テロリストと兵士

神崎

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 城を出て、累は藍と共に道を歩く。夜は更け、累はあまり寝れないかもしれない。だが横になっても寝れる自信はない。それは藍も一緒だった。
「……累。今日のことは隆に言うか?」
「隠したくないので。それに話せば彼は理解してくれます。」
「俺も……。」
 聞いてなかった。ただ互いの体を求めただけだ。それが好きだという感情だと思っていたのに、彼女はそれを求めてなかった。自分がヒューマノイドだということをずっと言おうとしていたが、それを聞かなかったのは自分のせいだ。
 こんな形でしっぺ返しが来るとは思ってなかった。
「累。」
「どうしました?」
「隆は……優しいか?」
「はい。仕事中は厳しいことも言いますけど、基本、優しいです。」
「そうか。」
「……どうしました?急に。」
「いいや。何で俺はお前が話そうとしていたことを、ずっと遮っていたんだろうって。悔やんでも仕方ないけどな。」
 頭をかくと、髪を結んでいるゴムがとれた。それが道に落ちて、彼女はそれを拾う。
「それは……私もそうでしょう。「待って」と言えたかもしれないし、力ではかなわなかったかもしれませんがヒューマノイドとしての力を使えば、振り切ることくらいは出来たかもしれません。」
「累……。」
「私も同じですよ。人間との関係でどちらが悪いってことはないと思います。」
「……どっちもどっちって言いたいのか。」
「……えぇ。あ……。」
 頭に冷たいモノが落ちてきた。雨が降り出したらしい。
「早く帰らないと。」
 そう言って彼女は足を進めようとした。すると彼は上着を脱ぎ、彼女の頭にかける。濡れないようにと。
「行こう。待っているんだろう?」
 彼の温もりが伝わってくるような上着。彼の匂いを感じる。足を進めながら、もっとこの時間が続けばいいと思った。

「ここまででいいか。」
 店の前で二人は足を止めた。累は頭からかけられていた上着を藍に返す。
「ありがとうございました。」
「濡れるぞ。早く入れ。」
 上着を羽織り、藍が帰ろうとしたときだった。声をかけられる。
「……今帰ったのか。」
 港の方向を見る。そこには隆が居た。
「お前、ここにいたんじゃなかったのか。」
「もう少し早く帰るつもりだったんだけどな。累。お前がいないから、みんなの質問責めだ。」
 すると彼女は少し笑い、彼に近づく。
「でも適当に答えてくれたんですよね。」
「あぁ。本当のことなど言えるか。」
 店に人が入る度に飲み会をするのだ。それに彼女は今日は行けないと、断ったのだ。もう少し早く帰れると思ったが、キッチンにいればほとんどホールで働く人たちの交流はない。なので引き留められたのだろう。
「雨も強くなってきたし、帰るって言ったら解散になった。」
「隆。酔ってますか?」
「これくらいで酔うか。」
「でしたら、少しお話があるのですけど。」
 隆はちらりと藍を見る。彼も少し気まずそうな顔をしていた。
「何かあったか?」
「……藍さんも、中に入りませんか。タオル、貸しますから。」
 二人がそろった方がいい。意識がなかったとはいえ、隆を裏切ってしまったのだから。
 二階の玄関ドアを開けて、電気をつける。すると前に来たときよりは荷物があるような気がした。キッチンを何気なく見ると、戸棚にある皿が二つあり、それは隆と累のモノだと思うと複雑な気持ちになる。
「藍さん。タオルを。」
 隆からタオルを受け取る。累はやかんに水を入れてお湯を沸かしていた。お茶でも入れるつもりだろう。雨のせいで体が冷えているのだから。
 隆がソファに座り、藍はその向かいに座った。するとお茶を手にした累は、藍と隆の前にカップを置くと隆の隣に座る。それはとても自然で、いつもそうしているようだと思った。
「……姫ってのに会えたのか?」
 すると彼女は首を横に振る。そしてお茶を一口飲むと、城での出来事をゆっくり口にする。彼女が何かしらの術にかかり、藍に迫るような行動をしたことも彼女は隠すことなく話した。
「……。」
 隆はじっとそれを聞いていた。怒るでもなく、藍を責めるわけでもない。ただ事実を受け入れているように見えた。
「……なるほどな……。お前以上の手練れが居るってことだ。」
 その言葉に累は首を横に振った。
「買いかぶりすぎです。私以上の実力を持った人なんて……。」
「それでも戦闘用ヒューマノイド以上だ。そんな奴が居るのだったら、ヒューマノイドなんて作らなくてもいいだろう?」
「……そうですね……。」
「だとしたら、限られるんじゃないんですか。その男の正体は。」
 向かいに座る藍をじっと見る。ごまかそうと思っていた考えは、おそらく隆には通じない。頭のいい奴だ。やはり料理人よりも兵隊にしたいくらいだと思う。
「……そうだな。俺には確かに心当たりがある。だが、本当に奴がしたのかという確信はないし、メリットもない。」
「誰ですか。」
「……帯殿だ。」
 帯の名前に彼女は顔をひきつらせた。
「帯って……あれか?王の宰相の……。」
「あぁ。どうした。累。顔色が悪いな。」
 すると彼女は頬を両手で包み、そしてため息をついた。
「……言っていいのかわかりませんが……。」
「もう今更隠すな。お前にもわかっていることがあるのだろう。」
「……帯殿は、昔……私に剣を教えてくれたんです。」
「剣を?」
「私は結局ナイフが使いやすいからと、それをずっと使っていましたがそれを教えてくれたのも帯殿でした。」
「どうして帯殿が?」
「……零教授の顔なじみだとか。料理は零教授の奥様が教えて下さいましたが、剣や銃などの戦闘に関しては彼が教えてくれました。」
 強い人だと思った。幼い彼女ではあったが並の大人でもかなわないと言っていたのに、帯の前では彼女は片手で遊ばれていたように思える。
「……と言うことは、お前の師匠が帯殿か。」
「はい。帯殿は私だけではなく、彩も、それから称さんも教えていたようです。」
「称も?」
「えぇ。」
 称も強いとは思っていたが、それも帯の手ほどきによるモノだったのだ。
「そう言えば……帯殿は、一時期街で道場の手ほどきをしていた時期があったな。」
「それはカモフラージュです。私に教えるためでしょう。」
「なるほど……だったら帯殿がお前を襲ったというのも不思議じゃないな。」
 だがあの柔らかくて大きな手が帯なのだろうか。またそれも違う気がする。
「……それにしても……累。藍さんを誘うなんて、何を考えているんだ。」
 その言葉に藍が反論しようとした。しかし累は彼を見上げて言う。
「本心ではありません。」
「操られていたと?」
「そんな感じです。何せ意識がなかったので。」
「……。」
 意識がないとか、わざとではないと言えば許されると思っているのだろうか。
 今すぐこのソファに押しつけて抱きたいが向かいに藍が居るのだ。まだ何も出来ないだろう。
 隆の視線を感じ、藍は立ち上がった。
「邪魔したな。」
 すると累も立ち上がる。
「……傘を。」
「あぁ。いい。」
「せっかく乾いたのですから持って行って下さい。」
 そう言って彼女は玄関へ向かう。そして彼に傘を手渡した。
「姫のことはまた調べたいです。」
「……こちらで出来ることはやっておく。累。旬食をするのだろう?」
「はい。」
「だったらそのとき伝えるから。」
 そう言って彼は部屋を出ていった。
「……累。」
 ドアが閉まったとたん、隆は彼女を後ろから抱きしめた。
「……隆、意識がなかったとはいえ申し訳ありません。」
「謝らなくていい。代わりにキスをさせろ。」
 彼女から誘った。意識がないとはいえ許せない。隆は彼女を正面に向けると、その唇に軽くキスをする。
「舌は?」
「その途中で……んっ……。」
 答える前に彼は彼女の唇にまたキスをした。
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