不完全な人達

神崎

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香水

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 ソファーの上でセックスをしてシャワーを軽く浴びたあと、清子は着ていた服を脱衣所で手にしていた。
「どうしたの?」
 髪を乾かしていた史が清子に聞く。
「汚れてしまったと思って。」
「洗い替えの服はあるよ。それか、洗濯機に放り込んでれば朝には乾くし。」
 洗濯機も備え付けのモノだったが、乾燥も付いているモノだったのでそういうのだろう。
「下着もありますか。」
 ドライヤーを止めて、史は少し意地悪そうに言う。
「前に置いていったモノがあるから。」
 そんなモノがあったか。清子はそう思いながらその服を洗濯機に入れた。そして横を見ると史の洗濯物もある。一緒に洗ってしまおうと、それも洗濯機の中に入れた。
 スイッチを押して部屋に戻ると、史はクローゼットの中から清子の下着を取り出した。それは前に晶が手渡した黒い下着で、思わず清子の頬が赤くなる。
「まだこんなモノを持っていたんですか?」
「とても色っぽいと思うよ。着て見せてほしい。それからその上からこれを着てみて。」
 タオルをはずして黒い下着を身につける。そしてその上から透け感のある紫のベビードールを身につけた。そして鏡にその姿を映し出す。すると後ろから史がのぞき見た。
「似合ってる。」
「そうですか?こういうのはもっと肉付きの良い人が着るものだと思っていましたが。」
 透けている紫のベビードールの下に見えるのは浮いたわき腹の骨だった。手も足も細すぎる。
「これって、用途は何なんですかね。防寒も出来そうにないし、着ている意味があるんですか。」
「そう?この見えそうで見えない感じがいいんだよ。風俗嬢とかAVで良く着てるのを見るな。」
 その程度なのか。清子は少しため息を付くと、そのままソファーに座り煙草に手を伸ばした。そしてそれを口にすると、ジッポーに手が伸びる。それを見て少し戸惑ってしまった。晶からもらったものだから。いいや。正確には、晶を伝って愛からもらったものだ。外国のモノらしく、アンティークのモノは清子が喜ぶだろうという愛なりの気遣いだ。
「そのジッポーは久住から?」
「そうですね。もらったのは久住さんですけど、愛さんから言付かったようです。」
「愛が?ふーん。いいセンスをしてる。喫煙者じゃないのに、こういうのを見る目があるね。」
 そして祖母が持っていたというジッポーは晶の元にある。それが気に入らない。
「どうして久住にジッポーを渡したの?」
 すると清子は少し考えたように黙り、そして煙を吐き出しながら言った。
「久住さんに渡した方がいいと思ったんです。あなたに渡す選択肢もあったでしょうがやはりずっと一緒にいるし、目に付けば思い出すから。」
 晶と居ることは無いと言っているようだった。思わずそのまま清子の肩を抱く。
 だが清子の胸中は複雑だった。本当の愛のお土産は、バッグの中にある入浴剤だった。嘘を嘘で重ねた関係が続くとは思えない。

 初七日を過ぎ、ついでに見に行く清子の家は柱や土台だけになっていたのを清子は複雑そうな目で見ていた。
 その間にも仕事は後を絶たない。二月にはいると、史の元に新しく新入社員がやってくるためのデーターが送られてくる。ここにはいるのは三人。うち女性は一人。香子が三月には退職するため、その穴埋めとして女性がやってくるのだ。二十五歳。清子よりも一つ下というわけだ。経歴を見ると、どうやらアダルトグッズのメーカーにつとめていたらしく、偏見の目で見られがちなこの部署には抵抗がない。
 あとは大学を卒業したばかりのウェブ担当の男が二十三歳。それから史の代わりに編集長になる新聞社のエロコーナーを担当していた男。
「……。」
 空席になっている清子の席を見る。春には清子はこの席にいなくなるのだ。そのウェブ担当の男が清子ほど仕事が出来るのかはわからない。
 だが史の心配はもう一つのところにある。自分が編集長になるタウン誌のことだ。タウン誌を担当するのは、新聞社から五名。「三島出版」からも五名。史を合わせて十名のスタッフになる。こことあまり変わらない人数で何が出来るのだろう。史はそれにいつも頭を悩ませていた。
「お、徳成さん。まだ昼になっていないのに珍しいね。」
 清子の姿にほかの社員が声を上げて、史もそちらをみる。
「ちょっと気になることがあったので。」
 清子は史の方を見ずに、自分の席のパソコンを立ち上げる。そしてそのデーターを見ていた。にやっと口元だけが笑う。何かを仕掛けたのだろうか。
 そしてまたパソコンをスリープ状態にすると席を立った。
「何かしたの?」
 晶の隣にいる男に声をかけられて、清子は少し笑っていった。
「この間のセキュリティーの講習が役に立ちました。これでアイコラ職人は厳しくなるはずですよ。」
「へぇ。そんなもので楽しむ奴なんかまだいるんだねぇ。モデルもアイドルも女優も脱いでるわけじゃないのにな。」
 清子はそういってオフィスを出て行く。そしてしばらくすると週刊誌担当の男がオフィスに入ってきた。
「徳成さんはいないの?」
「いないですよ。さっき出て行ったんですけど。」
「ったく、話もまともに聞けない。何でこんなにふらふらしてんだ。」
 相変わらず週刊誌は清子を追っている。冬山祥吾の話を聞きたいのだろう。だが清子はそれから逃げるようにいつもIT部門と「pink倶楽部」の部署を行ったり来たりしていた。
 エレベーターを行くと怪しまれるので、階段を使っている。だからその人たちに捕まることはほとんどない。そう思いながら清子は階段を下りていた。
 十階にある「pink倶楽部」の部署から一階に降りるのは、そう疲れることではない。昔はもっと歩いたり自転車をこいでいたりしたのだ。
 そう思いながら階段を下りていく。すると向こうから足音が聞こえた。ここを使う人はあまり居ないはずなのに、どうしてここがばれたのだろう。
「清子。」
 そこを上がってきたのは晶だった。清子は少しほっとして晶を見下ろす。
「ここを使ってるんですか?」
「んにゃ。スポーツ雑誌から呼ばれて、今度は音楽雑誌。」
 階を行き来する晶には、階段の方が役に立つ。
「お前最近ずっと階段?」
「えぇ。週刊誌の担当の人がいつもつきまとってて。」
「用事がある度に階段使っちゃ、体力付くよな。」
「その辺は朝倉部長も編集長も何も言いません。」
「仕事しにくくないか?」
 正直しにくい。だが文句は言えないのだ。早めに在宅勤務に切り替えても、きっと自宅にまで押し掛けてくるのだから。むしろあの家に戻れば他の出版社が押し掛けてくるかもしれない。そうなればここの方がやりやすいかもしれないと思った。
「清子。」
 階段の同じ段に立つと、晶は清子の方を見る。何をしたいかはわかる。だから目をそらせた。
「誰か来ますから。」
「こねぇよ。だから目を潰れって。」
 そういって晶は清子を壁に押しつけるようにしてキスをする。軽くふっと触れると、その体を離した。
「今日、お前の家に行って良い?」
「駄目です。」
「だったらお前がうちに来いよ。」
「やです。」
「何で?」
「生理来たから。」
「この前もそう言ってたじゃん。月に何回もあるもんじゃないだろ?誤魔化すなって。」
 すると清子は頬を膨らます。
「史に悪いと思いませんか。」
「俺の方が先だから。」
 すると清子はその体を押しのけて下へ下がっていく。
「お前が終わるの待ってる。」
「史が待ってるかもしれませんよ。」
 そう言って階段を下りた。だが胸がどきどきと鼓動を打っている。
 駄目だ。流されてはいけない。自分が誰が好きなのか、しっかりしないと。清子はそう思いながらまた階段を下りていく。
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