200 / 355
二年目
199
しおりを挟む
バイトが終わって「窓」を出る。暗い夜道の路地裏は、さらに暗い。早く大通りに出たいと思った。すると背中から声をかけられる。
「すいません。もう閉店でしょうか。」
柊さん?に似てる声?振り返ると、そこには藤堂先生がスーツを着てそこにいた。
「藤堂先生?」
「桜さんでしたか。」
「あ、閉店は二十一時なんです。」
「遅かったか。」
彼はため息をついて、恨めしそうに入り口をみた。
「明日は定休日です。明後日どうぞ。」
「明後日は歓迎会とかで、来れそうにないんですよ。」
「……木曜以外なら、開いてますから。」
「あなたは今から帰るんですか。」
「はい。そのつもりですが。」
「……こんな夜に。」
「二十一時は高校生でも外にいれる時間ですからね。」
「外国では考えられない。」
「ここは外国ではありませんから。」
私はそういって彼の横を通って帰ろうとした。すると彼も後ろを着いてくる。
「弟を知っていると言っていましたね。」
「はい。」
「何か聞きましたか。」
私は足を止めて、後ろを振り向いた。そして彼を見上げる。
「何を聞いているというのですか。やましいことでもあるのですか?」
「いいえ。特には。」
ちょっと気後れした感じ。そういうところは柊さんに似ていない。強引さはないのだ。オールバックでスーツで、目つきが悪い。それだけでヤクザではないかという噂もあるけれど、ぜんぜんそんな風に見えない。柊さんのような強さは無い気がする。
私は振り返ってまた大通りに出る。するとその出口に、茅さんが立っていた。
「茅さん。」
「待ってた。ちょっと話が……。」
しかし彼は私の後ろから出てきた人に、言葉を失った。
「桔梗。」
「……茅。」
お湯が沸いて、私は茅さんが焙煎したというコーヒー豆で、コーヒーを淹れていた。相変わらずいい香りのするコーヒー豆だ。でもこの間飲んだものとは違う。たぶん違う種類の豆なんだろうな。
茅さんと母さんが対峙したとき、コーヒーの力で空気が軽くなったのを覚えている。だけど今日のこの雰囲気は軽くなるとは思えない。
「連絡一つよこさないから、この国にいることも知らなかった。」
「お前は連絡してんの?」
「姉さんには連絡した。姉さんはこっちに今いないから、勝手にしろとしか言われなかったが。」
「だろうな。」
コーヒーを淹れて、カップに三つ注いだ。そのうち二つを手に持つと、リビングの彼らの前に置いた。
「どうぞ。」
「桜。ちょっと待ってな。まずこいつからの話を終わらせる。」
「高校生にこんな遅くまで、お前は男の部屋に置いておくのか。相変わらず常識がない奴だ。」
「んだと?」
「だいたいなんだ。その入れ墨は。一つならともかく、どれだけ入れてるんだ。社会人としてどうなんだその格好は。」
うーん。スーツは着てるけど、たしかにワイシャツの襟から入れ墨が見え隠れしてるもんな。確かに社会人としてどうなんだと言われたら反論できないかも。
「あーあ。この国の奴は固えよ。もっと柔軟にいこうぜ。」
「そこまでまだ寛大じゃないんだ。」
兄弟喧嘩?もう帰ろうかなぁ。そんなモノに巻き込まれたくないぞ。
「桜さん。あなたは茅をお客さんだと言っていたが、それだけの関係なのか。」
「その通りですけど。」
「葵のところに居りゃ、それだけの関係じゃないかもなぁ。」
「茅さん!」
私は慌ててそれを否定した。確かに彼とは何もない。今のところ。
「葵か……。」
苦々しい顔をしながら、彼は目の前のコーヒーに口を付けた。
「美味しい。」
「だろ?百合から送ってもらったんだぜ?」
「姉さんから?」
「お前が全くコーヒーとか興味ない奴だから、俺んところに送ってもらってんだよ。いいもんがあれば、商品化出来るし。」
何となく口を付けるのをためらった。百合さんから送ってもらったっていうのに。たぶん彼女は、きっと私の何歩先も行っている人なんだから。
それから柊さんのことも。
「あぁ。桜。コーヒーには罪はねぇよ。」
茅さんは私の気持ちをわかったように声をかけてくれた。少し微笑んで、私はコーヒーに口を付けた。その様子に、先生は不思議そうに私たちを見ている。
「茅。ずいぶん若い恋人を捕まえたんだな。」
「は?」
コーヒーを吹きそうになった。
「違いますから。」
「そうまっすぐ否定するな。バカが。」
「だって……。」
「……まるで恋人だなと思っただけです。気にしないでください。こんな人の恋人になったら、あなたの方が大変ですから。」
先生の言葉に茅さんはムキになったようにいう。
「言っとくけどな、こいつがつきあっている奴の方がよっぽど大変なんだよ。」
「前科持ちが何を言ってるんですか。」
冷たい言い方で、先生は私を見る。
「私が教師になれたのは、姉のおかげです。そのおかげで姉も前科持ちになりましたが、今は幸せならそれで結構。私も生活できていますから。」
「変な男に引っかかったおかげで、みんなが苦労しただろう。」
「梓兄さんのことか?」
「あぁ。」
「あれは梓兄さんのせいであって、あの男のせいじゃないだろう。」
あぁ。やっぱりこの人も柊さんのことを知っている。だけど何だろう。あまり茅さんほど恨みがないように思える。
たぶんそれは彼のさっきの言葉からでもわかる。
「今は生活できているからそれでいい。」
過去のことは振り返らないような人だ。前向きでうらやましい。
「すいません。もう閉店でしょうか。」
柊さん?に似てる声?振り返ると、そこには藤堂先生がスーツを着てそこにいた。
「藤堂先生?」
「桜さんでしたか。」
「あ、閉店は二十一時なんです。」
「遅かったか。」
彼はため息をついて、恨めしそうに入り口をみた。
「明日は定休日です。明後日どうぞ。」
「明後日は歓迎会とかで、来れそうにないんですよ。」
「……木曜以外なら、開いてますから。」
「あなたは今から帰るんですか。」
「はい。そのつもりですが。」
「……こんな夜に。」
「二十一時は高校生でも外にいれる時間ですからね。」
「外国では考えられない。」
「ここは外国ではありませんから。」
私はそういって彼の横を通って帰ろうとした。すると彼も後ろを着いてくる。
「弟を知っていると言っていましたね。」
「はい。」
「何か聞きましたか。」
私は足を止めて、後ろを振り向いた。そして彼を見上げる。
「何を聞いているというのですか。やましいことでもあるのですか?」
「いいえ。特には。」
ちょっと気後れした感じ。そういうところは柊さんに似ていない。強引さはないのだ。オールバックでスーツで、目つきが悪い。それだけでヤクザではないかという噂もあるけれど、ぜんぜんそんな風に見えない。柊さんのような強さは無い気がする。
私は振り返ってまた大通りに出る。するとその出口に、茅さんが立っていた。
「茅さん。」
「待ってた。ちょっと話が……。」
しかし彼は私の後ろから出てきた人に、言葉を失った。
「桔梗。」
「……茅。」
お湯が沸いて、私は茅さんが焙煎したというコーヒー豆で、コーヒーを淹れていた。相変わらずいい香りのするコーヒー豆だ。でもこの間飲んだものとは違う。たぶん違う種類の豆なんだろうな。
茅さんと母さんが対峙したとき、コーヒーの力で空気が軽くなったのを覚えている。だけど今日のこの雰囲気は軽くなるとは思えない。
「連絡一つよこさないから、この国にいることも知らなかった。」
「お前は連絡してんの?」
「姉さんには連絡した。姉さんはこっちに今いないから、勝手にしろとしか言われなかったが。」
「だろうな。」
コーヒーを淹れて、カップに三つ注いだ。そのうち二つを手に持つと、リビングの彼らの前に置いた。
「どうぞ。」
「桜。ちょっと待ってな。まずこいつからの話を終わらせる。」
「高校生にこんな遅くまで、お前は男の部屋に置いておくのか。相変わらず常識がない奴だ。」
「んだと?」
「だいたいなんだ。その入れ墨は。一つならともかく、どれだけ入れてるんだ。社会人としてどうなんだその格好は。」
うーん。スーツは着てるけど、たしかにワイシャツの襟から入れ墨が見え隠れしてるもんな。確かに社会人としてどうなんだと言われたら反論できないかも。
「あーあ。この国の奴は固えよ。もっと柔軟にいこうぜ。」
「そこまでまだ寛大じゃないんだ。」
兄弟喧嘩?もう帰ろうかなぁ。そんなモノに巻き込まれたくないぞ。
「桜さん。あなたは茅をお客さんだと言っていたが、それだけの関係なのか。」
「その通りですけど。」
「葵のところに居りゃ、それだけの関係じゃないかもなぁ。」
「茅さん!」
私は慌ててそれを否定した。確かに彼とは何もない。今のところ。
「葵か……。」
苦々しい顔をしながら、彼は目の前のコーヒーに口を付けた。
「美味しい。」
「だろ?百合から送ってもらったんだぜ?」
「姉さんから?」
「お前が全くコーヒーとか興味ない奴だから、俺んところに送ってもらってんだよ。いいもんがあれば、商品化出来るし。」
何となく口を付けるのをためらった。百合さんから送ってもらったっていうのに。たぶん彼女は、きっと私の何歩先も行っている人なんだから。
それから柊さんのことも。
「あぁ。桜。コーヒーには罪はねぇよ。」
茅さんは私の気持ちをわかったように声をかけてくれた。少し微笑んで、私はコーヒーに口を付けた。その様子に、先生は不思議そうに私たちを見ている。
「茅。ずいぶん若い恋人を捕まえたんだな。」
「は?」
コーヒーを吹きそうになった。
「違いますから。」
「そうまっすぐ否定するな。バカが。」
「だって……。」
「……まるで恋人だなと思っただけです。気にしないでください。こんな人の恋人になったら、あなたの方が大変ですから。」
先生の言葉に茅さんはムキになったようにいう。
「言っとくけどな、こいつがつきあっている奴の方がよっぽど大変なんだよ。」
「前科持ちが何を言ってるんですか。」
冷たい言い方で、先生は私を見る。
「私が教師になれたのは、姉のおかげです。そのおかげで姉も前科持ちになりましたが、今は幸せならそれで結構。私も生活できていますから。」
「変な男に引っかかったおかげで、みんなが苦労しただろう。」
「梓兄さんのことか?」
「あぁ。」
「あれは梓兄さんのせいであって、あの男のせいじゃないだろう。」
あぁ。やっぱりこの人も柊さんのことを知っている。だけど何だろう。あまり茅さんほど恨みがないように思える。
たぶんそれは彼のさっきの言葉からでもわかる。
「今は生活できているからそれでいい。」
過去のことは振り返らないような人だ。前向きでうらやましい。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる