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ヒューマノイドたちの手にはそれぞれ武器が握られている。だがそれを使って何をするのかはわかっていないらしい。
力はあってもそれを使う方がわからなければ、大した敵ではない。藍と累はその一つ一つを切り捨てていく。
だが違和感を感じていた。
ヒューマノイドは手を伸ばしているのは、累の方だけだった。藍には目をくれない。藍はその累に向かっていくヒューマノイドを切って捨てるだけだった。累の方は切りながらも、手を伸ばしてくるヒューマノイドの手を払いのけている。だが力はさすがに強いし、体力も波ではない。一度切っただけでは彼らは倒れない。
「……まさか。」
藍はそのヒューマノイドたちの下半身をみる。その大きなモノは、皆天を指していた。
ヒューマノイド同士でセックスをすると、それしか考えられないほどの快感を得ることが出来る。そして気絶したあと、それ以前の記憶はなくなる。
おとぎ話かと思った。だが実際に幻はそうなったのだ。彼女は幸せなまま、疑似精子にまみれて死んだ。
そして累にもそうさせようとしているのだろうか。
「藍さん!」
彼女は叫ぶとナイフを手に彼に近づく。
「奥へ行って隆を探してください。」
「この数のヒューマノイドをお前一人で相手にするのか?無理だ。もうナイフも一本切れ上がっているだろう?」
「良いから。あなたには危害を加えないはずです。少しなら切れますから。」
一瞬戸惑った。もし彼女が襲われたら……もし何もかも忘れてしまったら……。
「すぐに戻る。」
藍はそう言って彼女のそばから離れ、ヒューマノイドをかき分けると倉庫の奥へ走り出した。
後ろでは肉や骨が切れる音がした。早くしなければ。彼女の目が少し赤くなっている気がしたから。あのときと同じように、感情が高ぶっているのかもしれない。
完全に吹っ切ってしまえば彼女は手を着けられなくなるのだ。
奥に足を運ぶと、そこには柱にくくりつけられた男が座った状態でそこにいた。
「隆?」
彼は声をかける。しかし彼は死んでいるようだ。隆は死んでいるのか?間に合わなかったのか。唇を咬み、彼はその遺体に手をかけた。しかし様子が違う。
肉の腐ったような匂いのする倉庫だと思った。その匂いはここから放っている。蠅がどこからかやってきて、遺体の上に止まった。
藍はその遺体を思い切って起こしてみた。すると腐った肉が手に触り、そしてそこにあったのは変色しもう腐食が進んだ遺体だった。おそらく三日から一週間は経っているだろう。
「隆?」
だが声はない。後ろでは相変わらず肉や骨が砕ける音がしているが、それ以外の音はしない。
藍は走って彼女の元へ駆け寄った。すると彼女の姿は、ズボンも浮気も破られて、わずかに胸元や下半身を隠すだけだった。だがそれでも彼女はヒューマノイドを切ることをやめない。
「累!」
藍の声に彼女はふっとそちらを見た。その隙をヒューマノイドも逃さなかった。
彼女を壁に押しつけると、その顔に近づいてくる。キスがスイッチになる。彼女は横を向いてそれを拒否しようとした。そのときだった。
「がはっ!」
目の前のヒューマノイドが、倒れた。後ろから藍が切ったらしい。
「ここにはいない。行くぞ。」
彼は彼女の手を引き、倉庫の外へ走っていく。急いで外にでると、ドアを閉めた。
「ここに……いないのですか?」
「どこにいるんだ。一つ一つ、探すわけにはいかないか。」
「……ここには?」
「朽ち果てた死体があるだけだった。おそらく死んで三日か一週間くらい経っているだろう。」
「……そうでしたか。」
倉庫の方を見ると閉められているのに、ドンドンと扉をたたく音が聞こえる。おそらくヒューマノイドが騒いでいるのだろう。
「匂いがするのでしょうね。」
「ヒューマノイドの匂いか?」
「そう言う風にプログラムされているか、それか……女性であれば誰でも突っ込めと言われているのかもしれません。戦闘用のヒューマノイドにしては愚鈍でしたから。」
「……。」
確かに傷一つ付けられていない。それなのに服だけが破られているのは、その証拠だろう。
「一つ一つを探すか?」
「……。」
その倉庫の上に視線を向ける。すると彼女は藍の腕を掴んだ。
「どうした。」
「違う……。ここ……二十三じゃあありません。」
「え?」
暗くてよく見えなかったが、彼女にははっきり見えていたらしい。ここは十三倉庫だったのだ。
「二十三はどこですか?」
「番号順にいくなら、こっちだ。」
藍は彼女を連れて番号へ向かっていく。番号順に並んでいるなら、二十三はこの裏。
走ってそこへ向かっていく。するとそこには一台の小型のトラックが停まっていた。トラックには王家の紋章が刻まれている。おそらく城へ向かうものなのだろう。
「……これで最後だ。」
木箱を積み込み、男たちは運転席に乗り込もうとしていた。すると藍は累にその場にいるように促し、彼らの所へ向かっていく。
「運転手。」
彼が声をかけると、その男は藍を見ていぶかしげな顔をした。
「何だ。兄ちゃん。」
「荷物を改めさせてもらって良いか。」
「んだよ。兄ちゃん。あんた検疫か?」
「検疫ではない。赤の側近である紅花と言うものだ。」
その名前に彼らは驚いたように運転席から降りる。そしてさっきまでの横柄な態度から手をひっくり返したように、彼に頭を下げていた。
「どうもすいません。おい。荷台をあけろ。」
下っ端に言って、荷台を開かせた。そして中をみる。そこには木箱もあれば段ボールなんかもある。
「……何の荷物だ。」
「わかりませんよ。俺らはここの倉庫の荷物を城に運んでくれって言われてるだけで……。」
「……。」
不審な荷物はない。それに息を潜めていてもそのトラックの中からは吐息一つしない。
「……手間をかけた。悪かったな。」
「いいえ。わかればいいんです。おい、行くぞ。」
男たちは三人。
「……。」
トラックが走り去っていくのを見て、彼はため息を付く。そして累の所へ戻った。
「……中を見るか?」
「はい。」
おそらく無駄足だろう。だが彼女はそこにいると信じたかった。鍵を開けて、そのドアを開ける。
そして電気をつけるとがらんとした空間が残り、そしてその奥には黒い革のジャンパーが置かれてあった。それは隆がいつも着ているモノだった。
「隆……。」
「ここにいたのは間違いないな。」
「どこに……。」
「城だろう。」
さっきのトラックに乗った人。二人は運転席、助手席に乗り、一人は荷台に載った。荷物の量からして、三人も必要ないだろう。
だったら一人は隆だった。どうして彼は大人しくトラックに乗ったのかはわからない。
だがすべては計算ずくだった。
十三倉庫の前で紫練らしき人と灰音らしき人が出て行くところを二人に目撃させ、そこを二十三倉庫だと勘違いさせる。その間に二十三倉庫で、隆に何らかの術をかけてトラックに乗せた。
「……すべては灰音の手のひらの中というわけだ。」
藍は悔しそうに拳を握った。しかしその隣には、革のジャンパーを握りしめて、立ち尽くしている半裸の累の姿があった。その肌に鳥肌などはない。
「藍さん。」
彼女は革のジャンパーを羽織って、彼に聞く。
「何だ。」
「裏口からではなく、城に入れる方法がありますね。」
「……正規のルートではない。だがそれを知ってどうする。」
「隆を助けます。」
その言葉は本気だった。
「明日までに助けないと、仕事に間に合いませんから。」
そしてその言葉も本音なのだろう。彼は少し気が抜けたように、彼女を連れて倉庫を離れた。
力はあってもそれを使う方がわからなければ、大した敵ではない。藍と累はその一つ一つを切り捨てていく。
だが違和感を感じていた。
ヒューマノイドは手を伸ばしているのは、累の方だけだった。藍には目をくれない。藍はその累に向かっていくヒューマノイドを切って捨てるだけだった。累の方は切りながらも、手を伸ばしてくるヒューマノイドの手を払いのけている。だが力はさすがに強いし、体力も波ではない。一度切っただけでは彼らは倒れない。
「……まさか。」
藍はそのヒューマノイドたちの下半身をみる。その大きなモノは、皆天を指していた。
ヒューマノイド同士でセックスをすると、それしか考えられないほどの快感を得ることが出来る。そして気絶したあと、それ以前の記憶はなくなる。
おとぎ話かと思った。だが実際に幻はそうなったのだ。彼女は幸せなまま、疑似精子にまみれて死んだ。
そして累にもそうさせようとしているのだろうか。
「藍さん!」
彼女は叫ぶとナイフを手に彼に近づく。
「奥へ行って隆を探してください。」
「この数のヒューマノイドをお前一人で相手にするのか?無理だ。もうナイフも一本切れ上がっているだろう?」
「良いから。あなたには危害を加えないはずです。少しなら切れますから。」
一瞬戸惑った。もし彼女が襲われたら……もし何もかも忘れてしまったら……。
「すぐに戻る。」
藍はそう言って彼女のそばから離れ、ヒューマノイドをかき分けると倉庫の奥へ走り出した。
後ろでは肉や骨が切れる音がした。早くしなければ。彼女の目が少し赤くなっている気がしたから。あのときと同じように、感情が高ぶっているのかもしれない。
完全に吹っ切ってしまえば彼女は手を着けられなくなるのだ。
奥に足を運ぶと、そこには柱にくくりつけられた男が座った状態でそこにいた。
「隆?」
彼は声をかける。しかし彼は死んでいるようだ。隆は死んでいるのか?間に合わなかったのか。唇を咬み、彼はその遺体に手をかけた。しかし様子が違う。
肉の腐ったような匂いのする倉庫だと思った。その匂いはここから放っている。蠅がどこからかやってきて、遺体の上に止まった。
藍はその遺体を思い切って起こしてみた。すると腐った肉が手に触り、そしてそこにあったのは変色しもう腐食が進んだ遺体だった。おそらく三日から一週間は経っているだろう。
「隆?」
だが声はない。後ろでは相変わらず肉や骨が砕ける音がしているが、それ以外の音はしない。
藍は走って彼女の元へ駆け寄った。すると彼女の姿は、ズボンも浮気も破られて、わずかに胸元や下半身を隠すだけだった。だがそれでも彼女はヒューマノイドを切ることをやめない。
「累!」
藍の声に彼女はふっとそちらを見た。その隙をヒューマノイドも逃さなかった。
彼女を壁に押しつけると、その顔に近づいてくる。キスがスイッチになる。彼女は横を向いてそれを拒否しようとした。そのときだった。
「がはっ!」
目の前のヒューマノイドが、倒れた。後ろから藍が切ったらしい。
「ここにはいない。行くぞ。」
彼は彼女の手を引き、倉庫の外へ走っていく。急いで外にでると、ドアを閉めた。
「ここに……いないのですか?」
「どこにいるんだ。一つ一つ、探すわけにはいかないか。」
「……ここには?」
「朽ち果てた死体があるだけだった。おそらく死んで三日か一週間くらい経っているだろう。」
「……そうでしたか。」
倉庫の方を見ると閉められているのに、ドンドンと扉をたたく音が聞こえる。おそらくヒューマノイドが騒いでいるのだろう。
「匂いがするのでしょうね。」
「ヒューマノイドの匂いか?」
「そう言う風にプログラムされているか、それか……女性であれば誰でも突っ込めと言われているのかもしれません。戦闘用のヒューマノイドにしては愚鈍でしたから。」
「……。」
確かに傷一つ付けられていない。それなのに服だけが破られているのは、その証拠だろう。
「一つ一つを探すか?」
「……。」
その倉庫の上に視線を向ける。すると彼女は藍の腕を掴んだ。
「どうした。」
「違う……。ここ……二十三じゃあありません。」
「え?」
暗くてよく見えなかったが、彼女にははっきり見えていたらしい。ここは十三倉庫だったのだ。
「二十三はどこですか?」
「番号順にいくなら、こっちだ。」
藍は彼女を連れて番号へ向かっていく。番号順に並んでいるなら、二十三はこの裏。
走ってそこへ向かっていく。するとそこには一台の小型のトラックが停まっていた。トラックには王家の紋章が刻まれている。おそらく城へ向かうものなのだろう。
「……これで最後だ。」
木箱を積み込み、男たちは運転席に乗り込もうとしていた。すると藍は累にその場にいるように促し、彼らの所へ向かっていく。
「運転手。」
彼が声をかけると、その男は藍を見ていぶかしげな顔をした。
「何だ。兄ちゃん。」
「荷物を改めさせてもらって良いか。」
「んだよ。兄ちゃん。あんた検疫か?」
「検疫ではない。赤の側近である紅花と言うものだ。」
その名前に彼らは驚いたように運転席から降りる。そしてさっきまでの横柄な態度から手をひっくり返したように、彼に頭を下げていた。
「どうもすいません。おい。荷台をあけろ。」
下っ端に言って、荷台を開かせた。そして中をみる。そこには木箱もあれば段ボールなんかもある。
「……何の荷物だ。」
「わかりませんよ。俺らはここの倉庫の荷物を城に運んでくれって言われてるだけで……。」
「……。」
不審な荷物はない。それに息を潜めていてもそのトラックの中からは吐息一つしない。
「……手間をかけた。悪かったな。」
「いいえ。わかればいいんです。おい、行くぞ。」
男たちは三人。
「……。」
トラックが走り去っていくのを見て、彼はため息を付く。そして累の所へ戻った。
「……中を見るか?」
「はい。」
おそらく無駄足だろう。だが彼女はそこにいると信じたかった。鍵を開けて、そのドアを開ける。
そして電気をつけるとがらんとした空間が残り、そしてその奥には黒い革のジャンパーが置かれてあった。それは隆がいつも着ているモノだった。
「隆……。」
「ここにいたのは間違いないな。」
「どこに……。」
「城だろう。」
さっきのトラックに乗った人。二人は運転席、助手席に乗り、一人は荷台に載った。荷物の量からして、三人も必要ないだろう。
だったら一人は隆だった。どうして彼は大人しくトラックに乗ったのかはわからない。
だがすべては計算ずくだった。
十三倉庫の前で紫練らしき人と灰音らしき人が出て行くところを二人に目撃させ、そこを二十三倉庫だと勘違いさせる。その間に二十三倉庫で、隆に何らかの術をかけてトラックに乗せた。
「……すべては灰音の手のひらの中というわけだ。」
藍は悔しそうに拳を握った。しかしその隣には、革のジャンパーを握りしめて、立ち尽くしている半裸の累の姿があった。その肌に鳥肌などはない。
「藍さん。」
彼女は革のジャンパーを羽織って、彼に聞く。
「何だ。」
「裏口からではなく、城に入れる方法がありますね。」
「……正規のルートではない。だがそれを知ってどうする。」
「隆を助けます。」
その言葉は本気だった。
「明日までに助けないと、仕事に間に合いませんから。」
そしてその言葉も本音なのだろう。彼は少し気が抜けたように、彼女を連れて倉庫を離れた。
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