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第4話 ときめきの正体
しおりを挟むちゃんと相手を見ること。
あの一言が、朝からずっと頭に残っていた。
画面の数字を追いながらも、視界の端に彼女が入る。
キーボードを打つ手が速い。
姿勢がいい。
誰かに呼ばれればすぐ振り向く。
当たり前の光景なのに、昨日より違って見える。
ヒロインとしてじゃなく。
同僚として。
昼休み。
社員食堂で一人で座っていると、向かいにトレーが置かれた。
顔を上げる。
彼女だった。
「空いてましたよね」
確認だけして、自然に座る。
距離はテーブル一枚分。
昨日より近い。
「さっきの資料、どう思いました」
いきなり仕事の話。
恋の気配ゼロ。
俺は少し考える。
「正直、あそこまで言う勇気なかった」
本音が出た。
彼女は箸を止める。
「言わないと変わらないです」
まっすぐだ。
「怖くないのか」
「怖いですよ」
即答だった。
「でも、評価より中身の方が大事なので」
さらっと言う。
俺はふと思う。
俺が求めてたときめきって何だ。
偶然。
視線。
ぶつかる衝撃。
でも今、少し違う。
会議で堂々と話す姿。
怖いと言いながら言う姿。
それを思い出すと、胸がざわつく。
「先輩」
彼女がこちらを見る。
「また物語みたいな顔してます」
図星。
「してない」
「してます」
小さく笑う。
その笑顔は、昨日より柔らかい。
「ときめきって、派手なことじゃないと思いますよ」
急に言われて固まる。
「え」
「さっき、会議のあと褒めてくれたの、嬉しかったです」
あっさり。
でも本音。
俺の心臓が、少しだけ強く鳴る。
ぶつかるより。
目が合うより。
今の方が、ずっと響く。
これか。
これなのか。
「……それは、よかった」
ぎこちない返事。
彼女は立ち上がる。
「午後も頑張りましょう、先輩」
去っていく背中。
派手じゃない。
特別な演出もない。
でも確かに何かが動いている。
俺は気づく。
ときめき不足だったのは、刺激が足りないからじゃない。
ちゃんと見てなかったからだ。
少女漫画みたいな恋がしたい。
そう思っていた。
でも。
目の前にいるこの人を、ちゃんと見ることの方が、ずっと難しい。
そして。
ずっと、ドキドキする。
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