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もう一つの恋
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洋服を身につけて、春川は携帯電話を手にする。ため息を付いた。それは安堵のため息。桂もズボンだけを履いて、そちらをみる。相手はどうやら真由だったらしい。着信のあとにメッセージが書き込まれてあった。
「どうした?」
「忘れ物をしたみたいね。私のバッグの中に入っていないかって。」
そのバッグの中を探してみると、ジッポーのオイルライターが入っていた。あまりイメージではないが、アンティークのものでそういうものが好きなのかもしれない。
「届けたいけれど、会うことはあまりないわね。」
「届けても良いけど。」
「やめておくわ。あなたに言付けたら、どうして持っているのかって思われるし。」
「それもそうだな。」
桂はそういって、彼女の体を背中から抱きしめる。
「離したくないな。」
「そうね。私も離れたくない。」
「……でも……送るよ。」
「歩いてでも帰れるわ。」
「いいから。この外をお前に歩かせたくはない。」
彼はそういって彼女から離れるとシャツを身につけた。そしてジャケットを上から羽織る。昼間はシャツ一枚でも過ごせる日々になったが、夜は寒いのだ。
外に出ると、少し風が強かった。そのせいか少し寒い気がする。桂はサングラスをしていた。あまり目が強い方ではないらしい。
端から見ると、本当に完璧な人に見える。そういうとき彼女は少し引け目を感じるのだ。
二十五歳。おそらく普通の二十五歳は、もっとキラキラしている。雑誌に載っている洋服やバッグを身につけて、最新のネイルに余念がなく、おしゃれなカフェでおしゃべりを楽しんでいるのだ。
彼女はそんなことに興味はない。文章のために身を削る。そして旦那のために尽くすのが女の幸せだと思っていた。
だが愛される幸せを感じた。桂が彼女を抱き、愛しているという言葉を発する。それが何より嬉しかった。初めて女としての幸せを手にした気がする。だがそれは誰にも言えないことだった。彼女には旦那がいる。本来尽くすべき相手だ。
「ほら。」
彼はヘルメットを渡してきた。バイクで送ってくれるらしい。
「近くまででいいわ。」
「あぁ。そうだな。」
彼がバイクに乗ると、彼女もその後ろに乗り込んだ。彼の体をぎゅっと抱きしめるように腕を伸ばす。
「じゃあ、行くか。」
エンジンをかけて、バイクは駐車場をあとにした。
彼女の家は、大きな日本家屋だった。そこを通り過ぎて、少し離れたところでバイクを止める。
「連絡をするわ。」
春川はそういってヘルメットを外した。彼もヘルメットを外すと、誰も見ていないのを確認して、彼女の唇に軽くキスをする。
「またな。」
「えぇ。」
しばらくまた会えない。このまま奪ってやりたいとも思うが、彼女がそれを望んでいないだろうヘルメットをかぶると、彼はまたバイクを走らせた。
彼女がまだ見ている。そう思うとまた胸が張り裂けそうだ。
少し走っていくのを見送り、彼女は家へ向かった。そして門を開けて、ドアを開ける。しんと静まり返っている家の中。彼女は少しため息を付いて、靴を脱いだ。
「お帰り。」
ドキリとした。驚いてそちらを見ると、そこには祥吾の姿がある。彼はいつも通りに微笑んでいた。
「ただいま戻りました。すいません。遅くなってしまって。」
「いいんだ。君にもつきあいがあるだろうから。」
彼女はバッグの中から、煙草を一箱取り出す。
「これを。」
「ありがとう。どうだったかな。取材は。」
「……大変参考になりました。プロットをたてて、今度嵐さんに提出をします。」
「彼は難しい人だ。簡単にはうんとはいわないと思うよ。」
どうやら彼とは知り合いらしい。しかしいい知り合いだとは言い難いようだった。
「それに……。」
「ん?」
彼女は口元に手を当てて、少し考えているようだ。どうしたのだろう。
「いいえ。何でもありません。」
「いいから。何だい?」
「……感覚が少し違うようです。男性はあまり普通の男性と違うとは言い難かったのですが、女性は少し違う気がします。」
「例えば?」
「性に関してのことなのですが、やはりこう……奔放というか。」
「そうだね。しょせんはそういう女優だ。セックスもスポーツの一つとくらいしか考えていない人もいるだろう。小説もそうだと思う。真剣に取り組んでいる人は君のように取材に明け暮れるが、そうではない人もいる。だからそういう人は、やり玉に挙げられるんだ。」
「そうですね。」
彼女は少し笑い、部屋に戻ろうとした。
「春。お風呂に入りなさい。」
「……どうして?」
「煙草の臭いがする。他の銘柄の臭いだ。」
「おそらく、女性がほとんど喫煙者だったからでしょう。」
その言葉に彼は違和感を感じた。だが彼女は部屋に入っていく。もう聞けないようだ。
湯船に浸かりながら、春川はほんの一時間ほど前のことを思い出していた。コンドームを使わなかったが、外で出した。その精液はお腹の上で溜まり、流れ落ちそうになったのを桂が拭いてくれた。そして口づけをする。
外で出したとはいえ、子供が出来ない体じゃないのだ。
そういえば三年ほど前に祥吾との間に子供が出来ないのは、彼女が悪いのではないかと祥吾の親戚から検査をするように言われた。しかし彼女の方には何の落ち度もないらしい。
「……。」
ということは妊娠の可能性が無いわけではないのだ。生でしたいと願ったのは彼女の方だが、それに答えたおかげで重荷にならないで欲しいと思う。
それに今妊娠しては困るのだ。
彼女は湯船からあがり、体を拭く。そして部屋着を身につけると、部屋に足を進める。祥吾の部屋からはもう明かりが漏れていない。寝てしまったのだろう。彼女は少しほっとして、部屋に戻る。
電気をつけて、今日の取材をしたノートを取りだした。そして机の上の電気スタンドの電気をつけると、彼女はペンを走らせた。
「どうした?」
「忘れ物をしたみたいね。私のバッグの中に入っていないかって。」
そのバッグの中を探してみると、ジッポーのオイルライターが入っていた。あまりイメージではないが、アンティークのものでそういうものが好きなのかもしれない。
「届けたいけれど、会うことはあまりないわね。」
「届けても良いけど。」
「やめておくわ。あなたに言付けたら、どうして持っているのかって思われるし。」
「それもそうだな。」
桂はそういって、彼女の体を背中から抱きしめる。
「離したくないな。」
「そうね。私も離れたくない。」
「……でも……送るよ。」
「歩いてでも帰れるわ。」
「いいから。この外をお前に歩かせたくはない。」
彼はそういって彼女から離れるとシャツを身につけた。そしてジャケットを上から羽織る。昼間はシャツ一枚でも過ごせる日々になったが、夜は寒いのだ。
外に出ると、少し風が強かった。そのせいか少し寒い気がする。桂はサングラスをしていた。あまり目が強い方ではないらしい。
端から見ると、本当に完璧な人に見える。そういうとき彼女は少し引け目を感じるのだ。
二十五歳。おそらく普通の二十五歳は、もっとキラキラしている。雑誌に載っている洋服やバッグを身につけて、最新のネイルに余念がなく、おしゃれなカフェでおしゃべりを楽しんでいるのだ。
彼女はそんなことに興味はない。文章のために身を削る。そして旦那のために尽くすのが女の幸せだと思っていた。
だが愛される幸せを感じた。桂が彼女を抱き、愛しているという言葉を発する。それが何より嬉しかった。初めて女としての幸せを手にした気がする。だがそれは誰にも言えないことだった。彼女には旦那がいる。本来尽くすべき相手だ。
「ほら。」
彼はヘルメットを渡してきた。バイクで送ってくれるらしい。
「近くまででいいわ。」
「あぁ。そうだな。」
彼がバイクに乗ると、彼女もその後ろに乗り込んだ。彼の体をぎゅっと抱きしめるように腕を伸ばす。
「じゃあ、行くか。」
エンジンをかけて、バイクは駐車場をあとにした。
彼女の家は、大きな日本家屋だった。そこを通り過ぎて、少し離れたところでバイクを止める。
「連絡をするわ。」
春川はそういってヘルメットを外した。彼もヘルメットを外すと、誰も見ていないのを確認して、彼女の唇に軽くキスをする。
「またな。」
「えぇ。」
しばらくまた会えない。このまま奪ってやりたいとも思うが、彼女がそれを望んでいないだろうヘルメットをかぶると、彼はまたバイクを走らせた。
彼女がまだ見ている。そう思うとまた胸が張り裂けそうだ。
少し走っていくのを見送り、彼女は家へ向かった。そして門を開けて、ドアを開ける。しんと静まり返っている家の中。彼女は少しため息を付いて、靴を脱いだ。
「お帰り。」
ドキリとした。驚いてそちらを見ると、そこには祥吾の姿がある。彼はいつも通りに微笑んでいた。
「ただいま戻りました。すいません。遅くなってしまって。」
「いいんだ。君にもつきあいがあるだろうから。」
彼女はバッグの中から、煙草を一箱取り出す。
「これを。」
「ありがとう。どうだったかな。取材は。」
「……大変参考になりました。プロットをたてて、今度嵐さんに提出をします。」
「彼は難しい人だ。簡単にはうんとはいわないと思うよ。」
どうやら彼とは知り合いらしい。しかしいい知り合いだとは言い難いようだった。
「それに……。」
「ん?」
彼女は口元に手を当てて、少し考えているようだ。どうしたのだろう。
「いいえ。何でもありません。」
「いいから。何だい?」
「……感覚が少し違うようです。男性はあまり普通の男性と違うとは言い難かったのですが、女性は少し違う気がします。」
「例えば?」
「性に関してのことなのですが、やはりこう……奔放というか。」
「そうだね。しょせんはそういう女優だ。セックスもスポーツの一つとくらいしか考えていない人もいるだろう。小説もそうだと思う。真剣に取り組んでいる人は君のように取材に明け暮れるが、そうではない人もいる。だからそういう人は、やり玉に挙げられるんだ。」
「そうですね。」
彼女は少し笑い、部屋に戻ろうとした。
「春。お風呂に入りなさい。」
「……どうして?」
「煙草の臭いがする。他の銘柄の臭いだ。」
「おそらく、女性がほとんど喫煙者だったからでしょう。」
その言葉に彼は違和感を感じた。だが彼女は部屋に入っていく。もう聞けないようだ。
湯船に浸かりながら、春川はほんの一時間ほど前のことを思い出していた。コンドームを使わなかったが、外で出した。その精液はお腹の上で溜まり、流れ落ちそうになったのを桂が拭いてくれた。そして口づけをする。
外で出したとはいえ、子供が出来ない体じゃないのだ。
そういえば三年ほど前に祥吾との間に子供が出来ないのは、彼女が悪いのではないかと祥吾の親戚から検査をするように言われた。しかし彼女の方には何の落ち度もないらしい。
「……。」
ということは妊娠の可能性が無いわけではないのだ。生でしたいと願ったのは彼女の方だが、それに答えたおかげで重荷にならないで欲しいと思う。
それに今妊娠しては困るのだ。
彼女は湯船からあがり、体を拭く。そして部屋着を身につけると、部屋に足を進める。祥吾の部屋からはもう明かりが漏れていない。寝てしまったのだろう。彼女は少しほっとして、部屋に戻る。
電気をつけて、今日の取材をしたノートを取りだした。そして机の上の電気スタンドの電気をつけると、彼女はペンを走らせた。
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