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人体改造の男
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体を拭いて髪を乾かすと、春川は一度携帯電話をチェックした。仕事用の携帯に着信が一件入っている。
「……。」
携帯電話を開いてみると、相手は北川だった。迷わず彼女は電話をする。
「もしもし。」
「今、大丈夫ですか?」
「はい。何かありましたか。」
「ちょっと時間空いたんで、他の方から噂を聞いたんです。」
「何の噂ですか?」
「AVの脚本の話です。」
「……その話ですか。」
「一応、「薔薇」があなたの小説の初映像化ということになってるんです。でもその前に映像化されると、会社としては少しまずいことになるんです。」
「……書くのは、あくまでフリーライターの春川ですよ。そしてそれを知っている人はごく一部です。問題ないと思いますが。」
「しかしそれがばれた場合、会社は虚偽をしたことになります。受けるのは口を出しません。だけどせめて、「薔薇」の公開後に受けたらどうですか。」
携帯を閉じて、彼女はため息を付く。その様子に桂は、彼女を後ろから抱きしめた。
「仕事か?」
「えぇ。ちょっと面倒なことになったわ。」
「嵐さんは話がわからない人じゃない。また話してみたらどうだろうか。」
「でも忙しい。本当なら今日してしまいたい仕事があったのに。」
「俺より仕事がいいのか?」
その言葉に彼女は少し笑う。
「たまに子供っぽいことをいうわね。」
「たまにしか会えないからだろう。」
いつも会える訳じゃないし、いつでも連絡が付くわけじゃない。それに彼女はいつもふわふわとしている。興味のあるところへ風船のようにひかれていく。それが危険だとわかっていても行ってしまうのだ。それを止めたいと思っていたのに。
もしかしたら彼女の旦那はそれをわかっていて、彼女を止めないのだろうか。だから自分は他の女と遊んでいるのか。
「ルー。」
耳元で聞こえる声。すぐに体が熱くなるようだった。
「ここでする?」
そういって彼が視線を向けたのは、ソファだった。だが彼女は少し首を横に振る。
「狭いでしょう?」
「いいや。こういうところでする時もある。やってみるか?」
「すごく慣れてるみたいな言い方ね。」
「AV男優だからな。それも十年越えのな。ただ、汚れるかもしれない。やはりベッドへ行くか。」
彼はそういって彼女を抱き抱えて、ベッドルームへ向かおうとしたときだった。彼女の携帯電話が鳴った。今度はスマホの方だ。そこには祥吾の名前が見えた。
少し苦笑いをすると、彼女は床に下ろされた。
「出た方がいいだろう?」
「出れば帰らないといけないかもしれないわ。」
「……。」
「出ていいの?」
すると彼は彼女の腕をつかみ、それを止める。だが彼女の表情が曇り、彼の力が抜けた。だが、彼女は電話を取らない。
「……寝てることにする。時間が時間だから、きっと不自然に思わないわ。」
その言葉は何より嬉しい。旦那よりも自分を優先してくれたから。だが心のどこかで引っかかる。
「ルー。」
「いいの。朝、連絡するから。」
彼女もまた言い聞かせているようにも見える。彼のことが好きだという言葉だけが、旦那に対して彼女の意地にも見えた。
「ルー。電話出て。」
「……。」
「そっちの方が俺も安心するから。」
その声に、彼女は鳴り続けているその電話を手に取ると、通話ボタンを押した。
「もしもし。」
「やっと出たか。どうしてた?」
「ごめんなさい。やっと片づいたからお風呂に入ってました。」
「そうか。良いときに連絡をしたものだね。で、いつ帰る?」
「……今日は、ここにいます。仕事もしたいので。」
すると電話の向こうで、ライターの音がした。
「北川さんのところは今日が校了だ。他の部署も似たようなものだろう。原稿、原稿と騒ぎ立てる時期ではないのに、何の原稿が必要なのだろうかね。」
「……新しい仕事を申し込まれました。」
「ほう。どんな?」
「ライターの春川が、AVのシナリオを書いて欲しいと。」
その言葉に彼がせき込む音が聞こえた。それが意外な仕事だったのだろう。
「あんなに稚拙な演技しかできないのに、シナリオを?」
「えぇ。女性向けのポルノです。」
「……世の中変わったものだ。女性用のポルノとはね。女性が自慰をするためのものなのだろうか。」
「どうなのでしょうね。」
「私はその話は時期早々だと思う。せめて、「薔薇」が映像化されるまで待っておいた方がいいのではないのだろうか。」
「……祥吾さんは反対ですか?」
「あぁ。君はそういったものに興味がないと思っていたからね。」
「今度、その撮影現場を見に行きます。男性のものと、女性のものと、違いを……。」
「ねぇ。君。」
祥吾の声がいらついている。そんな風に聞こえた。
「誰かいるのかな。」
「誰か?」
「その現場に、君の気になる人がいるのか。それとも、今もそこにいるのか。」
その言葉に彼女の胸が高鳴った。
「なぜ、そう思われますか?」
「原稿を書いたり、プロットをたてるのだったら、うちでも出来ることだ。それをなぜそこでしないといけない理由がわからない。」
ちらりと桂をみる。桂はそれに気が付いて少し微笑んだ。
「一人になりたいときもあります。そして外の世界を見たいときもあります。」
「……外?」
「えぇ。どちらにしても、少し休みます。明日必要な資料はありますか。」
「あぁ。後でメッセージで送っておく。」
「お願いします。ではおやすみなさい。」
最初は彼のペースで言わせたいことを言わせた。だが結局彼女はここにいる。手のひらで踊らされているようで、実は踊らされているのは祥吾の方だ。
「ルー。」
桂は春川を抱きしめる。そして唇を重ねた。
「……。」
携帯電話を開いてみると、相手は北川だった。迷わず彼女は電話をする。
「もしもし。」
「今、大丈夫ですか?」
「はい。何かありましたか。」
「ちょっと時間空いたんで、他の方から噂を聞いたんです。」
「何の噂ですか?」
「AVの脚本の話です。」
「……その話ですか。」
「一応、「薔薇」があなたの小説の初映像化ということになってるんです。でもその前に映像化されると、会社としては少しまずいことになるんです。」
「……書くのは、あくまでフリーライターの春川ですよ。そしてそれを知っている人はごく一部です。問題ないと思いますが。」
「しかしそれがばれた場合、会社は虚偽をしたことになります。受けるのは口を出しません。だけどせめて、「薔薇」の公開後に受けたらどうですか。」
携帯を閉じて、彼女はため息を付く。その様子に桂は、彼女を後ろから抱きしめた。
「仕事か?」
「えぇ。ちょっと面倒なことになったわ。」
「嵐さんは話がわからない人じゃない。また話してみたらどうだろうか。」
「でも忙しい。本当なら今日してしまいたい仕事があったのに。」
「俺より仕事がいいのか?」
その言葉に彼女は少し笑う。
「たまに子供っぽいことをいうわね。」
「たまにしか会えないからだろう。」
いつも会える訳じゃないし、いつでも連絡が付くわけじゃない。それに彼女はいつもふわふわとしている。興味のあるところへ風船のようにひかれていく。それが危険だとわかっていても行ってしまうのだ。それを止めたいと思っていたのに。
もしかしたら彼女の旦那はそれをわかっていて、彼女を止めないのだろうか。だから自分は他の女と遊んでいるのか。
「ルー。」
耳元で聞こえる声。すぐに体が熱くなるようだった。
「ここでする?」
そういって彼が視線を向けたのは、ソファだった。だが彼女は少し首を横に振る。
「狭いでしょう?」
「いいや。こういうところでする時もある。やってみるか?」
「すごく慣れてるみたいな言い方ね。」
「AV男優だからな。それも十年越えのな。ただ、汚れるかもしれない。やはりベッドへ行くか。」
彼はそういって彼女を抱き抱えて、ベッドルームへ向かおうとしたときだった。彼女の携帯電話が鳴った。今度はスマホの方だ。そこには祥吾の名前が見えた。
少し苦笑いをすると、彼女は床に下ろされた。
「出た方がいいだろう?」
「出れば帰らないといけないかもしれないわ。」
「……。」
「出ていいの?」
すると彼は彼女の腕をつかみ、それを止める。だが彼女の表情が曇り、彼の力が抜けた。だが、彼女は電話を取らない。
「……寝てることにする。時間が時間だから、きっと不自然に思わないわ。」
その言葉は何より嬉しい。旦那よりも自分を優先してくれたから。だが心のどこかで引っかかる。
「ルー。」
「いいの。朝、連絡するから。」
彼女もまた言い聞かせているようにも見える。彼のことが好きだという言葉だけが、旦那に対して彼女の意地にも見えた。
「ルー。電話出て。」
「……。」
「そっちの方が俺も安心するから。」
その声に、彼女は鳴り続けているその電話を手に取ると、通話ボタンを押した。
「もしもし。」
「やっと出たか。どうしてた?」
「ごめんなさい。やっと片づいたからお風呂に入ってました。」
「そうか。良いときに連絡をしたものだね。で、いつ帰る?」
「……今日は、ここにいます。仕事もしたいので。」
すると電話の向こうで、ライターの音がした。
「北川さんのところは今日が校了だ。他の部署も似たようなものだろう。原稿、原稿と騒ぎ立てる時期ではないのに、何の原稿が必要なのだろうかね。」
「……新しい仕事を申し込まれました。」
「ほう。どんな?」
「ライターの春川が、AVのシナリオを書いて欲しいと。」
その言葉に彼がせき込む音が聞こえた。それが意外な仕事だったのだろう。
「あんなに稚拙な演技しかできないのに、シナリオを?」
「えぇ。女性向けのポルノです。」
「……世の中変わったものだ。女性用のポルノとはね。女性が自慰をするためのものなのだろうか。」
「どうなのでしょうね。」
「私はその話は時期早々だと思う。せめて、「薔薇」が映像化されるまで待っておいた方がいいのではないのだろうか。」
「……祥吾さんは反対ですか?」
「あぁ。君はそういったものに興味がないと思っていたからね。」
「今度、その撮影現場を見に行きます。男性のものと、女性のものと、違いを……。」
「ねぇ。君。」
祥吾の声がいらついている。そんな風に聞こえた。
「誰かいるのかな。」
「誰か?」
「その現場に、君の気になる人がいるのか。それとも、今もそこにいるのか。」
その言葉に彼女の胸が高鳴った。
「なぜ、そう思われますか?」
「原稿を書いたり、プロットをたてるのだったら、うちでも出来ることだ。それをなぜそこでしないといけない理由がわからない。」
ちらりと桂をみる。桂はそれに気が付いて少し微笑んだ。
「一人になりたいときもあります。そして外の世界を見たいときもあります。」
「……外?」
「えぇ。どちらにしても、少し休みます。明日必要な資料はありますか。」
「あぁ。後でメッセージで送っておく。」
「お願いします。ではおやすみなさい。」
最初は彼のペースで言わせたいことを言わせた。だが結局彼女はここにいる。手のひらで踊らされているようで、実は踊らされているのは祥吾の方だ。
「ルー。」
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