テロリストと兵士

神崎

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 ゆっくりと近づいてくる。それを避けるように、累は後ろに下がっていった。どうすればいいのだろう。この状態を起死回生できる一手がどこにあるのだろうか。
 ここで真を殺すのはきっと出来る。甘い仕事しかできない男だ。スピードでは劣っていてもそれなりにやり方もあるし、力はこっちの方が勝っているだろう。
 だがそのためには人間離れした力を出さないといけない。ヒューマノイドとして、傷つけるだけじゃなく殺してしまわないといけない。
「殺してしまえばわからない。死人にくちなしだ。」
 彩はいつもそう言うが、彼を殺してしまえばきっとまた藍の彼女への憎しみが強くなるだろう。
「……。」
 かといって彼とセックスしたくないし、してしまったら明日会う藍に顔向けが出来ない。
「……心配しなくても跡なんかつけないよ。明日会うんだろう?」
「……。」
「付いてしまっても彩がしたことにすればいい。そっちの方が藍も燃えるかもしれないしね。」
「最低……。」
「いいね。それ、人間っぽい。」
 まるでゲームだ。そんな軽い気持ちでセックスなどするのだろうか。違う。藍との行為は、そんなものじゃない。幸せの中にいて、胸が一杯になる。
 すると彼は彼女をやっと追いつめて、彼女の手首をつかんだ。そして強引に抱き寄せる。
「細いな。でもしっかり筋肉付いてるし、何より柔らかくて温かい。」
「や……。」
「本当に人間みたいだ。」
 そう言って彼は背中から首にかけて手を這わせて髪を避ける。その首に唇を寄せ、舌が耳まで上がってきた。そしてその耳たぶに唇を寄せて口に含み、わずかに歯で噛んだ。
「あっ……。」
 つい声が出てしまう。そしてしつこく彼は耳に舌を這わせてくる。それだけで膝から崩れていきそうだ。だが心は拒否している。
 つっと彼女の頬に涙がこぼれた。彼はそれに気が付いて、耳から唇を離す。そしてその頬に手を当て、指で涙を拭う。
「累。」
 そして彼は彼女の唇に唇を重ねた。舌で嘗め上げるように唇を嘗め、そして舌でその唇をこじ開ける。そして誘い込むように、舌を嘗めあげた。
「んっ……。」
 舌がしびれるような感覚になる。じゅるじゅると音を立てて、吸い上げるように彼も夢中でその行為を続けた。後ろ頭に手を当てて、逃がさないように支える。
 唇をやっと離すと、思わず息を付いた。こんなにいいものだっただろうか。キスだけで立ってきそうだ。
「……満足したでしょう?帰って下さい。」
 だが彼女はそう言って彼を突き放すように、体に手を当てた。
「冗談だろ?」
「冗談ではありません。コレ以上は強姦です。」
「最高だったじゃ……。」
「何も感じません。体は感じても、心は何も感じない。私はあなたを好きではないという証拠です。」
「そんなに藍が好きなの?」
「はい。」
 その言葉に戸惑いも迷いもない。本当のことだったから。
「明日の夜……会うんだろ?」
「はい。」
 ぐっと唇を噛んだ。悔しかったから。
「累。」
「……。」
「何を聞かされても、それで傷ついても僕がいる。僕は君のことをよく知っているのだから。」
 ヒューマノイドは傷つかない。心がなかったからだ。だが彼女は心がある。そして恋愛が出来る。そのとき表情の無かったその顔に笑顔が出るのだ。
 藍とセックスをしていたとき、彼女はわずかに笑っていた。その表情は、幸せそのものだった。人を殺すことを目的とした道具のくせに。いつもそう言われていた彼女が、やっとつかんだ幸せだ。
 しかしその幸せを、自分も与えたい。ヨガらせて、ぐちゃぐちゃにして、求めて、求められて……。

 スラムへ帰ってくると、相変わらずジャンキーや最下層の売春婦や男娼がいる。自分もその中の一人だった。女でも男でもいけるからと、藍を監視するようにということで送り込まれた真だったが、今はそれすら辛い。
 アパートに帰ってくると、廊下で掃除をしていた竜が真を見て驚いたような表情をした。
「どうしたんだ。真。」
「何?」
「何か自殺でもしそうな表情だな。」
「そう?」
「せっかく藍が帰ってきてんのにさ。」
「何だ。帰ってきてたんだ。じゃあ、もう少し出てこようかな。」
「お前なぁ。どうしたんだよ。金魚の糞みたいに「藍、藍」ってついて回ってたのにさ。」
「……別に。アレかな。ほら乳離れ?」
「そんな子供かよ。まぁ、いいさ。お前もそろそろお前の下を育てないといけないからな。お前だけでは手が回らないところもあるだろ?」
「そんなことはないよ。今は戦争もないし、大人しいもんだ。」
 そう言って彼は階段を上がる。そして鍵を開けると、藍がシャワーを浴びて出てきたところらしく、ジーパンをはいただけで髪をタオルで拭いていた。
「お帰り。」
「うん。」
「累のところへ行ってたのか?」
「うん。鷄のつみれだった。」
「それはうまそうだったな。損をした。あの堅苦しい飯よりも何倍も美味いだろうに。」
 藍はそう言ってドライヤーで髪を乾かしていた。
「藍。」
「何?」
「僕さ……割と本気らしい。」
「何が?」
「累のこと。」
 その言葉に彼はドライヤーを止めた。そして真をみる。いつもヘラヘラ笑っているイメージだったのに、その表情は真剣だった。
「真。累はやめろ。」
「わかってるよ。でも藍の方が、累の隣にいる資格はないよね。なんせ何もいっていないんだろ?王の側近である紅花だってことも、その手で罪のない人を沢山殺したのも。」
 ドライヤーをベッドに投げると、真の胸ぐらをつかんだ。体格の差か、その力でわずかに足が浮いた。
「……累に手を出すな。」
「キスだけならしてきた。すごい上手いよね。アレで藍もやられたんだ。あっちの方もいいんだろ?」

 ぱん!

 そのとき藍の手が真の頬を平手打ちした。衝撃で彼はベッドに倒れ込む。
「真。出て行け。」
「……。」
 ベッドから起きあがると、彼は何も言わずに部屋を出ていく。残された藍は、ため息を付きベッドに腰掛けた。
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