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人体改造の男
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飲み会の場には、東の姿もあった。東は他の人のテンションとは全く違い、暗く沈んでいるように見える。それでもこの場にいるのは意地なのかもしれない。
だが春川は目の前のミルクリゾットを食べていて、そんな事は全く気にしていなかった。
「あ、すいません。俺ちょっとトイレ。」
隣に座っていた達哉が席を立った。達哉は何かしらと話しかけてくれるので、割と退屈はしない。いい場に来たと、彼女は飲み物をお代わりしようと飲み物のリストを見ていた。そのとき彼女の隣に東が座ってくる。
「今晩は。」
「どうも。あ、すいません。オレンジジュースもらえますか?氷なしで。」
店員にそういうと、彼はメモをして去っていった。
「飲まないんですね。」
「えぇ。強くないので。」
「酔った方が話せることもあるんじゃないんですか?」
「酔って話すことは嘘です。だからみんな次の日に忘れるんでしょう?」
「確かにね。」
東はそういって少し笑う。やっと笑顔がみれた。
「春川さんは、どうしてこんな仕事を?」
「……そうですね。文章をただ書きたかった。何でも良いからどんな文章でも良いから、人を動かすような文章をありのままに書きたかった。それだけの理由です。」
「……それって、別にこういう世界ではなくても良いってことですよね。」
「まぁ。そうですね。」
失礼になるかと思ったが、彼女は素直に頷いた。本当のことだったから。
「女性には厳しいところでしょう?」
「そうですね。ソープにも行ってみましたが、あんたが働いてみるかとか、ヤクザみたいな人に因縁を付けられたこともありましたか。」
「それでもするんだ。」
「えぇ。どんな職種でも、みんなプライドを持って仕事をしていると思ったので。」
「プライド?」
「えぇ。」
達哉が戻ってきたのがわかったが、話し込んでいる春川と東を見て彼はそっと別の席に座る。
「仕事に取り組む姿勢を書きたいんです。だから職種にはこだわりません。」
「……うちの父親にプライドがあるようには思えないけれど。」
「ありますよ。どうやったら観ている人が立つか、濡れるか、それをずっと考えてます。里香さんを色っぽく撮すために、とても苦労されてましたよ。だからドラマシーンの一言、表情一つ、ずっとこだわってました。」
「……男優次第でなんとでもならないの?」
「なりませんよ。一つの映画を撮るだけでも、女優、男優、だけで成り立ってませんから。」
すると彼女はため息を付く。そのとき店員が彼女のオレンジジュースを前に置いた。
「春川さんー。」
向こうで彼女を呼ぶ声が聞こえる。彼女は少し笑うと、席を立った。
「春川さんの夫婦ってレスなんだって?俺相手しようか?」
達哉はそういって彼女の肩に手を置いてきた。
「嫌ですよ。若すぎる。」
取りつく島もなく、春川は達哉の手を避ける。
「何?年上がいいの?俺、二十八だけど。」
「まだまだお子ちゃまじゃないですか。男は三十からですよ。」
その言葉に桂がこちらを見る。春川は頬を膨らませた。
「アレはでかいよ。試す?」
「でかけりゃ良いってもんじゃないでしょ?」
「お?だったら何?」
考えるふりをして桂を見る。彼もテーブルに肘をおいて、こちらを見ていた。気がついたようだ。
「相性かな。」
「そりゃ、確かめてみねぇとわかんないヤツじゃん。だーかーらぁ。」
「お断り。不感症相手にするの面倒でしょ?」
「何?不感症なの?」
その言葉に桂は少し笑っていた。どこが不感症なんだと。
この間、桂の腕の中で乱れまくっていたのに、不感症なんてよく言ったものだと感心した。
「二次会行く人ー?」
ワインバーを出て、二次会へ行く人、別でどこかへ行く人、もう帰る人と別れてしまった。
春川はバッグから携帯電話を取り出す。着信はない。おそらく女を呼んでいるのだろう。
彼女は少しため息を付いて、携帯電話をしまった。
「春川さん。二次会行かない?」
達哉はそう聞いてきたが、彼女は首を横に振る。
「いいえ。仕事が残ってるので、今日は失礼します。」
「そうなんだ。」
明らかにがっかりしたが、よく考えたら人妻だ。手を出しては行けないだろう。
「春川さん。」
今度は嵐から声をかけられた。
「どうしました?」
「あんた、今度の企画に加わらないか?」
「え?」
「あんたを呼んだの、その話もしようと思ったんだよ。」
「でも……。」
「あんた文才あるよ。発想力もな。だから今度の企画、女性向けのポルノ。アレの原案をあんたにしてもらいたいと思ってる。」
その言葉に彼女は少し黙った。そして彼を見上げる。
「酔ってます?」
「酔ってるね。でも考えはまとも。連絡して。」
彼は名刺をバッグから取り出す。そして彼女に渡した。裏に携帯の番号がかかれている。
「……。」
「待ってるから。」
肩に手をおいて、そのままはずされた。そして二次会へ行く人の群の中に入っていく。
その名刺をバッグにいれると、ため息を付いた。
「春川さん。」
今度は桂に声をかけられた。
「はい?」
「車ですか?」
「えぇ。」
「俺もバイクなんです。一緒に行きましょう。」
「そうですね。」
治安を考えると、桂が一緒に来てくれるのはありがたいだろう。
「桂さん。来ないの?」
「あぁ。あとは好きに楽しめよ。」
そういって二人はその群から離れていく。その後ろ姿を見ていて、達哉は首を傾げた。あの姿は、どこかで見た。どこでだったか。つい最近だった気がするが。
だが春川は目の前のミルクリゾットを食べていて、そんな事は全く気にしていなかった。
「あ、すいません。俺ちょっとトイレ。」
隣に座っていた達哉が席を立った。達哉は何かしらと話しかけてくれるので、割と退屈はしない。いい場に来たと、彼女は飲み物をお代わりしようと飲み物のリストを見ていた。そのとき彼女の隣に東が座ってくる。
「今晩は。」
「どうも。あ、すいません。オレンジジュースもらえますか?氷なしで。」
店員にそういうと、彼はメモをして去っていった。
「飲まないんですね。」
「えぇ。強くないので。」
「酔った方が話せることもあるんじゃないんですか?」
「酔って話すことは嘘です。だからみんな次の日に忘れるんでしょう?」
「確かにね。」
東はそういって少し笑う。やっと笑顔がみれた。
「春川さんは、どうしてこんな仕事を?」
「……そうですね。文章をただ書きたかった。何でも良いからどんな文章でも良いから、人を動かすような文章をありのままに書きたかった。それだけの理由です。」
「……それって、別にこういう世界ではなくても良いってことですよね。」
「まぁ。そうですね。」
失礼になるかと思ったが、彼女は素直に頷いた。本当のことだったから。
「女性には厳しいところでしょう?」
「そうですね。ソープにも行ってみましたが、あんたが働いてみるかとか、ヤクザみたいな人に因縁を付けられたこともありましたか。」
「それでもするんだ。」
「えぇ。どんな職種でも、みんなプライドを持って仕事をしていると思ったので。」
「プライド?」
「えぇ。」
達哉が戻ってきたのがわかったが、話し込んでいる春川と東を見て彼はそっと別の席に座る。
「仕事に取り組む姿勢を書きたいんです。だから職種にはこだわりません。」
「……うちの父親にプライドがあるようには思えないけれど。」
「ありますよ。どうやったら観ている人が立つか、濡れるか、それをずっと考えてます。里香さんを色っぽく撮すために、とても苦労されてましたよ。だからドラマシーンの一言、表情一つ、ずっとこだわってました。」
「……男優次第でなんとでもならないの?」
「なりませんよ。一つの映画を撮るだけでも、女優、男優、だけで成り立ってませんから。」
すると彼女はため息を付く。そのとき店員が彼女のオレンジジュースを前に置いた。
「春川さんー。」
向こうで彼女を呼ぶ声が聞こえる。彼女は少し笑うと、席を立った。
「春川さんの夫婦ってレスなんだって?俺相手しようか?」
達哉はそういって彼女の肩に手を置いてきた。
「嫌ですよ。若すぎる。」
取りつく島もなく、春川は達哉の手を避ける。
「何?年上がいいの?俺、二十八だけど。」
「まだまだお子ちゃまじゃないですか。男は三十からですよ。」
その言葉に桂がこちらを見る。春川は頬を膨らませた。
「アレはでかいよ。試す?」
「でかけりゃ良いってもんじゃないでしょ?」
「お?だったら何?」
考えるふりをして桂を見る。彼もテーブルに肘をおいて、こちらを見ていた。気がついたようだ。
「相性かな。」
「そりゃ、確かめてみねぇとわかんないヤツじゃん。だーかーらぁ。」
「お断り。不感症相手にするの面倒でしょ?」
「何?不感症なの?」
その言葉に桂は少し笑っていた。どこが不感症なんだと。
この間、桂の腕の中で乱れまくっていたのに、不感症なんてよく言ったものだと感心した。
「二次会行く人ー?」
ワインバーを出て、二次会へ行く人、別でどこかへ行く人、もう帰る人と別れてしまった。
春川はバッグから携帯電話を取り出す。着信はない。おそらく女を呼んでいるのだろう。
彼女は少しため息を付いて、携帯電話をしまった。
「春川さん。二次会行かない?」
達哉はそう聞いてきたが、彼女は首を横に振る。
「いいえ。仕事が残ってるので、今日は失礼します。」
「そうなんだ。」
明らかにがっかりしたが、よく考えたら人妻だ。手を出しては行けないだろう。
「春川さん。」
今度は嵐から声をかけられた。
「どうしました?」
「あんた、今度の企画に加わらないか?」
「え?」
「あんたを呼んだの、その話もしようと思ったんだよ。」
「でも……。」
「あんた文才あるよ。発想力もな。だから今度の企画、女性向けのポルノ。アレの原案をあんたにしてもらいたいと思ってる。」
その言葉に彼女は少し黙った。そして彼を見上げる。
「酔ってます?」
「酔ってるね。でも考えはまとも。連絡して。」
彼は名刺をバッグから取り出す。そして彼女に渡した。裏に携帯の番号がかかれている。
「……。」
「待ってるから。」
肩に手をおいて、そのままはずされた。そして二次会へ行く人の群の中に入っていく。
その名刺をバッグにいれると、ため息を付いた。
「春川さん。」
今度は桂に声をかけられた。
「はい?」
「車ですか?」
「えぇ。」
「俺もバイクなんです。一緒に行きましょう。」
「そうですね。」
治安を考えると、桂が一緒に来てくれるのはありがたいだろう。
「桂さん。来ないの?」
「あぁ。あとは好きに楽しめよ。」
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