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褐色
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家に帰ってシャワーを浴びる。この部屋にはシャワールームしかない。体を洗うだけならそれで十分だ。ワンルームで築三十年の古いアパートの一室。今日も隣の部屋からは、喘ぎ声が聞こえる。露出プレイが好きなのだ。ちゃんとドアや窓を閉めていれば、そうそう喘ぎ声は聞こえない。
大和は棚から本を取り出す。それは雑誌だった。先月発売された「淫靡小説」には、倫子の短編が載っていた。
遊郭の話で、遊女と下男との恋。最初に読んだときこんなに美しい話があるかと思っていたし、倫子にしては生ぬるい話だと思った。他の作品にも確かに性描写があり、そのほとんどはレイプや輪姦、乱交などあまり愛が見えないものばかりだった。
だがこの作品は違う。遊女と下男の恋は御法度だ。なのに人目を避けて柳の下で逢瀬を重ねる。その心理描写は、胸を痛くした。
愛する人が他の男に抱かれるのを指をくわえてみていないといけないのだ。それは、自分に重なる。
きっと泉は夕べ礼二に抱かれたのだ。どんな反応をするのだろう。あの夕べ掴んだ細い手が、どんな風に礼二を求めたのだろう。そう思うと、自分のモノが大きくなるのを感じた。
「最近抜いてねぇしな。」
仕方ないと、大和はズボンと下着をおろす。そしてそれを撫でた。
泉の中はどんな感覚なのだろう。春樹は愛がなければオ○ホールと変わらないと言っていた。体の相性というのは確かにあって、離れたくないというくらい激しく求め合う相手も居なかったことはない。浮気はされたが。
あのよく笑い、表情を変える。コーヒーを淹れるときは真剣な眼差しで淹れる。あの顔がどれだけ乱れるのだろう。
「あっ……。」
手がべとべとになった。射精をする瞬間、思い浮かんだのは泉の顔だった。自分がはまっているとは思いたくない。
礼二が家に帰ると、部屋が暖かくなっていた。泉が来ているのだ。
靴を脱いで部屋にあがると、泉はベッドの上で眠っていた。疲れているのかもしれない。起こさないように、そっと荷物を置く。すると泉の目があいた。
「ごめん。寝てた。」
「寝てて良いよ。今日は昼寝でもした?」
「昼寝すると寝れなくなっちゃうから。」
体を起こしてふわっとあくびをする。その無防備な姿に少し微笑んだ。
「お客さんとご飯に行ってたんですって?」
「うん。疲れた。女の話題しか無くてさ。」
男と行っていたという事にしておこう。女と行ったと言っても泉は気を悪くしないだろうが、それでも少しでも悪いという感情があるのだ。
「倫子さんの所に行かなくても良かった?」
「うん……。またなんか倫子思い詰めてたから。」
朝、家に帰ると政近がいた。チョコレートとコーヒーで少し談笑はしたが、そのあとまた政近と部屋にこもった。昼過ぎに政近は帰っていったが、そのあとはまた部屋に籠もっていたのだ。
「何かイヤなことでもあったのかな。」
「あったよ……。」
青柳の関連グループの施設。その職員が首を吊って死んでいたのだ。そのニュースはあまり表に出ることはない。人の死が関連しているのだ。
「……付いていなくても良かったのかな。」
「……前にね。春樹さんの奥様が亡くなったとき、私と伊織は倫子の側にいたの。だけど何も声をかけられなかった。田島先生に相当怒られたの。」
「……。」
「それでも友達かって。都合の良いときだけ、友達だって言うのが友達なのかって。何も言い返せなかったの。それから無理矢理倫子を田島先生が連れていった。それも止められなかった。」
「だったらなおさら、倫子さんの所にいた方が良い。」
「ううん。もう私はいれないの。春樹さんが居てくれると思うし、もうその役目って終わった気がする。」
礼二は隣に座ると、泉の頭を撫でる。
「無理をするな。」
すると泉はそのまま礼二の体に体を寄せた。
「今日は抱いても良いかな。」
「うん。昨日よりは遅くないよ。魔って、シャワー浴びてくる。」
「一緒に浴びようか。」
涙を止めたかった。だから冗談半分でそういうと、胸の中の泉から笑い声が聞こえる。
春樹が帰ってくるのが襲い。こんな状況なのに、春樹は仕事を置いておけないのだ。そして倫子もそうだ。
伊織はテレビのニュースを消す。そして携帯電話のニュースをみた。「青柳グループ」の関連会社である児童養護施設。その職員のトップが首を吊って死んでいたのは、大きなニュースになると思っていた。何せ、何も語らないまま拘置所の中で首を吊っていたのだ。
メディアはどちらかというと、拘置所の怠慢を叩いている感じがする。変なところを叩くなと、伊織は不思議に思っていた。
そして立ち上がると冷えたろうかを歩き出す。そして倫子の部屋の前で声をかけた。
「倫子。」
「何?」
声はすぐに返ってきた。伊織はそのドアを開けると、煙草の臭いがすぐに鼻についた。今日は食事も満足にとっていない。
「何か食べる?おにぎりとか作ろうか。」
「ううん。ごめん。今良いところなの。」
「だったらお湯をかえるよ。お茶、飲むでしょ?」
「そうね。」
倫子は乗ってくると筆が止まらない。何の仕事なのかはもう伊織では把握ができないほど仕事を詰め込んでいる。
お湯を沸かして、ポットに入れるとまた倫子の部屋にやってくる。倫子はその間少しも動かなかったようだ。
「……倫子。」
「ポット。そこに置いておいて。」
小さい背中だ。そして一人でその辛さを抱え込もうとしているのだ。
「倫子。」
「ん?」
「そのさ……。」
「……。」
倫子は振り替えて伊織をみる。そして倫子は立ち上がると、伊織の体に体を寄せた。
「何?」
「黙ってこうされなさいよ。」
腕が伊織の体を包む。何がそう積極的にさせたのかわからない。だが倫子はその体を離そうとしなかった。
「待っているの、疲れた?」
「……代わりでいいんでしょう?二番目でいいんでしょう?あなた、そういったわよね。」
「うん。」
「黙って抱かれていて。」
本心は何も言わない。だが黙って伊織もその体を抱きしめた。
大和は棚から本を取り出す。それは雑誌だった。先月発売された「淫靡小説」には、倫子の短編が載っていた。
遊郭の話で、遊女と下男との恋。最初に読んだときこんなに美しい話があるかと思っていたし、倫子にしては生ぬるい話だと思った。他の作品にも確かに性描写があり、そのほとんどはレイプや輪姦、乱交などあまり愛が見えないものばかりだった。
だがこの作品は違う。遊女と下男の恋は御法度だ。なのに人目を避けて柳の下で逢瀬を重ねる。その心理描写は、胸を痛くした。
愛する人が他の男に抱かれるのを指をくわえてみていないといけないのだ。それは、自分に重なる。
きっと泉は夕べ礼二に抱かれたのだ。どんな反応をするのだろう。あの夕べ掴んだ細い手が、どんな風に礼二を求めたのだろう。そう思うと、自分のモノが大きくなるのを感じた。
「最近抜いてねぇしな。」
仕方ないと、大和はズボンと下着をおろす。そしてそれを撫でた。
泉の中はどんな感覚なのだろう。春樹は愛がなければオ○ホールと変わらないと言っていた。体の相性というのは確かにあって、離れたくないというくらい激しく求め合う相手も居なかったことはない。浮気はされたが。
あのよく笑い、表情を変える。コーヒーを淹れるときは真剣な眼差しで淹れる。あの顔がどれだけ乱れるのだろう。
「あっ……。」
手がべとべとになった。射精をする瞬間、思い浮かんだのは泉の顔だった。自分がはまっているとは思いたくない。
礼二が家に帰ると、部屋が暖かくなっていた。泉が来ているのだ。
靴を脱いで部屋にあがると、泉はベッドの上で眠っていた。疲れているのかもしれない。起こさないように、そっと荷物を置く。すると泉の目があいた。
「ごめん。寝てた。」
「寝てて良いよ。今日は昼寝でもした?」
「昼寝すると寝れなくなっちゃうから。」
体を起こしてふわっとあくびをする。その無防備な姿に少し微笑んだ。
「お客さんとご飯に行ってたんですって?」
「うん。疲れた。女の話題しか無くてさ。」
男と行っていたという事にしておこう。女と行ったと言っても泉は気を悪くしないだろうが、それでも少しでも悪いという感情があるのだ。
「倫子さんの所に行かなくても良かった?」
「うん……。またなんか倫子思い詰めてたから。」
朝、家に帰ると政近がいた。チョコレートとコーヒーで少し談笑はしたが、そのあとまた政近と部屋にこもった。昼過ぎに政近は帰っていったが、そのあとはまた部屋に籠もっていたのだ。
「何かイヤなことでもあったのかな。」
「あったよ……。」
青柳の関連グループの施設。その職員が首を吊って死んでいたのだ。そのニュースはあまり表に出ることはない。人の死が関連しているのだ。
「……付いていなくても良かったのかな。」
「……前にね。春樹さんの奥様が亡くなったとき、私と伊織は倫子の側にいたの。だけど何も声をかけられなかった。田島先生に相当怒られたの。」
「……。」
「それでも友達かって。都合の良いときだけ、友達だって言うのが友達なのかって。何も言い返せなかったの。それから無理矢理倫子を田島先生が連れていった。それも止められなかった。」
「だったらなおさら、倫子さんの所にいた方が良い。」
「ううん。もう私はいれないの。春樹さんが居てくれると思うし、もうその役目って終わった気がする。」
礼二は隣に座ると、泉の頭を撫でる。
「無理をするな。」
すると泉はそのまま礼二の体に体を寄せた。
「今日は抱いても良いかな。」
「うん。昨日よりは遅くないよ。魔って、シャワー浴びてくる。」
「一緒に浴びようか。」
涙を止めたかった。だから冗談半分でそういうと、胸の中の泉から笑い声が聞こえる。
春樹が帰ってくるのが襲い。こんな状況なのに、春樹は仕事を置いておけないのだ。そして倫子もそうだ。
伊織はテレビのニュースを消す。そして携帯電話のニュースをみた。「青柳グループ」の関連会社である児童養護施設。その職員のトップが首を吊って死んでいたのは、大きなニュースになると思っていた。何せ、何も語らないまま拘置所の中で首を吊っていたのだ。
メディアはどちらかというと、拘置所の怠慢を叩いている感じがする。変なところを叩くなと、伊織は不思議に思っていた。
そして立ち上がると冷えたろうかを歩き出す。そして倫子の部屋の前で声をかけた。
「倫子。」
「何?」
声はすぐに返ってきた。伊織はそのドアを開けると、煙草の臭いがすぐに鼻についた。今日は食事も満足にとっていない。
「何か食べる?おにぎりとか作ろうか。」
「ううん。ごめん。今良いところなの。」
「だったらお湯をかえるよ。お茶、飲むでしょ?」
「そうね。」
倫子は乗ってくると筆が止まらない。何の仕事なのかはもう伊織では把握ができないほど仕事を詰め込んでいる。
お湯を沸かして、ポットに入れるとまた倫子の部屋にやってくる。倫子はその間少しも動かなかったようだ。
「……倫子。」
「ポット。そこに置いておいて。」
小さい背中だ。そして一人でその辛さを抱え込もうとしているのだ。
「倫子。」
「ん?」
「そのさ……。」
「……。」
倫子は振り替えて伊織をみる。そして倫子は立ち上がると、伊織の体に体を寄せた。
「何?」
「黙ってこうされなさいよ。」
腕が伊織の体を包む。何がそう積極的にさせたのかわからない。だが倫子はその体を離そうとしなかった。
「待っているの、疲れた?」
「……代わりでいいんでしょう?二番目でいいんでしょう?あなた、そういったわよね。」
「うん。」
「黙って抱かれていて。」
本心は何も言わない。だが黙って伊織もその体を抱きしめた。
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