不完全な人達

神崎

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火祭り

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 前にこの町に着たときには、死んだような町だと思った。活気がなく、若い人がいない。晶の兄である茂もそんなに若い方ではないが、この中にいれば若い部類にはいると思っていた。
 だが今日は違うようだ。子供を連れた若い夫婦や、高校生くらいの男もいる。
「里帰りしてんだな。みんな。」
 港の駐車場に櫓をくんでいたので、そこを駐車場にするのは不可能だ。すぐそばにある駅の駐車場も、もう一杯になっている。だが晶の実家は駅から少し離れている。なので、清子の家に車を停めた。昔は民宿だったので、駐車場として二、三台くらい車を停めるスペースがあるのだ。
 そしてそこから三人で歩いて港へ向かう。その間も清子は何を話していいのかわからずに、史と晶が歩いている後ろを歩いていた。するとその細い道に、一台の車が走ってくる。白い軽自動車のようだ。三人はその車を避けるように体を避けると、車が清子の横で止まった。
「徳成さん。」
 助手席のドアが開いたそこには、了の姿があった。
「了。帰ってきてたのか。」
 驚いたように晶が声をかけると、運転席の女性が少し笑って会釈をする。綺麗に編み込みをした髪が印象的な、肌の色の白い女性だった。とても清楚に見える。
「徳成さん。車を家に停めてても良いかな。」
「どうぞ。あと二台くらいは停めれそうですから。」
「そっか。ありがとう。亜矢子。その先。」
 そういって女性が運転する車で、了が上がっていく。それを見ながら、清子はあんな風な自然なカップルには史とは出来ないかもしれない。そう思っていた。だがその車を見ながら、晶は少し笑う。
「見事に清楚系だな。」
「まぁね。」
 史も同意見らしい。だが次の言葉で耳を疑った。
「あんな女でも、電マ使うみたいだな。」
「は?」
 清子は驚いて晶をみる。どうしてそんなことまで知っているのだろう。
「昨日言ってたわ。ほら、倉庫整理してたら、おもちゃが出てきてみんなで分けてたら、了だけいらないって言っててさ。」
 晶がそう口にして、清子は驚いたように首を傾げていた。
「言ってたじゃん。お前、聞いてなかったのか?」
「知らない。」
 するとしばらくして了と亜矢子といわれた女性が降りてきた。亜矢子は白いコートを着ていて、とても可愛らしい女性だった。そんな女性が、そんなものを使うなんて思ってもなかった。
「初めまして。蔵本亜矢子です。」
「あぁ。「pink倶楽部」編集長の正木です。で、こっちが……。」
「徳成です。」
「知ってます。ね?徳成さん。」
 すると清子はじっと亜矢子をみる。そしてうなづいた。
「二年ぶりくらいですか。」
「良く覚えてたわねぇ。」
 昔派遣された先がヤクザの事務所だった。その中で、同じ事務員として働いていたのが亜矢子だった。
「今はレコード会社ですか?」
「そう。がさ入れが入っちゃって。前の職場。徳成さんすごいタイミング良かったよね。あたしも事情聴取された。」
 外見とは違う亜矢子に、清子は少しため息をつく。
「そろそろ行こうぜ。俺、写真撮らないといけないし。」
 晶はそういうと、その道を降りていく。それにみんなも降りていった。
「徳成さんさ。了が言ってたけど、冬山祥吾さんが親族なんですって?」
「叔父です。」
「そっか。だから了が熱心に聞いてたんだ。あのコンマスのこと。」
「人違いでしたよ。今は母国に帰ってプロのバイオリニストになってました。」
「ふーん。でも冬山祥吾によく似てるなって思ってたの。冬山祥吾もすごい厳しい人みたいだしね。」
「その方も厳しいんですか?」
「んー。でもあれよね。永澤剛よりはましよ。今日のニューイヤーコンサート、結局中止になったのよ。」
「え?」
「だからあたしも今日は休みになったの。」
 原因を「永澤剛の体調不良」となっていたが、実際は指揮者と奏者の行き違いだった。特にコンマスとは気が合わなかったらしい。
 あのヤクザの言ったとおりになったのだ。清子はそう思いながら港に到着した。
 港の駐車場では七輪を囲んで宴会をしている人、弁当を持ってきている人、鍋をつついている人なども居て、屋台なんかも出ていた。

 カシャッ。

 カメラのシャッター音が聞こえて、清子はそちらをみる。そこにはカメラを構えてシャッターを切る晶の姿があった。思えば、晶がこうやってカメラを構えるのを初めて見た気がする。とても普段のおちゃらけたり、ふざけたりしている姿とは全く違う気がした。
「清子。」
 その姿をぼんやり見ていると、声をかけられた。振り返ると、そこには史が湯気の立ったコップに入った日本酒を手にしている。
「……ありがとうございます。」
 屋台で売っていたのだろうか。こういうものもあるというのは、この土地らしい。酒飲みが多い土地だ。
「今日は悪かったね。」
 史はそういって、もう一つの自分のための日本酒を口にした。
「……強引でした。」
「強引にでもしたかった。君の……本当の顔が見たかったし、それに……やっぱり俺も不完全なんだよ。」
「……不完全?」
「完璧に見せようと見栄を張る。でも完全とはいかない。久住と君が一緒に居れば嫉妬するし、久住だけじゃなくて、慎吾さんでもね。俺にはわからない話をしたりすると、嫉妬しそうになる。だから今日、俺のものにしたかった。」
「……。」
「君が初めてだろうということをしてみたかったんだ。」
「……嫌気しかさしません。」
「いきなりすぎたと思う。だから、徐々に慣らしていこうかな。」
「あのですね。史。」
 そんなマゾヒストじゃない。そう言いたいのに、それを止める気はないのだろう。
 すると向こうから了がやってきた。
「ゆず茶があった。」
「温まるわ。ね?あら?徳成さんたち日本酒飲んでるの?泊まって帰るの?」
「泊まらせてくれるそうです。」
「そうか……。そう言えば一度泊まったっていってたかな。」
 親族でもないのに、家に泊まる人がいるのだ。そして自分は親族なのに家の敷居をまたぐ気はなかった。今でも、茂が居たエリアには足を踏み入れたくない。
「了君。あの……あなたも泊まったら?」
「俺らは良いよ。それに狭いじゃん。あの家。」
「そんなことはないだろう?うちの実家は団地だったけど、それよりは広いよ。」
 史はそう言って、少し笑う。
「意地になったんだから、了ったら。年上のあたしがいっても聞かないのよ。だから結婚資金だって無理しなくても良いって言ってんのに。」
「結婚資金?」
 その言葉に史が首を傾げた。そうかやっと繋がった。
 晶ががむしゃらにお金を貯めていたのは、了が結婚したいからだろう。それを晶が少しでも協力できればと思っていたのだ。
「久住君。あの……久住が金をずっと稼いでいたのはそう言うこと?」
 すると了は頭をかいて、カメラのファインダーを覗いている晶を見ていた。
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