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遺書
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大学での祥吾は、完全に浮いていた。だが見た目が良く、どこかはかなそうな祥吾は女子生徒の注目の的で言い寄る女性が後を絶たなかった。
「綺麗な顔立ちをしてましたからね。それに近所の芸大に通う弟さんもまたタイプは違うが綺麗な人だったし。」
清子の父のことだ。写真でしか見たことのない父親は、どんな人物だったのか想像も付かない。だが清子にはそれを聞く勇気がないようだ。よく見ると手が震えている。晶はそれに気が付いて、倫太郎にその話を聞いた。
「弟ってのは、芸大の生徒だったのか?あんた等が通った大学ってのは結構レベルの高い大学だったし、その近くにある芸大も結構なレベルだろ?」
「まぁ、そうですね。あの芸大に行く人は、小さい頃から英才教育をしていたような人ばかりですよ。話が通じない宇宙人かと思った。でも徳成君の弟は違いました。見た目は取っつきにくそうだったが、酒が入るとこう……くしゃっと笑ってね。それが女子生徒に人気だったようだ。」
「ギャップがあったわけだ。清子もそういうところがあるよな。」
晶はそういって煙草に火をつける。
「私がですか?お酒を飲んでもあまり変わらないと思いましたが。」
「普段より饒舌になるね。まぁ、普段が素っ気ないから、酒が入った方がちょうど良いかもしれない。」
史もそういって少し笑う。誉められた気がしないと、清子は少し頬を膨らませた。
「徳成君は、普段から女性にもてていた。恋人がいてもかまわない。二番目でも三番目でも言って言い寄る女性が後を絶たなかった。でも弟君は違いましたよ。どうやらずっと恋人がいて、その人以外の人は全く相手にしていなかったようです。」
だったらその女性が自分の母親なのだろうか。ずっと付き合っていたということは、あの町にいたときからのつきあいなのだろうか。いいや。違う。狭い町だ。誰かの家の息子と、誰かの家の娘が一緒に帰っていたと言うだけで噂になるくらいだから、きっとあの町ではあり得ない。
「っと……話がそれてしまいましたね。昔の話をするときりがない。」
そういって倫太郎はコーヒーのカップを避けると、脇にあった鞄から厚手のファイルを取り出した。そしてその中から封筒を二通出す。
「内容は一緒のことを書いてあります。一通は、あなたに渡して欲しいと。そしてもう一通は浅海春という人物に渡して欲しいと聞いています。その人を知っていますか。」
春の名前が出ると思ってなかった。だが意外ではない。春はずっと祥吾の助手をしていた。その上で妻なのだと、信じていたのだ。
「えぇ……正月にお会いしました。でも……もう会わない方が良いと、お互いに言い合ったんです。」
清子は一通の封筒を手にすると、倫太郎をみる。
「中身を見ても?」
「その確認のために来たんですよ。」
確かにそうだ。清子はその封筒を開封する。きっちり糊付けされていて、開けたあとはない。
「あなたも見ていないんですか?」
「徳成君から手渡されただけです。私は、それを預かっているだけ。その遺書通りにするのかというのは、あなた方次第でしょう。」
封筒には紙が入っている。それを取り出して開くと、史も晶もそれをのぞき見た。
「……家のことか。」
祥吾には持ち家がある。T区にある祥吾の通っていた大学から近いところにある、閑静な住宅街だった。
「家は……浅海さんに。そして家の中のものを私に?」
「どうやら、徳成君の家自体は徳成君が買ったものです。小説が売れたときに、財産として土地と家を買ったようですね。戦前に建てられた日本家屋です。」
「……でもその土地と家は浅海さんに渡すと。しかし、家の家具などは私に譲ると言っていますね。」
すると倫太郎はポケットから煙草を取り出すと、清子をみる。
「私はそれを放棄した方が良いと思います。浅海さんもそうすると言っていました。」
「どうしてですか?」
史はそう聞くと、倫太郎は少し笑った。
「小説が売れていたとき、彼は家と土地を買った。と言うことはどういうことかわかりますか。」
晶が驚いたように倫太郎に言う。
「まさか……最近は売れてなかったのか?」
「そんなことはない。久住。冬山祥吾の小説が売れてないわけがないだろう。連載だって何本持ってたと思うんだ。」
すると清子は首を横に振った。
「違うと思います。」
「清子。」
「おそらく……借金でもあったんですね。」
倫太郎は清子を見て薄く笑った。
「その通りですよ。」
「借金?」
鞄の中から、倫太郎は大きめの封筒を取り出した。それを清子に手渡す。
「土地と、家の権利書です。これを持っているのは、今は坂本組というヤクザの一家ですよ。」
小説が売れて、祥吾は土地と家を買った。そしてその中に祖母との思い出の品を入れて暮らしていたのだ。だが金があれば寄ってくる人たちがいる。それは祥吾を甘い言葉で誘惑する人たちだ。
「金の無心を母親にもしていたと言いますからね。」
だから祖母はずっと働いていたのか。清子はやっとその理由に納得した。
「まさか、土地と家も抵当に入ってるのか?」
「そうではないとヤクザの手に渡っているなど言わないでしょう。今は書いても書いても、その利子だけで金が消える。」
「……惨めな……。」
史もそういってその権利書をみる。
「清子。手放しちまえ。財産を撮るってことは借金も取るってことだろ?林さん。」
「その通りですよ。だから浅海さんは放棄すると言っています。」
だが清子はその遺書を手にしながら、手が震えていた。
「……清子?」
史が心配そうに清子に声をかける。すると清子はその遺書を見ながら言った。
「家のものというのは、おそらく実家のものを入れているのだと思います。祖母の化粧台も、お茶碗も、大釜の鍋も……。」
すべてに思い出があった。祖母の化粧台やタンスは、おそらく祖母が嫁入りしたときに持ち込んだものだ。それを手放すと言うことなのだろうか。もし手放さなければ、あの家に入れることが出来る。元々その家にあったものだ。パズルのピースを合わせるように、きっとすんなりと収まるはずなのだ。
「変なことを考えない方がいい。清子。そんな人の借金まで君が背負うことはないんだ。」
史はそういうが、清子の目に涙が溜まっている。
「家も……きっと名残はなくなる。家財道具まで、無くなったら……私はどうしたらいいんですか。」
ずっと耐えていたのだ。社長が家を買うと言ったときから、清子はずっと自分がしたかったことだからと、耐えてきたのだ。だがそれも無くなるなど、清子には耐えられないかもしれない。
「清子……。」
すると晶が清子に向かうと、その両頬を両手で包み込むように叩く。ぱんっといい音がして、周りの人が振り向いた。
「ばーか。お前、こういうときこそ冷静になれよ。」
「久住。目立つぞ。」
頬が痛い。だが清子の目からは涙がこぼれた。
「お前のばーさんが使ってたって、何十年前のものだよ。冬山祥吾だって、別に手入れしてたわけじゃないんだろ?な?林さん。」
「あぁ……確かに、徳成君の家にはお手伝いさんが来てたようだが、そんな家具なんかの手入れはしていないだろう。」
「だろ?処分、処分。そんなもの。別にタンスだって桐箪笥ってわけでもねぇんだろ?」
「そんな問題じゃないの。」
清子はそういって晶の手を振り払う。
「私が……どんな思いで……。」
すると今度は史が清子にいう。
「後ろを向いていても進めないよ。清子。お祖母さんのものは、確かに大切かもしれない。だけど、もっと大切なのは君のことじゃないのかな。」
「私の?」
「君が新たにスタートを切って、あの家に住むんだ。だったら君のものを揃えればいい。」
そして史は清子の頬にハンカチを当てる。その様子を見て、倫太郎はやはり恋人なのは史なのだろうと思った。史の方がソフトに清子を前向きにしている。
だが強引に前を向かせようとした晶も悪い男ではない。恵まれた女性になったと、心の中で笑っていた。
「綺麗な顔立ちをしてましたからね。それに近所の芸大に通う弟さんもまたタイプは違うが綺麗な人だったし。」
清子の父のことだ。写真でしか見たことのない父親は、どんな人物だったのか想像も付かない。だが清子にはそれを聞く勇気がないようだ。よく見ると手が震えている。晶はそれに気が付いて、倫太郎にその話を聞いた。
「弟ってのは、芸大の生徒だったのか?あんた等が通った大学ってのは結構レベルの高い大学だったし、その近くにある芸大も結構なレベルだろ?」
「まぁ、そうですね。あの芸大に行く人は、小さい頃から英才教育をしていたような人ばかりですよ。話が通じない宇宙人かと思った。でも徳成君の弟は違いました。見た目は取っつきにくそうだったが、酒が入るとこう……くしゃっと笑ってね。それが女子生徒に人気だったようだ。」
「ギャップがあったわけだ。清子もそういうところがあるよな。」
晶はそういって煙草に火をつける。
「私がですか?お酒を飲んでもあまり変わらないと思いましたが。」
「普段より饒舌になるね。まぁ、普段が素っ気ないから、酒が入った方がちょうど良いかもしれない。」
史もそういって少し笑う。誉められた気がしないと、清子は少し頬を膨らませた。
「徳成君は、普段から女性にもてていた。恋人がいてもかまわない。二番目でも三番目でも言って言い寄る女性が後を絶たなかった。でも弟君は違いましたよ。どうやらずっと恋人がいて、その人以外の人は全く相手にしていなかったようです。」
だったらその女性が自分の母親なのだろうか。ずっと付き合っていたということは、あの町にいたときからのつきあいなのだろうか。いいや。違う。狭い町だ。誰かの家の息子と、誰かの家の娘が一緒に帰っていたと言うだけで噂になるくらいだから、きっとあの町ではあり得ない。
「っと……話がそれてしまいましたね。昔の話をするときりがない。」
そういって倫太郎はコーヒーのカップを避けると、脇にあった鞄から厚手のファイルを取り出した。そしてその中から封筒を二通出す。
「内容は一緒のことを書いてあります。一通は、あなたに渡して欲しいと。そしてもう一通は浅海春という人物に渡して欲しいと聞いています。その人を知っていますか。」
春の名前が出ると思ってなかった。だが意外ではない。春はずっと祥吾の助手をしていた。その上で妻なのだと、信じていたのだ。
「えぇ……正月にお会いしました。でも……もう会わない方が良いと、お互いに言い合ったんです。」
清子は一通の封筒を手にすると、倫太郎をみる。
「中身を見ても?」
「その確認のために来たんですよ。」
確かにそうだ。清子はその封筒を開封する。きっちり糊付けされていて、開けたあとはない。
「あなたも見ていないんですか?」
「徳成君から手渡されただけです。私は、それを預かっているだけ。その遺書通りにするのかというのは、あなた方次第でしょう。」
封筒には紙が入っている。それを取り出して開くと、史も晶もそれをのぞき見た。
「……家のことか。」
祥吾には持ち家がある。T区にある祥吾の通っていた大学から近いところにある、閑静な住宅街だった。
「家は……浅海さんに。そして家の中のものを私に?」
「どうやら、徳成君の家自体は徳成君が買ったものです。小説が売れたときに、財産として土地と家を買ったようですね。戦前に建てられた日本家屋です。」
「……でもその土地と家は浅海さんに渡すと。しかし、家の家具などは私に譲ると言っていますね。」
すると倫太郎はポケットから煙草を取り出すと、清子をみる。
「私はそれを放棄した方が良いと思います。浅海さんもそうすると言っていました。」
「どうしてですか?」
史はそう聞くと、倫太郎は少し笑った。
「小説が売れていたとき、彼は家と土地を買った。と言うことはどういうことかわかりますか。」
晶が驚いたように倫太郎に言う。
「まさか……最近は売れてなかったのか?」
「そんなことはない。久住。冬山祥吾の小説が売れてないわけがないだろう。連載だって何本持ってたと思うんだ。」
すると清子は首を横に振った。
「違うと思います。」
「清子。」
「おそらく……借金でもあったんですね。」
倫太郎は清子を見て薄く笑った。
「その通りですよ。」
「借金?」
鞄の中から、倫太郎は大きめの封筒を取り出した。それを清子に手渡す。
「土地と、家の権利書です。これを持っているのは、今は坂本組というヤクザの一家ですよ。」
小説が売れて、祥吾は土地と家を買った。そしてその中に祖母との思い出の品を入れて暮らしていたのだ。だが金があれば寄ってくる人たちがいる。それは祥吾を甘い言葉で誘惑する人たちだ。
「金の無心を母親にもしていたと言いますからね。」
だから祖母はずっと働いていたのか。清子はやっとその理由に納得した。
「まさか、土地と家も抵当に入ってるのか?」
「そうではないとヤクザの手に渡っているなど言わないでしょう。今は書いても書いても、その利子だけで金が消える。」
「……惨めな……。」
史もそういってその権利書をみる。
「清子。手放しちまえ。財産を撮るってことは借金も取るってことだろ?林さん。」
「その通りですよ。だから浅海さんは放棄すると言っています。」
だが清子はその遺書を手にしながら、手が震えていた。
「……清子?」
史が心配そうに清子に声をかける。すると清子はその遺書を見ながら言った。
「家のものというのは、おそらく実家のものを入れているのだと思います。祖母の化粧台も、お茶碗も、大釜の鍋も……。」
すべてに思い出があった。祖母の化粧台やタンスは、おそらく祖母が嫁入りしたときに持ち込んだものだ。それを手放すと言うことなのだろうか。もし手放さなければ、あの家に入れることが出来る。元々その家にあったものだ。パズルのピースを合わせるように、きっとすんなりと収まるはずなのだ。
「変なことを考えない方がいい。清子。そんな人の借金まで君が背負うことはないんだ。」
史はそういうが、清子の目に涙が溜まっている。
「家も……きっと名残はなくなる。家財道具まで、無くなったら……私はどうしたらいいんですか。」
ずっと耐えていたのだ。社長が家を買うと言ったときから、清子はずっと自分がしたかったことだからと、耐えてきたのだ。だがそれも無くなるなど、清子には耐えられないかもしれない。
「清子……。」
すると晶が清子に向かうと、その両頬を両手で包み込むように叩く。ぱんっといい音がして、周りの人が振り向いた。
「ばーか。お前、こういうときこそ冷静になれよ。」
「久住。目立つぞ。」
頬が痛い。だが清子の目からは涙がこぼれた。
「お前のばーさんが使ってたって、何十年前のものだよ。冬山祥吾だって、別に手入れしてたわけじゃないんだろ?な?林さん。」
「あぁ……確かに、徳成君の家にはお手伝いさんが来てたようだが、そんな家具なんかの手入れはしていないだろう。」
「だろ?処分、処分。そんなもの。別にタンスだって桐箪笥ってわけでもねぇんだろ?」
「そんな問題じゃないの。」
清子はそういって晶の手を振り払う。
「私が……どんな思いで……。」
すると今度は史が清子にいう。
「後ろを向いていても進めないよ。清子。お祖母さんのものは、確かに大切かもしれない。だけど、もっと大切なのは君のことじゃないのかな。」
「私の?」
「君が新たにスタートを切って、あの家に住むんだ。だったら君のものを揃えればいい。」
そして史は清子の頬にハンカチを当てる。その様子を見て、倫太郎はやはり恋人なのは史なのだろうと思った。史の方がソフトに清子を前向きにしている。
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