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二年目
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飲み終わったコーヒーカップを片づけて、私は帰ろうとバックを持った。
「どこに行くんだ。」
「帰ります。」
「まだ話は終わってねぇよ。」
茅さんはそういって私を引き留めようとした。しかし先生は時計を見て、ため息をつく。
「男の部屋にこんな遅くに居るものじゃありません。ましてや恋人でもないのでしょう。」
「そうです。」
「まだ恋人じゃないってだけだ。」
そういって茅さんは私の二の腕に手を伸ばした。しかしそれを止めたのは、先生だった。
「やめろと言っているんだ。その強引なやり方は椿のやり方か。女をとるようなやり方はやめろ。」
「……偉くなったもんだな。あんたも。」
「……何のことだ。」
「表沙汰になってないだけであんただって、一歩間違えれば前科持ちだろ?」
「……。」
「のうのうと教師なんかやってるのが、笑えてくる。」
先生の方が背が高くて、茅さんを見下ろしているようだ。その表情が、とても柊さんに似ていていたたまれない。
「とにかく帰りますから。茅さん。また連絡をしてください。」
「桜。」
「兄弟喧嘩の見物をしに来たんじゃないですから。」
そういって私はその部屋を出た。そして階段を上る。何か声が聞こえたみたいだけど無視した。きっと追ってきているのだろうから。
あーあ。頭痛い。さっさとお風呂は言ってご飯食べて、それから椿さんの声を聞こう。こんな時はそれが一番。
ドアを開けると、玄関だけの明かりがついていた。前に派手にこけたから、母さんが出ていくときに玄関先の電気だけをつけてくれていた。
「桜。」
ドアを閉めようとしたら、茅さんが駆け込んできた。
「……どうしました?」
「話があるって言ってただろう。なのに何で帰るんだ。」
「兄弟喧嘩が始まったし、それに……。」
「百合のことか?」
「……。」
百合さんのことは仕方ないと思っていても、話に出ると胸が痛い。たぶん会ったことがない人だから。
「会ったこと無い奴の影を追っても仕方ないのに。」
「会ったことがないから、想像の中でしかモノが言えないのでしょう。」
「……。」
百合さんのことは話でしか聞いたことがない。私に似ているという。でも私よりも女らしい体をしているのだという。そして世話好き。さっぱりした人だった。
私には到底追いつかないと思う。コーヒーのことにしても、柊さんのことにしても。
「お前、柊を好きだっていう自信がないのか。」
「あるけれど……。」
「自信がなければ、俺が取るけど。」
「いやですから。」
「今日もどこに行っているかわからないんだろう?そんな奴だ。」
「……わかりませんけど……。」
だけどあの夏の日以来、彼は連絡をきちんともらえるようになった。たぶんそういうことには無精な人だ。だけど一言、二言のメッセージが嬉しかった。
「メッセージきますから。」
「ふーん。そんなんでいいのか。」
「はい。」
「メッセージならどこにいるかわからないよな。」
いたずらっぽくニヤリと笑う。
「ま、いいや。」
「話ってそれだけですか。」
「いいや。でももういいや。どうせ金曜日、お前の学校行くし。」
「……断るつもりなんですけど。」
あぁ。やっぱり入社の話なんだな。
「条件は悪くねぇよ。蓮が苦笑いしてたからな。」
そういって彼は玄関に一歩足を踏み入れると、私の顎をつかんだ。
「やめてください。そういうの。」
そういって私はその体を、跳ねのけた。すると彼は後ろ手で、ドアを閉める。
「見られるのはちょっとな。俺も望むところじゃない。」
「そんな意味じゃない。」
そういって彼は靴のまま上がり込み、私の方を壁に押し当てて唇にキスをした。
「やめて。」
「まだ触っただけだ。」
「やめてください。」
「もう何度もしてんだろ?いい加減あきらめろよ。」
少しずつ。わからないうちに、私は彼のキスが気持ちいいと思えてきていたのかもしれない。それとも諦めていたのかもしれない。
私の腕は抵抗する力が少しずつ弱くなっている。
唇を割り、その舌が口内を舐める。そして満足したように、彼は帰っていく。そんな日が何度かあった。
だけどそんなこと柊さんに言えるわけがない。
柊さんはまだ、茅さんを近所にすんでいる元後輩だと信じているのだから。
体の関係がないだけまだましかもしれない。
次の日。学校で私は藤堂先生とすれ違った。移動教室の時だった。みんな避けて通っている。まぁたしかにヤクザとかそんな噂だと、みんな避けるよな。
彼は私を見つけると、意味ありげに視線を送った。
「向日葵。悪い。ちょっと忘れ物したわ。」
「え?どうしたの?急に。」
「教室戻るね。」
「何?」
「資料集忘れた。」
「え?マジで?今日使うって言ってたよ。珍しいねー。忘れたなんて。」
「先行ってて。」
私は今来たのを逆に戻り、教室の方へ早足で向かっていく。そして教室を開ける。もう誰もいなかった。みんな行ってしまったらしい。
「桜さん。」
ドアを開ける人がいた。それは藤堂先生だった。
「……何かお話でも?」
「視線でわかるとはね。」
「そういうことを一年前はしていましたから。」
柊さんの視線で、私はいつも右往左往していた。でも携帯電話を手に入れて、そんなことはなくなったけれど。
「あなたは知っているのですか。」
「……何をですか?」
「私の姉に……横恋慕した男です。」
「……はい。」
「そうでしたか。やはり……。」
「やはり?」
「桜さんは、どこまで知っているのですか。」
「どこまで?」
「「窓」に私たちが住んでいたとかそういったことは?」
「はい。リリーさんから。」
「菖蒲さんからでしたか。では、百合姉さんに、横恋慕したのは一人ではなかった話は?」
「……一人ではない?」
「はい。一人ではありません。あなたもよく知っている人です。」
誰なの?葵さんってことなんだろうか。それとも……茅さん?あり得ない話じゃない。血は繋がっていないのだから。
「先日にも言いましたが、私はその二人を恨んではいませんよ。百合姉さんには感謝をしています。危ない目に遭いながらも、私を大学まで出してくれたのですから。」
「でもそのために……。」
「そうですね。他の兄弟は大変な目に遭いました。しかしそれは自分のせいでもありますから。それに結果、みんな好きなことをして生きています。」
「どこに行くんだ。」
「帰ります。」
「まだ話は終わってねぇよ。」
茅さんはそういって私を引き留めようとした。しかし先生は時計を見て、ため息をつく。
「男の部屋にこんな遅くに居るものじゃありません。ましてや恋人でもないのでしょう。」
「そうです。」
「まだ恋人じゃないってだけだ。」
そういって茅さんは私の二の腕に手を伸ばした。しかしそれを止めたのは、先生だった。
「やめろと言っているんだ。その強引なやり方は椿のやり方か。女をとるようなやり方はやめろ。」
「……偉くなったもんだな。あんたも。」
「……何のことだ。」
「表沙汰になってないだけであんただって、一歩間違えれば前科持ちだろ?」
「……。」
「のうのうと教師なんかやってるのが、笑えてくる。」
先生の方が背が高くて、茅さんを見下ろしているようだ。その表情が、とても柊さんに似ていていたたまれない。
「とにかく帰りますから。茅さん。また連絡をしてください。」
「桜。」
「兄弟喧嘩の見物をしに来たんじゃないですから。」
そういって私はその部屋を出た。そして階段を上る。何か声が聞こえたみたいだけど無視した。きっと追ってきているのだろうから。
あーあ。頭痛い。さっさとお風呂は言ってご飯食べて、それから椿さんの声を聞こう。こんな時はそれが一番。
ドアを開けると、玄関だけの明かりがついていた。前に派手にこけたから、母さんが出ていくときに玄関先の電気だけをつけてくれていた。
「桜。」
ドアを閉めようとしたら、茅さんが駆け込んできた。
「……どうしました?」
「話があるって言ってただろう。なのに何で帰るんだ。」
「兄弟喧嘩が始まったし、それに……。」
「百合のことか?」
「……。」
百合さんのことは仕方ないと思っていても、話に出ると胸が痛い。たぶん会ったことがない人だから。
「会ったこと無い奴の影を追っても仕方ないのに。」
「会ったことがないから、想像の中でしかモノが言えないのでしょう。」
「……。」
百合さんのことは話でしか聞いたことがない。私に似ているという。でも私よりも女らしい体をしているのだという。そして世話好き。さっぱりした人だった。
私には到底追いつかないと思う。コーヒーのことにしても、柊さんのことにしても。
「お前、柊を好きだっていう自信がないのか。」
「あるけれど……。」
「自信がなければ、俺が取るけど。」
「いやですから。」
「今日もどこに行っているかわからないんだろう?そんな奴だ。」
「……わかりませんけど……。」
だけどあの夏の日以来、彼は連絡をきちんともらえるようになった。たぶんそういうことには無精な人だ。だけど一言、二言のメッセージが嬉しかった。
「メッセージきますから。」
「ふーん。そんなんでいいのか。」
「はい。」
「メッセージならどこにいるかわからないよな。」
いたずらっぽくニヤリと笑う。
「ま、いいや。」
「話ってそれだけですか。」
「いいや。でももういいや。どうせ金曜日、お前の学校行くし。」
「……断るつもりなんですけど。」
あぁ。やっぱり入社の話なんだな。
「条件は悪くねぇよ。蓮が苦笑いしてたからな。」
そういって彼は玄関に一歩足を踏み入れると、私の顎をつかんだ。
「やめてください。そういうの。」
そういって私はその体を、跳ねのけた。すると彼は後ろ手で、ドアを閉める。
「見られるのはちょっとな。俺も望むところじゃない。」
「そんな意味じゃない。」
そういって彼は靴のまま上がり込み、私の方を壁に押し当てて唇にキスをした。
「やめて。」
「まだ触っただけだ。」
「やめてください。」
「もう何度もしてんだろ?いい加減あきらめろよ。」
少しずつ。わからないうちに、私は彼のキスが気持ちいいと思えてきていたのかもしれない。それとも諦めていたのかもしれない。
私の腕は抵抗する力が少しずつ弱くなっている。
唇を割り、その舌が口内を舐める。そして満足したように、彼は帰っていく。そんな日が何度かあった。
だけどそんなこと柊さんに言えるわけがない。
柊さんはまだ、茅さんを近所にすんでいる元後輩だと信じているのだから。
体の関係がないだけまだましかもしれない。
次の日。学校で私は藤堂先生とすれ違った。移動教室の時だった。みんな避けて通っている。まぁたしかにヤクザとかそんな噂だと、みんな避けるよな。
彼は私を見つけると、意味ありげに視線を送った。
「向日葵。悪い。ちょっと忘れ物したわ。」
「え?どうしたの?急に。」
「教室戻るね。」
「何?」
「資料集忘れた。」
「え?マジで?今日使うって言ってたよ。珍しいねー。忘れたなんて。」
「先行ってて。」
私は今来たのを逆に戻り、教室の方へ早足で向かっていく。そして教室を開ける。もう誰もいなかった。みんな行ってしまったらしい。
「桜さん。」
ドアを開ける人がいた。それは藤堂先生だった。
「……何かお話でも?」
「視線でわかるとはね。」
「そういうことを一年前はしていましたから。」
柊さんの視線で、私はいつも右往左往していた。でも携帯電話を手に入れて、そんなことはなくなったけれど。
「あなたは知っているのですか。」
「……何をですか?」
「私の姉に……横恋慕した男です。」
「……はい。」
「そうでしたか。やはり……。」
「やはり?」
「桜さんは、どこまで知っているのですか。」
「どこまで?」
「「窓」に私たちが住んでいたとかそういったことは?」
「はい。リリーさんから。」
「菖蒲さんからでしたか。では、百合姉さんに、横恋慕したのは一人ではなかった話は?」
「……一人ではない?」
「はい。一人ではありません。あなたもよく知っている人です。」
誰なの?葵さんってことなんだろうか。それとも……茅さん?あり得ない話じゃない。血は繋がっていないのだから。
「先日にも言いましたが、私はその二人を恨んではいませんよ。百合姉さんには感謝をしています。危ない目に遭いながらも、私を大学まで出してくれたのですから。」
「でもそのために……。」
「そうですね。他の兄弟は大変な目に遭いました。しかしそれは自分のせいでもありますから。それに結果、みんな好きなことをして生きています。」
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