テロリストと兵士

神崎

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 城に戻ってきた藍は、ため息をつく。「薔薇」を使用したもの、そして売人、山のようにそれらが出てきたからだ。
 使用したモノは、専用の病院に入院する。浅山の近くにある隔離病院だ。
 そして売人は拘置所へ入れる。
 だがどちらも目に見えるくらい一杯になりそうだし、花街も閑散としてきた。「春雷荘」にはあまり影響がないようだが、その近くの「立春荘」は打撃を受けているようだ。
「気にしないで下さい。女も男も入れ替えはききますから。」
 だいたいの売春宿はそう言ってくれている。内心、彼らも薬のせいでおかしくなっている男や女を宥めるのが疲れていたのだ。
「紅花殿。」
 声をかけられてふと振り返る。そこには緑秀がいた。
「あぁ。緑秀殿。」
「いかがですか。売人たちは。」
「口は割らない。仲には毒を飲んで死んだモノもいます。」
「戒厳令を引かれているようですね。その……鼠の口から。」
「……正しくは模倣です。」
 すると緑秀は驚いたように彼を見る。
「あなたは鼠をかばうのですか。」
「……鼠は王が指示して、動いているテロリストだ。」
「テロリストが王の指示で?」
 馬鹿にしたような口調だった。それが事実なら、テロリストではなく暗殺者だ。
「テロリストということにしておけば、自分の身をあわてて綺麗にする輩も出てくる。そうすれば意味がないとの考えですよ。」
「はっ。そんなことをしないと綺麗にならないとはね。」
 いらつく男だ。わざわざ人の神経を逆なでるようなことを言って、何の意味があるのだろうか。
「しかも噂ではヒューマノイドを使っていたとか。」
「事実です。」
「余所の国にばれていないんでしょうね。」
「他の国でもしていることだ。それを突っ込まれれば、自分の首を絞める。」
「何のための協定なのか。」
 その言葉に藍はさすがにムキになる。
「緑秀殿。国を動かすと言うのは、綺麗なことだけをしていては成り立たないものです。ある程度目をつぶることも、必要です。」
 何も考えないお坊ちゃんだ。そう思えた。確かに緑称もお坊ちゃん根性が抜けないと思っていたが、彼の方が柔軟だと思う。
「ヒューマノイドは城に?」
「いいえ。街にいますよ。」
「顔見知りですか。」
 顔見知りという言葉に彼は少し戸惑いを隠せなかった。食事をしに行っただけではなく、恋人であった時期もあったのだ。
「そうですね……。」
 今でも繋がりがある。だがそれは隆という男も一緒だが。
「紅花殿。」
「何だろうか。」
「ヒューマノイドは、今どこにいるのですか。」
「行ったところでどうしますか。捕らえますか。」
「……。」
「捕らえたところで、あなたに権限はない。それよりもあなたに聞きたいことがあるのですが。」
「何でしょうか。」
「封印された木箱のことです。この城に持ち込まれているようですが。」
 すると今度は緑秀の顔色が変わった。やはり何か知っている。
「……アレは、紫練殿が宗教上で使うものだとか。俺でも見れません。」
「厳しくチェックをしろと言われているはずだ。王の言葉だし、紫練殿も逆らうことは出来ないでしょう。」
 確かにそうだ。紫練の雰囲気に飲まれていたが、本来そんなモノなのだから紫練ですら逆らえないはずなのだ。それを何も言えないのは、彼が無能だといているのと同じ。
「……では失礼します。」
 藍はそれだけ言うと、その場を離れた。その後ろ姿を見て、緑秀は心の中で舌打ちをする。
 目の上のたんこぶは、さっさと切り取ってしまいたい。彼のアキレス腱を探したい。それはおそらく女だ。
 死んだという彼の恋人。それがアキレス腱になる。

 緑秀が港にやってくると、港で働く男たちが「うんざり」という顔になる。幻緑のときは女だからと見逃していたところもあるが、彼は事情が違う。
「その荷物を改めさせてもらう。」
 またかと男たちはその荷物を開いた。
「これはスパイスか?」
「えぇ。余所の国でしかとれないものです。」
「……その底には何がある。」
 二重底になっていた。それをあけると、予想通りだ。白い粉が見えた。
「小麦粉や塩のたぐいではなさそうだ。鑑識。これを調べろ。」
 他の国からやって来た男は舌打ちをして、それに従った。
 視線をはずし、緑秀は市場の方へ視線を向けた。すると見覚えのある女を見かける。リアカーを引いた女だった。小さいからだに伸ばしっぱなしの髪を一つにくくった女。
「……。」
 彼はその女に足を向ける。そして声をかけた。
「……あなたは……。」
 表情を変えずに彼女も緑秀を見た。
「秀さんですね。」
「累か?」
「お久しぶりです。」
 一時期帯が町中で道場を開いた。こけら落としの時には帯が来ていて、その教え子として彼女がやってきていたのを覚えている。
 やたら剣の筋がいいと帯が目をかけていたのだが、女であれば兵士にはなれない。無意味なことをしていると思っていたのだが、おそらくどこかのお嬢様の趣味でそうしているのだろうと思っていたのだ。
 だがリアカーを引く腕、そしてその手は荒れている。
「こんなところで何を?」
「店を再開するので、その仕入れです。」
「店?」
「食堂をしています。昼間しか開いていませんが。」
 その言葉に彼は驚きを隠せなかった。お嬢様だと思っていた彼女が食堂などをしているなど。
「食堂?」
「はい。何か?」
「いいや。道場で一緒になったと思っていたので、食堂というのに少し驚いただけだ。」
「……父が進めて通っただけです。結果的には良かったですが。」
「どうして?」
「食堂などをしていると、因縁をつける人も多いので。」
「なるほど。」
 そう言って彼は少し笑う。彼女の腕があれば、誰でも追い出せるだろう。
「累。」
 そのとき彼女に声をかける人がいた。それは藍だった。
「藍さん。」
「あぁ。秀さん。」
「……藍さんでしたかね。」
 町中では本名の「藍」で呼ぶようにと言われていたのを忘れていた。彼は隠す必要がないと思っていたので、「緑秀」のままだったが。
「店は順調か?」
「一週間ほどで再開できそうです。」
「そうか。」
「前ほど毎日開くことは出来そうにないですが。」
「あっちの店もあるしな。あぁ……それから明日だが。」
「えぇ、わかってます。私の都合が良くなったらどこへ?」
「港でいい。」
 緑秀のことは全く無視をしているような会話。それに彼は妙な気持ちになる。
「それでは私は仕込みがありますので。」
「あぁ。また明日。」
 そう言って累は丘の方へ向かっていく。
「どこに店があるんですか?」
「城の下ですよ。いい店でした。戦争のせいで閉店をずっとしていたのですけどね。」
 藍のその目を見る。見たこと無いほど彼は優しい目をしていた。
 緑秀はそのときやっと、彼のアキレス腱を見つけた。おそらく累だ。彼女に心を奪われている。
 軽く微笑み、彼は累の後ろ姿を見ていた。
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