしないといけないだろう。それにあの町のことは、清子一人の問題ではない。
「嗅ぎ回ってる?」
 どうやらいつか町であった西川充という人物が、晶の周りも嗅ぎ回っているらしい。
「今日週刊誌の担当の方が言ってました。何か彼が首を突っ込んでいるのではないかと。」
「それだけじゃない。清子。注意しろよ。しばらく一人で歩き回らない方が良い。それに……お前があの親族の一人だと知ったら、うちの会社の週刊誌も追い回すかも知れない。」
「追い回すでしょう。でも大したことは話せません。繋がりはなかったし。」
「でもお前、あの家を追い出されたんだろ?普通に考えろよ。未成年を面倒見るわけでもなく、家を追い出してその家を取ったんだろ?それだけで普通じゃねぇよ。」
「そうなんですか?」
「そうなんだよ。お前、結構ずれてるところがあるから、それを普通に週刊誌の奴に話しそうで怖いな。その……叔父だっけ?また罪状が増えそうだ。」
「どちらにしても……いらないことは話さない方が良いですね。わかりました。ありがとうご……。」
 そのとき腰のあたりに温かいモノがふれた。それを感じて思わず声を漏らした。
「どうした?」
「いいえ。何でもないです。また、月曜日に。」
「あぁ。お休み。」
 晶との電話を切って、清子は恨めしそうに後ろを向く。そこには清子の体を後ろから腰にかけて抱きしめる史の姿があった。
「やめてくださいよ。」
「久住から?」
「はい。久住さんは全部知っているから、心配になったんでしょう。」
「なのにこんな男のところに来ている。悪い女だな。」
「望んできてませんけど。」
 すると史は髪を避けて、その首筋に唇を寄せた。すると清子の手から携帯電話が床に落ちる。
「んっ……。」
「これだけで赤くなってる?やらしい女でもあるね。」
 耳元でそう囁かれて、耳たぶに唇が触れた。すると清子は苦しそうに吐息を漏らした。
「耳、感じる?」
「わからないです……んっ……。」
 声を掛ける度に吐息が耳にかかる。耳たぶに柔らかいモノがふれる度に、声が出そうになった。唇を離すと、清子の顔が真っ赤になっている。それだけで感じているのだ。
 史は清子を正面に向けると、その唇にキスをしようとした。だが清子がそれを止める。そしてその史の体に体を寄せた。
「どうしたの?」
「顔を見たら、言えないから……。」
「何が?」
「本当は……居てくれて良かった思ったんです。冬山さんと対峙して、冷静でいれる自信はなかった。だから……編集長……いいえ、あの……。」
「ん?」
 史もその体を抱きしめてその言葉を聞いた。
「史が居てくれて良かった。」
 すると史は思わずその体を抱きしめる力を強めた。そして清子を抱き抱える。ソファーに清子を座らせて、その上に史は乗りかかるようにして清子の唇にキスをする。
 何も考えたくなかった。ただキスがしたかった。背もたれにもたれ掛かるように清子は上を向き、その唇に唇を重ねる。
「史……ちょっと待って……。」
「待てない。もっと舌を出して。」
 言われたとおり清子は舌を出して、その舌を絡ませる。お互いの唾液が清子の顎を伝い、それでも史はやめなかった。
「ん……っん……。」
 頬を包み込むようにもたれ、苦しくてもやめてくれない。やっと唇を離されると、清子は深く息をした。
「窒息する……。」
「しない。キス、下手だよね。」
「書いてなかったから……。」
「え?」
「コラムに……。」
「俺の?」
 そう言えばそんなこと書いてなかった。いいネタを見つけたと、史は少し笑う。
「今度のネタはキスにしようかな。フ○ラのネタは書いたことがあるんだけど。本誌が良いかな。そっちの方が文字数多いし。読んだら実践するの?」
「……。」
 悔しいが史の言うとおりだ。そのまま実践してしまいそうな自分が怖い。
「俺だけにして。それか……俺が教えても良いから。」
「実践で?」
「そう。清子。少し口を開けて。」
 言われたとおりに、清子は少し口をあける。すると史はそのまままたキスをする。
 口の中を舐められる度に、ゾクゾクした。
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