不完全な人達

神崎

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告白

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 史をコンビニまで送ると、晶はそのまま家に帰ろうとまた会社の方へ向かう。雨はやみそうにない。雨は冷たく、こんな日は人の温もりが欲しいと思う。その人とは清子の他にはいない。
 清子は仁の店に行くという。そのまま清子を追って仁の店へ行ってもいいだろう。そこから自分の家まではそんなに遠くない。そのまま家に連れて帰って、一晩中離さなくても良いと想像しながら会社へ向かっていた。
 会社の裏手に駐車場がある。そこに車を停めていたのだ。とりあえず車だけは家の駐車場に入れた方がいいだろう。その駐車場の裏手へやってくると、一台の車のヘッドライトが晶を照らした。まぶしくて目をそらす。だが目が慣れてそちらを見ると、晶はすぐに車の方へ走っていく。
「逃げた。追え!」
 やなこった。そう思いながら車のキーを開けてすぐに乗り込む。すると前に人が立ちふさがった。端に停めていたのが悪い。
 晶はエンジンを切ると、また傘を差して車を降りた。
「探したぞ。」
「俺は逃げてるつもりはねぇけど。」
「そういうな。お前が撮ったパッケージのソフトはよく売れる。」
 晶にそういう男は、軽薄そうな金髪の男だった。
「ジャケ買いしても、内容がくずならもう売れねぇよ。」
「そうでもない。とにかく売れれば問題はない。それに引退したAV女優を復帰させる話もある。タイトルだけで売れそうだ。」
「引退した?」
 その言葉に晶の顔色が変わった。
「まさか。」
 夏生をまた出すつもりなのだろうか。兄の元で幸せでいればいいと思っていたのに、裏に出ていた女を脅すことなど簡単なのかもしれない。だが茂の気持ちはどうなのだろう。それに夏生の気持ちは。
「周りを不幸にしてまで自分が幸せであればいいという希薄な男だったかな。」
 晶は舌打ちをして、車からカメラの入ったバッグを取り出す。
「スタジオどこだよ。」
「付いてこい。」
 関わってしまった自分が悪いのだ。ヤクザに何か関わらない方がいいと言っていた史の言葉が頭をよぎる。
 清子が居なくてよかった。こんなところを見られたくはない。

 町外れにある雑居ビル。表向きには、貸している撮影スタジオで自主制作の映画や、ポスターなどを撮影するところらしい。
 だがその実際は裏ビデオの制作スタジオで、表では売ることの出来ないハードなプレイも撮影可能だった。実際、今撮影されている現場に連れて行かれると、どう見ても中学生くらいの女の子が複数の男に性器や尻の穴に突っ込まれて喘いでいた。その側にはローターやローションの容器が床に転がっている。
「媚薬でも飲ませてんのか?」
「ヤクだよ。」
「なるほどな。」
 そうでもないとこんなに乱れないだろう。気絶しそうで、白目をむきながらそれでも腰を振っている。細い腰と、成長途中の胸はまだわずかな膨らみだというのに。
「省吾さん。あの女、そろそろ頃合いですよ。」
「そうだな。そろそろソープに売るか。」
「ソープでどれくらい稼げるかですね。」
「あぁ。」
 ここが経営しているソープランドは、何をしてもオプションと言って追加の金を払えば何でもさせてくれる。ソープは基本、コンドームありで事をするのが一般的だが、ここのソープは生でしても、中で出しても、金を積んでいればさせてくれる。あの女は尻の穴も使えるからさらに需要は高い。
 ひときわ高い声が聞こえた。そちらを見ると、違う女が縛られて吊されたまま足を開かれている。そしてその性器には、黒くて太いディルドが刺されていた。スイッチを入れているらしく、わずかにモーター音が聞こえて、刺されている根本はうねうねとうごめいている。
「すげぇな。相変わらず。」
「この後、乱交させる。それを撮るんだ。」
「へーへー。」
 晶はそういってカメラを取り出す。だが心が痛い。あの中学生のような女が、清子と初めて体を合わせたときとかぶったから。清子も晶も初めてだった。当然経験不足で、つたないキスだったと思うし、愛撫も清子が痛いといってもやめれなかった。それだけ自分も興奮していたのだろう。
「省吾さん。」
 そのとき省吾と言われたに声をかけた男がいる。その男を見たとき、晶は少し驚いた。自分によく似ていると思ったからだ。目を覆うような長い髪はぼさぼさで、白いシャツは少し黄ばんでいる。清潔さはないようだ。
「どうした。」
「坂本組から連絡があった。そこのカメラマンさ。」
 男が晶の方を指さす。
「俺?」
「関わるなって。」
「は?何で坂本組が俺らのやってることに口を出すんだよ。」
「何でかはしらね。でも関わったら、あんたを坂本組に呼ぶことは今後いっさいないって。」
 男は頭をかいて、あくびをする。この状態でも緊張感のかけらもないのだ。
「晶、ちょっと待て。組に連絡してみるから。」
 そういって省吾は、部屋の外に出て行く。残されたのはその男と晶だった。
「久住晶って言ったっけ。」
「あぁ。」
「良かったな。徳成清子が手を打ってくれたんだよ。」
 清子の知り合いか。晶はカメラをしまうと、男をみる。
「あんた……。」
「あー。俺、仕事あっから。」
 男はそういって部屋を出ていく。そして部屋の中は相変わらず、女のあえぎ声がこだましていた。

 町へ戻ってくると、晶はつけられていないのを確認してそのままコンビニにはいる。煙草をかって、その灰皿の側でたばこに火をつけた。
 そして電話をする。すると清子はすぐにでた。
「清子?お前……ん?俺、今会社の近くのコンビニ。」
 清子もすぐ側にいるのだという。周りを見渡すと、清子は反対車線を歩いていた。晶は手招きすると、清子は横断歩道を歩いて晶の側にやってくる。
「清子。なんて……。」
「失いたくなかったから、手を使っただけです。その方法は企業秘密。」
「教えろよ。」
「やです。」
 清子も煙草を取り出して、少し笑う。
「痛い目にあったんですから、これからは関わらないでくださいね。」
「お前が関わってるんだったら話は別だ。」
 すると清子は灰を落として、晶を見上げる。
「関わりなんかありませんよ。ただ、昔の職場がヤクザの関係だった。それだけです。」
「それだけじゃねぇだろ?じゃないと……ヤクザに手を引かせるなんて事は出来ないはずだ。」
「企業秘密です。」
「だったらしゃべらせるよ。」
 晶はそういって、清子の手を握る。そして自分の家の方向へ向かっていった。
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