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火祭り
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了が亜矢子に出会ったのは、大学の軽音楽サークルだった。先輩と後輩で亜矢子は熱心に了にギターを教えていたように思える。最初のライブの打ち上げでキスをして、そのまま恋人同士になり一緒に暮らすようになったのだ。
亜矢子は常々音楽に携わる仕事に就きたいと言っていた。亜矢子が好きなアマチュアバンドをデビューさせたいからだという。了もそのバンドのライブを見に行ったことがあった。アマチュアだと思えないほど上手で、客を楽しませていたように思える。パワフルな女性ボーカル。どこかの国のベーシストに似ている背の高い細身のベース。少し軽薄そうなギター。ビジュアル系にも見えないことのないドラム。そして背の高い目を引くような女性のキーボード。どうしてプロにならないのだろうと思っていた。
だが時代は就職氷河期。音楽関係の仕事も例外ではなかった。優先させるのは、音楽関係の大学を出たものであり、亜矢子のように機械学科を出たものは置いてけぼりにされる。
結局就いた職は、不動産関係の会社だった。きな臭い会社だと思ったが、やはりヤクザが絡んでいたらしく数年でがさ入れが入った。そのあと念願だったレコード会社に就職をした。だが当てられたのは畑違いのクラシックの部門だったが、それでもやりがいがあると頑張っている。
そして了も、三沢の研究所に勤めるようになり、やっと結婚が出来ると思っていた。ところが足かせになったのは両親と、殺人犯だった茂の存在だった。
茂が悪いわけではない。自分たちを思ってやった行動だったし、茂もぎりぎりだったのはわかる。だがそれを理由に結婚を反対されるのも、後ろ指を指されるのももういやだった。だから茂とは関わりたくない。茂に頼らずに結婚資金を溜める。そう思っていた。
「ねぇ。了。あっちの屋台は、焼き牡蠣があるみたい。食べたいから行っても良い?」
細身の割に食欲旺盛な亜矢子が好きだった。だから止めない。
「ここの牡蠣美味しいから行こうか。」
亜矢子も酒は飲めない。清子とは正反対だ。それに亜矢子の興味のあるものは、いつもころころ変わる。それがどことなく、昔みた近所の姉妹に似ていた。
「すいませーん。牡蠣ください。」
炭で焼いている牡蠣はぐつぐつと煮えていて、この汁が美味しそうだ。
「はーい。」
女性が紙の皿を用意して、亜矢子をみる。
「一つ三百円ですけど、いくつお取りしますか?」
「どれくらい食べれるかな。」
「牡蠣は美味しいけど、結構食い詰まるよ。とりあえず一つずつでいいんじゃない?」
了はそう言うと、女性は笑顔でぐつぐつとに立っている牡蠣を殻ごと二つ皿に載せた。
「六百円です。」
亜矢子が財布を取り出すと、その点との奥から一人の男が生の牡蠣の入ったバケツを持ってきた。
「夏生ちゃん。これ、追加の牡蠣ね。」
その男に了は言葉を失った。そしてさっと目線をそらす。
「ん?了か?」
茂だった。やはり来るべきではなかった。そう思いながら、了は牡蠣の乗った皿を受け取る。
「知り合い?」
屋台の女性も茂と了を見比べている。
「あー。もしかしてもう一人の弟さん?」
女性は少し笑って了をみる。
「え?あ……もう一人のお兄さんの?」
亜矢子がせがむのでやってきたが、やはり会う確率は高いのだ。茂も頭をかいて、気まずそうにしている。
「元気だったか?」
「うん……。あんたも元気そうで。」
「何とか生きてるよ。」
愛想笑いだ。了はそう思いながら、その屋台を去ろうとした。しかし亜矢子が笑顔で挨拶をする。
「初めまして。あたし、蔵本亜矢子って言います。あの……了君の……。」
「結婚したいって言ってたな。良いお嬢さんじゃないか。了。」
すると了は口を曲げて言う。
「あんたに結婚式に来て貰いたいとは思わないよ。亜矢子の家も嫌がってるし。」
「了。」
亜矢子はそう言って了を止めた。しかし茂は気にしていないように言った。
「わかってるよ。行こうとも思わない。晶がいるだろう?」
「……あんたのせいで、こっちの両親から嫌がれているんだ。」
「了。いい加減にしてよ。」
その言葉に了は、ビクッとして亜矢子をみる。
「別にうちの両親は嫌がっているわけじゃないよ。そうやって、どうやったら家族が一緒に過ごせれるかって見てんじゃない。そんなこともわかんないから、まだ子供なのよ。」
「え……。」
「うちの両親の前で、うちの家族なんか関係ないです。なんて言ったら気にするに決まってんじゃない。」
その言葉に茂は了を驚いたようにみた。
「了。何の話だ。」
「……関係ないって。」
すると亜矢子は呆れたように、了を見ていた。その様子に夏生が焼けた牡蠣をもう二つ了の持っている皿に置いた。
「これ、焼き過ぎちゃったからあたしのおごり。」
「夏生ちゃん。」
今度は茂が夏生に言う。
「茂さん。もうすぐ櫓が点火するんでしょ?行かないといけないんじゃない?一緒に行ったら?」
わざと明るい声で言う。
「誰だって隠したいことの一つや二つはあるわよね。でも一緒に過ごしたいって思うんだったら、隠し事はしない方が良いよ。頑張れ。あたしも頑張るから。」
まだ夏生は自分のことを言えていない。AV女優だった。気軽になったAVの世界で何本も本数を重ねて、最終的には裏に出た。修正無しの行為を売られ、最後の方は死を覚悟をしたくらいのプレイをされた。
その事実を茂にはまだ言えていない。
「……了。結婚するつもりなのか?」
「うん……。」
「だったら、結納金とか必要か。どれくらい必要なんだ。」
テントを出て行き、茂は了の隣で歩いていた。その様子を夏生は見ながら、また牡蠣に目を落とした。そのとき、見覚えのある人がテントに近づいてきた。
「いらっしゃい。今良い感じに焼けてるのあるよ。」
見上げるほど背の高い男だ。そして見たことがある。
「夏生ちゃん。牡蠣を二つもらえるかな。」
「はい……。」
皿を取って牡蠣を載せる。だがその手が震えていた。その様子に史は少し笑う。
「俺から言う気はないよ。自分の口から言えばいい。」
「……知ってる人なんか限られてると思ったんですけどね。」
「俺だってそうだよ。こんな田舎では俺の顔を知っている人は少ないし。良いところだ。」
「昌樹さん。あたし……やっとまともに生活できてる気がするんです。だからそれを崩したくない。」
「わかってる。だからベラベラ話すつもりはない。でもね……葵さんって知ってる?」
「えぇ。裏には出たことないけど、結構Mの人でしょう?」
「うん。今は旦那さんの実家で旅館の女将をしているらしい。子供もいる。良い奥さんになってた。」
「……。」
「本人次第じゃないのかな。そんなことって、言い放てるくらいね。」
「そうですね……。」
明日、清子を実家に連れて帰る。明日この土地を離れたら、その足で向かうつもりだ。史にも劣等感がないわけじゃない。良くできる弟と比べられるのは正直イヤだ。
だが清子のことは別だ。何とかして認めて貰う。
亜矢子は常々音楽に携わる仕事に就きたいと言っていた。亜矢子が好きなアマチュアバンドをデビューさせたいからだという。了もそのバンドのライブを見に行ったことがあった。アマチュアだと思えないほど上手で、客を楽しませていたように思える。パワフルな女性ボーカル。どこかの国のベーシストに似ている背の高い細身のベース。少し軽薄そうなギター。ビジュアル系にも見えないことのないドラム。そして背の高い目を引くような女性のキーボード。どうしてプロにならないのだろうと思っていた。
だが時代は就職氷河期。音楽関係の仕事も例外ではなかった。優先させるのは、音楽関係の大学を出たものであり、亜矢子のように機械学科を出たものは置いてけぼりにされる。
結局就いた職は、不動産関係の会社だった。きな臭い会社だと思ったが、やはりヤクザが絡んでいたらしく数年でがさ入れが入った。そのあと念願だったレコード会社に就職をした。だが当てられたのは畑違いのクラシックの部門だったが、それでもやりがいがあると頑張っている。
そして了も、三沢の研究所に勤めるようになり、やっと結婚が出来ると思っていた。ところが足かせになったのは両親と、殺人犯だった茂の存在だった。
茂が悪いわけではない。自分たちを思ってやった行動だったし、茂もぎりぎりだったのはわかる。だがそれを理由に結婚を反対されるのも、後ろ指を指されるのももういやだった。だから茂とは関わりたくない。茂に頼らずに結婚資金を溜める。そう思っていた。
「ねぇ。了。あっちの屋台は、焼き牡蠣があるみたい。食べたいから行っても良い?」
細身の割に食欲旺盛な亜矢子が好きだった。だから止めない。
「ここの牡蠣美味しいから行こうか。」
亜矢子も酒は飲めない。清子とは正反対だ。それに亜矢子の興味のあるものは、いつもころころ変わる。それがどことなく、昔みた近所の姉妹に似ていた。
「すいませーん。牡蠣ください。」
炭で焼いている牡蠣はぐつぐつと煮えていて、この汁が美味しそうだ。
「はーい。」
女性が紙の皿を用意して、亜矢子をみる。
「一つ三百円ですけど、いくつお取りしますか?」
「どれくらい食べれるかな。」
「牡蠣は美味しいけど、結構食い詰まるよ。とりあえず一つずつでいいんじゃない?」
了はそう言うと、女性は笑顔でぐつぐつとに立っている牡蠣を殻ごと二つ皿に載せた。
「六百円です。」
亜矢子が財布を取り出すと、その点との奥から一人の男が生の牡蠣の入ったバケツを持ってきた。
「夏生ちゃん。これ、追加の牡蠣ね。」
その男に了は言葉を失った。そしてさっと目線をそらす。
「ん?了か?」
茂だった。やはり来るべきではなかった。そう思いながら、了は牡蠣の乗った皿を受け取る。
「知り合い?」
屋台の女性も茂と了を見比べている。
「あー。もしかしてもう一人の弟さん?」
女性は少し笑って了をみる。
「え?あ……もう一人のお兄さんの?」
亜矢子がせがむのでやってきたが、やはり会う確率は高いのだ。茂も頭をかいて、気まずそうにしている。
「元気だったか?」
「うん……。あんたも元気そうで。」
「何とか生きてるよ。」
愛想笑いだ。了はそう思いながら、その屋台を去ろうとした。しかし亜矢子が笑顔で挨拶をする。
「初めまして。あたし、蔵本亜矢子って言います。あの……了君の……。」
「結婚したいって言ってたな。良いお嬢さんじゃないか。了。」
すると了は口を曲げて言う。
「あんたに結婚式に来て貰いたいとは思わないよ。亜矢子の家も嫌がってるし。」
「了。」
亜矢子はそう言って了を止めた。しかし茂は気にしていないように言った。
「わかってるよ。行こうとも思わない。晶がいるだろう?」
「……あんたのせいで、こっちの両親から嫌がれているんだ。」
「了。いい加減にしてよ。」
その言葉に了は、ビクッとして亜矢子をみる。
「別にうちの両親は嫌がっているわけじゃないよ。そうやって、どうやったら家族が一緒に過ごせれるかって見てんじゃない。そんなこともわかんないから、まだ子供なのよ。」
「え……。」
「うちの両親の前で、うちの家族なんか関係ないです。なんて言ったら気にするに決まってんじゃない。」
その言葉に茂は了を驚いたようにみた。
「了。何の話だ。」
「……関係ないって。」
すると亜矢子は呆れたように、了を見ていた。その様子に夏生が焼けた牡蠣をもう二つ了の持っている皿に置いた。
「これ、焼き過ぎちゃったからあたしのおごり。」
「夏生ちゃん。」
今度は茂が夏生に言う。
「茂さん。もうすぐ櫓が点火するんでしょ?行かないといけないんじゃない?一緒に行ったら?」
わざと明るい声で言う。
「誰だって隠したいことの一つや二つはあるわよね。でも一緒に過ごしたいって思うんだったら、隠し事はしない方が良いよ。頑張れ。あたしも頑張るから。」
まだ夏生は自分のことを言えていない。AV女優だった。気軽になったAVの世界で何本も本数を重ねて、最終的には裏に出た。修正無しの行為を売られ、最後の方は死を覚悟をしたくらいのプレイをされた。
その事実を茂にはまだ言えていない。
「……了。結婚するつもりなのか?」
「うん……。」
「だったら、結納金とか必要か。どれくらい必要なんだ。」
テントを出て行き、茂は了の隣で歩いていた。その様子を夏生は見ながら、また牡蠣に目を落とした。そのとき、見覚えのある人がテントに近づいてきた。
「いらっしゃい。今良い感じに焼けてるのあるよ。」
見上げるほど背の高い男だ。そして見たことがある。
「夏生ちゃん。牡蠣を二つもらえるかな。」
「はい……。」
皿を取って牡蠣を載せる。だがその手が震えていた。その様子に史は少し笑う。
「俺から言う気はないよ。自分の口から言えばいい。」
「……知ってる人なんか限られてると思ったんですけどね。」
「俺だってそうだよ。こんな田舎では俺の顔を知っている人は少ないし。良いところだ。」
「昌樹さん。あたし……やっとまともに生活できてる気がするんです。だからそれを崩したくない。」
「わかってる。だからベラベラ話すつもりはない。でもね……葵さんって知ってる?」
「えぇ。裏には出たことないけど、結構Mの人でしょう?」
「うん。今は旦那さんの実家で旅館の女将をしているらしい。子供もいる。良い奥さんになってた。」
「……。」
「本人次第じゃないのかな。そんなことって、言い放てるくらいね。」
「そうですね……。」
明日、清子を実家に連れて帰る。明日この土地を離れたら、その足で向かうつもりだ。史にも劣等感がないわけじゃない。良くできる弟と比べられるのは正直イヤだ。
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