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葬儀
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史が引っ越しを決めたところは、会社の最寄り駅柄ほど近くにあるマンションだった。しっかりセキュリティーが利いているところで、部外者はほとんどはいることはできないだろう。それを見通して、ここを選んだのだ。
だがここは正確には、ウィークリーになる。また前のようなことがあったらすぐに引っ越せるようにするのだ。だから余計なものは捨てようと、史はその荷物をより分けた。思えばそんなに荷物は必要なかったかもしれない。記念にと思ってとって置いた自分のソフトだって、よくよく考えればデジタル化されているのだ。
荷物をまとめてよく見ると、あまり荷物はなかったように思える。とはいえ、清子のようにスーツケース一つというわけではない。
ふと清子のことを思い出す。今日はあの街に帰るらしい。冬山祥吾の事もある。もし何かあったら自分の所へ来て欲しいと言っておいたが、不安な所がある。晶も目的は違うが同じ町にいるのだ。流されたりしないだろうか。それだけが心配だ。
そんな史の心知らずで、清子は家のリフォームの説明を業者から聞いていた。大きく間取りは変えないと言うので、少しほっとしていた。しかしそうなると余る部屋が増えそうだ。社長にそういうと、社長は少し笑って言う。
「ここは正木編集長がするオフィスだけでは収まらないだろう。」
そうか別に違う雑誌が来ることも考えられるのだ。そのときはまた部屋を繋げたりするのだろうか。
社長が帰ったあと、清子は心配だった仏壇を探しに倉庫へ向かおうとした。そのとき、そのデザイナーから声をかけられる。
「徳成さん。この辺で食事をできるところはありませんか。」
都会からきたデザイナーだ。そんなことを調べてこなかったのだろう。
「港に物産館と併設されたレストランがあります。一階は売店ですが、二階は食べさせてもらえますよ。今の季節は蛤がおいしいですよ。」
「良いねぇ。じゃあ、行ってきます。徳成さんは捜し物があると言ってましたね。」
「はい。業者さんは十四時に来られるのですよね。」
「えぇ。」
「あの……いきなり壊したりとかはしないんですか。」
するとデザイナーは少し笑った。
「そんなことはしませんよ。まずは周りに足場を組んで、ネットを張ります。埃が立たないように。今日、明日は足場を組んで終わりでしょう。」
「そうでしたか。」
「その間に持ち出せるものは持ち出した方が良いですよ。」
ほとんど家の中には何もない。おそらく仏壇があるだけだろう。デザイナーが行ったあと、清子は部屋の中に入っていった。そして祖母が居た部屋のドアを開ける。四畳半ほどの広さで、ふすまを挟んだ向こう側が、清子の部屋になる。
「人間はね、起きて半畳、寝て一畳あれば生きていけるんだよ。」
そういって贅沢はしなかった。なのに生活はいっこうに良くならない。その理由は祥吾に金を送っていたからだろう。きっと都合の良いときにしか「お母さん」と言わなかったのだ。目に見えている。
祖母の部屋へ行くと、締め切っていたはずなのにほんのり甘い匂いがした。祖母の匂いが染み着いていたのだろうか。そう思いながら清子は押入を開ける。するとそこには仏壇が寝かせられておいていた。乱雑な扱いにしているのは、信仰心がないからだろう。
その側には写真立てがある。清子がここを出る前に置いていったものだった。手に取るとガラスが割れているが、写真自体は無事だ。
祖母の写真がまだ入っている。手に取ってみると、思ったよりも綺麗な人だと思った。そしてこの部屋で、祖母は男をくわえ込んでいたのだ。そういう人だったのだから仕方がない。
そのときだった。
「すいませーん。」
声が聞こえて、清子は写真縦をおくと玄関へ向かった。
「久住さん……。」
「何だ。お前居たんだ。」
「えぇ。」
「業者いつくるって?」
「十四時です。」
「仏壇見つかった?」
「さっき見つけましたけど……。」
「だったら運ぼうぜ。」
「どこに?」
「寺の住職に話を付けた。リフォームが終わるまでは置かせてくれるって言ってたから。」
気が回る男だ。無神経なだけであって。
「運んでやるよ。どこにあった?」
「祖母の部屋です。ありがとう。」
「いいんだよ。別に。ついでだしな。」
晶はそういって清子の案内で祖母の部屋へ向かう。すると晶はその匂いを階で少し首を傾げた。
「どうしました?」
「懐かしい匂いがすると思って。何だろうな。これ。」
「香水ですかね。祖母が使っていたみたいです。」
清子は持っていたバッグから、小瓶を取り出した。それは祥吾から昔貰ったもので、使ったことはない。
「ブランドのものかな。愛に聞けばメーカーとかわかりそうだけど。」
「連絡を今でも?」
「たまにな。あぁ、正月はどっかの国で仕事をしてたって言ってた。お前にも土産を預かってたよ。あとで渡すわ。」
今でも連絡を取っていたのだ。清子は少しもやっとした気持ちのまま、その香水の瓶を受け取った。
「ちっちゃいけど、結構頑丈だな。虫とか来てないか?」
「漆だから、くることはないと思いますが。」
「まぁ、とりあえず運んでみるか。」
一抱えくらいの仏壇なら、晶一人で行けると思った。だがそれは甘いと手に持ったときに思い知らされる。
「やば。これ重いわ。」
「手伝いましょうか?」
「お前が?兄貴呼ぶよ。」
「茂さんは仕事じゃないですか?」
「いいや。そろそろ帰ってきてると思うけど。あーそうだった。」
「何か?」
「今日はわかめの収穫もするって言ってたから、帰りが夕方になるって言ってたっけ。」
晶はくしゃくしゃと頭をかいた。
「良いですよ。私も一緒に持ちますから。」
「そう?だったら一番地か出口ってどこ?」
「台所です。」
「そこのドアを開けてくれるか。」
清子は一足先に部屋を出ると台所にある勝手口のドアを開けた。そして祖母の部屋に戻ると、晶が焦ったような声を出している。
「やべ。やべぇ。清子。」
「え?」
その仏壇を持とうとしたのだろう。手をかけたがすぐに手を離してしまった。
「この仏壇もうやばいわ。俺が少し持ち上げようとしたら、ばきって音がした。劣化してるんだろうな。漆っていっても限度がある。」
「そうでしたか……。」
「お前さ、仏壇だけでも買ったら?サイズ聞いてさ、それにあった奴。」
「ですね。だったら写真と位牌だけを持って行きます。」
そういって清子は押入に首を入れて、仏壇の中から位牌と写真立てを取りだした。
「それだけでいいのか?」
「祖母のだけで……それしか見あたりませんでしたし。」
「じいさんのはねぇのか?」
「無いですね。」
仏壇の中はあまり物がない。お札なんかもあるが、これは持って行った方がいいのだろうか。いや。そもそもこれは備え付けのものなのか。それすらわからない。
「とりあえず全部持って行けよ。住職がないとへそを曲げるかもしれねぇし。ほら、これに入れていけ。」
用意していたようにビニールの袋を取り出した。
「本当に、用意が良いですね。前も、お墓の掃除をしていたときも何だかんだ持ってきてくれたし。」
「車にあるだけだよ。別に用意してたわけじゃない。」
「住職さんにも話を付けてくれたのでしょう?」
「それはそうだな。」
「ありがとう。」
すると晶は少し笑って、清子の耳元で言う。
「下心がないって思ってるのか?」
「あるんですか?」
「そりゃな。今日の帰りにでもホテルに連れ込もうとか思ってるよ。」
「一人で帰りますから。」
すると晶は乾いた笑いを浮かべて、清子のその荷物を手に持った。するとその様子に清子は首を傾げる。
いつもだったら、この場でキスでもするかと思ったのに今日は手を全く出さない。何かあったのだろうか。
だがここは正確には、ウィークリーになる。また前のようなことがあったらすぐに引っ越せるようにするのだ。だから余計なものは捨てようと、史はその荷物をより分けた。思えばそんなに荷物は必要なかったかもしれない。記念にと思ってとって置いた自分のソフトだって、よくよく考えればデジタル化されているのだ。
荷物をまとめてよく見ると、あまり荷物はなかったように思える。とはいえ、清子のようにスーツケース一つというわけではない。
ふと清子のことを思い出す。今日はあの街に帰るらしい。冬山祥吾の事もある。もし何かあったら自分の所へ来て欲しいと言っておいたが、不安な所がある。晶も目的は違うが同じ町にいるのだ。流されたりしないだろうか。それだけが心配だ。
そんな史の心知らずで、清子は家のリフォームの説明を業者から聞いていた。大きく間取りは変えないと言うので、少しほっとしていた。しかしそうなると余る部屋が増えそうだ。社長にそういうと、社長は少し笑って言う。
「ここは正木編集長がするオフィスだけでは収まらないだろう。」
そうか別に違う雑誌が来ることも考えられるのだ。そのときはまた部屋を繋げたりするのだろうか。
社長が帰ったあと、清子は心配だった仏壇を探しに倉庫へ向かおうとした。そのとき、そのデザイナーから声をかけられる。
「徳成さん。この辺で食事をできるところはありませんか。」
都会からきたデザイナーだ。そんなことを調べてこなかったのだろう。
「港に物産館と併設されたレストランがあります。一階は売店ですが、二階は食べさせてもらえますよ。今の季節は蛤がおいしいですよ。」
「良いねぇ。じゃあ、行ってきます。徳成さんは捜し物があると言ってましたね。」
「はい。業者さんは十四時に来られるのですよね。」
「えぇ。」
「あの……いきなり壊したりとかはしないんですか。」
するとデザイナーは少し笑った。
「そんなことはしませんよ。まずは周りに足場を組んで、ネットを張ります。埃が立たないように。今日、明日は足場を組んで終わりでしょう。」
「そうでしたか。」
「その間に持ち出せるものは持ち出した方が良いですよ。」
ほとんど家の中には何もない。おそらく仏壇があるだけだろう。デザイナーが行ったあと、清子は部屋の中に入っていった。そして祖母が居た部屋のドアを開ける。四畳半ほどの広さで、ふすまを挟んだ向こう側が、清子の部屋になる。
「人間はね、起きて半畳、寝て一畳あれば生きていけるんだよ。」
そういって贅沢はしなかった。なのに生活はいっこうに良くならない。その理由は祥吾に金を送っていたからだろう。きっと都合の良いときにしか「お母さん」と言わなかったのだ。目に見えている。
祖母の部屋へ行くと、締め切っていたはずなのにほんのり甘い匂いがした。祖母の匂いが染み着いていたのだろうか。そう思いながら清子は押入を開ける。するとそこには仏壇が寝かせられておいていた。乱雑な扱いにしているのは、信仰心がないからだろう。
その側には写真立てがある。清子がここを出る前に置いていったものだった。手に取るとガラスが割れているが、写真自体は無事だ。
祖母の写真がまだ入っている。手に取ってみると、思ったよりも綺麗な人だと思った。そしてこの部屋で、祖母は男をくわえ込んでいたのだ。そういう人だったのだから仕方がない。
そのときだった。
「すいませーん。」
声が聞こえて、清子は写真縦をおくと玄関へ向かった。
「久住さん……。」
「何だ。お前居たんだ。」
「えぇ。」
「業者いつくるって?」
「十四時です。」
「仏壇見つかった?」
「さっき見つけましたけど……。」
「だったら運ぼうぜ。」
「どこに?」
「寺の住職に話を付けた。リフォームが終わるまでは置かせてくれるって言ってたから。」
気が回る男だ。無神経なだけであって。
「運んでやるよ。どこにあった?」
「祖母の部屋です。ありがとう。」
「いいんだよ。別に。ついでだしな。」
晶はそういって清子の案内で祖母の部屋へ向かう。すると晶はその匂いを階で少し首を傾げた。
「どうしました?」
「懐かしい匂いがすると思って。何だろうな。これ。」
「香水ですかね。祖母が使っていたみたいです。」
清子は持っていたバッグから、小瓶を取り出した。それは祥吾から昔貰ったもので、使ったことはない。
「ブランドのものかな。愛に聞けばメーカーとかわかりそうだけど。」
「連絡を今でも?」
「たまにな。あぁ、正月はどっかの国で仕事をしてたって言ってた。お前にも土産を預かってたよ。あとで渡すわ。」
今でも連絡を取っていたのだ。清子は少しもやっとした気持ちのまま、その香水の瓶を受け取った。
「ちっちゃいけど、結構頑丈だな。虫とか来てないか?」
「漆だから、くることはないと思いますが。」
「まぁ、とりあえず運んでみるか。」
一抱えくらいの仏壇なら、晶一人で行けると思った。だがそれは甘いと手に持ったときに思い知らされる。
「やば。これ重いわ。」
「手伝いましょうか?」
「お前が?兄貴呼ぶよ。」
「茂さんは仕事じゃないですか?」
「いいや。そろそろ帰ってきてると思うけど。あーそうだった。」
「何か?」
「今日はわかめの収穫もするって言ってたから、帰りが夕方になるって言ってたっけ。」
晶はくしゃくしゃと頭をかいた。
「良いですよ。私も一緒に持ちますから。」
「そう?だったら一番地か出口ってどこ?」
「台所です。」
「そこのドアを開けてくれるか。」
清子は一足先に部屋を出ると台所にある勝手口のドアを開けた。そして祖母の部屋に戻ると、晶が焦ったような声を出している。
「やべ。やべぇ。清子。」
「え?」
その仏壇を持とうとしたのだろう。手をかけたがすぐに手を離してしまった。
「この仏壇もうやばいわ。俺が少し持ち上げようとしたら、ばきって音がした。劣化してるんだろうな。漆っていっても限度がある。」
「そうでしたか……。」
「お前さ、仏壇だけでも買ったら?サイズ聞いてさ、それにあった奴。」
「ですね。だったら写真と位牌だけを持って行きます。」
そういって清子は押入に首を入れて、仏壇の中から位牌と写真立てを取りだした。
「それだけでいいのか?」
「祖母のだけで……それしか見あたりませんでしたし。」
「じいさんのはねぇのか?」
「無いですね。」
仏壇の中はあまり物がない。お札なんかもあるが、これは持って行った方がいいのだろうか。いや。そもそもこれは備え付けのものなのか。それすらわからない。
「とりあえず全部持って行けよ。住職がないとへそを曲げるかもしれねぇし。ほら、これに入れていけ。」
用意していたようにビニールの袋を取り出した。
「本当に、用意が良いですね。前も、お墓の掃除をしていたときも何だかんだ持ってきてくれたし。」
「車にあるだけだよ。別に用意してたわけじゃない。」
「住職さんにも話を付けてくれたのでしょう?」
「それはそうだな。」
「ありがとう。」
すると晶は少し笑って、清子の耳元で言う。
「下心がないって思ってるのか?」
「あるんですか?」
「そりゃな。今日の帰りにでもホテルに連れ込もうとか思ってるよ。」
「一人で帰りますから。」
すると晶は乾いた笑いを浮かべて、清子のその荷物を手に持った。するとその様子に清子は首を傾げる。
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