隣人は秘密をもつ

神崎

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飲み会

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 それから島本さんはなんだかんだと私の部屋を訪れていた。主な理由は「食事」をとりたいからと言う理由だったけれど。
 もちろん同僚には内緒にしている。そんなことがあったなんていったらどんな目に遭うかわからない。
 食事をしている間、島本さんはいろんな話をしてくれた。
 その中で気になったことがいくつかある。
 普段の格好は自分の趣味ではなく、何か他人の趣味だとか。
 出身は余所の国だということとか。
 話してはくれるけれど、深くは話してくれない。いずれ話してくれるだろう。私はそれをじっと待っていた。

「富田さん。」
 声をかけられて、私は見上げる。
「はい。」
 同僚の女性だった。相変わらず香水のにおいがすごい。
「今度の親睦会。出席どう?」
「結構見えますよ。」
「島本さんは?」
「え……。」
「営業部の。」
 いらっとした口調で聞いてくる高圧的な態度に、私は少しびくっとしながらパソコンをみた。そこには島本さんの名前もある。
「来ますよ。」
「そう。ありがと。」
 島本さん狙いなのかもしれないな。まぁ、本社出向が濃厚な彼だ。今のうちから手を着けておきたいというのもあるのかもしれない。
「……。」
 何だろう。このもやっとした感情は。

 親睦会の日。居酒屋を借り切って、これる人だけ来るようなスタイルでみんなが飲んでいた。
 私は雑務が終わらなくて乾杯には居合わせなかったけれど、もう来たときにはすでにみんな出来上がっているように見えた。
「富田さん。やっときた。何飲む?」
「えっと……では……。」
 やっと仕事が終わったんだ。ここはビールでも……そう思ったときだった。
「きゃあ!島本さん!」
 総務課の同僚の隣にいた島本さんが、倒れ込んだらしい。
「島本さん!」
「どうしたの?」
「わかんない。急に倒れて……。」
 私はふっとそこにある皿をみた。そこには食べかけた天ぷらがあった。
「これ……食べたんだ……。」
「天ぷらよ。ただの。」
「……アレルギーでしょうね。私、病院に連れて行きます。」
 数人の男子社員の手を借りて島本さんをタクシーに乗せた。そして私もそれに同乗する。
「すいません。○○病院に。」
 急いでいかないと…。ワイシャツの袖をめくってみる。そこには赤い斑点もでているようだ。
「あ……。」
 苦しそうだ。呼吸器にも?
「急いでください。」
「今の時間込んでますからね。遠回りになるけど、そっちの方が早くつくと思うから、そっちに行ってもいいですか。」
「早くつくのだったら、それで大丈夫です。」
 急にハンドルを切り、細い道を通っていく。
 そして救急搬送可能な病院にたどり着いた。
「……島本さん。」
 看護師と医者は島本さんの症状を見て、あわただしく動いていく。私はそれを見ているしかなかった。
「はい……今病院に着きました。」
 一応会社の上司に電話を入れておいた。
 アレルギーがあるっていうのは、大変なのだ。私も子供の頃は食べれないものが多くて、母を苦労させていたこともある。
 だから島本さんの気持ちは分かる。営業をしていれば、「食べれないものがある」なんて言いづらいだろう。それを無理して食べて、今日みたいなことに何度なったのだろう。
「……助けてあげて。」
 待合室で一人待っていると、やっと看護士さんが来てくれた。
「意識戻りましたよ。」
「良かった……。」
「富田さんを呼んでますよ。」
「私です。」
「ではこちらへ。」
 案内された処置室。そこはカーテンが引かれ、ちょっとした個室のようになっていた。
 白い簡易ベットの上に、島本さんが目を開けた状態で横になっていた。手にはまだ点滴がされている。
「ごめんね。面倒をかけて。」
「アレルギーがあること、何で言わないんですか。みんな驚いてましたよ。」
「ごめん。俺ね、弱みを見せたくなかったから。」
 側にあったいすに座り、その点滴を受けている腕をみた。先ほどほどヒドい斑点は薄くなっているような気がする。
「でもそれで迷惑をかけたら……。」
「わかってる。フフ。富田さんは俺の母親みたいだ。年下なのにね。」
「……。」
 何だろう。こんなに胸が痛いのは。妹とかではなく母親だと言われたのが本当にショックだったのだろうか。
「きゃっ。血!」
 看護士の声が聞こえる。私は驚いて外を見た。
「こっちね。……あぁ。島本さんの……。あれ、あなたその足代丈夫なの?」
 足をみる。するとストッキング越しに血がにじんでいた。靴も履かずに裸足で走ってきたからかもしれない。
「治療しましょう。こちらへ。」
「すいません。大丈夫です。」
「でも爪が割れてるかもしれないわ。」
 そう言って看護士は私に手を貸して、診察室へ連れて行ってしまった。
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