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部屋に付いてからの記憶がない。次に気が付いたとき隆は冷たい床の上に座らされ、柱にくくりつけられていた。
「……。」
よく覚えていないが、後ろから付いてきた穂が何か彼の口に押し当てたのを覚えている。何か薬でも嗅がされたのだろうか。
「……本当にこの男がそうなのですか?」
「あぁ。司は言葉を渋ったが、この男がそうだろう。」
薄暗くてよくわからないが、どうやら男と女が話しているようだ。どちらの声にも聞き覚えはない。
「そろそろ薬が切れる頃ですよ。」
「あの……。」
聞き覚えのある声が聞こえた。それは穂の声に聞こえる。
「本当にお金をいただけるんですよね。」
「あぁ。この方がすべてお支払いになる。外国の息子さんのための学費もすべて持つとおっしゃっている。あなたはせいぜい、また城に戻りメイドをしていればいい。」
やはり自分の口を塞いだのは穂だったのか。
そんなことが今更わかっても仕方ない。何とかこの紐くらい抜け出せないだろうか。そう思ったときだった。
「きゃああああ!」
断末魔の声。そして何かが避ける音。水の音。
「……殺さなくてもよろしかったのに……。灰音様。同情しますわ。」
「……そうだろうか。べらべら喋られても困るのだよ。その外国にいるという男も始末しよう。」
「本当にあなたがヒューマノイドのようですね。情がない。」
男の笑い声が聞こえる。本当のヒューマノイドは笑わない。ということはこの男は、ヒューマノイドではない。それに女は男を「灰音」と言っていた。
灰音と言えば、累が一番警戒していた相手だろう。その男に捕まってはいけないと。
「あの男はもう薬がきれているのだろう。この会話も聞いているかもしれない。」
「聞いていても構いませんわ。どうせ殺す相手ですもの。」
そのとき、ライトを照らされた。だが彼はそのまま首をうなだれさせる。
「……まだ寝ているようだ。」
「薬の効き方は人それぞれですわ。」
だが灰音はそのまま彼に近づく。意識のないふりをしていたが、それが誤魔化せるかわからない。それくらいの殺気や醸し出す雰囲気がまるで野生の獣のようで、いつでも隆を殺すことが出来ると言っているようだった。
「……。」
しばらく革靴の音がしていたが、やがてそれは遠ざかっていく。
「行こう。」
「彼を一人にしても平気ですの?」
「構わない。目が覚めたところでどうせ逃げられない。」
そう言って二つの足音は遠ざかっていく。一つは固いヒールのような音。そしてもう一つは革靴。
「……。」
重いドアが開く音がして、そして閉まった。あとは静寂だけだった。
気づかれなくて良かった。冷や汗がでていて、それが顎を伝っていたこと。
殺されるかもしれないと思ったことは何度かある。だがそれは島に襲いかかってきた黄の国の軍勢に対抗したときだった。
銃を向けられて、殺されるかもしれないと思った。だが若い彼はそれを諸ともせずに、突っ込んでいったものだ。だが灰音はこちらの様子を見ただけだ。それでも彼は恐怖を感じ、それは死ぬかもしれないという思いだった。
累はいつもその恐怖と戦っているのだ。指示があればあんな相手でも向かっていかなければいけない。たとえ自分と差し違えてでも。
そしてそれは藍も同じだった。あの剣を持って敵に向かっている。
住む世界が違いすぎる。そう思えてきた。
港にはいくつかの倉庫街がある。それは三十棟ほどあり、運ばれるモノによってブロックを変えていたのだ。
Aブロックには、主に城に運ばれるモノが置いてある。もちろん、紫練に運ばれるはずだった木箱もここにあり、中身を確認されているところだった。
だから彼女がここにいるのはおかしいことではない。宗教上の儀式で使うモノを外部から輸入しているのだから。そしてその側には灰音がいる。
藍はその姿を見て、身震いした。王の影として暗躍していた代々の灰音の中でも、もっとも残酷だという噂は本当だったのかもしれない。
「……あれが二十三号ですね。」
灰音と紫練が出てきた倉庫をみる。くらくて文字はよく見えないがそれがおそらく二十三号なのだろう。
彼女は灰音を見ても何も思わなかったのだろうか。そうだ。彼女は何度か灰音と対峙している。だが何の変化もないように思えるのは、勝てるからと思っているわけでは決してない。彼女にも余裕はないのだ。だがヒューマノイドの特性である表情の欠如だろう。
「乗り込みましょう。」
「正面からか?」
「正面以外に入り口はありません。」
彼女はそう言って足を進める。その足音は聞こえない。
「……。」
ドアに手をかけたが、鍵がかかっているようだ。すると彼女は小型のライトを取り出し、その鍵穴に自分の紙に刺さっているピンを取り外したモノを差し込む。
「そんなもので開くわけないだろう。無理矢理でも……。」
しかしピンと軽い音がして、鍵が開いた。
「お前なぁ……。」
こんなピンであくほど柔な鍵はしていないはずだ。だが彼女はいとも簡単にあけた。そうだった。彼女は暗殺者なのだ。それをまじまじと知らされたような気がする。
ドアは重い引き戸で、力を込めてドアを引く。すると、その中には腐った肉のような匂いがした。
「何……。」
思わず藍は鼻をつまんだ。そして壁をつたい、その電気をつける。
明るくなる庫内。そこには見渡す限りのヒューマノイドのカプセルがあった。
「……ここは……。」
「零教授がここで作っていたのでしょうか。」
中には人間の形をしているモノもいるが、そのほとんどは人間の形をしていない。曲がらないはずの方向に曲がった関節。飛びだした腸。目玉も飛び出したモノすらいる。
「生きていないのか?」
「いいえ。おそらく皆生きています。生命維持装置が動いていますから。」
「……。」
累もこうなるかもしれなかったのだ。人間の肩ちに生まれてきたのは本当に奇跡だったのかもしれない。
「隆は……どこにいるのでしょう。」
そのとき奥で大きな物音がした。思わず彼女はナイフの鞘をとり、そちらに向ける。
「……何だ。こいつ等は。」
こちらに向かってくる人。それは若い男ばかりだった。それもみんな全裸で、無表情にこちらに向かってきている。
「ヒューマノイドか?」
「……だとしたら驚異ですね。力だけは無意味にありますから。」
「先手必勝だ。奥に隆がいるのかもしれない。行くぞ。」
藍もまたその剣を抜いた。そして二人はその集団に向かっていく。
「……。」
よく覚えていないが、後ろから付いてきた穂が何か彼の口に押し当てたのを覚えている。何か薬でも嗅がされたのだろうか。
「……本当にこの男がそうなのですか?」
「あぁ。司は言葉を渋ったが、この男がそうだろう。」
薄暗くてよくわからないが、どうやら男と女が話しているようだ。どちらの声にも聞き覚えはない。
「そろそろ薬が切れる頃ですよ。」
「あの……。」
聞き覚えのある声が聞こえた。それは穂の声に聞こえる。
「本当にお金をいただけるんですよね。」
「あぁ。この方がすべてお支払いになる。外国の息子さんのための学費もすべて持つとおっしゃっている。あなたはせいぜい、また城に戻りメイドをしていればいい。」
やはり自分の口を塞いだのは穂だったのか。
そんなことが今更わかっても仕方ない。何とかこの紐くらい抜け出せないだろうか。そう思ったときだった。
「きゃああああ!」
断末魔の声。そして何かが避ける音。水の音。
「……殺さなくてもよろしかったのに……。灰音様。同情しますわ。」
「……そうだろうか。べらべら喋られても困るのだよ。その外国にいるという男も始末しよう。」
「本当にあなたがヒューマノイドのようですね。情がない。」
男の笑い声が聞こえる。本当のヒューマノイドは笑わない。ということはこの男は、ヒューマノイドではない。それに女は男を「灰音」と言っていた。
灰音と言えば、累が一番警戒していた相手だろう。その男に捕まってはいけないと。
「あの男はもう薬がきれているのだろう。この会話も聞いているかもしれない。」
「聞いていても構いませんわ。どうせ殺す相手ですもの。」
そのとき、ライトを照らされた。だが彼はそのまま首をうなだれさせる。
「……まだ寝ているようだ。」
「薬の効き方は人それぞれですわ。」
だが灰音はそのまま彼に近づく。意識のないふりをしていたが、それが誤魔化せるかわからない。それくらいの殺気や醸し出す雰囲気がまるで野生の獣のようで、いつでも隆を殺すことが出来ると言っているようだった。
「……。」
しばらく革靴の音がしていたが、やがてそれは遠ざかっていく。
「行こう。」
「彼を一人にしても平気ですの?」
「構わない。目が覚めたところでどうせ逃げられない。」
そう言って二つの足音は遠ざかっていく。一つは固いヒールのような音。そしてもう一つは革靴。
「……。」
重いドアが開く音がして、そして閉まった。あとは静寂だけだった。
気づかれなくて良かった。冷や汗がでていて、それが顎を伝っていたこと。
殺されるかもしれないと思ったことは何度かある。だがそれは島に襲いかかってきた黄の国の軍勢に対抗したときだった。
銃を向けられて、殺されるかもしれないと思った。だが若い彼はそれを諸ともせずに、突っ込んでいったものだ。だが灰音はこちらの様子を見ただけだ。それでも彼は恐怖を感じ、それは死ぬかもしれないという思いだった。
累はいつもその恐怖と戦っているのだ。指示があればあんな相手でも向かっていかなければいけない。たとえ自分と差し違えてでも。
そしてそれは藍も同じだった。あの剣を持って敵に向かっている。
住む世界が違いすぎる。そう思えてきた。
港にはいくつかの倉庫街がある。それは三十棟ほどあり、運ばれるモノによってブロックを変えていたのだ。
Aブロックには、主に城に運ばれるモノが置いてある。もちろん、紫練に運ばれるはずだった木箱もここにあり、中身を確認されているところだった。
だから彼女がここにいるのはおかしいことではない。宗教上の儀式で使うモノを外部から輸入しているのだから。そしてその側には灰音がいる。
藍はその姿を見て、身震いした。王の影として暗躍していた代々の灰音の中でも、もっとも残酷だという噂は本当だったのかもしれない。
「……あれが二十三号ですね。」
灰音と紫練が出てきた倉庫をみる。くらくて文字はよく見えないがそれがおそらく二十三号なのだろう。
彼女は灰音を見ても何も思わなかったのだろうか。そうだ。彼女は何度か灰音と対峙している。だが何の変化もないように思えるのは、勝てるからと思っているわけでは決してない。彼女にも余裕はないのだ。だがヒューマノイドの特性である表情の欠如だろう。
「乗り込みましょう。」
「正面からか?」
「正面以外に入り口はありません。」
彼女はそう言って足を進める。その足音は聞こえない。
「……。」
ドアに手をかけたが、鍵がかかっているようだ。すると彼女は小型のライトを取り出し、その鍵穴に自分の紙に刺さっているピンを取り外したモノを差し込む。
「そんなもので開くわけないだろう。無理矢理でも……。」
しかしピンと軽い音がして、鍵が開いた。
「お前なぁ……。」
こんなピンであくほど柔な鍵はしていないはずだ。だが彼女はいとも簡単にあけた。そうだった。彼女は暗殺者なのだ。それをまじまじと知らされたような気がする。
ドアは重い引き戸で、力を込めてドアを引く。すると、その中には腐った肉のような匂いがした。
「何……。」
思わず藍は鼻をつまんだ。そして壁をつたい、その電気をつける。
明るくなる庫内。そこには見渡す限りのヒューマノイドのカプセルがあった。
「……ここは……。」
「零教授がここで作っていたのでしょうか。」
中には人間の形をしているモノもいるが、そのほとんどは人間の形をしていない。曲がらないはずの方向に曲がった関節。飛びだした腸。目玉も飛び出したモノすらいる。
「生きていないのか?」
「いいえ。おそらく皆生きています。生命維持装置が動いていますから。」
「……。」
累もこうなるかもしれなかったのだ。人間の肩ちに生まれてきたのは本当に奇跡だったのかもしれない。
「隆は……どこにいるのでしょう。」
そのとき奥で大きな物音がした。思わず彼女はナイフの鞘をとり、そちらに向ける。
「……何だ。こいつ等は。」
こちらに向かってくる人。それは若い男ばかりだった。それもみんな全裸で、無表情にこちらに向かってきている。
「ヒューマノイドか?」
「……だとしたら驚異ですね。力だけは無意味にありますから。」
「先手必勝だ。奥に隆がいるのかもしれない。行くぞ。」
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