セックスの価値

神崎

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セックスしたい相手

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 嫌がる壁に彼女を押しつけて、ひざを折ると無理矢理キスをする。唇を割り、くちゅくちゅと音を立てる。その音を逃さないようにマイクが音を拾った。カメラの中心は彼女が中心だと思う。このDVDを見るのは男性が中心だから、桂はあくまで脇役に徹するのだ。
 がんがんに照らされたライトの下で、二人はセックスを演じる。血のつながりのない兄と妹を演じながら、嘘の愛を語っていた。
「もう耐えれない。真由。愛してる。」
「お兄ちゃん……。」
 潤ませた瞳。それは戸惑いの中に、嬉しさもあるのだろうか。そして優しい桂の瞳が近づいていき、彼女の唇を奪う。そしてふわんとしたシャツの中に手を入れた。
 どうやら彼女の方はキャリアが長いらしい。どう見ても下着からでた胸は小さくとも、その乳首の色がピンクとは言い難かったから。しかしその先をつまみ上げられると、抵抗していた手がゆるむ。
 それを見ていたのは、春川だった。邪魔にならないようにドアの側でじっとその行為を見ている。
 本当に愛しているように抱くんだな。桂という人は男性はもちろん女性にも人気があるらしい。AVの需要はほとんどが男性に限られる。
 しかし最近は女性も見るらしい。イケメンがでていることで、自慰のオカズにするのだ。
「……。」
 その様子に、一人の男が彼女に近づいた。
「気持ち悪くないですか?」
 茶色の髪を持った若い男だ。そして聞こえない程度の小声で彼女を気遣う言葉を聞いてくる。すると真顔で見ていた彼女はふっと笑い、彼をみた。
「大丈夫です。これも経験ですから。」
 頬を赤くさせて、その快感に耐えているようだった。スカートの中に手を入れられると、さらにカメラが近づいていく。
 自分では耐えれないな。
 彼女はそう思いながら、壁にもたれ掛かる。
「真由さん、ずっと桂さんに相手してほしいっていってたから、やっと願いが叶ったみたいですよ。」
「そうですか。そんな私情を持ち込めるんですね。」
「基本は持ち込めませんよ。でも女の子は特別。本気で惚れたら他の男優はイヤだとかいいかねないけど、一度は指名を聞いてあげないとやめるってすぐ言うから。」
 ぐちゃぐちゃと激しい水の音がする。激しく腕が動き、彼女は壁にもたれるように絶頂に達してしまったようだった。そのときあまり声を上げない。おそらく絶頂と言ってもそんなに深くイかなかったのだろう。
 服を脱ぎ捨てて、二人とも全裸になるとベッドに横になった。これからが本番だった。
「あら……。」
「どうしました?」
「ふふ。何でもないです。」
 本当に桂馬なのだと春川は思ったのだ。

「お疲れさまでしたー。」
 撮影の時は恍惚の表情でぐったりとしていた彼女も、ゆっくりと体を起こしてバスローブに身を包む。そして春川を見つけると、駆け寄ってきた。
「見てたの?」
「えぇ。最初から最後まで。」
「やーだ。無修正で最後までみれるなんてすごーい。」
「編集作業してたら見慣れるものですよ。でもさすがに生で見ることは今までありませんでしたけどね。」
「わぁ。記事になったら教えてね。ウェブのページ、今度教えて。」
「OK。わかりました。でも来たときに言ってたフェラのテク、マジでいいみたいですね。」
「あれ効くもん。」
 まるでマッサージのテクニックを言っているように、彼女はベッドでのテクニックを言葉で説明する。
「真由ちゃん。そろそろジャケット撮影するから。」
「はーい。また今度も来てね。」
「機会があれば。」
 そういって彼女は春川の頬にキスをして行ってしまった。少し苦笑いをして、春川は監督の方へ向かって行く。そして彼の前に立つと一礼した。
「本日はありがとうございました。」
 その様子に彼は笑いを浮かべる。
「なーに。改まって。撮影前とは別人だな。女の子にしては平気な顔で見てると思ったのに。」
「少しどきどきはしてましたよ。ノーマルで良かった。もしSMやスカトロなんて言われたら、さすがに引いたかもしれないし。」
「真由ちゃんは元々レズ女優だったからね。その趣味はないみたいだけど……。」
「開発すればいいんじゃないんですか。」
 そういって近づいてきたのは、桂だった。彼も白いバスローブに身を包んでいる。その隙間から見えるよく鍛えられた体に、春川は少し笑った。
「開発しちまったら、それじゃないと濡れなくなっちまうだろ?お前だってその趣味はねぇって言ってたじゃん。」
「やりますよ。仕事なら。」
「まぁな。お前のその姿勢は認めるよ。でも竜みたいに、真正のSってわけでもMってわけでもねぇんなら、見てるヤツはすぐに気が付くんだよ。」
 おそらく演技力に自信はあったのだろう。確かに演技をしているシーンは自然で、本当に兄妹かと思ったくらいだった。それが、彼の体と共に自信のある演技力というわけだ。
「んー。」
 すると春川は喉を押さえる。
「どうしたの?」
「ちょっと喉に違和感があって。」
「ほこりっぽいからね。この現場。明日ハウスクリーニングが入るけど。うがいでもしたら?」
「そうします。今日はありがとうございました。」
「いいえ。また来なよ。今度は出演してもいいし。」
「やーだ。私、不感症なんですよ。たぶん撮れ高無いから遠慮します。」
 手をひらひらと振って、彼女は部屋を出ていった。そして玄関で靴を履こうとしたときだった。
「春川さん。」
 声をかけられた。それはあの現場にいた茶髪の男。
「何?」
「今度、食事に行きませんか。」
「何で?」
「俺も、桂さんみたいな男優になりたいんですけど……。あなたそういうライターなんですよね。こつなんかがあれば……。」
「そういうの、桂さんに聞いた方がいいんじゃないんですか。私からは言えることはありませんよ。」
「でも……。」
 たぶん彼は違う。そんなことを聞きたいのではないのだと、鈍い彼女でもわかる。ため息を付いて、彼女は言う。
「ごめんなさいね。私、人妻でね。」
「人妻?」
 左手を見せる。そこには銀色のリングがあった。それを見て、彼は肩を落として行ってしまった。
 案外役に立つものだ。彼女はそう思いながら、リングを見ていた。そして今度こそ帰ろうとしたとき、また声をかけられる。
「春川さん。忘れ物。」
 そういって声をかけられたのは、桂だった。まだバスローブ姿のまま部屋から顔だけのぞかせて彼女を呼ぶ。
「何か忘れたっけ?」
 そういって彼女は手元のバッグの中身をチェックする。すると彼女の顔が青ざめた。
「あっ!ちょっと取りに行っていいですか?」
 そういって履きかけた靴をまた脱ぐと、彼女は桂の控え室へ向かう。
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