音無響一の日常

音無響一

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人助けin国道の交差点

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何年前だろうか、俺は人助けをした。

俺の特技というか、なんだろうか、スキル?違うな。

言うなれば異常特性なのだろう。

何故か俺は人助けをすることが多い。

イレギュラーなことが起きると俺の脳は覚醒する。

瞬時に判断し、最善かは分からないがそれを実行、行動に移すことができる。

『災害時は音無がいると頼もしいだろうな』

こんなこと言われる人は少ないだろう

そんな中で1番印象に残っているものがある。

それは国道で起きたこの事故だろう。

当時ニュースにもなった事故だ。

そこで俺がした行動。

それを今から語ろうと思う。






みんなは仕事に行く前にどんなことをする?

当時の俺は自転車通勤だった。

大きな国道の交差点まで自転車、もちろん電動だ、をかっ飛ばし交差点の角にあるコンビニに向かうんだ。

どこのコンビニか?

そんなの知ってどうする。

どこだっていいだろう?

何リーマートだったかな、何処リーマートでもいいが、そんなコンビニだ。

このヒントじゃどこのコンビニかなんて分かるはずないがな。

何ブンイレブンかもしれんし、どこーソンかもしれないしな。

まぁコンビニの種類はなんだっていいだろう。






あれは秋晴れの日だったような。

いつものように交差点角のコンビニに入る。

夜勤に行く前だったな。

当時の俺はそこでお茶を買い、夜勤で食べる食事を買っていた。

店内を出て自転車の前に立つ。

そこでお茶の封を解き、飲む為に口へと運んだ。

グイッと1口飲んだその時だった。

耳を劈くようなけたたましいクラクション。

瞬時に脳が覚醒する。

俺の脳は異常事態と一瞬で判断した。

そうなると俺の脳は高速回転をする。

クラクションがなった時は国道へ背を向けていた。

だから何が起きたか確認する為にすぐさま振り向いたんだ。

この間の判断は1秒もないだろう。

それなのに振り向いてから視覚で確認する前だ。

聞いたこともないような衝突音が鳴り響く。

その音の後に振り向き、俺の視界に映ったのは────






1回転2回転、3回目の半分で横倒しになるワンボックスカー。

よろよろと国道の脇道へと進んでいく1トントラック。

車体の前方部を見たこともないくらいひしゃげ、フロントガラスは粉々になり、エアバッグが発動しているのが目に入る。

さらに高速で回転する俺の脳。

衝撃的な音の後、静寂が訪れた。

通行人も目撃者も多数いる。

俺は走った。

ワンボックスカーの元へ。

誰よりも早く初動を開始している。

リアガラスが粉々だ。

そこから俺は車内へと入り込む。


「大丈夫ですか!どこにいますか!」


俺はあらん限り声を張り上げて車内の人を探す。

よろよろと出てくる頭から血を流している中年の女性。

さらに体のあちこちで傷を作っている小学校1年生くらいの男の子を発見した。


「こっちです!こっちに来てください!」


2人とも意識はあるし動けるようだ。

俺は車内からの避難を優先させるために、2人を誘導しようとする。


「なおき!なおきはどこ!」


なに?もう一人いるのか?

母親なんだろう、その言葉で俺は更なる異常を察知する。

全ての窓ガラスが大破している。

俺は後部座席のガラスから身体を出し、辺りを見渡した。

この間1分も経っていないだろう。

それなのに周りでは野次馬しかおらず、誰も助けに来ようとしない。

ブチンと俺の中で何かが切れた。

さらに火花を散らし焼き切るかのように回る脳内。

その場にいる全員が俺の視神経を通り、脳内に一瞬で流れ込んでくる。


「なにやってんだ!救急車の要請しろ!それと誰かこい!もうひとり子供がいるんだ!あと誰かAEDの用意もしろ!」


幸いなことに俺の声はでかい。

ざわめいている野次馬達にも俺の声が届いたんだろう。

遠くから男性が数人こちらに向かってくる。

その間に俺は救助した2人をコンビニの前まで誘導する。

怪我の状態などをざっと話し、俺は横倒しのワンボックスカーへと急いで戻る。

男性の1人が発見したと声を上げる。

そこで見たのは────







車体に体全体を挟まれ、車の上部フレーム部分に側頭部を挟まれている男の子だった。

車の周りに集まった男達はこんな大きな事故の救助経験なんてないんだろう。

そんなこと俺だって同じだ。

集まった男達6人に俺は提案する。


「全員でゆっくり持ち上げますよ!一斉にやらないと危険です、まずはみんなで持ち上げましょう!いきますよ!せーーの!」


6人とも最大限の力を振り絞ったんだろう。

ワンボックスカーは持ち上がった。

俺はさらに声を張り上げる。


「誰か一人がこの子を出してください!」


するとその中の男性1人が救出してくれる。

おそらく、なおきくんなんだろう。

頭から大量に出血している。

救出した男性はなおきくんを横抱きに抱え、右往左往だ。

そりゃそうだろう、どうしていいか分からないのが普通だ


「ゆっくりとコンビニの前まで運んでください!こっちです!」


もちろん俺は違う。

更に俺の脳は加速する。

頭を揺らさないようにコンビニの歩道に横になってもらう。

タオルも何もない、こんな硬いところで頭をつける訳にはいかない。

俺は血まみれのなおきくんの頭を手で支えている。


「救急車は?!AEDは!?」


俺は状況を確認するために声を張り上げる。


「救急車は呼んでます!」

「AEDは探しに行ってます!」


女性二人がやってくれたようだ。







「なおき!なおき!どうして!うあああああ!なんで!なおきなおき!なおきいいいいいいいい!」


歩道に来たのがなおきくんと分かると発狂する母親。

それはそうだろう。

自分の息子が事故で瀕死なんだ。

見ろ、どんどん目の色が⋯⋯⋯

必死に母親を宥める周りの人。

取り乱した母親をコンビニまで連れて行っている。

そこでは3角座りで膝を抱えているもう1人の男の子もいる。

俺は必死でなおきくんに声を掛ける。


「大丈夫!助かるからな!もう少しで救急車はくるぞ!頑張れ!助かる!聞こえるか!なおきくんだろ!頑張るんだ!」


俺はなおきくんの意識を繋ぎ止めるために何度も何度も励ますように声を掛ける。

そこへ1人の男性が現れた。


「元救急隊員です」


さらにもう1人声を掛けてくる女性がいた。


「私は現役の看護師です。AEDはもうすぐ来ると思います」


おいおい、天の助けか?

ただの介護士の俺なんて用無しじゃないか。

現れた二人がなおきくんの様子を見てくれている。

彼らの判断は────


「綺麗なハンカチかタオルを持ってる人は居ますか?」


元救急隊員の男性が辺りを見渡し提案した。

一人の女性がハンカチを差し出してくれる。

それを頭の下に敷くのだと。


「もう大丈夫ですよ、手を離しても」


ずっと支えていた俺に声を掛けてくれる。

その時、救急車の音が遠くから微かに聞こえた。

そうか、俺の役目はここまでだ。

更に近づくサイレン音。


「なおきくん、救急車が来たよ!あと少しだ、頑張るんだ!」


呼吸が浅い。

目の色がどんどん色を失っていく。

鼻からは見たこともないような液体が流れ出ている。

だが俺に出来ることはもうないんだ。

視認できるところまで救急車が現れた。






スっと立ち上がり、俺はコンビニへと向かった。

俺の手は血まみれだ。

服にも付いている。

夜勤に行かないとな。

コンビニの前には助かった親子2人がいた。

声を掛けることはしなかった。

なんて声を掛けていいか分からない。

異常事態が終わった俺の脳はもう加速しないからだ。

目の前で涙を流し項垂れる母親。

何が起こったのか理解していない、状況が脳内で追いつかない、そんな雰囲気で膝を抱える男の子。

そんな2人を横目にコンビニへと入った。

何も出来なかった、無力な俺が2人の瞳に映っているかのようだった。


「すいません、手を洗わせてください」


店員に許可を取り、手を洗う。

救急車で運ばれていくなおきくん。

叫ぶ母親。

無言でついて行く男の子。

そして俺は自転車に跨り、その場を去った。







え?こんな心境で夜勤?

たまらんわー。

はぁ、仕事前から疲れるなぁ────








────その日の夜勤の休憩中だ。

気になった俺はスマホで検索する。

夕方にはニュースになっていたようだ。

横倒しのワンボックスカー。

ひしゃげてるトラックが上空から映し出されている。

まさにあの事故現場だ。

ニュースの全容が文章化されている。

ワンボックスカーの右折時信号無視、そこに直進するトラックが横から突っ込んだ。

これが事件の概要らしい。

そして搬送された1人の男の子のことが書かれていた。

死亡が確認されたと────








────その後は何年もその交差点には花が供えられている。

今もまだあるんじゃないだろうか。

年々減っていっている。

まだ忘れない、覚えている人もいるんだろう。

俺もその1人だ。

一生忘れることはないだろう。

その交差点を通る度に思う。

助けられなくてごめんな、と。







fin.実話です


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