遠くて近い 近くて遠い

神崎

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真実 は 棄児

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 手を握られてコンビニに到着する。そこには見覚えのある黒い車が停まっていた。コンビニのその外にはさっきまで運転していた男が煙草を吹かしていた。
「ボスは?」
「中です。」
 コンビニの中を見ると、店員がびくびくした表情になっている。それはそうだろう。ヤクザのような風貌の男が店内をうろうろしているのだから。
「仕方ない。中に入ろうか。」
 手を引かれて、彼と一緒にコンビニの中に入る。そして缶コーヒーのコーナーでコーヒーを物色している桐彦さんに声をかけた。
「ボス。」
 すると桐彦さんは少し不機嫌そうにこちらをみた。
「ずいぶん仲がいいようだな。」
 彼の視線は、私たちの繋がれている手に注がれていた。
「こうでもしないとこの人は着いてこなかったから。」
「いい言い訳だ。まぁいい。朝彦。これを買え。」
「はいはい。」
 そう言って彼は缶コーヒーを人つてに取ると、手を離してレジへ向かった。
「……昔はこんな感じではなかったはずだが。」
「昔?」
 見下ろされて、私も見上げた。でもサングラスで彼の表情はよく見えない。わかるのは口調だけで、それは明らかに不機嫌そうだった。

 車にまたもや押し込まれるように乗り、助手席に山口さんが乗った。そして隣には桐彦さんがいる。
 桐彦さんは私が隣にいても、携帯電話にかかってきた電話の応対をずっとしていた。どうやら忙しい人らしい。所々「やれ」とか「潰せ」とかいう単語が聞こえてきたが、それは聞いて聞かないふりをした。
 私には関係ない世界なんだから。
 ところが私の部屋のアパートの前に車が停まったとき、予想外のことが起きた。
「ありがとうございました。」
 そう言って私は車を降りた。するとそれに続いて桐彦さんも降りてきたのだ。
「え?」
「お前が今住んでいるところが見てみたい。」
「だめですよ。」
「何故だ。」
「……散らかっているし……。」
「かまわない。」
「それに……初対面の男性を部屋に入れることなど……。」
「初対面?」
 すると彼は口元だけで笑った。
「本当に何も覚えていないのだな。お前。」
 覚えていない?何で?何を?
 混乱していると、彼の後ろで車が行ってしまった。
「えー?山口さん?」
「何だ。お前は、朝彦とそんなに仲がいいのか。」
「そこまで仲がいいっていう訳じゃないんですけど、上司ですし、それに……。」
「恋人か。」
「違います。」
「だったらいい。よけいな男の影を作るな。」
 私の部屋はアパートの二階。二〇三。鍵を開けると、電気を付けた。
「狭い部屋だな。」
「一人で暮らすのですから、これくらいで十分です。」
 スーツのジャケットを脱ぐと、ベッドに腰掛けた。すると彼もスーツの上着を脱いだ。
「女が単身で住んでいる部屋には初めて入る。」
「……一つ……聞いてもいいですか。」
「何だ。」
「あなたも「魔物」なんですか。」
 すると彼は堪えきれないように口元を手で隠した。そしてそれは徐々に笑い声になり、押さえきれなかったようだ。
「久しぶりにこんなに笑った。女。とぼけた質問をするな。」
「ですが……。」
「お前が「魔物」の存在をどう受け取っているかなど知らん。だが、ワタシもお前のいう「魔物」だ。」
 そう言って彼はその手の中で、一つのナイフを出した。ずいぶん変わった形のナイフだ。刃先が二つに割れている。こんなので刺されたら、肉ごと持っていかれるだろうな。
「これが見えるということは、やはりお前も「魔物」か。」
「……この間、山口さんから知らされました。」
「ふん。でも肝心なことを朝彦はお前に話していないようだ。」
 肝心なこと?なんだって言うの?
 すると桐彦さんはベッドに座っている私の横に座った。そしてナイフを消す。まるでマジックだ。
「お前は元々魔界にいた。」
「……。」
「だが生まれはここだ。」
「魔物同士の子供というわけですか。」
「違う。お前は、人間に作られた魔物だ。」
 人間に作られた?そんなわけ無い。私は、母親も居て、父親も居て……。
「違います。私は父も母も居ます。」
「人間のな。」
「……彼らが嘘を付いていたと?」
「お前は奴らの子供じゃない。生まれたての赤子ほどまで若返らせたお前を、拾って育てただけだろう。」
「……。」
 それは確かに思うところがある。私は父にも母にも似ていないから。それが元で彼らが喧嘩をしていたのだと思っていた。でもそれは母が誰にも似ていない私を生んだからだと思った。
 浮気か何かをして売んだ私がきっかけで、喧嘩をしているのかと思っていた。
「私は拾われた……。」
「あぁ。」
「捨てた人は……誰なんですか。」
「……ワタシだ。」
 桐彦さんは淡々と私に離してくれた。それは残酷な現実だった。
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