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Boy's Style
秋
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5
新学期を迎えてすぐに試験があった。夏休みの間、補習のせいで勉強ばかりしていた僕は、やはり学年で上位の順位をとることができたが、君はさらに上をいく。さらに勉強ばかりしている特進クラスの人たちを押さえ、トップ五に入っていた。
廊下に張り出された成績順を見て、特進クラスの人たちも彼女の点数に驚いていたようだったが、肝心の君は興味がなさそうに相変わらず教室の中で文庫本を読んでいた。髪が秋の日差しを受けて、少し茶色く、そしてきらきらと輝いて見える。ひいては君が輝いて見えた。
試験が終わると、にわかに校内の雰囲気が落ち着きがなくなる。十月の三週目、文化祭と体育祭をするからだ。一日目と二日目は文化祭。三日目は体育祭。クラスの中は体育の部と、文化の部の責任者を決めるので揉めていた。
当然のようにそんな面倒なことを引き受けようとしている人はいない。僕だってそうだ。成績上位に入れたのを、今度はキープしないと周りの目がどう思うかわからない。僕は塾なんかにも行っていないし、できればそんなことで時間をとらせたくなかった。
最終的にじゃんけんで決めようというくらい、せっぱ詰まっていたようだった。もうクラス委員長もどうしたらいいのかわからなかったのだろう。
そのときだった。満を持して、君が手を挙げた。
「私、文化の部の責任者します。」
その行動にクラスのみんなが驚いていたようだった。何をするにも我関せずといった感じの君が、文化の部の責任者をすると言いだしたからだ。
君の発言にみんなは特に反対することもなく、君が責任者になった。そして後もう一人。男子がすることになっている。僕はその役に急に入りたかった。責任者同士の集まりや放課後も君と残れるかもしれないという下心があるからだ。
しかしここで急に「僕がします」と手を挙げれば、さっきまでしたくないと言っていたのに、どうして急に責任者をすると言い出すのだろうと思われるだろう。そして君に気があることを他人に知られてしまう気がした。
そこで女子は決まったので男子は、男子同士で話し合うことになった。
男子同士で集まり、誰がするかを話し合う。みんな「部活があるから」「塾があるから」と消極的だ。意味のない話し合いを続けていたら、一人の男子が手を挙げた。
「俺するよ。じゃんけんなんかで決めても仕方ないでしょ?やる気が少しでもある人がやった方がいいじゃん。」
その男は中学から知っている男だった。サッカー部のイケメン。顔面偏差値だったら僕なんかぶっちぎって追い抜かれているような男。サッカーも小学生の頃からスクールに入っていて、一年生からベンチ入りをしていると聞いている。
浅黒い肌と適度に付いた筋肉。汗くささとは無縁のようにさわやかな男、佐久間武。
やっと文化の部の責任者が決まり、君はあいつと並んで教卓の横に立っていた。委員長や副委員長から「よろしくね」と声をかけられ、クラスの人たちが拍手をしている中、僕は拍手がどうして模できなかった。
その姿がとても絵になっていて、まるで結婚式を挙げているようにも見えたから。
それから君はあいつに呼ばれたり、あいつを呼んだりして「実行委員会」へ並んでいくことが多くなった。
どうしてあのとき僕がやると言えなかったのだろう。それをいつも悔やんでいる。
「佐久間君。」
君はいつもそういってあいつを呼び、教室の中から出て行く。僕は相変わらず、興味のない話題に相づちを打ちながら「友人」とバカな話を繰り返すだけの無能なピエロだった。
6
文化祭当日。僕たちのクラスは、お化け屋敷をすることになった。僕はドラキュラの扮装をして、顔に白いメイクをされ髪をオールバックにした。ドラキュラの格好をした僕は、鏡の前でとても笑えたもんじゃなかったが、他の女子が似合っていると言われ嬉しくもないのに笑顔を浮かべた。
もし君に「似合っている」と言われたら、ずっとこの格好をしているかもしれないのに。
暗くした教室の中。迷路のように積み上げられた椅子や机。薄い明かりの中、僕はじっとそこで待っていた。誰かが来たら足音でわかるからと言われ、僕はじっとそこで待っていた。
ぺた。ぺた。ぺた。
足音が聞こえ、誰かがきたのがわかる。僕は意を決してその人の前にたち、両手を上げてマントを大げさに広げた。
「お前の血を吸ってやる!」
お決まりの台詞をはくが、何とも間抜けなものだ。自分でもそう思う。
「きゃあ!」
しかし驚いて床にしゃがみ込んでいたのは白い着物を着た君だった。君の声に驚いて教室の明かりがつき、クラスの奴らが集まってきた。
「どうしたの?」
心配そうに君に駆け寄る。君は立ち上がったとき、涙を浮かべていた。本当に驚いたのか、怖かったのか。
「まだ入ってないんだよ。お前、身内を驚かせてどうするの。」
あいつが君の肩を抱き抱えるように、外に出て行った。まるでヒールから守るナイトのように。
絶望した。花火大会の時も絶望したが、今回は僕に対して不信感を君に与えてしまった。その証拠に、君は僕の前を避けるように目を逸らす。
この気持ちを伝える勇気はない。だけど、せめて嫌われたくなかった。
新学期を迎えてすぐに試験があった。夏休みの間、補習のせいで勉強ばかりしていた僕は、やはり学年で上位の順位をとることができたが、君はさらに上をいく。さらに勉強ばかりしている特進クラスの人たちを押さえ、トップ五に入っていた。
廊下に張り出された成績順を見て、特進クラスの人たちも彼女の点数に驚いていたようだったが、肝心の君は興味がなさそうに相変わらず教室の中で文庫本を読んでいた。髪が秋の日差しを受けて、少し茶色く、そしてきらきらと輝いて見える。ひいては君が輝いて見えた。
試験が終わると、にわかに校内の雰囲気が落ち着きがなくなる。十月の三週目、文化祭と体育祭をするからだ。一日目と二日目は文化祭。三日目は体育祭。クラスの中は体育の部と、文化の部の責任者を決めるので揉めていた。
当然のようにそんな面倒なことを引き受けようとしている人はいない。僕だってそうだ。成績上位に入れたのを、今度はキープしないと周りの目がどう思うかわからない。僕は塾なんかにも行っていないし、できればそんなことで時間をとらせたくなかった。
最終的にじゃんけんで決めようというくらい、せっぱ詰まっていたようだった。もうクラス委員長もどうしたらいいのかわからなかったのだろう。
そのときだった。満を持して、君が手を挙げた。
「私、文化の部の責任者します。」
その行動にクラスのみんなが驚いていたようだった。何をするにも我関せずといった感じの君が、文化の部の責任者をすると言いだしたからだ。
君の発言にみんなは特に反対することもなく、君が責任者になった。そして後もう一人。男子がすることになっている。僕はその役に急に入りたかった。責任者同士の集まりや放課後も君と残れるかもしれないという下心があるからだ。
しかしここで急に「僕がします」と手を挙げれば、さっきまでしたくないと言っていたのに、どうして急に責任者をすると言い出すのだろうと思われるだろう。そして君に気があることを他人に知られてしまう気がした。
そこで女子は決まったので男子は、男子同士で話し合うことになった。
男子同士で集まり、誰がするかを話し合う。みんな「部活があるから」「塾があるから」と消極的だ。意味のない話し合いを続けていたら、一人の男子が手を挙げた。
「俺するよ。じゃんけんなんかで決めても仕方ないでしょ?やる気が少しでもある人がやった方がいいじゃん。」
その男は中学から知っている男だった。サッカー部のイケメン。顔面偏差値だったら僕なんかぶっちぎって追い抜かれているような男。サッカーも小学生の頃からスクールに入っていて、一年生からベンチ入りをしていると聞いている。
浅黒い肌と適度に付いた筋肉。汗くささとは無縁のようにさわやかな男、佐久間武。
やっと文化の部の責任者が決まり、君はあいつと並んで教卓の横に立っていた。委員長や副委員長から「よろしくね」と声をかけられ、クラスの人たちが拍手をしている中、僕は拍手がどうして模できなかった。
その姿がとても絵になっていて、まるで結婚式を挙げているようにも見えたから。
それから君はあいつに呼ばれたり、あいつを呼んだりして「実行委員会」へ並んでいくことが多くなった。
どうしてあのとき僕がやると言えなかったのだろう。それをいつも悔やんでいる。
「佐久間君。」
君はいつもそういってあいつを呼び、教室の中から出て行く。僕は相変わらず、興味のない話題に相づちを打ちながら「友人」とバカな話を繰り返すだけの無能なピエロだった。
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文化祭当日。僕たちのクラスは、お化け屋敷をすることになった。僕はドラキュラの扮装をして、顔に白いメイクをされ髪をオールバックにした。ドラキュラの格好をした僕は、鏡の前でとても笑えたもんじゃなかったが、他の女子が似合っていると言われ嬉しくもないのに笑顔を浮かべた。
もし君に「似合っている」と言われたら、ずっとこの格好をしているかもしれないのに。
暗くした教室の中。迷路のように積み上げられた椅子や机。薄い明かりの中、僕はじっとそこで待っていた。誰かが来たら足音でわかるからと言われ、僕はじっとそこで待っていた。
ぺた。ぺた。ぺた。
足音が聞こえ、誰かがきたのがわかる。僕は意を決してその人の前にたち、両手を上げてマントを大げさに広げた。
「お前の血を吸ってやる!」
お決まりの台詞をはくが、何とも間抜けなものだ。自分でもそう思う。
「きゃあ!」
しかし驚いて床にしゃがみ込んでいたのは白い着物を着た君だった。君の声に驚いて教室の明かりがつき、クラスの奴らが集まってきた。
「どうしたの?」
心配そうに君に駆け寄る。君は立ち上がったとき、涙を浮かべていた。本当に驚いたのか、怖かったのか。
「まだ入ってないんだよ。お前、身内を驚かせてどうするの。」
あいつが君の肩を抱き抱えるように、外に出て行った。まるでヒールから守るナイトのように。
絶望した。花火大会の時も絶望したが、今回は僕に対して不信感を君に与えてしまった。その証拠に、君は僕の前を避けるように目を逸らす。
この気持ちを伝える勇気はない。だけど、せめて嫌われたくなかった。
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