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第1話 少女漫画は突然に
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少女漫画みたいな恋がしたい。
二十八歳にもなって何言ってんだって自分でも思う。
でも仕方ないだろ。
子どもの頃に読んだあの感じが、まだどこかに残ってるんだ。
目が合って。
偶然が重なって。
気づいたら特別になってるやつ。
現実は違う。
朝は眠いし、電車は混むし、会社は地味だ。
ときめきなんてコンビニの新作スイーツくらいしかない。
その日もいつも通りだった。
改札を抜けて、スマホを見ながら歩いていたら、真正面から誰かとぶつかった。
鈍い音がして、バッグが落ちる。
「あ、すみません」
同時に声が出た。
しゃがんで中身を拾う。
ハンカチ。
ペンケース。
文庫本。
それから、少女漫画。
思わず手が止まった。
表紙はキラキラしていて、制服の男女が見つめ合っている。
俺はそれを差し出した。
「これ」
彼女は一瞬だけ俺を見た。
まっすぐな目だった。
可愛いとか綺麗とか、そういう前に、ちゃんとしてる目。
「前、見て歩いてください」
刺さる。
正しい。
ぐうの音も出ない。
「すみません」
そう言うと、彼女は軽く会釈して立ち上がった。
あっさりしている。
ドラマもない。
普通ならここで終わりだ。
でもな。
俺の頭の中では、もう効果音が鳴っていた。
ぶつかる。
少女漫画。
叱られるヒロイン。
条件は揃ってる。
彼女は改札へ向かった。
俺も同じ方向だった。
距離は三歩くらい。
声をかけるには近い。
無視するには近すぎる。
何て言う。
その漫画、面白いですか。
いやキモい。
さっきぶつかったばかりだぞ。
心臓が妙にうるさい。
彼女が改札を通る。
俺も通る。
同じホーム。
同じ車両。
これはもう偶然じゃないだろ。
電車が来て、彼女は奥の席に座った。
俺は少し離れた吊り革につかまる。
目は合わせない。
でも気配は分かる。
次の駅まで二分。
たった二分だ。
このまま何もなければ、ただの通勤の一コマで終わる。
それでもいいのか。
少女漫画みたいな恋がしたいんだろ。
ドアが閉まる。
電車が動き出す。
その瞬間、彼女のスマホが震えた。
画面が一瞬だけ見えた。
「社内チャット 企画部」
俺のスマホも、同時に震えた。
「社内チャット 企画部」
嫌な予感がする。
彼女が、ゆっくり顔を上げた。
俺を見た。
今度は、はっきり目が合った。
そして、眉がわずかに動いた。
「……もしかして」
電車が次の駅に滑り込む。
俺の理想が、音を立てて現実に追いつこうとしていた。
二十八歳にもなって何言ってんだって自分でも思う。
でも仕方ないだろ。
子どもの頃に読んだあの感じが、まだどこかに残ってるんだ。
目が合って。
偶然が重なって。
気づいたら特別になってるやつ。
現実は違う。
朝は眠いし、電車は混むし、会社は地味だ。
ときめきなんてコンビニの新作スイーツくらいしかない。
その日もいつも通りだった。
改札を抜けて、スマホを見ながら歩いていたら、真正面から誰かとぶつかった。
鈍い音がして、バッグが落ちる。
「あ、すみません」
同時に声が出た。
しゃがんで中身を拾う。
ハンカチ。
ペンケース。
文庫本。
それから、少女漫画。
思わず手が止まった。
表紙はキラキラしていて、制服の男女が見つめ合っている。
俺はそれを差し出した。
「これ」
彼女は一瞬だけ俺を見た。
まっすぐな目だった。
可愛いとか綺麗とか、そういう前に、ちゃんとしてる目。
「前、見て歩いてください」
刺さる。
正しい。
ぐうの音も出ない。
「すみません」
そう言うと、彼女は軽く会釈して立ち上がった。
あっさりしている。
ドラマもない。
普通ならここで終わりだ。
でもな。
俺の頭の中では、もう効果音が鳴っていた。
ぶつかる。
少女漫画。
叱られるヒロイン。
条件は揃ってる。
彼女は改札へ向かった。
俺も同じ方向だった。
距離は三歩くらい。
声をかけるには近い。
無視するには近すぎる。
何て言う。
その漫画、面白いですか。
いやキモい。
さっきぶつかったばかりだぞ。
心臓が妙にうるさい。
彼女が改札を通る。
俺も通る。
同じホーム。
同じ車両。
これはもう偶然じゃないだろ。
電車が来て、彼女は奥の席に座った。
俺は少し離れた吊り革につかまる。
目は合わせない。
でも気配は分かる。
次の駅まで二分。
たった二分だ。
このまま何もなければ、ただの通勤の一コマで終わる。
それでもいいのか。
少女漫画みたいな恋がしたいんだろ。
ドアが閉まる。
電車が動き出す。
その瞬間、彼女のスマホが震えた。
画面が一瞬だけ見えた。
「社内チャット 企画部」
俺のスマホも、同時に震えた。
「社内チャット 企画部」
嫌な予感がする。
彼女が、ゆっくり顔を上げた。
俺を見た。
今度は、はっきり目が合った。
そして、眉がわずかに動いた。
「……もしかして」
電車が次の駅に滑り込む。
俺の理想が、音を立てて現実に追いつこうとしていた。
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