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Boy's Style
冬
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7
文化祭と体育祭が終わると、本格的に寒くなってくる。この間まで暑い、暑いと言っていたのが嘘のようだ。
しかし僕の心の中はまだ吹雪が打ち付けている。文化祭の時以来、君は僕の方を見なくなった。代わりに佐久間が君に話しかけるようになった。
前の席で親しげに何か話しているのを見ると、思わずあいつを殺したくなってしまう衝動におそわれる。しかしそんなことはできないのだ。僕はまだ未成年だけど前科はつきたくないし、そんなことをしたらますます君から軽蔑されるだろう。
ため息を付きながら、それでもやらないといけないことはある。文化祭を挟んだのもあるのかもしれないが、成績が落ちてしまったのだ。担任から「体調が悪いのか。それとも夏の成績は奇跡だったのか。」と聞かれ、僕はふぬけのように「はあ。」とか「はい。」としか答えられなかった。
そのため僕はまた図書館に通うことにした。勉強をするのが半分。もう半分は君に会えるかもしれないと言う下心が半分。
会ったところで逃げられるかもしれないのに。
英語を勉強していたときだった。英和辞典を教室に忘れてきたのを思い出し、図書館にあるはずだと探していたときのことだった。
英和辞典を見つけて手を伸ばすと、細い指がその時点に伸びてきた。驚いてそちらを見ると、そこには君がいる。君は驚いた表情をして、指を引っ込めた。そして次の瞬間、小動物のように怯えた表情をしていた。
「……ごめん。先、借りていいよ。」
絞り出した声は少しうわずっていたのかもしれない。なんせ君に話しかけたのは、これが最初なのだから。
僕は英和辞典をあきらめようとしたときだった。
「秋本君。」
僕の名前を急に呼ばれた。驚いて僕は振り返る。
「あの……。私、あのときごめんなさい。大げさに驚いてしまって。」
「文化祭の時?」
君は首振り人形のようにうなずいた。その姿も可愛らしいと思ってしまう。夢のようだ。こんな会話を君とできるなんて。
「僕もよく確認をすれば良かったんだ。よく考えればまだお客さんが入っている時間じゃなかったんだ。」
「でも……佐久間君が大げさに秋本君を責めたから。」
「気にしてないよ。」
「ずっと……謝りたかったの。」
あれから何ヶ月たっていたのだろう。君はずっとそのことを気にしていたのかもしれない。そして僕にそれを謝りたかったんだ。だから君は僕の方を見て、緊張しているように視線を逸らしていたんだ。
都合のいい解釈だけど。
だけどそうしないと、君が惰性で僕に謝っていると思いたくなかった。
「これ……。ずっと渡そうと思って、包装紙がちょっとよれよれになっちゃったけど……。」
君は通学用の鞄の中から、ピンク色の包装紙に包まれた小さなものを取り出した。
「でも……。」
「受け取ってくれないと、私の気持ちが晴れないの。」
君はそういって僕にそれを渡してくれた。それを受け取る僕の手がふるえていたことに、気が付いてほしくなかった。
8
君が僕にプレゼントしてくれたものは、今からの季節に必要な手袋だった。僕はきっとそれをぼろぼろになるまで使うだろう。
本当だったら使いたくなくて閉まっておいて大事にしたかったけれど、使っていないところを見た君がまた気を悪くするかもしれないと思ったのだった。
はじめて手袋をして登校した日。君はわずかに微笑んでいた気がした。嬉しかったのかもしれない。
僕は手袋のお礼をしないといけない。そう思っていた。しかし今まで女子と触れ合ったこともなければ、つきあったこともない。自分に関係会る女性と言えば、母親くらいしかなかった僕に何が君が喜ぶかなんて知る由もなかった。
同じように手袋にすればいいのだろうか。学校が終わった後、僕はそんなことを思いながら、街角のショーウィンドウを見ていた。
しかし君に似合う手袋なんてあるのだろうか。君の綺麗さ、かわいさを引き立てるようなものがどこにあるのだろうか。ひたすら悩み、僕は結局最初に見た手袋を選んでそれを購入した。
君は喜んでくれるのだろうか。わからない。でもきっと喜んでくれる。そう信じたい。
店員に「プレゼントですか?」と聞かれ、「はい」と答えると、店員は迷わずに緑と赤の包装紙でラッピングを始めた。あぁ、クリスマスが近いから、クリスマスプレゼントだと勘違いしたのかもしれない。
僕は包装紙に包まれた手袋とそれを入れた紙袋を渡され、店を出る。するとそこには君が男と歩いてくるのを見た。その男は夏に見た男だった。
「……。」
あのときと同じような笑顔で、君はそいつに笑いかけていた。普段なら絶対見せないような笑顔だった。
そうだった。君にはそういう男がいたんだった。佐久間でも、僕でもかないはしない。大人の男が君の相手だった。すっかり忘れていたんだ。
なるべく二人をみないように、僕は逆方向へ歩いていった。そして駅のゴミ箱にそのプレゼントを捨てようとした。でも捨てられなかった。結局僕はそのプレゼントをまた手にとった。そして空っ風が心の中まで吹いているような気がした。
文化祭と体育祭が終わると、本格的に寒くなってくる。この間まで暑い、暑いと言っていたのが嘘のようだ。
しかし僕の心の中はまだ吹雪が打ち付けている。文化祭の時以来、君は僕の方を見なくなった。代わりに佐久間が君に話しかけるようになった。
前の席で親しげに何か話しているのを見ると、思わずあいつを殺したくなってしまう衝動におそわれる。しかしそんなことはできないのだ。僕はまだ未成年だけど前科はつきたくないし、そんなことをしたらますます君から軽蔑されるだろう。
ため息を付きながら、それでもやらないといけないことはある。文化祭を挟んだのもあるのかもしれないが、成績が落ちてしまったのだ。担任から「体調が悪いのか。それとも夏の成績は奇跡だったのか。」と聞かれ、僕はふぬけのように「はあ。」とか「はい。」としか答えられなかった。
そのため僕はまた図書館に通うことにした。勉強をするのが半分。もう半分は君に会えるかもしれないと言う下心が半分。
会ったところで逃げられるかもしれないのに。
英語を勉強していたときだった。英和辞典を教室に忘れてきたのを思い出し、図書館にあるはずだと探していたときのことだった。
英和辞典を見つけて手を伸ばすと、細い指がその時点に伸びてきた。驚いてそちらを見ると、そこには君がいる。君は驚いた表情をして、指を引っ込めた。そして次の瞬間、小動物のように怯えた表情をしていた。
「……ごめん。先、借りていいよ。」
絞り出した声は少しうわずっていたのかもしれない。なんせ君に話しかけたのは、これが最初なのだから。
僕は英和辞典をあきらめようとしたときだった。
「秋本君。」
僕の名前を急に呼ばれた。驚いて僕は振り返る。
「あの……。私、あのときごめんなさい。大げさに驚いてしまって。」
「文化祭の時?」
君は首振り人形のようにうなずいた。その姿も可愛らしいと思ってしまう。夢のようだ。こんな会話を君とできるなんて。
「僕もよく確認をすれば良かったんだ。よく考えればまだお客さんが入っている時間じゃなかったんだ。」
「でも……佐久間君が大げさに秋本君を責めたから。」
「気にしてないよ。」
「ずっと……謝りたかったの。」
あれから何ヶ月たっていたのだろう。君はずっとそのことを気にしていたのかもしれない。そして僕にそれを謝りたかったんだ。だから君は僕の方を見て、緊張しているように視線を逸らしていたんだ。
都合のいい解釈だけど。
だけどそうしないと、君が惰性で僕に謝っていると思いたくなかった。
「これ……。ずっと渡そうと思って、包装紙がちょっとよれよれになっちゃったけど……。」
君は通学用の鞄の中から、ピンク色の包装紙に包まれた小さなものを取り出した。
「でも……。」
「受け取ってくれないと、私の気持ちが晴れないの。」
君はそういって僕にそれを渡してくれた。それを受け取る僕の手がふるえていたことに、気が付いてほしくなかった。
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君が僕にプレゼントしてくれたものは、今からの季節に必要な手袋だった。僕はきっとそれをぼろぼろになるまで使うだろう。
本当だったら使いたくなくて閉まっておいて大事にしたかったけれど、使っていないところを見た君がまた気を悪くするかもしれないと思ったのだった。
はじめて手袋をして登校した日。君はわずかに微笑んでいた気がした。嬉しかったのかもしれない。
僕は手袋のお礼をしないといけない。そう思っていた。しかし今まで女子と触れ合ったこともなければ、つきあったこともない。自分に関係会る女性と言えば、母親くらいしかなかった僕に何が君が喜ぶかなんて知る由もなかった。
同じように手袋にすればいいのだろうか。学校が終わった後、僕はそんなことを思いながら、街角のショーウィンドウを見ていた。
しかし君に似合う手袋なんてあるのだろうか。君の綺麗さ、かわいさを引き立てるようなものがどこにあるのだろうか。ひたすら悩み、僕は結局最初に見た手袋を選んでそれを購入した。
君は喜んでくれるのだろうか。わからない。でもきっと喜んでくれる。そう信じたい。
店員に「プレゼントですか?」と聞かれ、「はい」と答えると、店員は迷わずに緑と赤の包装紙でラッピングを始めた。あぁ、クリスマスが近いから、クリスマスプレゼントだと勘違いしたのかもしれない。
僕は包装紙に包まれた手袋とそれを入れた紙袋を渡され、店を出る。するとそこには君が男と歩いてくるのを見た。その男は夏に見た男だった。
「……。」
あのときと同じような笑顔で、君はそいつに笑いかけていた。普段なら絶対見せないような笑顔だった。
そうだった。君にはそういう男がいたんだった。佐久間でも、僕でもかないはしない。大人の男が君の相手だった。すっかり忘れていたんだ。
なるべく二人をみないように、僕は逆方向へ歩いていった。そして駅のゴミ箱にそのプレゼントを捨てようとした。でも捨てられなかった。結局僕はそのプレゼントをまた手にとった。そして空っ風が心の中まで吹いているような気がした。
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