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セックスしたい相手
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ジムで体を虐めたあと、桂はまたハウススタジオへ向かった。今日も撮影があるのだ。バイクで向かい、家の側にバイクを停める。
バイクを降りるとむわっとした空気が汗を一気に噴き出させて気持ち悪い。でも今からさらに汗をかくのだろうと思い直し、彼は家の中に入ろうとした。
そのとき見慣れない車が止まっているのに気が付いた。白い軽自動車。撮影のためだったら大きめのワンボックスとかを使っているのに、どうしてこんな車があるのだろう。
そして彼はドアを開ける。すると薄く女性の笑い声が聞こえた。その方向はいつもだったら女が使っている控え室からだった。
誰だろう。撮影の前は女性はナーバスになりやすいので、なるべくそっとして置いた方がいいのに。
「やーだ。マジで?」
「ほら。カリの部分をさぁ。」
「ひゃー。すごい。やっぱそういう女優さんに聞くのが一番いいよねぇ。やっぱAVだけじゃ限界あってさ。」
よく聞くと聞き覚えのある声だった。彼は急いで靴を脱ぐと、その部屋に入っていった。
「桂。ここ女性の部屋だぞ。」
「……。」
今日の相手の女と話を楽しそうにしているのは、紛れもなく春川だった。いつものようにジーンズとTシャツに身を包んでいる。
「あ!お久しぶりです。」
「あぁ。何であなたがこんなところに?」
「AVの撮影を見学したいっていったら、快くOKしてくれたんです。さすが嵐さん。」
その側には監督がいた。
「なーに。今時珍しいよね。エロ本のフリーライターが女性なんてさ。」
「フリーライター?」
驚いたように彼は彼女をみる。すると彼女は立ち上がると、桂のところへいく。
「男優さんの本番前も見たいんですけど。いいですか?」
「……別に……。」
すると、監督である嵐が珍しそうに彼を見る。
「珍しい。桂が他の男優以外、控え室には入れるなってヤツなのに。」
「えー?案外神経質なんですね。あー邪魔しちゃいけないですか?」
無邪気に聞いてくる彼女に彼は少しイラついたのか、それとも意地になっているのか、語尾が強くなる。
「かまわないっていってるじゃないですか。」
その様子に彼女は少し気後れしたような表情をしたが、すぐに笑顔になるとその後ろをついて行った。
「へぇ。こんなプロットがあるんですね。」
「でもまぁ、あってもなくても同じような感じですよ。」
バッグを置いて、桂はソファに座るとその紙を奪い取るように取り上げた。
「今日の相手って、可愛いですよね。」
「本当だったら撮影まで見ないことにしているんですけどね。」
「どうして?」
「感情が沸くから。」
「ふーん。そんなものですか。男の心と下半身は別物と思ってましたよ。」
春川はそういって彼の向かいのソファに座り、その上に足を乗せた。細い足だ。その足を舐め回したいとも思うが、彼女が嫌がるだろうか。
「あんたが思うより、男はデリケートなんでしょうね。」
「フフ。そんなもんですか。」
「あんたの旦那だって、本当はしたいと思ってんじゃないんですか?」
「うち?ないない。」
手を横に振って、大げさに否定した。その行動がおばさんぽくて、彼は少し笑ってしまう。
「ハハッ。あんたいくつだよ。」
「二十五。」
「え?二十も違うんですか。」
「あー。四十五歳でしたよね。二十歳じゃ、子供っていってもおかしくないですよねぇ。まぁ、ウチの旦那、五十なんでさらにですけどね。」
五十歳の旦那。そして二十五歳の妻。どうしてセックスしないでいれるのだろうか。男は確かに歳をとれば性欲は減退するだろう。だが彼女はまだ若い女盛りだ。女だって性欲があるのを抑えているのだろうか。それが彼女のよくわからないところだった。
「ねぇ。バック見せてくれません?」
「荷物?」
「そう。」
そういって彼女は手を伸ばす。何か変わったものでも入っているのかと思った。しかしその中身は、下着が何点か、コンドーム、財布、携帯電話。そして常備薬の他には、うがい薬と歯ブラシなどの口腔ケアのグッズが数点入っている。
「歯ブラシはわかりますけど、うがい薬まであるんですか?」
「まぁ、口の中を綺麗にしてから舐めるとこ舐めたいし。」
「ふーん。変なとこ潔癖なんですね。」
「女もするだろう?性病怖いし。」
「まぁ。性病なんかになったら食いっぱぐれますか。」
そういってうがい薬をしまい、彼女はそれを返した。
「こんなところに来て、ほんとに取材してるみたいですね。」
「取材してるんですよ。一応、記事にします。ウェブ上でね。」
「ばれないようにするのも大変だ。」
「筆が早いのだけは誉められます。」
誰に誉められるのか。そんなことはわかってる。旦那だ。小説家の旦那。シルエットでしかわからない年上の旦那。決して彼女を抱こうともしない旦那。性欲がないのだろうか。
「準備してきます。あなたはどうしますか。」
「あぁ。スタジオ見てきます。」
「撮影まで見るんですか?」
「かまわないっていってたから。邪魔ですか?」
「女が良ければいいですけど。」
本当なら見ないで欲しい。誰に見られてもいいが、彼女には見られたくなかった。
「楽しみ。他人のセックスって初めて見るから。」
「そんないいもんじゃないでしょ。」
彼はそういってTシャツを脱いだ。そこからは褐色の綺麗な肉体美がある。ガチガチに鍛えている証拠だ。どんな女でもこれを見れば頬を赤らめるのだろう。
だが彼女は違う。
「いい体してるんですね。楽しみー。」
そういって彼女は部屋を出ていった。まるでアトラクションに乗る前の子供のような足取りだった。
「くそっ!」
彼はそういってシャツをソファに投げた。
彼女にとって彼は旦那と比べても、まるで子供なのかもしれない。他の人にはそれでも良かった。だが彼女に他の女を抱くところを見られたくはない。
「何だ。これ。」
胸に手を当てる。鼓動が激しい。毎日の事なのに、柄にもなく緊張しているのかもしれない。
「桂さん。」
スタッフの呼ぶ声がする。
「はい。」
「写真撮るんで、着替えたら出てきてもらえます?」
「はい。わかりました。」
彼は用意されていた白いシャツに袖を通し、免許所を片手に外に出て行った。
ピンク色の部屋の中。女優はいわゆるロリータ系の女性で、胸が小さく、背も小さい。ツインテールの髪型にしていて、子供のようだと思った。
だが実際は二十九歳。
「よろしくお願いしまーす。」
その部屋の片隅で、春川は表情を変えずにその撮影の見学を決め込んだ。
バイクを降りるとむわっとした空気が汗を一気に噴き出させて気持ち悪い。でも今からさらに汗をかくのだろうと思い直し、彼は家の中に入ろうとした。
そのとき見慣れない車が止まっているのに気が付いた。白い軽自動車。撮影のためだったら大きめのワンボックスとかを使っているのに、どうしてこんな車があるのだろう。
そして彼はドアを開ける。すると薄く女性の笑い声が聞こえた。その方向はいつもだったら女が使っている控え室からだった。
誰だろう。撮影の前は女性はナーバスになりやすいので、なるべくそっとして置いた方がいいのに。
「やーだ。マジで?」
「ほら。カリの部分をさぁ。」
「ひゃー。すごい。やっぱそういう女優さんに聞くのが一番いいよねぇ。やっぱAVだけじゃ限界あってさ。」
よく聞くと聞き覚えのある声だった。彼は急いで靴を脱ぐと、その部屋に入っていった。
「桂。ここ女性の部屋だぞ。」
「……。」
今日の相手の女と話を楽しそうにしているのは、紛れもなく春川だった。いつものようにジーンズとTシャツに身を包んでいる。
「あ!お久しぶりです。」
「あぁ。何であなたがこんなところに?」
「AVの撮影を見学したいっていったら、快くOKしてくれたんです。さすが嵐さん。」
その側には監督がいた。
「なーに。今時珍しいよね。エロ本のフリーライターが女性なんてさ。」
「フリーライター?」
驚いたように彼は彼女をみる。すると彼女は立ち上がると、桂のところへいく。
「男優さんの本番前も見たいんですけど。いいですか?」
「……別に……。」
すると、監督である嵐が珍しそうに彼を見る。
「珍しい。桂が他の男優以外、控え室には入れるなってヤツなのに。」
「えー?案外神経質なんですね。あー邪魔しちゃいけないですか?」
無邪気に聞いてくる彼女に彼は少しイラついたのか、それとも意地になっているのか、語尾が強くなる。
「かまわないっていってるじゃないですか。」
その様子に彼女は少し気後れしたような表情をしたが、すぐに笑顔になるとその後ろをついて行った。
「へぇ。こんなプロットがあるんですね。」
「でもまぁ、あってもなくても同じような感じですよ。」
バッグを置いて、桂はソファに座るとその紙を奪い取るように取り上げた。
「今日の相手って、可愛いですよね。」
「本当だったら撮影まで見ないことにしているんですけどね。」
「どうして?」
「感情が沸くから。」
「ふーん。そんなものですか。男の心と下半身は別物と思ってましたよ。」
春川はそういって彼の向かいのソファに座り、その上に足を乗せた。細い足だ。その足を舐め回したいとも思うが、彼女が嫌がるだろうか。
「あんたが思うより、男はデリケートなんでしょうね。」
「フフ。そんなもんですか。」
「あんたの旦那だって、本当はしたいと思ってんじゃないんですか?」
「うち?ないない。」
手を横に振って、大げさに否定した。その行動がおばさんぽくて、彼は少し笑ってしまう。
「ハハッ。あんたいくつだよ。」
「二十五。」
「え?二十も違うんですか。」
「あー。四十五歳でしたよね。二十歳じゃ、子供っていってもおかしくないですよねぇ。まぁ、ウチの旦那、五十なんでさらにですけどね。」
五十歳の旦那。そして二十五歳の妻。どうしてセックスしないでいれるのだろうか。男は確かに歳をとれば性欲は減退するだろう。だが彼女はまだ若い女盛りだ。女だって性欲があるのを抑えているのだろうか。それが彼女のよくわからないところだった。
「ねぇ。バック見せてくれません?」
「荷物?」
「そう。」
そういって彼女は手を伸ばす。何か変わったものでも入っているのかと思った。しかしその中身は、下着が何点か、コンドーム、財布、携帯電話。そして常備薬の他には、うがい薬と歯ブラシなどの口腔ケアのグッズが数点入っている。
「歯ブラシはわかりますけど、うがい薬まであるんですか?」
「まぁ、口の中を綺麗にしてから舐めるとこ舐めたいし。」
「ふーん。変なとこ潔癖なんですね。」
「女もするだろう?性病怖いし。」
「まぁ。性病なんかになったら食いっぱぐれますか。」
そういってうがい薬をしまい、彼女はそれを返した。
「こんなところに来て、ほんとに取材してるみたいですね。」
「取材してるんですよ。一応、記事にします。ウェブ上でね。」
「ばれないようにするのも大変だ。」
「筆が早いのだけは誉められます。」
誰に誉められるのか。そんなことはわかってる。旦那だ。小説家の旦那。シルエットでしかわからない年上の旦那。決して彼女を抱こうともしない旦那。性欲がないのだろうか。
「準備してきます。あなたはどうしますか。」
「あぁ。スタジオ見てきます。」
「撮影まで見るんですか?」
「かまわないっていってたから。邪魔ですか?」
「女が良ければいいですけど。」
本当なら見ないで欲しい。誰に見られてもいいが、彼女には見られたくなかった。
「楽しみ。他人のセックスって初めて見るから。」
「そんないいもんじゃないでしょ。」
彼はそういってTシャツを脱いだ。そこからは褐色の綺麗な肉体美がある。ガチガチに鍛えている証拠だ。どんな女でもこれを見れば頬を赤らめるのだろう。
だが彼女は違う。
「いい体してるんですね。楽しみー。」
そういって彼女は部屋を出ていった。まるでアトラクションに乗る前の子供のような足取りだった。
「くそっ!」
彼はそういってシャツをソファに投げた。
彼女にとって彼は旦那と比べても、まるで子供なのかもしれない。他の人にはそれでも良かった。だが彼女に他の女を抱くところを見られたくはない。
「何だ。これ。」
胸に手を当てる。鼓動が激しい。毎日の事なのに、柄にもなく緊張しているのかもしれない。
「桂さん。」
スタッフの呼ぶ声がする。
「はい。」
「写真撮るんで、着替えたら出てきてもらえます?」
「はい。わかりました。」
彼は用意されていた白いシャツに袖を通し、免許所を片手に外に出て行った。
ピンク色の部屋の中。女優はいわゆるロリータ系の女性で、胸が小さく、背も小さい。ツインテールの髪型にしていて、子供のようだと思った。
だが実際は二十九歳。
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