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出張ホスト
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今日も暑い日だった。そんなある日に、春川は今度の新作の打ち合わせのために、編集部に呼び出された。考えたプロットを前に置き、担当編集者の北川という女性とあぁでも無い、こうでもないと話をしているのだ。
「ベッドシーンがリアルな感じになったのってすごくいいんですよ。ネットの反応もそんなに悪いモノはないし。」
「一時的ですよ。」
「そんなに謙遜しないで。冬山祥吾だって最初は官能小説のようだって評価だったんですから。」
「冬山は最初から純文学でしたよ。デビュー作の「江河」からね。」
デビュー作から一気に人気作家だった冬山祥吾。当初はメディアの前に出ることもあったが、最近はインタビューの仕事は全くといってしなくなった。そしてあの家から出ることもない。たまに出るとしたら、夕方頃涼しくなったら涼みに縁側にやってくるくらいだろう。
「春川さん。だから、今回このプロットでいきたいんですけど。」
「……私、このプロットは提出したんですけど、あまり気に入ってないんですよね。尻切れになるかもしれないです。」
「いいじゃないですか。ホストと女子高生。」
「ホストクラブって行ったこと無いし。」
「じゃあ行きましょうよ。」
「旦那が許してくれるわけ無いでしょ?」
「なーに言ってるんですか。AVの現場なら見に行ったのに。」
「それは……リアルな描写を書きたかったから。それに……。」
桂のその仕事を見たかった。彼がどんなセックスをするのか見てみたかったのだ。思ったよりも生々しくて、いい表現が出来そうだった。
「何にやけてるんですか。」
「別にー?」
まるで女子高生の会話のように進めていく打ち合わせ。そして時計をみる。
「あーやばい。休憩時間過ぎてる。春川さん。ご飯行きましょうよ。社食だけど、ここ美味しいんですよ。」
「そうなんだ。外部の人が行っていいんですか?」
「いいですよ。どうせ多いし、わかりませんって。」
そういって彼女は春川を連れて、個室を出ていった。
大勢の人が集まる社食は、おそらく全てのフロアの人が集まっているのだろう。中には校了前で何日も寝ていない人もいる。
「今日の日替わりカレーですよ。運がいいですねぇ。」
「カレー美味しいんですか?」
「ウチのカレーはカレー屋さんになればいいのにっていうくらい美味しいですよ。」
チケットを買い配膳係に渡すと、手際よくトレーを手渡される。そしてあらかじめ用意されているサラダとスープを乗せると、大きめのさらに炊き立てのご飯とカレーを自分で好きなだけ注ぐ。
「明日香。」
向こう側に北川の同僚がいるのだろう。おそらく見たことはないので、別部署かもしれない。
「おー。もしかして席取ってくれた?」
「カレーだったら絶対明日香は外出ないよねって、百合と言ってた。」
なんだかまるで姉妹のような関係だ。それにファッションセンスなんかも似ている。分身の術でも使ったのだろうか。
「今担当している人?」
「えー。何て呼べばいい?」
「春川で。」
「春川って……あの?」
「違うって。私はあの春川先生じゃないの。本名。」
「マジで?あー春川先生なら、サインほしかったー。」
「でもさ、男か女かわかんないじゃん。」
「あんなにリアルに性描写書けるんだから、男だって。」
「あたし女だと思う。ジレジレが絶妙よねー。」
春川はこんな会話の方がインターネットのお世辞よりももっと嬉しかった。
笑いながら、彼女はそのカレー屋のカレーより美味しいというカレーを口にする。確かに美味しかった。辛すぎないのが好みだと思う。
「あ、明日香さぁ。あれ考えてくれた?」
「やーだーよ。だってそんなお金無いじゃん。」
「一度行っとくといいよ。ほら。超イケメン。」
そういって女性の一人が、彼女に携帯の画面を見せる。画面には格好を付けたイケメンが数人、写っていた。タイプは違うが、みんな男前ぞろいだと思う。
「春川さんはホストクラブ行かない?」
「私には旦那がいるから。」
「えー?若そうに見えるのに。いくつ?」
「二十五。」
「歳変わんないじゃん。でも旦那がいるって結婚早かったの?」
「早かったなぁ。十八の時結婚したし。」
「若すぎるわー。高校卒業してすぐじゃん。」
「でも七年たってるじゃん。春川さんもどう?一口。」
そういって彼女たちは画面を見せる。
「何?これ?」
「出張ホストって言うの。」
「出張?」
「そ、デートしてくれるの。そのあとのコースもあるけどさ。」
「高いんでしょ?」
「うん。でも最初はあまり高くないよ。ほら。この人超イケメン。」
画面を見ながら、彼女は少し考えを起こしていたように見える。北川は、その画面を見る春川のスプーンが全く進んでいないのを心配そうに見ていた。
「北川さん。出張ホスト、やってみません?」
エレベーターの中で、春川はそう北川に言う。すると彼女はやっぱりとため息を付いた。
「言うと思った。」
「私、側で見てるんで。」
「だったら、あなたも雇ってくださいよ。」
「見てるだけでいいっていう相手いるわけ……。」
いるわ。でも声をかけたくない。きっと彼は二つ返事で受けるだろう。だがそのあと。きっと何か見返りを求めてくるはずだ。
「それに私の彼氏がうんって言うわけがないです。仕事だっていってもいい顔をしないですよ。春川さんだって旦那さんがいい顔をしないからホストクラブ行かないんでしょう?」
「まぁ……そうですけど……でもいいネタになるんだと思うんですよねぇ。あー。どうしようかな。」
そういって携帯電話を取り出した。そしてそのサイトをみる。確かにイケメンぞろいだ。中にはAV男優なんかもいる。確かに桂を見ていると、ホスト並の気の使い方をしないとやっていけないのかもしれない。そういった意味ではこういう出張ホストみたいな事はあまり出ることのない男優にとっていい稼ぎになるのかもしれない。
かもしれない、かもしれないではリアルに欠ける。
「ちょっとやってみます。」
「春川さん?マジで言ってるんですか?旦那さんから怒られるんじゃ……。」
「怒られませんよ。彼は何があっても私があの家に戻ってくると信じてますから。」
「えー?ホストクラブは嫌がってたのに?」
「お酒を嫌がるんです。女性は簡単にお酒を飲むものじゃないと思ってるみたいで。」
「変な人。」
するとエレベーターが開いて、二人はフロアに降りていく。
「ベッドシーンがリアルな感じになったのってすごくいいんですよ。ネットの反応もそんなに悪いモノはないし。」
「一時的ですよ。」
「そんなに謙遜しないで。冬山祥吾だって最初は官能小説のようだって評価だったんですから。」
「冬山は最初から純文学でしたよ。デビュー作の「江河」からね。」
デビュー作から一気に人気作家だった冬山祥吾。当初はメディアの前に出ることもあったが、最近はインタビューの仕事は全くといってしなくなった。そしてあの家から出ることもない。たまに出るとしたら、夕方頃涼しくなったら涼みに縁側にやってくるくらいだろう。
「春川さん。だから、今回このプロットでいきたいんですけど。」
「……私、このプロットは提出したんですけど、あまり気に入ってないんですよね。尻切れになるかもしれないです。」
「いいじゃないですか。ホストと女子高生。」
「ホストクラブって行ったこと無いし。」
「じゃあ行きましょうよ。」
「旦那が許してくれるわけ無いでしょ?」
「なーに言ってるんですか。AVの現場なら見に行ったのに。」
「それは……リアルな描写を書きたかったから。それに……。」
桂のその仕事を見たかった。彼がどんなセックスをするのか見てみたかったのだ。思ったよりも生々しくて、いい表現が出来そうだった。
「何にやけてるんですか。」
「別にー?」
まるで女子高生の会話のように進めていく打ち合わせ。そして時計をみる。
「あーやばい。休憩時間過ぎてる。春川さん。ご飯行きましょうよ。社食だけど、ここ美味しいんですよ。」
「そうなんだ。外部の人が行っていいんですか?」
「いいですよ。どうせ多いし、わかりませんって。」
そういって彼女は春川を連れて、個室を出ていった。
大勢の人が集まる社食は、おそらく全てのフロアの人が集まっているのだろう。中には校了前で何日も寝ていない人もいる。
「今日の日替わりカレーですよ。運がいいですねぇ。」
「カレー美味しいんですか?」
「ウチのカレーはカレー屋さんになればいいのにっていうくらい美味しいですよ。」
チケットを買い配膳係に渡すと、手際よくトレーを手渡される。そしてあらかじめ用意されているサラダとスープを乗せると、大きめのさらに炊き立てのご飯とカレーを自分で好きなだけ注ぐ。
「明日香。」
向こう側に北川の同僚がいるのだろう。おそらく見たことはないので、別部署かもしれない。
「おー。もしかして席取ってくれた?」
「カレーだったら絶対明日香は外出ないよねって、百合と言ってた。」
なんだかまるで姉妹のような関係だ。それにファッションセンスなんかも似ている。分身の術でも使ったのだろうか。
「今担当している人?」
「えー。何て呼べばいい?」
「春川で。」
「春川って……あの?」
「違うって。私はあの春川先生じゃないの。本名。」
「マジで?あー春川先生なら、サインほしかったー。」
「でもさ、男か女かわかんないじゃん。」
「あんなにリアルに性描写書けるんだから、男だって。」
「あたし女だと思う。ジレジレが絶妙よねー。」
春川はこんな会話の方がインターネットのお世辞よりももっと嬉しかった。
笑いながら、彼女はそのカレー屋のカレーより美味しいというカレーを口にする。確かに美味しかった。辛すぎないのが好みだと思う。
「あ、明日香さぁ。あれ考えてくれた?」
「やーだーよ。だってそんなお金無いじゃん。」
「一度行っとくといいよ。ほら。超イケメン。」
そういって女性の一人が、彼女に携帯の画面を見せる。画面には格好を付けたイケメンが数人、写っていた。タイプは違うが、みんな男前ぞろいだと思う。
「春川さんはホストクラブ行かない?」
「私には旦那がいるから。」
「えー?若そうに見えるのに。いくつ?」
「二十五。」
「歳変わんないじゃん。でも旦那がいるって結婚早かったの?」
「早かったなぁ。十八の時結婚したし。」
「若すぎるわー。高校卒業してすぐじゃん。」
「でも七年たってるじゃん。春川さんもどう?一口。」
そういって彼女たちは画面を見せる。
「何?これ?」
「出張ホストって言うの。」
「出張?」
「そ、デートしてくれるの。そのあとのコースもあるけどさ。」
「高いんでしょ?」
「うん。でも最初はあまり高くないよ。ほら。この人超イケメン。」
画面を見ながら、彼女は少し考えを起こしていたように見える。北川は、その画面を見る春川のスプーンが全く進んでいないのを心配そうに見ていた。
「北川さん。出張ホスト、やってみません?」
エレベーターの中で、春川はそう北川に言う。すると彼女はやっぱりとため息を付いた。
「言うと思った。」
「私、側で見てるんで。」
「だったら、あなたも雇ってくださいよ。」
「見てるだけでいいっていう相手いるわけ……。」
いるわ。でも声をかけたくない。きっと彼は二つ返事で受けるだろう。だがそのあと。きっと何か見返りを求めてくるはずだ。
「それに私の彼氏がうんって言うわけがないです。仕事だっていってもいい顔をしないですよ。春川さんだって旦那さんがいい顔をしないからホストクラブ行かないんでしょう?」
「まぁ……そうですけど……でもいいネタになるんだと思うんですよねぇ。あー。どうしようかな。」
そういって携帯電話を取り出した。そしてそのサイトをみる。確かにイケメンぞろいだ。中にはAV男優なんかもいる。確かに桂を見ていると、ホスト並の気の使い方をしないとやっていけないのかもしれない。そういった意味ではこういう出張ホストみたいな事はあまり出ることのない男優にとっていい稼ぎになるのかもしれない。
かもしれない、かもしれないではリアルに欠ける。
「ちょっとやってみます。」
「春川さん?マジで言ってるんですか?旦那さんから怒られるんじゃ……。」
「怒られませんよ。彼は何があっても私があの家に戻ってくると信じてますから。」
「えー?ホストクラブは嫌がってたのに?」
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