不完全な人達

神崎

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北と南

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 「三島出版」の支社は、S市にある駅前のビルの三階にあった。階をワンフロアをぶち抜いてオフィスにしてあるが、あまり広くはない。そこで地方のネタや、地方に住む作家の面倒を見ているのだろう。働いている人も二十人いないくらいで、持ってきたお菓子が足りて良かったと清子は内心思っていた。
「それにしても相当軽装だね。今日から寒波が来てたけど、寒くなかった?」
 支社長は、五十代の体格のいい男だった。暖房が利いているそのフロアでは暑いのか、汗を良くかいている。
「寒さには慣れているつもりでしたけど、やはりこの土地の寒さはすごいですね。」
 マフラーとコートを取って、清子はフロアを案内してくれた。
「ここはそうでもないけど、もっと北へ行けば朝はずっと氷点下だよ。道が凍っているしね。なれてない人なんかまともに歩けないよ。」
 そんなものなのか。晶に言われて、空港で買った靴底に貼るタイプの滑り止めを張って置いて良かったと思う。
「土日でも稼働しているんですね。」
「あぁ。うちは色々あってね。平日に交代で休むんだ。本社は土日が休みかな。」
「えぇ。」
「本当はそれがいいんだろうけどね、事件は狙って起きる訳じゃないからね。」
 本社勤務だったという男性は、きっと本社に帰りたいのだろう。だからさっきから「支社」だと連呼しているのだろう。
「おーい。阿久津君。」
 オフィスの片隅でパソコンを当たっている男に、支社長が声をかける。阿久津と呼ばれた男は無愛想に、清子をみる。どこかで見たような男だと清子は思っていた。ハーフっぽい顔立ちだが、髪の色は黒で少しくせっ毛のようだ。そうだ。どことなく慎吾に似ている感じがした。
「本社のIT部門の方で、えっと……。」
「徳成です。」
 清子はそう言って頭を下げると、男も立ち上がって頭を下げる。
「阿久津智也です。」
 そう言って阿久津は名刺を差し出す。清子もそれに習って名刺を差し出した。
「同じくらいの年頃じゃないかな。阿久津君とは。」
「徳成さんはいくつですか?」
「阿久津君。女性に歳を聞くもんじゃないよ。」
 お前が言い出したんだろうが。清子はそう思っていたが、素直に歳を答える。
「二十六になりました。」
「へぇ……俺も二十六です。同級生ですね。」
 きっと大学か何かをでてここに配属されたのだろう。左手を見ると、指輪がしてあった。若いが結婚しているのだろう。
「じゃあ、あとよろしく。」
 そう言って支社長は自分のデスクへ戻っていった。あっさりしたものだな。清子はそう思いながら、智也をみる。
「パソコンを見せてもらって良いですか。あぁ……何か作業をされていたのだったら、その後で良いのですけど。」
「今、パソコンが調子悪くて、作業が進まないんですよ。」
「そうでしたか。ちょっと見せてもらいますね。」
 コートや荷物を置いて、いすに座る。さっきまで智也が座っていた温もりを感じて少し恥ずかしい気がしたが、そんなことは気にしていられない。
「……プログラム自体が壊れてますね。修正します。大事なデーターは今のうちに保存しておいてください。それからこのパソコンはみなさんと繋がっているみたいですので、みなさんの休憩時間の時にします。大事なデーターは保存しておいてくださいとお伝えください。」
 そう言って清子は自分のバッグの中から、CD-ROMを取り出した。
「壊れてる?」
「ウィルスではないので、おそらくパソコン自体の劣化かもしれません。」
 一瞬でそんなことまでわかるのか。本社の人間というのはこんなものなのだろうか。
「休憩時間はいつですか?」
「もうそろそろです。」
「でしたらそれをすぐにお伝えください。」
 清子の経歴は知っている。大学どころか高校すらでていないが、その経歴から春から本採用になるのだ。かなりのスキルがあるのだろう。
「更新をするにしてもスペックが足りなくなってますね。メモリーの増設もしないと。」
「パソコンは買い換えた方が良いですか。」
「本社に言った方が早いですね。とりあえずの応急処置はしますが、こちらから言っておきます。」
「やっぱり本社の人が来た方が良いですね。いくらパソコンを代えてくれって言っても、なかなか代えてくれないし。」
「……まぁ、軽くメモリースティックを買うほど軽く買えるものではありませんから。ですが、何をそんなにメモリーが食うことがあるんでしょう。データーらしいデーターはないみたいなのに。」
「古いパソコンだからでしょ?」
「……まぁたしかに旧型ですね。」
 こんな古いパソコンでよく業務が出来たものだ。ある意味感心すると清子は思っていた。
「本社だったらちょっと不具合があっただけで、代えてくれるんじゃないんですか?」
 その言葉には少しとげがある。清子は首を横に振ってそれに答えた。
「別にそこまではないですよ。出来ることは自分でします。専門家に頼むと、経費かかかってしまいますし。」
 データーの保存が終わり、智也は清子を見上げる。
「シャットダウンします?」
「えぇ。」
「ちょっと待ってください。」
 パソコンの電源を切って、智也は席をまた替わろうとした。すると清子は、そこに座らずにバッグの中からドライバーをとりだした。
「何をするんですか。」
「何って……メモリー増設ですけど。」
 清子はしゃがみ込むとその主電源のコンセントを抜く。そしてデスクトップの外壁をはずしだした。
「あ、見てなくて大丈夫ですから、他の仕事をしてください。」
 智也は少しため息をつくと、コートを着る。そして別のデスクへ向かった。
「あ、阿久津。どう?本社の人間。」
「仕事が速いよ。でもなぁ……。」
 何でも自分でやろうとする感じが見える。そんなことでよくチームプレイが出来るものだ。
「本社のIT部門だろ?あんなのがごろごろ居るんだろうぜ。阿久津は本社行きたがってたけど、あんなのと肩を並べられるか?」
「無理。無理。うちの弟みたいだ。」
 智也は両親がバラバラに住んでいる。だが決して離婚しているわけではなく父親は海外にいて弟と住んでいた。そして智也は母親の元で暮らしていたのだが、どうにも母親の仕事が好きになれなかったのだ。
 母親は女性向けのAVを作る仕事をしている。男優のプロダクションを、智也が高校生の時に作ったのだ。それが嫌で母親の実家があるこの土地の学校に編入して、大学もこの土地の大学へ行った。
 そこで出会った同期の女性と結婚したのは、二年前のこと。子供は出来なかった。
「はぁ……。」
 昼食のために外に出る。今日、妻に「排卵日だから早く帰ってきて」と言われているのだ。最近、セックスが苦痛でたまらない。
 自分が種馬のように感じるからだ。
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