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遺書
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ベッドの上で晶は片手に灰皿を持ち、煙草を吹かしていた。清子はうつ伏せになったまま動かない。このまま眠ってしまうのだろうか。何度もセックスをしたのだ。体調もあまり良くなかったのに無理をさせたと思う。だが、今日しかなかった。晶は煙草をくわえて煙を吐き出すと、灰を灰皿に落とす。
すると清子がゆっくりと起きてきた。少し落ち着いたようで顔も体も赤みが薄くなっている。
「煙草もらえる?」
晶は手を伸ばして、テーブルにおいてあった煙草に手を伸ばそうとした。だが清子はその晶の吸いかけの煙草を手にすると、口にくわえる。一口その煙草を吸って煙を吐き出すと晶に手渡した。
「あまり美味しくない煙草ね。」
「そうか?まぁ、ちょっと癖はあるけどな。」
すると清子は自分の腕をみる。細い腕だ。体もあばらが薄く浮いている。こんな体をよく何回も抱いたものだ。そして煙草を消した晶の額に手を伸ばす。
「何だよ。」
わずかに瞳の色が違う。そしてその上には線を引いたように傷があった。高校生の時に同級生から刺されて付けられた傷だった。きっと今の医療だったらこの傷を目立たなくすることはできるだろう。だが晶はそれをしようとしない。
「もしかして、傷を治さないのって……。」
すると晶は少し笑って清子の唇に軽くキスをする。
「……お前は離れるなよ。」
「恋人じゃないわ。」
「わかってる。でも離したくないから。」
煙草を消して灰皿をテーブルに置く。そして清子を隣に寝かせるように、横になった。
「あいつは言ったよ。「自分の息子なんだから、完璧であるべきだ」って。それだけプライドが高いヤツだったんだろうな。けど、それを押しつけられて、兄貴はそれに答えようとして失敗した。了は、そもそもそんなことに従う気はねぇ。あいつ、俺に町の方にある進学校へ行けって言ってたんだ。」
「……でも行かなかった。」
「で、こんな傷を付けられた。完全な子供だと思ってたんだと思う。だけど、欠陥だらけだった。不完全なんだよ。俺。」
すると清子はその体に体を寄せる。
「誰も……完全で、完璧な人なんかいない。こうしているだけで、私は史を裏切っているから。」
「悪いヤツだな。明日から編集長の顔を見れるのか?」
「それはあなたにも言えるわ。」
晶は清子の額に唇を寄せる。するとふと笑った。
「どうしたの?」
「いいや。そういえば、さっき言ってたよな。「お前からキスをしたのは、初めてだ」って言ったら、お前は「違う」って。」
「えぇ。」
「お前からされたのは、会議室で寝たときか。あのまま襲いかかりたかったな。」
「思い出した?」
「あぁ。疲れてて損をした。だったら今からでももっと抱いとくか。」
「また?」
「ゴムは余裕持って持ってきてるって言っただろ?ほら。もう乳首立ってきてる。期待してんのか?」
「ちが……んっ……。」
隣の部屋からはもうあえぎ声が聞こえない。AVなのか、リアルに女なのかはわからない。しかし、この部屋ではまた清子の声が響いていた。
身支度をすませて、部屋の外にでる。トレンチコートを着ていても今朝は寒い。手袋をしていても史の手の先がかじかむようだ。
「おはようございます。」
隣の部屋から聖子が出てきた。聖子もまた今から出勤なのだろう。あれから何度かこういう朝を迎えることがあるが、あのときの夜のように「抱いて欲しい」と言うことはなかった。
聖子もまた「同僚」になるのだからと、気持ちを切り替えているのかもしれない。
「おはようございます。」
川縁を歩いて大通りにでる。そしてバスが来るのを待った。前に住んでいたところだったら、駅が近かったので電車で行っていたがこの辺は駅よりもバス停が近い。
いくつかの行き先の中、一番多くある駅前へ行く路線で待つ。数人の同じようなサラリーマンやOL、学生なんかが目に付く。
「正木編集長は、夜は自炊してるのですか?」
「出来るときはですね。最近は作れても簡単なモノしか出来ませんよ。」
「一人分って難しくないですか?」
「一人暮らしが長いですからね。案外なんでも出来るようになりますよ。」
これからは二人だ。清子と一緒にいるのだから。史はそう思いながら、来たバスに乗り込む。すると手前の方に清子が立って乗っていた。その横に立つと、清子は史を見上げる。
「おはようございます。」
「おはよう。今日は、冷えるね。」
「えぇ。雪が降るかもしれないと予報では言ってました。」
「この辺は滅多に積もらないから、君の地元の方は積もっているかもしれないね。」
「かもしれません。でも雪かきをしないといけないくらい積もることはないんですけどね。」
さっきと表情が全く違う。心を許しているようなそんな感じに見えた。負けたくない。聖子はそう思いながら、史の隣に立つ。
「おはようございます。徳成さん。」
「あ、おはようございます。村山さん。」
背が高く、がっちりしたような体型で、ショートカットの村山聖子は史の隣の部屋に住んでいるのだという。そして立場上でも史と同じ立場だ。
新聞社と「三島出版」が合同で出版するスポーツ雑誌の、編集長になるらしい。ずっとサッカーをしていたという聖子は体型を見ればうなずける。
今はまだ出版社に顔を出すこともあるが、籍は新聞社にある。「三島出版」より少し奥に行ったところにある新聞社は、降りるバス停も一緒だ。
「徳成さん。今度、うちのウェブ担当をつれて、IT部門におじゃましたいんですけど、徳成さんのご都合ってどうですか?」
すると清子は首を傾げていった。
「すいません。私では「良いですよ」とは言えないんです。うちの部長に聞いてみた方が早いですね。」
「そうなんですか……。」
「部長に言わせれば、私が作った「pink倶楽部」のホームページもまだ甘いところがあるので、修正をしないといけないと言われていますから。」
「厳しいですね。そんな針の隙間を縫うように、つけ込んでくるモノなんですか。」
「少しでも隙があったらつけ込んできます。だから管理はしっかりしないと。」
その言葉に史は少し笑った。男女の関係でも同じ事が言えるだろう。だから清子の管理もしっかりしないといけないのかもしれない。晶がこそこそ清子に近寄っていることは知っている。きっとパソコン関係につけ込んで、そのまままたからだを重ねたいと思っているのだろう。そうさせたくない。
ふと手の甲が触れた。清子の手だ。史はバッグを持ち直すと、聖子に気が疲れないようにそっと手袋越しに清子の手を握った。すると清子もその手を握り替えしてきた。顔は聖子の方を向いて話をしているのに、そこだけが熱くなる。
すると清子がゆっくりと起きてきた。少し落ち着いたようで顔も体も赤みが薄くなっている。
「煙草もらえる?」
晶は手を伸ばして、テーブルにおいてあった煙草に手を伸ばそうとした。だが清子はその晶の吸いかけの煙草を手にすると、口にくわえる。一口その煙草を吸って煙を吐き出すと晶に手渡した。
「あまり美味しくない煙草ね。」
「そうか?まぁ、ちょっと癖はあるけどな。」
すると清子は自分の腕をみる。細い腕だ。体もあばらが薄く浮いている。こんな体をよく何回も抱いたものだ。そして煙草を消した晶の額に手を伸ばす。
「何だよ。」
わずかに瞳の色が違う。そしてその上には線を引いたように傷があった。高校生の時に同級生から刺されて付けられた傷だった。きっと今の医療だったらこの傷を目立たなくすることはできるだろう。だが晶はそれをしようとしない。
「もしかして、傷を治さないのって……。」
すると晶は少し笑って清子の唇に軽くキスをする。
「……お前は離れるなよ。」
「恋人じゃないわ。」
「わかってる。でも離したくないから。」
煙草を消して灰皿をテーブルに置く。そして清子を隣に寝かせるように、横になった。
「あいつは言ったよ。「自分の息子なんだから、完璧であるべきだ」って。それだけプライドが高いヤツだったんだろうな。けど、それを押しつけられて、兄貴はそれに答えようとして失敗した。了は、そもそもそんなことに従う気はねぇ。あいつ、俺に町の方にある進学校へ行けって言ってたんだ。」
「……でも行かなかった。」
「で、こんな傷を付けられた。完全な子供だと思ってたんだと思う。だけど、欠陥だらけだった。不完全なんだよ。俺。」
すると清子はその体に体を寄せる。
「誰も……完全で、完璧な人なんかいない。こうしているだけで、私は史を裏切っているから。」
「悪いヤツだな。明日から編集長の顔を見れるのか?」
「それはあなたにも言えるわ。」
晶は清子の額に唇を寄せる。するとふと笑った。
「どうしたの?」
「いいや。そういえば、さっき言ってたよな。「お前からキスをしたのは、初めてだ」って言ったら、お前は「違う」って。」
「えぇ。」
「お前からされたのは、会議室で寝たときか。あのまま襲いかかりたかったな。」
「思い出した?」
「あぁ。疲れてて損をした。だったら今からでももっと抱いとくか。」
「また?」
「ゴムは余裕持って持ってきてるって言っただろ?ほら。もう乳首立ってきてる。期待してんのか?」
「ちが……んっ……。」
隣の部屋からはもうあえぎ声が聞こえない。AVなのか、リアルに女なのかはわからない。しかし、この部屋ではまた清子の声が響いていた。
身支度をすませて、部屋の外にでる。トレンチコートを着ていても今朝は寒い。手袋をしていても史の手の先がかじかむようだ。
「おはようございます。」
隣の部屋から聖子が出てきた。聖子もまた今から出勤なのだろう。あれから何度かこういう朝を迎えることがあるが、あのときの夜のように「抱いて欲しい」と言うことはなかった。
聖子もまた「同僚」になるのだからと、気持ちを切り替えているのかもしれない。
「おはようございます。」
川縁を歩いて大通りにでる。そしてバスが来るのを待った。前に住んでいたところだったら、駅が近かったので電車で行っていたがこの辺は駅よりもバス停が近い。
いくつかの行き先の中、一番多くある駅前へ行く路線で待つ。数人の同じようなサラリーマンやOL、学生なんかが目に付く。
「正木編集長は、夜は自炊してるのですか?」
「出来るときはですね。最近は作れても簡単なモノしか出来ませんよ。」
「一人分って難しくないですか?」
「一人暮らしが長いですからね。案外なんでも出来るようになりますよ。」
これからは二人だ。清子と一緒にいるのだから。史はそう思いながら、来たバスに乗り込む。すると手前の方に清子が立って乗っていた。その横に立つと、清子は史を見上げる。
「おはようございます。」
「おはよう。今日は、冷えるね。」
「えぇ。雪が降るかもしれないと予報では言ってました。」
「この辺は滅多に積もらないから、君の地元の方は積もっているかもしれないね。」
「かもしれません。でも雪かきをしないといけないくらい積もることはないんですけどね。」
さっきと表情が全く違う。心を許しているようなそんな感じに見えた。負けたくない。聖子はそう思いながら、史の隣に立つ。
「おはようございます。徳成さん。」
「あ、おはようございます。村山さん。」
背が高く、がっちりしたような体型で、ショートカットの村山聖子は史の隣の部屋に住んでいるのだという。そして立場上でも史と同じ立場だ。
新聞社と「三島出版」が合同で出版するスポーツ雑誌の、編集長になるらしい。ずっとサッカーをしていたという聖子は体型を見ればうなずける。
今はまだ出版社に顔を出すこともあるが、籍は新聞社にある。「三島出版」より少し奥に行ったところにある新聞社は、降りるバス停も一緒だ。
「徳成さん。今度、うちのウェブ担当をつれて、IT部門におじゃましたいんですけど、徳成さんのご都合ってどうですか?」
すると清子は首を傾げていった。
「すいません。私では「良いですよ」とは言えないんです。うちの部長に聞いてみた方が早いですね。」
「そうなんですか……。」
「部長に言わせれば、私が作った「pink倶楽部」のホームページもまだ甘いところがあるので、修正をしないといけないと言われていますから。」
「厳しいですね。そんな針の隙間を縫うように、つけ込んでくるモノなんですか。」
「少しでも隙があったらつけ込んできます。だから管理はしっかりしないと。」
その言葉に史は少し笑った。男女の関係でも同じ事が言えるだろう。だから清子の管理もしっかりしないといけないのかもしれない。晶がこそこそ清子に近寄っていることは知っている。きっとパソコン関係につけ込んで、そのまままたからだを重ねたいと思っているのだろう。そうさせたくない。
ふと手の甲が触れた。清子の手だ。史はバッグを持ち直すと、聖子に気が疲れないようにそっと手袋越しに清子の手を握った。すると清子もその手を握り替えしてきた。顔は聖子の方を向いて話をしているのに、そこだけが熱くなる。
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