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食卓
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台所にいる茂が、史の姿を見てそちらに近づいてきた。それを見て史は手に持っているスーパーの袋を手渡す。
「エノキと鶏肉ですよね。あと、ビールを。銘柄はコレで良いですか?」
「発泡酒とかで良かったんですけど、ありがとうございます。久しぶりですよ。ビールが。」
茂はそういって笑う。短い髪はやっと伸びてきたのだろう。晶とは違いあまり背は高くないが、良く焼けた肌を持っている。色白で外に出ることが多いが、不健康に見える晶とは対照的だ。そういえばこの兄とは半分しか血がつながっていないといっていたので、コレで納得した。
「いつもお世話になります。晶の兄で、茂といいます。」
「正木史です。」
史はそういって名刺を取り出して、茂に手渡した。
「晶から聞いてます。今はエロ本の部署だとか。」
「えぇ。興味ありますか。」
「正直……俺はこの間までムショにいたので、こういう道しかないかとは思ってました。」
「男優ということですか?」
「そうですね。」
「男優も生半可では使い物になりませんよ。」
「えぇ。晶から言われました。甘いなって。」
そういって茂は少し笑った。
話に聞くと、史は元AV男優をしていた。背が高く、細身だががっちりしていて、何より甘い顔をしている。歳よりも若く見えるし、こういう男ではないと勤まらないのだろう。
「俺は運が良かった。後輩が面倒を見てくれているので。」
「今は漁師だとか。」
「無鉄砲なことをしなければと、置いてもらってます。いずれは自分でしないと。」
新たな目標が出来たようだ。史は安心したように茂を見ていた。
茂が風呂から上がって、鍋を炬燵の上に置く。そのほかにも、レンコンのきんぴらや、焼きジャガイモなどが食卓を彩る。
「美味しそうだな。」
鍋の蓋を開けると、白菜、エノキ、白ネギなどの野菜と、白身のすり身、蛤、鶏肉などの動物性のものがある。
「都会で食べたら結構な値段するよな。この牡蠣なんか、贅沢。」
「半生くらいがいいのかと思った。」
割とぎゅっと身が詰まっている牡蠣に、晶は口を開く。
「編集長さ、牡蠣で当たったことねぇだろ?」
「無いな。話には聞くけど大変なんだろ?」
「あぁ。上からも下からも大変。体重が減った気がするわ。清子は食ったことある?」
「私は、牡蠣は海で石で削るものだと思ってました。」
「あぁ。昔は良くそういうことをしてた。」
ワイルドな少女時代だった。そしてその隣には、いつか話した姉妹が二人いたと思う。
「……清子ちゃんさ。」
ビールを一口飲んで、茂は清子の方を向く。
「はい?」
「君が小さい頃は海にいつも行っていたね。」
「えぇ。みんながしていたように、海のものがおやつ代わりでしたから。」
「確かもう二人くらい女の子が居たんだ。」
「あぁ……居ましたね。」
最近よく聞かれる話題だ。この話題を欲しているのは、祥吾だけだと思っていたのだがこの人も欲しているのだろうか。
「そういえばあの家ってまだそのままみたいだな。」
「あぁ。壊すのも金がかかるし、手がつけられないと言った感じだ。まぁ……あそこの奥さんはあの家で殺されていたわけだし……。」
暗い影を落とす話題だ。話を変えた方が良いかと清子は鍋に手を着けながら思っていた。しかし晶が急に声を上げる。
「あー。思い出した。」
「何?」
すっとんきょうな晶の声に、思わず清子の手が止まった。晶は意地悪そうに、茂をみる。
「あそこのねーちゃん、兄貴が惚れてんだっけ。」
すると茂の顔が赤くなる。その言葉に、清子は少しほっとした。あの殺人事件のことを聞きたいのかと思ったので、それなら全く知らないと言うつもりだったのだ。
「あわーい。初恋だよ。」
「おっぱい大きかったもんな。ねーちゃんは。」
「そんな目で見てないから。」
女にどんな幻想を抱いているのだろう。清子はそう思いながら、その取り箸を史に手渡した。
「でもまぁ……絶対手には入らないと思ってたけどな。」
「何で?」
「あのお姉さん……秋さんって言ったか。中学生くらいの時から、父親とデキてたからな。」
「父親と?」
「義理の父親だったって言ってたし。それに……レイプじゃないらしい。望んで寝てたって言ってたからな。」
史は意味ありげに微笑むと、茂に聞く。
「今、連絡を取ることはあるんですか?」
「無いですね。今は何をしているのかわからないし……。」
すると史は携帯電話を取り出して、茂にそれを見せる。すると茂は、その携帯電話をとるとじっと画面を見た。
「秋?」
「そう。明奈って言う芸名ですけどね。こういう仕事をしているみたいですよ。」
するとその画面を晶も見る。整形手術を繰り返しているが、秋の面影は拭いきれない。その写真では、秋が黒い喪服を着て畳に座り込み、悩ましげな表情を浮かべていた。
「昔は清純派でしたけどね。」
「……そっか……。」
「兄貴、ダウンロードしたら?」
「やめとくよ。それに……この人なら知ってるし。」
「何?ダウンロード済み?」
「じゃなくて……。」
ちらっと清子を見るが、清子は何も気にしていないように牡蠣を食べていた。
「あー。清子なら大丈夫。同じ部署だから。」
それを聞いて、茂は驚いたように清子を見ていた。地味そうな女性だと思ったが、百戦錬磨なのだろうか。
「清子ちゃん……。」
「気にしないでください。仕事でもっときわどいことを言われてます。それにそういうモザイクをかけることもしてますし。」
修正前のセックスを見ながら、食事でも出来るタイプなのだろうか。全くそれを気にしていないのは、驚きだ。
「あまり女性が慣れるものではないよ。」
「兄貴は女に幻想を持ちすぎなんだよ。女には性欲がないって思ってんのか?」
「そんなことはない。ただ……。」
「何?」
「少しくらい恥じらう方が、可愛げがあると思ったんだよ。」
レンコンのきんぴらを手に掛けて、茂はそういった。
「編集長。あれだな。明神が聞いたら卒倒する話だな。」
「あぁ。明神さんの恥じらいは、どっか置いてきたんだろう。」
結構失礼なことを言っているな。清子はそう思っていたが、こういう食卓は初めてかもしれない。こんなに大人数でわいわいと一つの鍋をつつくことはなかった。祖母が生きていたときも、祖母と二人で気の重い食卓だった。
食事が苦手になったのも、そのせいかもしれない。もしこんなににぎやかな食卓なら、もっと食事に希望を持っただろう。
「エノキと鶏肉ですよね。あと、ビールを。銘柄はコレで良いですか?」
「発泡酒とかで良かったんですけど、ありがとうございます。久しぶりですよ。ビールが。」
茂はそういって笑う。短い髪はやっと伸びてきたのだろう。晶とは違いあまり背は高くないが、良く焼けた肌を持っている。色白で外に出ることが多いが、不健康に見える晶とは対照的だ。そういえばこの兄とは半分しか血がつながっていないといっていたので、コレで納得した。
「いつもお世話になります。晶の兄で、茂といいます。」
「正木史です。」
史はそういって名刺を取り出して、茂に手渡した。
「晶から聞いてます。今はエロ本の部署だとか。」
「えぇ。興味ありますか。」
「正直……俺はこの間までムショにいたので、こういう道しかないかとは思ってました。」
「男優ということですか?」
「そうですね。」
「男優も生半可では使い物になりませんよ。」
「えぇ。晶から言われました。甘いなって。」
そういって茂は少し笑った。
話に聞くと、史は元AV男優をしていた。背が高く、細身だががっちりしていて、何より甘い顔をしている。歳よりも若く見えるし、こういう男ではないと勤まらないのだろう。
「俺は運が良かった。後輩が面倒を見てくれているので。」
「今は漁師だとか。」
「無鉄砲なことをしなければと、置いてもらってます。いずれは自分でしないと。」
新たな目標が出来たようだ。史は安心したように茂を見ていた。
茂が風呂から上がって、鍋を炬燵の上に置く。そのほかにも、レンコンのきんぴらや、焼きジャガイモなどが食卓を彩る。
「美味しそうだな。」
鍋の蓋を開けると、白菜、エノキ、白ネギなどの野菜と、白身のすり身、蛤、鶏肉などの動物性のものがある。
「都会で食べたら結構な値段するよな。この牡蠣なんか、贅沢。」
「半生くらいがいいのかと思った。」
割とぎゅっと身が詰まっている牡蠣に、晶は口を開く。
「編集長さ、牡蠣で当たったことねぇだろ?」
「無いな。話には聞くけど大変なんだろ?」
「あぁ。上からも下からも大変。体重が減った気がするわ。清子は食ったことある?」
「私は、牡蠣は海で石で削るものだと思ってました。」
「あぁ。昔は良くそういうことをしてた。」
ワイルドな少女時代だった。そしてその隣には、いつか話した姉妹が二人いたと思う。
「……清子ちゃんさ。」
ビールを一口飲んで、茂は清子の方を向く。
「はい?」
「君が小さい頃は海にいつも行っていたね。」
「えぇ。みんながしていたように、海のものがおやつ代わりでしたから。」
「確かもう二人くらい女の子が居たんだ。」
「あぁ……居ましたね。」
最近よく聞かれる話題だ。この話題を欲しているのは、祥吾だけだと思っていたのだがこの人も欲しているのだろうか。
「そういえばあの家ってまだそのままみたいだな。」
「あぁ。壊すのも金がかかるし、手がつけられないと言った感じだ。まぁ……あそこの奥さんはあの家で殺されていたわけだし……。」
暗い影を落とす話題だ。話を変えた方が良いかと清子は鍋に手を着けながら思っていた。しかし晶が急に声を上げる。
「あー。思い出した。」
「何?」
すっとんきょうな晶の声に、思わず清子の手が止まった。晶は意地悪そうに、茂をみる。
「あそこのねーちゃん、兄貴が惚れてんだっけ。」
すると茂の顔が赤くなる。その言葉に、清子は少しほっとした。あの殺人事件のことを聞きたいのかと思ったので、それなら全く知らないと言うつもりだったのだ。
「あわーい。初恋だよ。」
「おっぱい大きかったもんな。ねーちゃんは。」
「そんな目で見てないから。」
女にどんな幻想を抱いているのだろう。清子はそう思いながら、その取り箸を史に手渡した。
「でもまぁ……絶対手には入らないと思ってたけどな。」
「何で?」
「あのお姉さん……秋さんって言ったか。中学生くらいの時から、父親とデキてたからな。」
「父親と?」
「義理の父親だったって言ってたし。それに……レイプじゃないらしい。望んで寝てたって言ってたからな。」
史は意味ありげに微笑むと、茂に聞く。
「今、連絡を取ることはあるんですか?」
「無いですね。今は何をしているのかわからないし……。」
すると史は携帯電話を取り出して、茂にそれを見せる。すると茂は、その携帯電話をとるとじっと画面を見た。
「秋?」
「そう。明奈って言う芸名ですけどね。こういう仕事をしているみたいですよ。」
するとその画面を晶も見る。整形手術を繰り返しているが、秋の面影は拭いきれない。その写真では、秋が黒い喪服を着て畳に座り込み、悩ましげな表情を浮かべていた。
「昔は清純派でしたけどね。」
「……そっか……。」
「兄貴、ダウンロードしたら?」
「やめとくよ。それに……この人なら知ってるし。」
「何?ダウンロード済み?」
「じゃなくて……。」
ちらっと清子を見るが、清子は何も気にしていないように牡蠣を食べていた。
「あー。清子なら大丈夫。同じ部署だから。」
それを聞いて、茂は驚いたように清子を見ていた。地味そうな女性だと思ったが、百戦錬磨なのだろうか。
「清子ちゃん……。」
「気にしないでください。仕事でもっときわどいことを言われてます。それにそういうモザイクをかけることもしてますし。」
修正前のセックスを見ながら、食事でも出来るタイプなのだろうか。全くそれを気にしていないのは、驚きだ。
「あまり女性が慣れるものではないよ。」
「兄貴は女に幻想を持ちすぎなんだよ。女には性欲がないって思ってんのか?」
「そんなことはない。ただ……。」
「何?」
「少しくらい恥じらう方が、可愛げがあると思ったんだよ。」
レンコンのきんぴらを手に掛けて、茂はそういった。
「編集長。あれだな。明神が聞いたら卒倒する話だな。」
「あぁ。明神さんの恥じらいは、どっか置いてきたんだろう。」
結構失礼なことを言っているな。清子はそう思っていたが、こういう食卓は初めてかもしれない。こんなに大人数でわいわいと一つの鍋をつつくことはなかった。祖母が生きていたときも、祖母と二人で気の重い食卓だった。
食事が苦手になったのも、そのせいかもしれない。もしこんなににぎやかな食卓なら、もっと食事に希望を持っただろう。
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