セックスの価値

神崎

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幼馴染

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 譲二を陥れるために殺人まで犯した竜之介は、その仮面を全て剥がされ投獄された。裁判の結果、彼は死刑になる。
 死刑の執行のシーン。その場に相川の姿もあった。だが竜之介は全ての恨みを晴らすことが出来たと、その表情には微笑みすら浮かべている。だがその恨みのほとんどが自分の身から出た錆だ。
 彼はあくまで命を奪った殺人者なのだ。階段を上り、上から吊されたロープに首をかける。
 そこで牧原の声が聞こえてきた。
「OK。」
 片隅で見ていた春川は、それを冷静な目で見ていた。そしてすっとその場から離れる。
「……春川さん。」
 声をかけたのは映画を担当している斉藤三月だった。
「あぁ。お久しぶりです。」
「見に来ると思ってました。彼、今日クランクアップでしょう?」
「ですね。想像はしてましたが、良い役者さんで良かった。」
「R18にするのが惜しいって会社からも声が出てますよ。ストーリーが綿密に、しっかりしてるからでしょう。」
「それをうまく表現してくれたのは監督さんであり、役者さんですよ。私はそのレシピを考えただけ。」
「「花雨」もドラマになるんですか。」
「えぇ。この間から加筆してます。」
「……この間、「読本」のゲラをみましたよ。」
「あぁ。少し話題になっているのは聞いてます。」
「これから官能以外の小説も?」
 すると彼女は少し笑う。
「ジャンルは問いません。望まれればそれに答えるだけです。あぁ。この映画、公開は来年の春でしたか。」
「はい。」
「でしたらそれに合わせて、ドラマも公開するんでしょうね。」
「……春川さん。」
 斉藤は彼女に気になっていることを思い切って聞いた。
「AV監督の嵐さんの脚本は書くんですか。」
「……それも頼まれてます。プロットだけでもと言って、それを渡しましたけどね。やはり書いてほしいと。」
「そっちの世界に行かなくても、あなたなら純文学で十分いけますよ。どうしてAVなんか。」
「さっきも言いましたよ。望まれれば答えるだけです。所詮、消費される文学で、後世には残りません。だったら記憶にだけは残したいんです。それに映画の撮影現場を見て、わかりましたよ。AVも普通の映画もそれに携わる人が、必死に生み出そうとしてますから。「なんか」なんて言ったら失礼ですよ。」
 少し離れたところで桂は、波子役の愛美から花束をもらっていた。彼は微笑みながらそれを受け取り、挨拶をして礼をしている。他の役者とは変わらないとはいえ、知名度では劣っている彼を同等に扱ってくれたスタッフや役者に感謝をしていたのだ。
「いい役者になりますよ。スタートで出遅れたけれど。」
 そのとき彼女は隣にいて良いのだろうか。最近いつもそれを思ってしまう。一緒に住んでいるのに言葉を交わすこともない。起きたときに彼の温もりがあるだけだった。前ならそれで十分だったのに、欲張りになったのだろうか。
「春川さん。そういえば、噂程度の話なんですけど。」
「何ですか?」
「あなたのことがインターネットで話題になってますよ。」
「え?」
「秋野という名前でコラムを書いてましたよね。それと同一人物ではないかと。」
「……。」
 ため息を付く。いずれはばれる話だと思った。だがどこからばれたのだろう。
「春川さん。大きな話題になる前に、舞台挨拶で顔を見せたらどうですか。」
「……そうですね。」
 その答えに斉藤は驚いたように彼女をみた。前なら「絶対いやだ」とガンとして嫌がっていたのに。
「出られるんですか?」
「隠れていてもいずれはバレるでしょう。こそこそするよりはそれの方が良いと思いますし。完成披露の時で良いですか。」
「えぇ。もちろん。あぁそれから……。」
「何ですか?」
「そのときはあまり下ネタ言わないでくださいね。」
「え?どこまでが下ネタですか?」
 冗談ではなく真面目に聞いている春川に、彼は苦笑いをした。すると花束を手にした桂がこちらに近づいてくる。
「春。」
「お疲れさま。これから演技指導へ行くの?」
「あぁ。花を持って帰ってくれないか。」
「そうね。わかった。」
 バイクではこの大きな花束を持って帰れないだろう。そう思って彼女は花束を受け取る。その様子に斉藤は驚いたように彼らを見ていた。
「あれ?」
「……隣に住んでるんですよ。うちで一時的に引き取ってるだけ。」
「あぁ。なるほど。」
「生物とかよく預かりますよ。」
 楽屋へ行きかけた桂はその言葉に、少し足を止めて春に向かって言う。
「それから楽屋にも来てくれないか。預かってほしいモノがある。」
「良いよ。じゃあ、斉藤さん失礼します。」
 彼女はそういって席を離れた。そして桂を追いかけるように花束とともに廊下へ出て行く。
「仲良いねぇ。」

 楽屋に春川を呼び、春川は机の上に花束を置く。そして桂に近づき、体に抱きついた。
「寒くない?」
「暖めてくれよ。」
「着替えてからの方が良いかな。」
「いや。春。暖めて。」
「でもキスすると、その先もしたくなるでしょ?」
「俺は直結してるからな。」
 体をぎゅっと抱きしめると、彼はその腕を彼女の頬に持ってきた。そして頬を包み込むように両手で持ち上げる。
「春。」
 そのときだった。部屋のドアがノックされる。彼は舌打ちをして彼女から離れると、ドアを開けた。
「はい。」
「あ、桂さん。着替えが終わったら、メイク落としますんでメイク室来て貰えます?それから衣装はハンガーに掛けてもらったらいいんで。」
「あ、いつもと違うんですね。」
「そっちは借りたんですよ。返さないといけないし。」
「OKです。」
 若いスタッフの声だ。桂が壁になりきっと彼女の姿は見えない。桂はドアを閉めると、彼女を引き寄せて軽くキスをする。
「今夜は早く帰れるかもしれない。」
「でも今日は私が遅いわ。」
「合わないな。」
「でも、お正月は休めるんでしょ?お母さんに会いたいわ。夏にお会いして以来だもの。」
 どうして彼女は自分が思っていることがわかるのだろう。そう思うと、彼はまた彼女をぎゅっと抱きしめた。
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