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繋がり
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春川は家を出ても、仕事場に立ち寄るのは資料を取りに行ったり必要なモノがあるときだけに限られた。昼間はほとんど資料集めや編集者と会ういつもの毎日であまり変わりはないし、明るいのはいつも通りだ。
夕方、彼女はスーパーに立ち寄る。今日は桂が家に帰ってくるらしい。彼女が転がり込んだその次の日の夕方から、彼は外国へ撮影に行っているのだ。きっと疲れているだろう。
鰆の切り身を手にしたとき、ふと、向こうから買い物かごを持った男が近づいてくるのに気がついた。だが彼女はその人を無視するようにそのパックを買い物かごに入れて、再び野菜コーナーへ向かおうとした。
「つれねぇな。」
後ろから声をかけられる。それは西川充だった。
「何か用かしら?」
「用がねぇとお前に話しかけられないのか?」
「用事はないでしょう?」
買い物かごを見て、彼は少し笑う。
「お前、料理なんかするの?」
「一応主婦よ。子供はいなくてもね。」
「ふーん。そんな暇があるんだな。」
「その暇を作って、家事をしているのだから特に問題ないわ。」
「ってことは主婦をする時間がなきゃ、もう少し仕事を詰め込めるっていうことだろうな。筆は早いみたいだし。」
彼はもう知っているのだ。彼女が「読本」に短編小説を納品したことを。ゲラが刷り終わり、それを載せることは決定したこと。
「あんたの書いた十八禁じゃねぇ小説。」
「私が書いたんじゃないわ。春川さんが書いたんでしょ?」
「あくまで違うって言うのか。まぁいいけどよ。」
「……。」
「アレ、模倣したの冬山祥吾の方だろ?」
その言葉に彼女はムキになったように言う。
「先生が模倣なんてするわけない。」
「じゃあ、春川が模倣したのか?それはあり得ないだろ?」
「……何でそう思うの?」
「春川があの小説のプロットが提出されたとき、俺は冬山祥吾に会ってたからだ。あの宿に来てたのは、担当者っていう男だけ。助手のあんたは家で冬山祥吾があたかも家にいるように、演技をしていたからな。」
「……あなた、先生のところに?どうしてそんなところが……。」
「冬山祥吾のことを調べたら出てきただけだ。あいつは人嫌いだが、大学の時の繋がりはあるらしい。」
「……ライターの鏡ね。恐れ入ったわ。」
彼女は少しため息をつくと、その場を離れようとした。
「ちょっと待てよ。」
そういって充は彼女を呼び止める。
「生物があるの。早く帰りたいから。」
「だったら夜にでも詳しい話を聞かせてくれないか。」
「イヤよ。」
今日は桂が帰ってくる。こんな人に時間をとるなどイヤだ。
「イヤならコレを世間に公表する。」
そういって彼は携帯電話を彼女に見せる。
「……明……。」
「明奈だろ?でも本名は浅海夏。隣は誰だかしらねぇが、ヤクザだろ?」
筋肉質の体に、派手な入れ墨を入れた髭の男。それが彼女の男なのだろう。初めて見る顔だった。
「……それがどうしたの?その人は私の何かだと?確かに浅海っていう名字かもしれない。でも……。」
「姉だろ?明奈が証言した。浅海春は妹だってな。」
きっと薬漬けになっている姉のことだ。きっと金を積まれて証言したのだ。もう誤魔化せない。彼女はため息をつくと、携帯電話の時計をみる。
「旦那が帰ってくるまで話を伺うわ。」
仕事場のドアを開ける。そして暖房をつけた。
「生活感のねぇ部屋だな。」
後ろからついてきた充はそういって回りを見渡した。
「文句があるなら帰って。」
今日の夕食にしようと思った材料を、冷蔵庫に入れる。コレはあとからまた桂の部屋に移し替える。そう思いながら、冷蔵庫に材料を入れた。
「コーヒーでも飲む?」
「淹れてくれんのか?」
「私も飲みたいだけよ。ついで。」
やかんに火をかけて、カップを二つ取り出した。そしてインスタントのコーヒーを淹れた。
「インスタントだけど。」
「沸かしてくれねぇんだ。」
「どうせすぐ帰るでしょ?」
本当にすぐ帰ってくれると思っているのだろうか。若い男女が密室に二人っきり。そのシチュエーションに彼女は何も思っていないのかもしれない。イヤ、それとも無防備なだけか。
ダイニングテーブルに向かい合って座り、彼女はコーヒーに口を付けた。赤い唇。色気がないから、どうしても若さを感じないがよく見れば美人だ。
「何が聞きたいの?姉からあらかたのことは聞いているでしょう?」
「聞きてぇのは、あの夜のことだ。」
「夜?」
「お前の両親が死んだときのことだ。どうしてあんた寝てたんだ。」
「……まるで警官ね。風俗ライターなんて辞めて、警察官になれば?」
「誤魔化すな。」
正直思い出したくなかった。だからいらないことを言って誤魔化そうと思ったのに。
「あの日……。私は初潮を迎えたの。」
「十四だっけ?」
「えぇ。」
「ずいぶん遅かったんだな。」
「人それぞれでしょ?それに……来なければ良かったと本気で思っていたし。」
義理の父は若い女が好きだった。だから母も随分歳の差があったように思える。だが母はだんだん老いていく。そこで目を付けたのは、母の連れ子であった夏と春だった。
まずは夏に手をつけた。夏が十四歳の頃。同級生とのセックスで、妊娠したことを知り、「あいつは性欲が強いから、自分が相手してやる」といういいわけをつけて、夏を何度も何度も組み敷いたのを春は覚えている。
「泣き叫んでいた。私たちがあの人の父親になるって母親が言ったからそのように接していたのに、いきなり男になったの。」
「……あんたも?」
「事件の時は、私は十四歳。それまでセックスもしたことないし、キスすらしたこと無かった。被害者は姉だけ。でも私はそれをしているのに気がついていて、見て見ぬ振りをしたわ。」
「当然だろ?そんなロリコン親父だったら、初潮を迎えてなくてもあんたに突っ込んでたかもしれない。」
「でも姉は……きっと私が裏切ったと思ってると思う。だから彼女の前には出たくなかった。だけどどんな生活をしているのか、どんな目に遭っているのか。気になったのよ。」
充はぬるくなったコーヒーに口を付けると、ため息をついた。
「だから風俗ライターか。確かに大学も学費の滞納と出席日数の不足で除名処分になっているし、そんな女がまともに働けるわけねぇよな。だったら風俗か、AVかって話になる。」
「……私が施設に入って、何年後かに姉のことを聞いたわ。ある小説家に囲われているって。」
「小説家?そいつのことは知っているか?」
「知らない。でも……。そのあとその小説家のところを出て、ヤクザに入れ込んだって言う話ね。それからAVの世界に入ったって。ソープの方がまだましかもしれなかったのに。」
「何で出たかとか知ってるか?」
「さぁ。お金が欲しかったのかしら。」
何も知らないのだ。その囲われていたのは遠藤守だと言うことも。遠藤守が自殺して、それを目撃したのが冬山祥吾と牧原絹恵だと言うことも。
「……ところで、あなた何でそんなに傷だらけなの?」
ちらりと上目遣いで、春川は充をみる。充の傷は晴れはだいぶ収まってきたが、傷はさすがにまだ直らない。
「さぁな。何でか俺は夜歩くと、変なヤツに声をかけられることが多い。」
「物騒なことね。」
感情は入っていない。本気では思っていないのだろう。
「心配してくれてんのか。」
「しないわ。でも変なことに巻き込まれないことを願うわ。」
「俺が?」
「私がよ。何であなたの心配をしないといけないの?こうやって仕事場に……。」
「仕事場?ここは家だろ?」
「……家ね。」
「待てよ。お前、ここ仕事場か?だったら別に家があるってことだろ?」
「家よ。」
「だったら旦那のパンツ一枚出てきてもいいんじゃねぇのか。生活臭が全くしねぇんだよ。この家。」
「……そういうこともあるでしょ?私も旦那もあまり家にいない生活をしていいるのよ。二人がそろうことが少ないから。」
彼女はそういって飲み終わったコーヒーのカップを手にすると、席を立つ。
「食事の用意をしたいわ。もうさっさと帰ってくれる?」
キッチンへ向かい、カップを洗おうと水道を出す。そのとき、腰のあたりに何かの感触を感じた。それは背中に、全体的に温かみを感じた。
「春。」
耳元で聞こえる低い声。それに彼女は違和感と嫌悪感を感じていた。
夕方、彼女はスーパーに立ち寄る。今日は桂が家に帰ってくるらしい。彼女が転がり込んだその次の日の夕方から、彼は外国へ撮影に行っているのだ。きっと疲れているだろう。
鰆の切り身を手にしたとき、ふと、向こうから買い物かごを持った男が近づいてくるのに気がついた。だが彼女はその人を無視するようにそのパックを買い物かごに入れて、再び野菜コーナーへ向かおうとした。
「つれねぇな。」
後ろから声をかけられる。それは西川充だった。
「何か用かしら?」
「用がねぇとお前に話しかけられないのか?」
「用事はないでしょう?」
買い物かごを見て、彼は少し笑う。
「お前、料理なんかするの?」
「一応主婦よ。子供はいなくてもね。」
「ふーん。そんな暇があるんだな。」
「その暇を作って、家事をしているのだから特に問題ないわ。」
「ってことは主婦をする時間がなきゃ、もう少し仕事を詰め込めるっていうことだろうな。筆は早いみたいだし。」
彼はもう知っているのだ。彼女が「読本」に短編小説を納品したことを。ゲラが刷り終わり、それを載せることは決定したこと。
「あんたの書いた十八禁じゃねぇ小説。」
「私が書いたんじゃないわ。春川さんが書いたんでしょ?」
「あくまで違うって言うのか。まぁいいけどよ。」
「……。」
「アレ、模倣したの冬山祥吾の方だろ?」
その言葉に彼女はムキになったように言う。
「先生が模倣なんてするわけない。」
「じゃあ、春川が模倣したのか?それはあり得ないだろ?」
「……何でそう思うの?」
「春川があの小説のプロットが提出されたとき、俺は冬山祥吾に会ってたからだ。あの宿に来てたのは、担当者っていう男だけ。助手のあんたは家で冬山祥吾があたかも家にいるように、演技をしていたからな。」
「……あなた、先生のところに?どうしてそんなところが……。」
「冬山祥吾のことを調べたら出てきただけだ。あいつは人嫌いだが、大学の時の繋がりはあるらしい。」
「……ライターの鏡ね。恐れ入ったわ。」
彼女は少しため息をつくと、その場を離れようとした。
「ちょっと待てよ。」
そういって充は彼女を呼び止める。
「生物があるの。早く帰りたいから。」
「だったら夜にでも詳しい話を聞かせてくれないか。」
「イヤよ。」
今日は桂が帰ってくる。こんな人に時間をとるなどイヤだ。
「イヤならコレを世間に公表する。」
そういって彼は携帯電話を彼女に見せる。
「……明……。」
「明奈だろ?でも本名は浅海夏。隣は誰だかしらねぇが、ヤクザだろ?」
筋肉質の体に、派手な入れ墨を入れた髭の男。それが彼女の男なのだろう。初めて見る顔だった。
「……それがどうしたの?その人は私の何かだと?確かに浅海っていう名字かもしれない。でも……。」
「姉だろ?明奈が証言した。浅海春は妹だってな。」
きっと薬漬けになっている姉のことだ。きっと金を積まれて証言したのだ。もう誤魔化せない。彼女はため息をつくと、携帯電話の時計をみる。
「旦那が帰ってくるまで話を伺うわ。」
仕事場のドアを開ける。そして暖房をつけた。
「生活感のねぇ部屋だな。」
後ろからついてきた充はそういって回りを見渡した。
「文句があるなら帰って。」
今日の夕食にしようと思った材料を、冷蔵庫に入れる。コレはあとからまた桂の部屋に移し替える。そう思いながら、冷蔵庫に材料を入れた。
「コーヒーでも飲む?」
「淹れてくれんのか?」
「私も飲みたいだけよ。ついで。」
やかんに火をかけて、カップを二つ取り出した。そしてインスタントのコーヒーを淹れた。
「インスタントだけど。」
「沸かしてくれねぇんだ。」
「どうせすぐ帰るでしょ?」
本当にすぐ帰ってくれると思っているのだろうか。若い男女が密室に二人っきり。そのシチュエーションに彼女は何も思っていないのかもしれない。イヤ、それとも無防備なだけか。
ダイニングテーブルに向かい合って座り、彼女はコーヒーに口を付けた。赤い唇。色気がないから、どうしても若さを感じないがよく見れば美人だ。
「何が聞きたいの?姉からあらかたのことは聞いているでしょう?」
「聞きてぇのは、あの夜のことだ。」
「夜?」
「お前の両親が死んだときのことだ。どうしてあんた寝てたんだ。」
「……まるで警官ね。風俗ライターなんて辞めて、警察官になれば?」
「誤魔化すな。」
正直思い出したくなかった。だからいらないことを言って誤魔化そうと思ったのに。
「あの日……。私は初潮を迎えたの。」
「十四だっけ?」
「えぇ。」
「ずいぶん遅かったんだな。」
「人それぞれでしょ?それに……来なければ良かったと本気で思っていたし。」
義理の父は若い女が好きだった。だから母も随分歳の差があったように思える。だが母はだんだん老いていく。そこで目を付けたのは、母の連れ子であった夏と春だった。
まずは夏に手をつけた。夏が十四歳の頃。同級生とのセックスで、妊娠したことを知り、「あいつは性欲が強いから、自分が相手してやる」といういいわけをつけて、夏を何度も何度も組み敷いたのを春は覚えている。
「泣き叫んでいた。私たちがあの人の父親になるって母親が言ったからそのように接していたのに、いきなり男になったの。」
「……あんたも?」
「事件の時は、私は十四歳。それまでセックスもしたことないし、キスすらしたこと無かった。被害者は姉だけ。でも私はそれをしているのに気がついていて、見て見ぬ振りをしたわ。」
「当然だろ?そんなロリコン親父だったら、初潮を迎えてなくてもあんたに突っ込んでたかもしれない。」
「でも姉は……きっと私が裏切ったと思ってると思う。だから彼女の前には出たくなかった。だけどどんな生活をしているのか、どんな目に遭っているのか。気になったのよ。」
充はぬるくなったコーヒーに口を付けると、ため息をついた。
「だから風俗ライターか。確かに大学も学費の滞納と出席日数の不足で除名処分になっているし、そんな女がまともに働けるわけねぇよな。だったら風俗か、AVかって話になる。」
「……私が施設に入って、何年後かに姉のことを聞いたわ。ある小説家に囲われているって。」
「小説家?そいつのことは知っているか?」
「知らない。でも……。そのあとその小説家のところを出て、ヤクザに入れ込んだって言う話ね。それからAVの世界に入ったって。ソープの方がまだましかもしれなかったのに。」
「何で出たかとか知ってるか?」
「さぁ。お金が欲しかったのかしら。」
何も知らないのだ。その囲われていたのは遠藤守だと言うことも。遠藤守が自殺して、それを目撃したのが冬山祥吾と牧原絹恵だと言うことも。
「……ところで、あなた何でそんなに傷だらけなの?」
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「さぁな。何でか俺は夜歩くと、変なヤツに声をかけられることが多い。」
「物騒なことね。」
感情は入っていない。本気では思っていないのだろう。
「心配してくれてんのか。」
「しないわ。でも変なことに巻き込まれないことを願うわ。」
「俺が?」
「私がよ。何であなたの心配をしないといけないの?こうやって仕事場に……。」
「仕事場?ここは家だろ?」
「……家ね。」
「待てよ。お前、ここ仕事場か?だったら別に家があるってことだろ?」
「家よ。」
「だったら旦那のパンツ一枚出てきてもいいんじゃねぇのか。生活臭が全くしねぇんだよ。この家。」
「……そういうこともあるでしょ?私も旦那もあまり家にいない生活をしていいるのよ。二人がそろうことが少ないから。」
彼女はそういって飲み終わったコーヒーのカップを手にすると、席を立つ。
「食事の用意をしたいわ。もうさっさと帰ってくれる?」
キッチンへ向かい、カップを洗おうと水道を出す。そのとき、腰のあたりに何かの感触を感じた。それは背中に、全体的に温かみを感じた。
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