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広い和風建築の家にぽつんと明かりが灯っている。明かりがついているのは部屋は祥吾の部屋だけだった。彼は着流しの和服と半纏を着て、携帯電話で話をしていた。
「……そうか。春川はそんな話を。」
相手は元の担当である有川里沙だった。彼女は助手である春川が来たときと同じように、彼の小説に心酔する一人のはずだった。だが春川と違うのは、彼女が担当になりモノの数回で彼に体を求めてきたこと。それは彼に近づいてきたほかの女性担当と一緒だった。
「先生。そんな話では取り下げはできません。今まで春川のイメージとも違うし、先生の話ともイメージが違います。このままじゃ、先生の枠に春川が……。」
「困ったものだ。」
口ではそういうが、本当に困ってはいないのかもしれない。煙草を一本取りだし、それを口にくわえると火をつける。
「今回は花を持たせてやろう。だが読むのは読者だ。ヤツにそんなに心をつかむような話がかけるとは思えない。」
「でも編集部はとてもみんな気に入っていて、編集長なんか……。」
「それはそれでかまわない。編集部が気に入っても読者が気に入るとは限らないだろう。それとも、そのみんなの中に君も入っているのかな。」
「そんなこと!」
「嘘だよ。君は一番の読者だ。これからも頼むよ。」
すると彼女はほっとした声で彼にいう。
「先生。担当は外れましたけど、これからも先生のところに通っても宜しいですか。」
彼は少し笑い、煙を吐き出す。
「もちろんだ。秋野のいないときに。」
「わかりました。では、失礼します。」
「あぁ。有川君。」
「はい。」
「愛しているよ。」
「私も……ずっと愛しています。」
そういって電話を切る。すると彼の部屋のドアが開いた。そこには一人の女性がいる。薄い長襦袢を身につけた牧原絹恵だった。
「本当に息を吐くように嘘をつく方。」
髪を下ろし、顔は湯上がりのように上気している。それだけで今から何をするのか想像は容易い。
「嘘なモノかね。彼女も私が愛している一人だ。」
「博愛ですこと。」
彼女もバッグからポーチを取り出す。そこから細長い煙草を取り出した。
「フフ。あなたが私を求めるときは、何か頼みごとがあるときでしょう?」
「よくわかったね。」
煙草の灰を落とし、彼は少し笑う。
「浅海夏の時も、そうでしたわね。」
「あぁ。そうだった。しかしアレは互いの利害が一致している。そう思わないかな。君は、浅海夏を遠藤から引き離したかった。私は遠藤を殺したかった。」
「殺したい憎かったわけではありませんわ。だからあなたに絶縁のような演技をしたのですけどね。」
「実際、君は私から離れられんよ。あのときからね。」
大学の時二人は恋人同士だった。美男美女のカップルであるが、手もつなぐことはないと噂をされていた。
だが実際は絹恵は祥吾と離れられない関係になっていた。それほど彼との体の相性が合っていたのかもしれない。それは祥吾も同じだった。彼女ほどの快感を得られた人はいない。イヤ、いる。一瞬絹恵を忘れかけた女。それが春川だった。
だが彼女を切る。彼女もまたほかの女と同じなのだから。
「それで、何が望みですの?あのうるさいライターをやっぱり潰して欲しいってことなのかしら。」
「あいつはもう潰れるよ。用無しだ。」
そういって彼はテーブルの上に置いてあるメモリースティックに視線を送る。コレも有川が青木のデスクからコピーしたモノだった。
「だったら何かしら。」
「秋野というライターがいるね。」
「えぇ。よく牧原の現場に見えていますわ。女性でありながら風俗ライターとか。私も気になってましたのよ。誰かさんに似ていると思ってね。」
彼女は気がついている。春川の姉が、夏であること。地団太を踏みながら、夏に嫉妬していたのだから当然だろう。
「あの子を潰して欲しい。」
「女性を潰すっていうこと?浅海夏さんと同じような仕打ちでいいのかしら。」
「どう潰してもかまわない。彼女を潰せば、君にも利益があると思うのだけどね。」
「あぁ。あの子は、桂というAV男優と出来てますのよ。フフ。お手並み拝見したいとは思っていたわ。」
おかしそうに彼女が笑うのを見ながら、祥吾の心の中はどろどろと醜い感情が生まれていた。やはりそうだった。彼女の男は桂だったのだ。
絹恵がいうのだったら真実だろう。煙草を消して、彼はふっとため息をつく。少しでも嘘がなければ良かった。彼女に弁解の余地を与えようと思っていた。だがもう慈悲もかけられない。
「絹恵。こっちへ来て。」
彼女は煙草を消すと、彼のベッドに腰掛ける。そして彼はそのまま彼女の頬に手を当て、彼女のその薄い唇にキスをした。
体の相性というのは少なからずある。心が通じてなくても、深い絶頂に誘われることもあるのだから。実際、絹恵の肌はまだ二十代といってもいいくらいの張りがあり、生娘のような反応をするのだ。
襦袢を脱がせ、肌襦袢をさらに脱がせると昔と変わらない体がある。おそらくエステやマッサージ、ジムだと衰えを隠しているのだろう。
それは同年代の祥吾にも言えることだ。祥吾は昔から痩せ気味ではあったが、肉は確かに落ちている。しかしそこは相変わらず勢いがあり、だから二十代の女性と関係を続けられるのだろう。
だが祥吾にとってその行為はうんざりするような行為であり、体反応してそれなりに気持ちいいと思えるが、反面どこか醒めた目で自分を見ていた。
自分の上であえぐ女の口に生ゴミを積めてやりたい。不必要な臭いも消臭剤をかけ、髪も短く切ってやりたい。
その臭いのしないのが春川だった。
髪は短く切っていたのはうっとうしいから。いらないおしゃべりをしているなら、小説を書きたい。セックスはしてもしなくてもいいけれど、出来ればしたくない。
そう言っていたのに、彼女はいつの間にか変わった。
忙しさにかまけて伸びた髪。外に出て下らないおしゃべりにつきあい、自分以外の男とセックスをして喘いでいる。
それが許せなかった。
桂という男はきっとセックスの技術がいいだけだ。演技だといっていたが、演技で男は立たない。男は案外繊細で、傷つきやすいのだから。男としての第一線にいるということは、彼もそういう男なのだ。
桂に転んだ、春川を許せない。悪く思うな。祥吾はそう思いながら、喘ぐ絹恵の中に自分自身を入れ込み、放出させた。
「……そうか。春川はそんな話を。」
相手は元の担当である有川里沙だった。彼女は助手である春川が来たときと同じように、彼の小説に心酔する一人のはずだった。だが春川と違うのは、彼女が担当になりモノの数回で彼に体を求めてきたこと。それは彼に近づいてきたほかの女性担当と一緒だった。
「先生。そんな話では取り下げはできません。今まで春川のイメージとも違うし、先生の話ともイメージが違います。このままじゃ、先生の枠に春川が……。」
「困ったものだ。」
口ではそういうが、本当に困ってはいないのかもしれない。煙草を一本取りだし、それを口にくわえると火をつける。
「今回は花を持たせてやろう。だが読むのは読者だ。ヤツにそんなに心をつかむような話がかけるとは思えない。」
「でも編集部はとてもみんな気に入っていて、編集長なんか……。」
「それはそれでかまわない。編集部が気に入っても読者が気に入るとは限らないだろう。それとも、そのみんなの中に君も入っているのかな。」
「そんなこと!」
「嘘だよ。君は一番の読者だ。これからも頼むよ。」
すると彼女はほっとした声で彼にいう。
「先生。担当は外れましたけど、これからも先生のところに通っても宜しいですか。」
彼は少し笑い、煙を吐き出す。
「もちろんだ。秋野のいないときに。」
「わかりました。では、失礼します。」
「あぁ。有川君。」
「はい。」
「愛しているよ。」
「私も……ずっと愛しています。」
そういって電話を切る。すると彼の部屋のドアが開いた。そこには一人の女性がいる。薄い長襦袢を身につけた牧原絹恵だった。
「本当に息を吐くように嘘をつく方。」
髪を下ろし、顔は湯上がりのように上気している。それだけで今から何をするのか想像は容易い。
「嘘なモノかね。彼女も私が愛している一人だ。」
「博愛ですこと。」
彼女もバッグからポーチを取り出す。そこから細長い煙草を取り出した。
「フフ。あなたが私を求めるときは、何か頼みごとがあるときでしょう?」
「よくわかったね。」
煙草の灰を落とし、彼は少し笑う。
「浅海夏の時も、そうでしたわね。」
「あぁ。そうだった。しかしアレは互いの利害が一致している。そう思わないかな。君は、浅海夏を遠藤から引き離したかった。私は遠藤を殺したかった。」
「殺したい憎かったわけではありませんわ。だからあなたに絶縁のような演技をしたのですけどね。」
「実際、君は私から離れられんよ。あのときからね。」
大学の時二人は恋人同士だった。美男美女のカップルであるが、手もつなぐことはないと噂をされていた。
だが実際は絹恵は祥吾と離れられない関係になっていた。それほど彼との体の相性が合っていたのかもしれない。それは祥吾も同じだった。彼女ほどの快感を得られた人はいない。イヤ、いる。一瞬絹恵を忘れかけた女。それが春川だった。
だが彼女を切る。彼女もまたほかの女と同じなのだから。
「それで、何が望みですの?あのうるさいライターをやっぱり潰して欲しいってことなのかしら。」
「あいつはもう潰れるよ。用無しだ。」
そういって彼はテーブルの上に置いてあるメモリースティックに視線を送る。コレも有川が青木のデスクからコピーしたモノだった。
「だったら何かしら。」
「秋野というライターがいるね。」
「えぇ。よく牧原の現場に見えていますわ。女性でありながら風俗ライターとか。私も気になってましたのよ。誰かさんに似ていると思ってね。」
彼女は気がついている。春川の姉が、夏であること。地団太を踏みながら、夏に嫉妬していたのだから当然だろう。
「あの子を潰して欲しい。」
「女性を潰すっていうこと?浅海夏さんと同じような仕打ちでいいのかしら。」
「どう潰してもかまわない。彼女を潰せば、君にも利益があると思うのだけどね。」
「あぁ。あの子は、桂というAV男優と出来てますのよ。フフ。お手並み拝見したいとは思っていたわ。」
おかしそうに彼女が笑うのを見ながら、祥吾の心の中はどろどろと醜い感情が生まれていた。やはりそうだった。彼女の男は桂だったのだ。
絹恵がいうのだったら真実だろう。煙草を消して、彼はふっとため息をつく。少しでも嘘がなければ良かった。彼女に弁解の余地を与えようと思っていた。だがもう慈悲もかけられない。
「絹恵。こっちへ来て。」
彼女は煙草を消すと、彼のベッドに腰掛ける。そして彼はそのまま彼女の頬に手を当て、彼女のその薄い唇にキスをした。
体の相性というのは少なからずある。心が通じてなくても、深い絶頂に誘われることもあるのだから。実際、絹恵の肌はまだ二十代といってもいいくらいの張りがあり、生娘のような反応をするのだ。
襦袢を脱がせ、肌襦袢をさらに脱がせると昔と変わらない体がある。おそらくエステやマッサージ、ジムだと衰えを隠しているのだろう。
それは同年代の祥吾にも言えることだ。祥吾は昔から痩せ気味ではあったが、肉は確かに落ちている。しかしそこは相変わらず勢いがあり、だから二十代の女性と関係を続けられるのだろう。
だが祥吾にとってその行為はうんざりするような行為であり、体反応してそれなりに気持ちいいと思えるが、反面どこか醒めた目で自分を見ていた。
自分の上であえぐ女の口に生ゴミを積めてやりたい。不必要な臭いも消臭剤をかけ、髪も短く切ってやりたい。
その臭いのしないのが春川だった。
髪は短く切っていたのはうっとうしいから。いらないおしゃべりをしているなら、小説を書きたい。セックスはしてもしなくてもいいけれど、出来ればしたくない。
そう言っていたのに、彼女はいつの間にか変わった。
忙しさにかまけて伸びた髪。外に出て下らないおしゃべりにつきあい、自分以外の男とセックスをして喘いでいる。
それが許せなかった。
桂という男はきっとセックスの技術がいいだけだ。演技だといっていたが、演技で男は立たない。男は案外繊細で、傷つきやすいのだから。男としての第一線にいるということは、彼もそういう男なのだ。
桂に転んだ、春川を許せない。悪く思うな。祥吾はそう思いながら、喘ぐ絹恵の中に自分自身を入れ込み、放出させた。
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