夜の声

神崎

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一年目

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 部屋に戻って制服から部屋着に着替えていたとき、リビングからガチャンという音がした。何だろう。部屋着に急いで着替えてリビングに戻ると、そこには母と柊さんが対立しているところだった。
 まずい。とてもまずい。
「母さん……あの……。」
「桜。どういうことなの?」
 仕事着のままの派手な格好の母だった。
「どちら様なの?この人は。まさか彼氏とでも言うの?」
 彼氏ではない。とすれば、何だろう。セックスだけする相手だったらセフレとでもいうのかもしれないけど、キスだけする相手ってなんていうんだ?
「恋人です。」
 は?
 驚いてみている私と、母。それを言ったのは柊だった。
「自己紹介が遅れましたが、芹沢柊と言います。」
「おいくつ?」
「三十です。」
「あたしとあまり歳が変わらない大人ね。その大人が、どうしてこんな時間にうちにいるのかしら。まさか桜に誘われたの?」
「お母さん。違うから。」
「何が違うの。この不良娘。」
 って言うか、あんたが私の歳にはもう私を産んでいたんだろうに、それを棚に置いといて不良娘って……。
「母親がいないときに男を連れ込むなんて、そんな子に育てたつもりはないんだけど。」
「……それは悪いと思ってるわ。でも……。」
「お母さん。」
「まだあんたにお母さんって言われる筋合いはないわ。もしかして、あんた、葵の友達なの?」
「昔からの友人です。」
「あんたも前科者ってわけ?」
「えぇ。」
「詐欺師じゃない。ろくなモンじゃないわね。」
「今は違う。」
「今もろくなモンじゃないわよ。十六か、十七の娘をたぶらかしてるんだから。」
「たぶらかしてなど……。」
「あーもう沢山。大事な娘を汚されてるなんて、思っても見なかったわ。」
 もう我慢できない。私は思うよりも行動をしてた。足を進めて、柊さんの前に立つ。
「何よ。あんた、騙されてんのよ?」
「騙されてないわよ。話を聞かないのは母さんじゃない!話を聞いてから判断してよ。」
 あきれたように母は言う。
「あんた、母親に向かってなんて口の利き方してるの。大した度胸ね。」
 ぐっ。確かにそうだ。あまりにも失礼だ。
「母さんのいないうちに家にあげたのは謝るけど……。でも……。」
「大切なの?」
 少し戸惑った。そんなことを言えるだろうか。でも私は頷いた。
「母さんよりも?」
 ちょっと戸惑ったけれど、うなづいた。
「そ。あーあ。つまんない。」
 母さんはそういって落としたバックを拾い上げた。そしてそのバックの中から煙草をとりだして火をつける。
「お母さん。あの、誓って言うんですけど。」
「何?」
 煙を吐き出した母さんはまだ不機嫌なまま、柊さんの方を見た。
「まだ娘さんは処女のままですよ。」
 なんて事を!
 その言葉に私は唖然として、そして煙にむせたように母さんは咳込んだ。私たちは別の意味合いで彼を見上げる。
「柊さん。そんなこと……。」
「春まで何も知らなかっただろう?」
「それは……。」
 そうだけど……。そんなことを母に言わなくても……。
「ははっ。そうだったの。そんなでっかい図体しておいて、気はちっちゃいのねぇ。あんた。」
「すいません。」
「謝ることないわよ。バカねぇ。」
 涙を流しながら、母は笑っていた。涙目になってまで。いつも疲れているような顔をしている母が笑ったのを見たのは、久しぶりだった。
「いい?別にあんたを認めた訳じゃないけど、つきあうのは仕方ないわよ。あたしみたいに意地になって出て行かれても困るし。気持ちはどうにもならないでしょ?あんた、仕事はしてるの?」
「用務員です。高校の。」
「ふーん。案外普通の仕事ねぇ。土建屋か何かと思ったけど。まぁいいわ。家に来るときは、私に連絡入れてくれる?それから、あんたのうちは?」
「裏です。」
 裏という言葉に少し戸惑っていたようだが、飾り気のない言葉に母さんは納得して彼に言う。
「あぁ。あのボロアパートなんだ。別にいいけどさ。あそこに連れ込むんだったら、気をつけてよ。変な住人が多いっていうし。」
「まぁ……そうですね。否定はしませんが。」
「それから避妊はちゃんとして。まさか、卒業するまで待つわけじゃないんでしょ?この家のコンドームはテレビの横の引き出しよ。」
「……そんなときがくれば、利用させてもらいます。」
 その言葉に私は顔が赤くなる音を聞いた。なんかいろいろがすごいスピードで進んでいる気がして。
 というかいつの間に恋人になったんだろう。そこからだ。
「あ、そろそろ行かなきゃ。」
「何で今日帰ってきたの?」
「あぁ。うちの黒服、あんたに手を出そうとしたんでしょ?ちょっと脅したら白状してさ。もう任せられないと思って、忘れ物したときには自分で取りに来ようと思って。」
 するといいことを聞いたとばかりに、柊さんは立ち上がった母さんの前に立つ。
「いい黒服を持ってますね。」
「あんたもね。その視線で迫ったの?うちの娘に。それにいい声ね。でもあたしには通用しないわよ。」
「でしょうね。百戦錬磨だ。」
「あら。股が緩いような言い方しないでくれる?」
「失礼しました。」
 さっきまで殺伐としてたのに、一瞬でそれが無くなった。おそらく母はすっかり柊さんを気に入ったのかもしれない。

”人を信用させるには、自分が正直になることです。正直になれば、相手も正直になります。そして信頼関係が生まれるのです。”

 私はそんな椿さんの言葉を心の中で繰り返しながら、出て行く母の背中を見送る。
 残された私たちは、顔を見合わせる。そして柊さんは私の手を握った。
「桜。悪かったか?恋人同士など言って。つい言葉がでたが、そうでもしないとお前ともう二度と会えないと思ったからな。」
「……母は信じましたね。」
「今更、嘘とは言えないだろう。そこまで計算していったわけじゃないが……。正直……お前に会えなくなるのが一番辛いことだと思ったからでた言葉だ。迷惑だろうか。」
 私は思わず彼の胸に飛び込んだ。背中に手を伸ばし、体を引き寄せる。
「迷惑なんて……思ったこともないです。」
 気持ちいいキスとこの体に触れることが、どれだけ幸せだろう。彼も同じ気持ちだろうか。私の体に腕を伸ばす。
「ただ……。」
 私を抱きしめる腕に力が入る。
「お前を襲った奴がいるんだな。殴ってきていいだろうか。」
 その言葉にぞっとした。
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