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一年目
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コーヒーをカップに注ぐ。そしてそれを竹彦の前に置いた。すると彼は何も入れないブラックのままそれを口に含んだ。
「美味しい。」
「いつもブラックで飲むの?」
「うん。甘いものはあまり好きじゃないんだ。」
「意外ね。あなたのイメージと違うわ。」
「どういうイメージなんだろうね。」
そうだなぁ。彼のイメージと言えば、背が低くて、色素薄くて、文学系の優しい人?そんな感じだろうか。でも耳にピアスがたくさんあるのを見ると、そうでもないのかもね。
”勝手なイメージは、その人に迷惑になります。イメージは自分の中で消化して、真実を見ることが大切なのです。”
そうだろうなぁ。イメージって言ったのは、迷惑だったかもしれない。
「イメージだけなら、とても優しそうなイメージだわ。」
「優しくないよ。この間、君のことを侮辱した教師にゴミを投げつけてやろうかと思った。」
「奇遇ね。私もそう思ったわ。」
「君もあまり優しくはないね。」
「ありがと。」
残ったコーヒーをカップに入れて口に含む。うん。悪くない。だけど葵さんの味にはまだまだといった感じだ。まだ豆に入れさせてもらっているように思えるなぁ。
「聞きたいことがあるんだけど。」
「何かしら。」
「君のその人に合わせるやり方。どうやってするのかって。」
「……何のことかしら。」
深刻そうな話をしていたカップルが席を立った。私はレジの前に立ち、料金をもらう。そしてテーブルを片づけた。彼らの話は解決したのだろうか。私たちはこれから修羅場になりそうなのに。
空のコップをトレーに乗せて、カウンターに戻ってきた。
「君と向日葵さんはあまり性格が合わない気がする。なのにどうしてそんなに人に合わせてまで、一緒にいるのかわからないんだ。」
「その理由は簡単よ。」
「何?」
「向日葵は私と違うから。違う人と一緒にいるのはいい刺激になる。あなたもそうしたらいいわ。似たもの同士なんでしょ?匠君とは。」
「そう見える?」
「そうね。ではなければ、あなたはマゾヒストなの?」
思わずコーヒーを吹きそうになったらしく、咳込んだ。
「好きで叩かれてるとでも?」
「そんなことは思わないわ。でも私の言っていることが本当なら、そういうことなんでしょ?」
すると彼は思い詰めた表情になる。そしてまっすぐと私を見る。
「僕は人が嫌いなんだ。」
「……人?」
「そう。殴ってくる男子だって、何度反撃しようかと思ったよ。家にある焼き鏝を押し当ててやろうとも思ったし、ウルサい女子も嫌いだ。口の中に生ゴミ突っ込んでやりたい。」
思ったよりも……イヤ。だいぶ激しい思想を持っているなぁ。
「私の口にも生ゴミを突っ込まれるのかしら。」
「本当ならね。でも、君は違うと思う。何度も助けてくれたしね。」
「それはどうも。」
記憶に残っている彼を助けたのは一、二度だと思うんだけど、ほかに何かしたかなぁ。気が付かないものだな。そういうことって。
「桜さん。この店、定休日は?」
「毎週木曜日だけど。あとは不定休。」
「だったら来週の木曜日、時間ないかな。」
「何か?」
「うん。見て欲しいものがあるんだ。学校が終わったら、駅に来てもらえないかな。」
「……いいけれど……でも……。」
いつ柊さんが会いたいと言い出すかわからない。特に木曜日は休みなこともあって、家に来ることも多いから。
「一度電話をしたけれど、君は出なかった。だからその代わりと思ってくれてもいいんだ。」
「あまり時間食わないかしら。」
「うん。そうだね。夕食までには。」
「わかったわ。」
もろい約束だと思う。だけど私はそれを受け入れないわけにはいかない。前に電話を彼がしたとき、私は柊さんとキスをしていたのだから。
バイトが終わって家に帰ると、部屋の前に人影があった。それは柊さんだった。
「柊さん。」
彼はドアの前で座り込んでいた。待っていたのかな。
「待ってたんですか。」
「携帯持たないのか。」
「いずれ。」
「通話だけのものでもいいからもっておいたらどうだ。不審者で通報されるかと思った。」
今は携帯電話なんて必要ない。だけど柊さんが言うなら、持っておいてもいいのかもしれないな。
玄関ドアを開けて、彼を入れる。そして部屋の電気をつけて、エアコンをつけた。
「ちょっと着替えてきます。」
そういって自分の部屋に入ろうと引き戸を開けた。すると彼も付いてこようとした。
「……着替えてくるんですけど。」
「知ってる。」
「一緒に入るわけではないんですよね。」
「……あぁ。でも……。」
彼は腰を屈めて、私の肩に額を乗せてきた。その行動に、私は驚いた。こんなことをする人と思っていなかったから。
「ちょっと嫉妬した。」
「……誰に?」
「竹彦に。」
すると私はその彼の頭を撫でた。まるで子供にするように。
「私も嫉妬しましたよ。」
「あぁ。あの女にか。お互いつまらないことで嫉妬するな。」
首筋に柔らかいものが伝わってきた。やだ。汗かいてるのに。
「べとべとしてますから。」
いい加減、彼の顔を避けようとした。でも彼はそれを止めようとはしない。
「んっ……。」
やだ。変な声が出る。
「跡を付けたい。」
「だめです。」
だめだ。それはさすがに駄目だ。私は少し体勢を変えて、彼の目を見る。そして私の目と合う。すると私たちは自然と顔を近づけあう。
唇が軽く触れたあと、彼は私の体を抱き寄せた。
「桜……。」
まだ部屋は暑いくらいなのに、私はひっついていたかった。柊さん。あなたもそう思ってくれているの?
「美味しい。」
「いつもブラックで飲むの?」
「うん。甘いものはあまり好きじゃないんだ。」
「意外ね。あなたのイメージと違うわ。」
「どういうイメージなんだろうね。」
そうだなぁ。彼のイメージと言えば、背が低くて、色素薄くて、文学系の優しい人?そんな感じだろうか。でも耳にピアスがたくさんあるのを見ると、そうでもないのかもね。
”勝手なイメージは、その人に迷惑になります。イメージは自分の中で消化して、真実を見ることが大切なのです。”
そうだろうなぁ。イメージって言ったのは、迷惑だったかもしれない。
「イメージだけなら、とても優しそうなイメージだわ。」
「優しくないよ。この間、君のことを侮辱した教師にゴミを投げつけてやろうかと思った。」
「奇遇ね。私もそう思ったわ。」
「君もあまり優しくはないね。」
「ありがと。」
残ったコーヒーをカップに入れて口に含む。うん。悪くない。だけど葵さんの味にはまだまだといった感じだ。まだ豆に入れさせてもらっているように思えるなぁ。
「聞きたいことがあるんだけど。」
「何かしら。」
「君のその人に合わせるやり方。どうやってするのかって。」
「……何のことかしら。」
深刻そうな話をしていたカップルが席を立った。私はレジの前に立ち、料金をもらう。そしてテーブルを片づけた。彼らの話は解決したのだろうか。私たちはこれから修羅場になりそうなのに。
空のコップをトレーに乗せて、カウンターに戻ってきた。
「君と向日葵さんはあまり性格が合わない気がする。なのにどうしてそんなに人に合わせてまで、一緒にいるのかわからないんだ。」
「その理由は簡単よ。」
「何?」
「向日葵は私と違うから。違う人と一緒にいるのはいい刺激になる。あなたもそうしたらいいわ。似たもの同士なんでしょ?匠君とは。」
「そう見える?」
「そうね。ではなければ、あなたはマゾヒストなの?」
思わずコーヒーを吹きそうになったらしく、咳込んだ。
「好きで叩かれてるとでも?」
「そんなことは思わないわ。でも私の言っていることが本当なら、そういうことなんでしょ?」
すると彼は思い詰めた表情になる。そしてまっすぐと私を見る。
「僕は人が嫌いなんだ。」
「……人?」
「そう。殴ってくる男子だって、何度反撃しようかと思ったよ。家にある焼き鏝を押し当ててやろうとも思ったし、ウルサい女子も嫌いだ。口の中に生ゴミ突っ込んでやりたい。」
思ったよりも……イヤ。だいぶ激しい思想を持っているなぁ。
「私の口にも生ゴミを突っ込まれるのかしら。」
「本当ならね。でも、君は違うと思う。何度も助けてくれたしね。」
「それはどうも。」
記憶に残っている彼を助けたのは一、二度だと思うんだけど、ほかに何かしたかなぁ。気が付かないものだな。そういうことって。
「桜さん。この店、定休日は?」
「毎週木曜日だけど。あとは不定休。」
「だったら来週の木曜日、時間ないかな。」
「何か?」
「うん。見て欲しいものがあるんだ。学校が終わったら、駅に来てもらえないかな。」
「……いいけれど……でも……。」
いつ柊さんが会いたいと言い出すかわからない。特に木曜日は休みなこともあって、家に来ることも多いから。
「一度電話をしたけれど、君は出なかった。だからその代わりと思ってくれてもいいんだ。」
「あまり時間食わないかしら。」
「うん。そうだね。夕食までには。」
「わかったわ。」
もろい約束だと思う。だけど私はそれを受け入れないわけにはいかない。前に電話を彼がしたとき、私は柊さんとキスをしていたのだから。
バイトが終わって家に帰ると、部屋の前に人影があった。それは柊さんだった。
「柊さん。」
彼はドアの前で座り込んでいた。待っていたのかな。
「待ってたんですか。」
「携帯持たないのか。」
「いずれ。」
「通話だけのものでもいいからもっておいたらどうだ。不審者で通報されるかと思った。」
今は携帯電話なんて必要ない。だけど柊さんが言うなら、持っておいてもいいのかもしれないな。
玄関ドアを開けて、彼を入れる。そして部屋の電気をつけて、エアコンをつけた。
「ちょっと着替えてきます。」
そういって自分の部屋に入ろうと引き戸を開けた。すると彼も付いてこようとした。
「……着替えてくるんですけど。」
「知ってる。」
「一緒に入るわけではないんですよね。」
「……あぁ。でも……。」
彼は腰を屈めて、私の肩に額を乗せてきた。その行動に、私は驚いた。こんなことをする人と思っていなかったから。
「ちょっと嫉妬した。」
「……誰に?」
「竹彦に。」
すると私はその彼の頭を撫でた。まるで子供にするように。
「私も嫉妬しましたよ。」
「あぁ。あの女にか。お互いつまらないことで嫉妬するな。」
首筋に柔らかいものが伝わってきた。やだ。汗かいてるのに。
「べとべとしてますから。」
いい加減、彼の顔を避けようとした。でも彼はそれを止めようとはしない。
「んっ……。」
やだ。変な声が出る。
「跡を付けたい。」
「だめです。」
だめだ。それはさすがに駄目だ。私は少し体勢を変えて、彼の目を見る。そして私の目と合う。すると私たちは自然と顔を近づけあう。
唇が軽く触れたあと、彼は私の体を抱き寄せた。
「桜……。」
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