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第1話 おじさんだって恋したい?
しおりを挟むこの時の俺はなんの予感も予想もしていなかった。
いつもの日常が続くのだから何も考えてなどいない。
まさかこの日から俺の日常がこんなにも変わるなんてな。
「あ、課長⋯ですか?」
いつもの路線のいつもの場所、俺がこの会社に勤めてから変わらない、5番線の先頭車両から3両目の1番前の扉。
そこで待っていると声を掛けられた。
これが最初の出会いになるのだろうか。
いや、出会いはもう少し前になるよな。
でも俺が君を意識したのはこの時からかもしれない。
君はどうだい?
なぜこんなにも胸が締め付けられるのだろうか。
俺は君を愛する資格はあるのだろうか。
俺は君の隣に相応しいのだろうか。
俺は君を最後の人にしてもいいのか?
「おじさん好き!大好き!」
「おじさんも君のことが好きだ!」
某SNSの投稿でこんなことが起こったというのを見かけた。
顔にモザイクはかかっていたが、ホテルのベッドで裸になり、肩を寄せ合って自撮りしてる写真付きだ。
おじさんは45歳。
女の子は18歳。
セーフだけれども⋯
こんなことリアルで起こるか?
はぁ⋯
つまんないな。
今日も朝から満員電車だ。
もう何年これをしてるだろう。
痴漢と間違えられないようにするために、吊り革に両手で掴まる。
辛うじて身長が高いのが救いだが⋯
それでもなかなかに辛い。
俺も45になる。
某SNSで見かけた投稿のようなことが起こるとは思えない。
どうしたらそんな若い子と出会いがあるんだ?
マッチングアプリ?各種SNS?
それともチャットアプリか?
俺も使ったことはある。
何が楽しいのか分からなかった。
来るメッセージはどう見ても怪しいもの。
援助交際の斡旋、または本当かは分からないが、若い子からのそういうお誘いメッセージまであった。
俺は怖くてすぐに辞めた。
騙されるのを覚悟でやるべきなのか?
いやいや、騙されるのは嫌だ。
「やっほ~大人の男性がタイプだよ!良かったら遊ぼ!」
「初めまして、年上の男性が好きです。会いませんか?」
「年下好きな男性が好みです。19で良ければお食事とか行きたいです」
こんなのいきなり送ってくる女の子いるのか?
怖すぎる。
やったアプリが悪かったのかもしれないが、もう二度とやらないだろう。
はぁ⋯
着いたな、降りよう。
今日は四月最初の平日だ。
新入社員が入ってくる。
課長という役職はあるが、大したことはしていない。
小さい会社の営業課長だ。
今年から高卒も採るって話だったな。
2人も高卒の子がいるらしい。
俺も課長として入社式に出ないとな。
いつものように改札を出る。
いつものように駅の階段を降りる。
降りた目の前にあるカフェでホットコーヒーを飲む。
いつものホットコーヒーを飲み、気持ちを切り替える。
なんだか隣に来た女性に見られてる気がしないでもないが⋯
気になることでも俺にあるのだろうか。
チラッと横目で見ようとするが、顔を動かさなかったのでよく分からない。
変なことを朝から考えていたせいか、周りが少し気になったのかもしれない。
入社式もあるんだ、しっかり切り替えよう。
気持ちを切り替え店を出る。
そしていつもの道を通り職場へ向かう。
ふう、着いたな。
小さい会社なので入社式も社内だ。
新入社員は全部で5人。
どんな若い子が入るのやら。
会議室を使い入社式を行う。
つつがなく進行し、入社式が終わった。
俺も簡単な挨拶をしている。
5人中3人が営業で1人が事務、もう1人が経理だ。
高卒の2人は2人とも営業らしい。
俺のとこで面倒見るわけだ。
「川崎くん、ちょっと」
入社式が終わると社長に呼ばれた。
「高卒の新入社員のこと、任せたよ。何とか辞めさせないように頑張ってくれたまえ!」
社長、その話はもう何度も聞きましたよ。
営業部で頑張って育てさせてもらいます。
初日はアレコレやることがあるので営業部に顔を出すのは終業間近だ。
それまでは自分の仕事を片付ける。
説明を受けているので関わることはない。
お昼の時間になった。
そこでは社長が話しまくっていたので俺の出番はない。
午後のアレコレも終わり、ようやく営業部に配属される3人と話す機会が訪れた。
「初めまして。先ほども挨拶しましたが、営業部の課長の川崎大地と申します。これからよろしくお願いします。今から営業部に一緒に行き、先輩職員達に挨拶に行きましょう」
「はい!」
「は、はぃ⋯」
「うす」
なんか個性的だな。
上手くやっていけるかな⋯
教育とかは部下に任せるから俺が関わることはあまりない。
毎年そうだ。
今年も誰かがこの子達の面倒を見る。
新入社員の3人を引き連れ営業部へと向かう。
「みなさん、挨拶が大事だとオリエンテーションでも言われましたね?覚えてますか?最初の挨拶をしっかり頑張りましょう。明るくなくてもいいんです。お疲れ様です、本日より入社した川崎です。よろしくお願いします。これだけでもいいので頑張りましょう」
俺は3人に最後のアドバイスをし、営業部の扉を開けた。
「みんなお疲れ様です。今日から営業部に配属された新入社員の3人です。今から挨拶してもらいますので静かにしててくださいね。ではあなたからしましょうか」
俺は元気に挨拶してくれた女の子に1番目をお願いした。
「わ、私ですか!?が、頑張ります!」
落ち着いてね、そして頑張れ。
「皆様お疲れ様です!私は井上夢花です!一生懸命頑張りますのでよろしくお願いします!」
パチパチパチと拍手があがる。
頑張ったね。
じゃあ次は元気のなさそうな女の子にしよう。
俺が手で挨拶するように促す。
「は、ははは、はぃ⋯えと、わ、私は⋯玉木あかりと申します。よ、よろしくお願いします」
声が小さいですが頑張った。
ちゃんと先輩達も拍手して偉いぞ。
最後にふてぶてしい態度の男の子だ。
俺が促す前に自分から言った。
「自分は吉川譲太っす!よろしくっす!」
元気だが教育のしがいがありそうだな。
みんなも拍手しているが苦笑いのやつもいるな。
「3人とも挨拶ありがとうございます。みんなの挨拶をすると長くなりますので、この後の立食パーティーで挨拶を再度しましょう」
そう、この後にまた会議室で立食パーティだ。
残念ながら酒はない。
出前で食事を運んでもらっている。
今回は社長が張り切って出張寿司屋まで呼んでいる。
それを結構楽しみにしている。
「課長!寿司屋が来るって本当なんですか?」
「本当ですよ。私も楽しみにしているんです。皆さんもたくさん食べてくださいね」
「おー、今年はついてるな!」
「食べまくってやる!」
「お寿司なんて久しぶり~嬉しい!」
「寿司ネタはどんなのあるのかな~!」
これこれ、先輩達がはしゃぐんじゃないよまったく。
「君たちはまだ少し仕事が残っているんだから、真面目にやってからですよ」
みんなに注意するとデスクに戻った。
「では3人は立食パーティまでに社内の案内を私がするのでついてきてください」
「はい!」
「はぃ⋯」
「うす」
本当に個性的だな。
社内を一通り案内し、明日からの仕事の説明をすると終業時間になったようだ。
「時間になったようなので、立食パーティに行きましょう。ちゃんとおなかは空いてきましたか?」
「はい!もうペコペコです!」
「えっと、私はまだ⋯」
「自分はもうやばいっす!寿司食べてーっす!」
うん、個性的だ。
「じゃあ2人はたくさん食べましょうね。玉木さんは無理しないでくださいね」
そう言いながら会議室に入る。
もうそこへは全職員が集まっていたようだ。
俺たちは会議室の壁際で立っていると、、社長がマイクを持ち、立食パーティーの説明を始めた。
「今日もみんな頑張ってくれてありがとう!新入職員の入社祝いと日頃の職員への感謝を込めて!乾杯!」
説明の後に乾杯だ。
お酒はないからソフトドリンクなのが寂しいな。
帰りに1杯引っ掛けるのも悪くない。
そんなふうに思っていた。
新入職員の子たちは同部署の先輩達に挨拶し、楽しそうに会話に花を咲かせているようだ。
営業だからみんなコミュニケーション能力は高い。
低くても何年か営業しているうちに普通よりは話せるようになるだろう。
玉木さんも最初はおどおどしていたが、みんなが優しくしているおかげで笑顔も見えるようになってきたな。
吉川くんと井上さんは高卒ってこともあって、みんな興味津々なようだ。
男性職員には手を出さないように注意しておくべきなのだろうか。
そんなことを俺が言うのもおかしいかもな。
でもやめて欲しくはないから男女のイザコザは起きない方がいい。
なかなかに悩ましいな。
俺から見たら井上さんも玉木さんも娘のように見えるから可愛らしいが、同年代から見たらどうなんだろう。
2人とも可愛いとは思うが、だからこそ男女の関係になりそうで怖い部分がある。
社内恋愛が禁止ではないからなウチは。
余計なことは言わないでおくか。
そんなことを考えていると社長がこちらへやってきた。
「みんな楽しんでるか!おいおい、それは盛り過ぎなんじゃないか?ははははは!」
うちの社長はとても明るい。
人柄もいいからみんな慕っている。
「社長、寿司もピザも肉も全部美味しいです!」
「毎年やりましょ!」
「さすが社長!来年はお酒もお願いします!」
みんな楽しそうに社長と話している。
小さい会社ならではだな。
大きい会社では社長と一般の社員ではこんなに距離が近くなることはないだろう。
「川崎くん!君もみんなと親睦を深めないとダメだろう!端っこにいるんじゃなくて輪に加わろうじゃないか!」
社長には敵わないな。
一歩引いて見ていたことがバレバレだ。
「川崎課長、お茶どうぞ!」
みんなのそばに行くと新入職員の井上さんがお茶を持ってきてくれた。
気の利く子だな。
「ありがとう」と短くお礼を言い受け取る。
その際に指が触れてしまった。
「あっ⋯⋯」
「す、すまない」
こんな少しの接触でもセクハラになるご時世だ、全力で謝らなければ。
「申し訳ない、私の不注意で⋯⋯」
「い、いえ、大丈夫⋯です⋯⋯⋯」
俯いて触れられた手を胸の前で握っているではないか。
そんなに嫌だったんだろう。
訴えられないか心配だ。
今後は細心の注意を払わなければならないな。
「課長!いきなりパワハラですか!?新入職員なんだから優しくしてあげないとですよ!」
「何てことを!パワハラなんてしてません!」
こんな風なことも気軽に言い合える職場だからアットホームなんだろうが、今の俺にはちょっとキツイぞ。
パワハラじゃなくてセクハラだと言いそうになってしまったじゃないか。
これは先が思いやられるな。
「パワハラなんてされてませんよ~!ね、課長!」
「もちろんですとも、みんなで仲良くやるのがうちの社のモットーですからね」
「それなら良かったですよ!いきなり若い子に辞められたらみんな悲しみますからね!」
「それは先輩達も優しくしてくれないとですよ?」
「「「「「はーい!」」」」」
みんないい返事だな。
その後も立食パーティは続き、最後に社長が挨拶し成功に終わった。
片付けはみんなでやるようで、各部署に別れてやっている。
こういうとこでも連帯感を高めるために一役買っていると思う。
社長がそこまで考えてやっているのかは分からないが、良い社長だと俺は思っている。
片付けも終わりそうな時に社長がみんなに向けて言った。
「もうあらかた終わったから、部署ごとに解散していいからな!今日はありがとう!気をつけて帰るように!」
自分たちのとこを見ると全て終わっているので、今度は俺がみんなに告げる。
「今日は楽しかったですね。片付けもありがとうございます。みんなのおかげでサッと終わりました。また明日から頑張りましょう。では皆さん解散してください」
「「「「「「「はーい!」」」」」」」
「二次会いくー?」
「明日も仕事なんだから帰ろうよ!」
「俺はカラオケ行きてー」
「私はパスしまーす」
「新入の3人も行くかー?」
「みんなあんまり初日から無理させないでくださいね。いきなり遅刻とか可哀想ですから」
「私は帰りますね!」
「私も今日はすいません⋯」
「自分は行きたいっすけど我慢するっす!」
ん?これは俺がパワハラにならないか?
なんか難しいなぁ。
だが無理しないでくれるみたいだから良かったな。
さて、俺も最後の確認をしてから帰ろう。
ふう、立食パーティもあったからいつもより帰りが遅くなってしまったな。
さて、電車に揺られて寂しい家に帰るとするか。
まだ少し肌寒いがコートはいらなそうだな。
俺も少し飲んでから帰りたい気分だが、部下に言った手前そんなことはできないだろう。
まっすぐ帰るために俺は駅へと向かった。
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