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亀裂
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ふろふき大根の上に乗っている味噌も、里芋の煮付けも、清子がよく食べていた祖母の味によく似ていた。祖母も食が細く清子もそれに合わせているのが普通で、足りないと思えば自分で何とかしていた。
それは山へ行って木の実を取ったり、海へ行って魚を捕ったりというのが普通だったのだ。それは同じ土地で育った晶も例外ではない。
「この山椒、良く効いてんな。辛い。」
「えぇ。でもこの痺れる感じが好きですね。あぁ、お酒飲みたい。日本酒と合うだろうな。」
「今度また来ればいいだろ。今日は我慢しろよ。」
清子は言われたとおり、今日は頑張ってよく食べていると思う。馴染んでいる味だからということもあるだろうが、やはり自分を省みないツケがここでやってきたのだろう。
「昼飯はやっぱ食べないか?」
「夏は倒れたことがあったので、気をつけてたんですけどね。補助食品だけでも取っておくべきでした。」
「また倒れられても、周りに迷惑かけるだけだろう?自分の出来ることくらいやっておけよ。」
「そうですね。」
その時仲居が部屋に入ってきた。そして蓋付きの器を二人の前に置く。
「茶碗蒸しか。」
「美味しそうですね。」
それをスプーンですくい、口に入れて驚いた。
「あれ……この味……。」
「うちのばーさんが作ってくれた味に似てるな。」
「うちの祖母が作ったモノにも似てます。だしも……あぁ、銀杏も……卵の味も……。」
「鶏肉とか卵は、もしかしたら辰雄さんのヤツ使ってんのかな。こんなの使ったら、元は取れないだろうに。」
「高いと言ってましたね。」
「この辺じゃ、一個百円だもんな。」
「高っ。」
「棗の力だろうな。辰雄さんを言いくるめたかな。」
そう言って晶はまた茶碗蒸しを口に入れる。
「……そう言えば、あの家を改築するって言ってたな。」
「どちらにしても手は入れないといけないと思ってました。雨漏りもするし、シロアリが居るような感覚もありましたしね。」
「そっか。でも……そこまでして住む家かな。」
「どう言うことですか。」
「……。」
前から思っていたことだ。晶はスプーンを置いて清子に言う。
「お前があの家にずっと捕らわれているような気がする。」
「え……。」
「最初さ、あの家を買うつもりでいたんだろう?あのろくでもない叔父からさ。」
「……そうですけど。」
「お前のばーさんのじーさんの頃からの家だろ?別にずっと保たないといけないような家じゃなさそうだし、お前がそんなことをしなくても……。」
「私がしたいんです。」
言い出したら聞かない性格は知っていた。だから晶も何もいう気はなかった。しかしそれで清子が無理をしているのがわかる。それはこの卵や鶏肉を作っている西川辰雄とかぶるのだ。
「せめて祖母の遺影を飾りたい。」
「仏壇か。それはあったのか?」
「宗教法人にあの家を貸していたとき、倉庫に入れられていたようです。出して陰干しをしないと。」
だがこのところ講習や雑務で休日が過ぎる。家にいけていないのが現状だった。
「その時は俺が連れていってやるよ。男手があった方がいいだろう?そうだ。編集長も……。」
「そうですね。」
口ではそう言うが、おそらく人を頼る気はないのだろう。それがやるせない。
久しぶりにこんなにお腹一杯になった。清子はそう思いながら階段を降りる。メインの鳥わさもやはり西川辰雄のモノだったのか、とても美味しかったし、最後に出てきたひじきご飯もお汁も残さずに食べてしまった。
祖母の味に似ていたというか、あの土地で取れたモノが多かった気がする。あの土地で取れたモノというのは、すなわち祖母の味だ。
「あの土地って惜しいよな。良いモノがあって、こんなに美味しく料理できるのに全くそれを生かそうとしないんだから。」
「そうですね。」
車に乗り込むと、晶は清子の方をみる。清子は携帯電話を取り出してメッセージを確認しているようだ。史からの連絡はない。まだ用事が終わらないのだろう。
「なぁ……清子。」
エンジンをかけて、晶は煙草をくわえると火をつけた。
「どうしました。」
「どこが良い?ホテルと、俺んちと、お前んち。」
「は?」
「したいから。」
「私はしたくありません。」
腕時計で時間をみる。あまり遅い時間ではなく、電車で帰れるかもしれない。このまま車を降りて駅の方へ向かえるだろう。
「帰ります。」
「清子。降りるなって。」
ドアノブに手を掛けかけた清子の手を止めて、晶は頭をかく。
「編集長を裏切りたくないってのはわかるよ。でもあいつ全然来ないじゃん。連絡あった?」
「仕事でしょう?」
「俺だったらこんな状態の女を別の男に任せて、仕事なんか行かないけどな。それか連絡を取るわ。お前に気があるような男に任せているなら、尚更そうする。」
すると清子は首を横に振った。そして晶の方をみる。
「言ってないですから。」
「え?」
「食事へ行く前、史から連絡があったんです。久住さんと一緒にいるのかって。」
「居ないって言ってんのか?」
「その方が……心配かけないと思うから。たぶん、一人の方が史は安心する。史は……何よりあなたと私が一緒にいることを恐れているから。」
「……それが優しさだと思ってるのか?俺は違うと思う。正直に言った方が、ヤツの為だろ。」
「……。」
「それともお前、内緒の関係をしたいのか?」
「私の?」
「俺はそっちの方が燃えるけど。」
晶はそう言って少し笑った。そして周りをみる。隙を見て、清子の頬に手をかけた。
「で、どこが良い?」
「どこって……どこも嫌ですけど。」
「正直に言えよ。」
すると清子は少しうつむいた。そしてその手を振り払うと、ドアノブに手をかける。
「帰る。」
「出るなって。この辺治安が良くないんだから。」
開きかけたドアを閉めて、サイドブレーキをはずす。そして車を進めると、清子は諦めたようにシートベルトをかけた。
それは山へ行って木の実を取ったり、海へ行って魚を捕ったりというのが普通だったのだ。それは同じ土地で育った晶も例外ではない。
「この山椒、良く効いてんな。辛い。」
「えぇ。でもこの痺れる感じが好きですね。あぁ、お酒飲みたい。日本酒と合うだろうな。」
「今度また来ればいいだろ。今日は我慢しろよ。」
清子は言われたとおり、今日は頑張ってよく食べていると思う。馴染んでいる味だからということもあるだろうが、やはり自分を省みないツケがここでやってきたのだろう。
「昼飯はやっぱ食べないか?」
「夏は倒れたことがあったので、気をつけてたんですけどね。補助食品だけでも取っておくべきでした。」
「また倒れられても、周りに迷惑かけるだけだろう?自分の出来ることくらいやっておけよ。」
「そうですね。」
その時仲居が部屋に入ってきた。そして蓋付きの器を二人の前に置く。
「茶碗蒸しか。」
「美味しそうですね。」
それをスプーンですくい、口に入れて驚いた。
「あれ……この味……。」
「うちのばーさんが作ってくれた味に似てるな。」
「うちの祖母が作ったモノにも似てます。だしも……あぁ、銀杏も……卵の味も……。」
「鶏肉とか卵は、もしかしたら辰雄さんのヤツ使ってんのかな。こんなの使ったら、元は取れないだろうに。」
「高いと言ってましたね。」
「この辺じゃ、一個百円だもんな。」
「高っ。」
「棗の力だろうな。辰雄さんを言いくるめたかな。」
そう言って晶はまた茶碗蒸しを口に入れる。
「……そう言えば、あの家を改築するって言ってたな。」
「どちらにしても手は入れないといけないと思ってました。雨漏りもするし、シロアリが居るような感覚もありましたしね。」
「そっか。でも……そこまでして住む家かな。」
「どう言うことですか。」
「……。」
前から思っていたことだ。晶はスプーンを置いて清子に言う。
「お前があの家にずっと捕らわれているような気がする。」
「え……。」
「最初さ、あの家を買うつもりでいたんだろう?あのろくでもない叔父からさ。」
「……そうですけど。」
「お前のばーさんのじーさんの頃からの家だろ?別にずっと保たないといけないような家じゃなさそうだし、お前がそんなことをしなくても……。」
「私がしたいんです。」
言い出したら聞かない性格は知っていた。だから晶も何もいう気はなかった。しかしそれで清子が無理をしているのがわかる。それはこの卵や鶏肉を作っている西川辰雄とかぶるのだ。
「せめて祖母の遺影を飾りたい。」
「仏壇か。それはあったのか?」
「宗教法人にあの家を貸していたとき、倉庫に入れられていたようです。出して陰干しをしないと。」
だがこのところ講習や雑務で休日が過ぎる。家にいけていないのが現状だった。
「その時は俺が連れていってやるよ。男手があった方がいいだろう?そうだ。編集長も……。」
「そうですね。」
口ではそう言うが、おそらく人を頼る気はないのだろう。それがやるせない。
久しぶりにこんなにお腹一杯になった。清子はそう思いながら階段を降りる。メインの鳥わさもやはり西川辰雄のモノだったのか、とても美味しかったし、最後に出てきたひじきご飯もお汁も残さずに食べてしまった。
祖母の味に似ていたというか、あの土地で取れたモノが多かった気がする。あの土地で取れたモノというのは、すなわち祖母の味だ。
「あの土地って惜しいよな。良いモノがあって、こんなに美味しく料理できるのに全くそれを生かそうとしないんだから。」
「そうですね。」
車に乗り込むと、晶は清子の方をみる。清子は携帯電話を取り出してメッセージを確認しているようだ。史からの連絡はない。まだ用事が終わらないのだろう。
「なぁ……清子。」
エンジンをかけて、晶は煙草をくわえると火をつけた。
「どうしました。」
「どこが良い?ホテルと、俺んちと、お前んち。」
「は?」
「したいから。」
「私はしたくありません。」
腕時計で時間をみる。あまり遅い時間ではなく、電車で帰れるかもしれない。このまま車を降りて駅の方へ向かえるだろう。
「帰ります。」
「清子。降りるなって。」
ドアノブに手を掛けかけた清子の手を止めて、晶は頭をかく。
「編集長を裏切りたくないってのはわかるよ。でもあいつ全然来ないじゃん。連絡あった?」
「仕事でしょう?」
「俺だったらこんな状態の女を別の男に任せて、仕事なんか行かないけどな。それか連絡を取るわ。お前に気があるような男に任せているなら、尚更そうする。」
すると清子は首を横に振った。そして晶の方をみる。
「言ってないですから。」
「え?」
「食事へ行く前、史から連絡があったんです。久住さんと一緒にいるのかって。」
「居ないって言ってんのか?」
「その方が……心配かけないと思うから。たぶん、一人の方が史は安心する。史は……何よりあなたと私が一緒にいることを恐れているから。」
「……それが優しさだと思ってるのか?俺は違うと思う。正直に言った方が、ヤツの為だろ。」
「……。」
「それともお前、内緒の関係をしたいのか?」
「私の?」
「俺はそっちの方が燃えるけど。」
晶はそう言って少し笑った。そして周りをみる。隙を見て、清子の頬に手をかけた。
「で、どこが良い?」
「どこって……どこも嫌ですけど。」
「正直に言えよ。」
すると清子は少しうつむいた。そしてその手を振り払うと、ドアノブに手をかける。
「帰る。」
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