夏から始まる

神崎

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 撮影は一日中あるわけではないが、モデルは変わる。梅子たちは午前中だけ。午後からはもっと露出が激しいモデルがやってくる。それはコンビニでも、十八歳以下は買えない雑誌だ。
 梅子が載るのはあくまで青年紙。水着の面積は前よりも少なくなっていたが、こんな人たちとは違うようだ。ひものようなビキニを見て梅子は少しため息を付いた。
 将来もしかしたら自分もこれを着ないといけないかもしれない。そのときは覚悟をしないといけないだろう。
「ふざけんなって言ってんだろ?お前もう切るぞ。」
「すいません。ごめんなさい。」
「だったら画像消せ。今すぐだ。どこかに送ってないだろうな。」
 珍しく中本の怒鳴り声が聞こえた。梅子は驚いてシャツを着ると、すぐに表に出ていった。するとそこにはさっきまで一緒に写真を撮られていたモデルがいる。そのそばには怒ったような中本と、アキミがいた。アキミは呆れたような表情だった。
「あの……。どうしたんですか?」
 他のモデルは遠巻きに見ているだけだったが、そのモデルの一人に声をかけると、呆れたように言う。
「香織ちゃんの写真を撮ってたみたい。」
「あたしの?」
 驚いて頭を下げているモデルを見た。
「香織ちゃんさ、さっき撮影の前に誰かと話してたでしょ?」
「幼なじみが偶然来てたんです。」
「幼なじみ?彼氏とかじゃなくて?」
「えぇ。今彼氏いないし。」
 彼氏と言われてまだ啓介の顔が浮かぶ。だがそれを払拭した。
「うまいこと、その男の子と二人っきりみたいに写真撮ってたみたい。それをネットに流せば、香織ちゃんこの仕事できなくなるじゃん。」
「はぁ……でもあたし、まだここと契約しているわけじゃないし……。」
「アルバイト感覚かもしれないけどさ、やっぱ一人写る人がいるってことは一人は落ちてるのよ。妬むのよね。」
 蹴落とされるような世界だ。だから少しでも隙を見せてはいけない。中本から言われていたことだ。だから今日、菊子や武生が来ていたからと言って話しかけたのは、梅子にとって迂闊だったかもしれない。
 だからその写真を撮っていた彼女にとって必死だったということもあるし、あまり責められるわけではない。
「……あたしも悪かったんです。知り合いが来ていたからって簡単に話をしてしまったから。」
「別にそれはいいんじゃない?あたしだって知り合いがいれば挨拶するし話しくらいするわ。それを撮る方が悪いのよ。」
 そういってモデルは笑っていた。心配させまいとしているのだろう。
「次はないぞ。」
 そういって中本はバスが来たのを確認して、そちらに向かう。次のモデルが来たらしい。
「あのバスに乗って帰るから。駅までね。」
「はい。」
 バッグを持って、先にある道路まで歩く。サンダルはヒールがなくて良かった。砂浜はさすがに歩きにくい。
「香織ちゃん。」
 そのとき中本から梅子は声をかけられた。
「はい。」
「次の撮影は見たい?」
「本当は見たいんです。でも……いていいんですか?」
「良いよ。別に。見るだけでしょ?ちょっと過激かもしれないけど。」
「女同士ですから。」
「それもそうだね。温泉行けばみれるものだし。」
 軽口を叩きながら、中本は梅子をまたテントに連れてきた。そのときだった。
 降りてきたモデルたちの一人が、梅子を見て驚いたように見て近づいてきた。
「あなた、梅子って子じゃない?」
「はい……。」
 見覚えがない女性だった。だが女性はこちらを見て笑っている。
「古くさい名前だって、林田さんが言ってたもん。森本さんも。」
 その名前に、聞き覚えがある。そして改めて女性をみる。思い出した。
「あのときの……。」
 梅子は夏の初め、ある芸能事務所に行った。だがそこはグラビアやイメージビデオを撮るような会社だったが、時を見てAVに斡旋させるような所だったのだ。未成年の梅子もそうやって売られそうになり、とっさの機転で事なきを得た。
 そして目の前の女性は、そのときの受付嬢だ。モデルだろうと思っていたが、会社が無くなりやはりこういう仕事をしないと食べていけないのだろう。
「あなた、こんな所でモデルしてるの?モデル何かしなくても、すぐ売れるじゃない。蝶子の娘なんでしょ?前みたいにお母さんのコネを使えば?」
 その言葉に周りの人たちがざわついた。
「蝶子?あの?」
「AV女優だろ?あの一昔前の。「残業OLシリーズ」の。」
「へぇ。やっぱり有名な人の子供だったんだ。」
 しまった。中本は心の中で舌打ちをした。そしてあわてたように梅子に近寄る。
「蘭子。やめろ。」
「中本さんが誘ったの?そっか。昔、蝶子の作品沢山撮ってたもんね。今でも繋がりあるんだ。」
「蘭子。それは誰にも言ってないことだ。」
「え?何で?」
「少し考えれば当たり前のことだろう?口が軽いのもいい加減にしろ。」
「……かばうんだ。すごーい。もしかしてつきあってんの?」
「いい加減にしろ。香織ちゃん。悪い。今日はやっぱり帰りなよ。」
 すると梅子は首を横に振る。
「香織ちゃん。」
「別にお母さんを隠す必要ないです。あたしがお母さんの子供で生まれたのって、別に選んで生まれた訳じゃないし。それより撮影が見たいです。あたし、写らなくても良いからこういう仕事に興味があるんです。」
「……。」
「……見せてくださいね。大人のグラビア。あたしは色気不足だから、勉強させてもらいます。」
 梅子の精一杯の嫌みだったかもしれないし、本心だったかもしれない。だがその蘭子と言われた女は不機嫌そうに、バッグを持って更衣室へ入っていく。
「香織ちゃん。本音?」
「はい。」
「……そっか。」
 その様子を見ていたアキミが、梅子に声をかける。
「香織ちゃん。ちょっと来て。」
「はい。」
 まだモデルたちは着替えているようで、アキミたちはその用意をしていた。
「悪いけどこのコットンをこの大きさに切って、このケースの中に入れてくれる?さっきの撮影で切れちゃって。」
「はい。」
「それからそれが終わったら、車に行ってファンデーションを取ってきて。これと同じやつ。」
「はい。」
 誰の娘でも生まれてくるものは選べない。アキミはその言葉が好きだった。
 アキミも有名なメイクアップアーティストの父を持っていた。こんな雑誌のメイクなどしていない、ヨーロッパの方で有名な化粧品の会社と提携を組んでいて、シーズンごとにあるショーのメイクを担当していた。
 だからといってこれくらいだと言われたくなかった。それはアキミの意地だったのかもしれない。だが十八歳未満は手が出せないような雑誌でも、手を抜いてメイクはしたくなかった。
「覚悟の上ね。」
 よく似ていた。自分もそうしていたのだから。有名な人の息子だから同じことが出来ると思って欲しくなかった。変にプレッシャーがかかるから。
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