守るべきモノ

神崎

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褐色

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 店を閉店してそのまま帰ろうと思ったら、大和から声をかけられてそのまま引きずられるようにして、イタリアンのバルへやってきた。そこで昼間にきた女性たち三人とと食事をする。
 だが、意外にもその場で解散になった。女性たちはそのままクラブなり、ホストクラブへ行くのかもしれない。
「やっと終わった……。」
 話を合わせるのが疲れた。そう思いながら、礼二はバッグの中から鍵を取り出す。
「お前さ、あんまり女の影をちらつかせんなよ。」
 会話の中にわざと女がいることを匂わせた。泉のことを直接言ったわけではない。女がいることを匂わせる。すると女たちは急に冷めたらしい。大和はそれを気にしていたのだ。
「良いじゃないですか。普通のことですよ。」
「あの女たちもう店には来ないかもな。」
「店員に惹かれるような店なら、ホストクラブにでも行ってください。俺、そんなこと出来ないから。」
「カッコ付けやがって。お前、聞いてるぞ。昔は結構とっかえひっかえみたいだったのにな。」
「昔の話ですよ。」
 夜の町を歩けば、声をかけてくる女もいる。だがそれについて行きたくない。
「明日、あんたが休みか。ゆっくり休めば?」
「そうします。」
「阿川とだったらまた女が多いかな。」
 その言葉で礼二はずっと言いたかったことを口にする。
「阿川さんを駅までは送らなくても良いですから。」
「何言ってんだよ。この前レイプ魔が出たんだぞ。この辺の繁華街には来ないかもしれないけど、会社はこの近くだし何かあったらこっちの責任になるだろ?」
「俺、迎えに行くから。」
 その言葉に大和は頭をかいた。
「お前も必死だな。取られたくないって言うよりは、自分だけのものにしたいって感じ。そんなに自分色に染めたいか。」
「そんな意味じゃないです。」
「そんな意味だよ。処女だったんだろ?あいつを自分色に染めて、自分以外を見ないようにしてる。そんな風に見えるけどな。」
「……。」
「阿川は窮屈じゃないか。」
「そんなこと……。」
 大通りにでると、少しまた人が多くなった。会社帰りの人たちもまだいるのだ。そのとき、ビルから一人の男が出てくるのをみた。それは春樹だった。思わず礼二は誤魔化すように春樹に声をかける。
「春樹さん。」
 急に声をかけれて、春樹は振り返る。
「礼二さん。あれ?店はもうとっくに終わってますよね。」
「藤枝さんこそ遅かったんですね。」
「担当している作家の原稿待ちでね。」
 良い作家だが筆が遅いのが玉にきずだ。プロットをたてるのに、時間がかかるのだ。プロットさえたててくれれば、原稿は割と早くあがるのだが。
「同僚?」
 春樹は大和を見てそう聞くと、大和は名刺を差し出す。
「「ヒジカタコーヒー」の赤塚です。」
「あぁ、「戸崎出版」の藤枝です。どうも。」
 年頃は礼二と同じくらいの歳頃だろう。だがこっちの方が段違いに落ち着いている。スーツを着ているのも、大人に見えるのだろうか。
「こんな時間まで仕事かな。」
「ううん。ちょっと食事にね。」
「女性と?」
「まぁ……泉には内緒にしてよ。」
「わかった。」
 少し笑って、納得した。店長なのだからこう言うこともあるだろうと、春樹は大らかだった。それがさらに大人に見える。
「藤枝さんも飲みに行きませんか。まだ終電には時間があるし。」
 大和はそういうが、春樹は首を横に振る。
「今日は早く帰ります。昨日、飲みに出ていたし。」
 それに今日は気になることがある。インターネットで知ったニュースだ。もし本当なら、倫子が冷静でいれるわけがない。早く帰ってそばにいてあげたいと思ったのだ。
「あぁ、何か大人数で飲んでたらしいね。」
「うん。まぁ……。しかしあれだな。」
「何?」
「倫子さんの酒の強さは血筋だな。弟の栄輝君もまた相当飲んでもけろっとしてたよ。」
「あぁ……。」
 ウリセンをしているという栄輝は、おそらくつきあいで飲むこともあるのだろう。それで鍛えられたのだ。
「何か……この間から、しらねぇ名前ばっかだな。阿川とつきあってるとそんなもんなのか。」
 いじけたように大和が言うと、春樹は少し笑った。
「泉さんの周りには確かに人が多いですね。しかし倫子さんの周りは少し違う。」
「へ?」
「倫子さんはどうしてもネタのために人とつきあっているところがあって、本来個人主義なんです。わがままですよ。それに泉さんがつきあっている。」
「よくもつな。」
「二人には俺らにはわからない、深い絆があるみたいです。それには恋人だろうと、親だろうと口を出せないんですよ。」
 礼二もその部分には少し諦めているところがあった。本当は一緒に暮らしたいのに、倫子が心配だからと言ってまだ倫子の家にいるのだ。泉に言わせれば、まだ早いからと言うがこう言うのは期間の問題ではないような気がする。
「春樹さんもよく我慢するよな。」
「俺はもう昔からだから、もう諦めたよ。それに……その分、二人の時はそれを埋め合わせるように出来るし。」
 その言葉に礼二は頭をかいた。確かに泉は呼べば来るし、普段一緒にいるので触れられないもどかしさがある。だから二人っきりの時は、燃え上がるのは感覚的にわかる。
「そうだな。」
 すると大和は春樹を見上げて、不思議そうに聞く。
「奥さんと?じゃないな。恋人か何かか?」
「恋人です。赤塚さんはそういう感覚はありませんか。」
「無いな。俺、特定の相手を作らない主義なんです。」
「年齢はいくつですか?」
「三十。」
 見た目は幼いと思った。だが精神的にもまだ幼い。おそらく礼二の上司になるのだろうが、五年前は春樹もそんなものだったのだろうか。イヤ、五年前だったら未来と結婚した時期だ。その前だったら、そういう考え方もあっただろう。
「赤塚さんは、倫子さんの小説をだいぶ読んでますか。」
「ほとんど読んでると思いますよ。」
「だったらこの間の「隠微小説」の短編は読まれましたか。」
「あぁ。なんか作風が変わったと思いましたね。雑誌によって変えてんのかなって思ったくらいで。」
「そう。作風を変えてもらいました。それは、「愛」のある作品を書いて欲しいというリクエストによるものです。」
「「愛」?官能小説に?」
 バカにしたように春樹に言うが、春樹は少し笑って言う。
「「愛」がなければ、セックスはただの肉欲です。オ○ホールを使うのと変わりませんよ。」
 春樹の口からこんな言葉を聞くと思わなかった。意外そうに礼二は、春樹を見上げる。そのとき、礼二の携帯電話にメッセージが届いた。
「やば。もう俺、帰らないと。」
「泉さんが待ってる?」
「家で待ってるらしい。」
「昨日も会って、今日も会うのか。」
 すると礼二は店の方へ足を進める。そして春樹と大和がその場に残された。
「駅ですか?」
「えぇ。藤枝さんも?」
「今日は、泉さんが食事を作ってくれているらしい。」
「え?あんたも小泉先生と同居してるんですか。」
「そうですよ。」
「窮屈じゃないんですか。あんたよりも年下ばかりでしょう?」
「歳を感じたことはありませんね。」
 きっとこんな男があの屋根の下にいたら、きっとトラブルを引き起こすだけだ。おそらく倫子が一番それを感じて嫌がるだろう。
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