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其ノ弐拾参、新
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「ん…」
眩く差し込む光に、伊丹は重い瞼を開けた。
清々しいほど澄んだ青い空。
心地よく吹き付ける風。
見覚えのある風景。
「助かっ…た…?」
あの亜空間から脱出し、万華鏡村へ帰ってこれたのだ。
「ぐ、…ッ」
「…!幻洛さん…!!」
伊丹は傍らから聞こえる声にハッと目をやった。
そこには龍神の面影を残したボロボロの姿の幻洛が、唸りながら横たわっていた。
「幻洛さん!幻洛さん…!」
伊丹は幻洛の元に駆け寄り、必死にその名を呼んだ。
幻洛はゆっくりと重い瞼を開けると、黄金色の目で伊丹を見返した。
「っ…!ぼ、僕が、わかりますか…?」
伊丹の必死な問いかけに、幻洛は辛そうにしながらもフッと笑みを見せた。
「は、…伊丹にこんなに呼ばれるとは、俺は幸せ者だな…」
幻洛は心配そうにする伊丹の頬を優しく撫でた。
途端に、耐えていたものが溢れるように、伊丹は大粒の涙を零した。
「っ…!!良かった…、無事で、本当に…、うぐぅ…っ」
かつて無いほど泣きながら、伊丹は幻洛に抱きついた。
「ああ…、伊丹は…無事だった、か…?」
幻洛は泣きじゃくる伊丹の頭を優しく撫でた。
見たところ、伊丹はいつも通りの狩衣姿で、怪我をした様子も無かった。
龍神の名残を留める幻洛の指先が、柳緑色の髪をするりと梳いていく。
「っ、僕は、だいじょ、ぶ、です…っ」
伊丹は幻洛を感じるように、その手に頬擦りをした。
「ふ、そうか、…ッ」
「!」
幻洛は安堵の表情を浮かべ、起き上がろうとした途端、全身に走る鈍い痛みに顔を歪めた。
「ッ…クソ…何なんだコレは…」
幻洛は改めて自分の状況を目の当たりにした。
上半身は既に纏うものが無く、下半身の服もボロボロだった。
そして、指先の青い爪は獣のように鋭く伸び、手には鮮やかな鱗のようなものが転々と残っていた。
更に、なんとなく話し辛いと思ったら、大きな牙が生えて口元を邪魔していた。
「げ、幻洛さん…大丈夫ですか…?」
龍神の姿から戻りつつあるものの、痛そうに唸る幻洛に、伊丹は心配そうな表情を浮かべた。
「ああ、すまん…、何故こんな有様になったのか、あまり覚えていなくてな…。」
幻洛は身体の痛みに耐えながらフッと笑みを向けた。
「ただ、何も無い真っ白な空間に伊丹が居て、お前を取り戻そうと必死に足掻いていた。…足掻いて足掻いて、…気が付いたらここに居た…。」
幻洛の話に、伊丹は唖然とした。
幻洛には、龍神だった記憶が無かった。
故に、幻洛自身、自らの身体に龍神の血が流れていることも知らなかったのだ。
「…クソッ、なかなか引かねぇな…。」
幻洛は自身の大きな牙を触りながら、分が悪そうに呟いた。
「なあ、伊丹。俺、いま凄く変な顔してるんだろ…?」
幻洛は気まずそうに溜息を付き、顔に覆いかぶさる長髪を掻き分けながら伊丹を見つめた。
その姿に、伊丹は胸がキュンと高鳴った。
「…すごく、格好いいです…。いつも格好いいですけれど、今の幻洛さんも、とても好きです…。」
伊丹は頬を染めながら、うっとりと幻洛の姿を見ていた。
その尻尾は、伊丹の感情を露わにするようにゆらゆらと揺れていた。
自らの姿をべた褒めしながら見蕩れる伊丹に、幻洛もドッと体温が急上昇した。
「………たまらん、な…。」
心音を鳴り響かせ、幻洛はニヤける口元を手で覆った。
今すぐにでも無茶苦茶に口付けをしてやりたい。
そう思う幻洛だったが、伸びた牙が邪魔で致し方なく断念した。
先程より徐々に、確実に、元の姿に戻っているものの、完全に引くにはもう少し時間がかかりそうだった。
「…というか、此処は…、屋敷の裏か…?」
「ええ、そのようですね…。」
改めて、幻洛と伊丹はこの場所を見渡した。
そこはかつて、幻洛が伊丹の異変を感じたときに彼を追って来た場所と同じ、屋敷から出てすぐ裏手にある小高い丘だ。
「此処、こんなに綺麗な場所だったんだな…。」
あの日は気にする余裕も無かったが、改めて見る丘からの景色に、心が洗われる感じがした。
丘に吹き付けるそよ風が、幻洛の傷を労るように優しく撫でた。
「ええ、僕のお気に入りの場所、です…。」
伊丹も幻洛に身を寄せ、丘から見える万華鏡村の山々や、遠くで煌めく海を眺めた。
先程までの禍々しく暗い天気だったのが嘘だったかのように、雲ひとつ無い晴天が広がっていた。
「…ああ、そういえば服も、ズタボロになってしまったな…。」
幻洛は改めて自分の身なりを見て苦笑いした。
先程より爪や牙などは引き、ほぼ元の姿へと戻ったものの、ボロボロになってしまった衣装はどうにもならなかった。
「そうですね。皆さんの分も、また新しく調達しましょう。…これから新しい時間を過ごすためにも、丁度いいですし。」
伊丹も苦笑いしながら、幻洛の破れた衣装にそっと手を触れた。
大切な者と共に、新たな一歩を踏み出すことが出来るのだ。
過去のシガラミから解放された今、伊丹の心は喜びで満ち溢れていた。
「…!幻洛っ!!伊丹っ!!」
「!!」
柔らかなその呼び声に、幻洛と伊丹は振り返った。
そこには、幻洛が置いていった薙刀を抱えながら必死に駆け寄るふゆはの姿があった。
「ふゆはさん!ナギ!」
伊丹は手を広げ、駆け寄るふゆはをギュッと抱きしめた。
「…無事、だったか…?」
ふゆはに遅れて自らの前に跪くナギに、伊丹は安堵の表情で頷いた。
「っ、うぅ…良かった、良かっ、た…っ、ううっ…」
「ふゆはさんも、無事そうで良かった…!もう、どこにも行ったりしませんからっ…!」
泣きながら抱きつく娘同様の愛弟子に、伊丹も再び涙が零れ落ちた。
ふゆははそのまま幻洛にも抱きついた。
「うう、っ…幻洛、も…」
「ああ、心配させてすまなかった、ふゆは。もう大丈夫だ。」
幻洛は抱きつくふゆはの華奢な身体に腕を回し、藤色の頭を優しく撫でた。
伊丹以外の者と抱擁するなど、いつぶりだろうか。
幻洛はそう思うも、今は純粋に、無事だった喜びで心がいっぱいだった。
いつしか過去の忌々しい思い出は完全に上書きされ、幻洛の心から雲散霧消されていった。
「…。」
幻洛に抱きつくふゆはの様子を、ナギは無表情でジッと見ていた。
「………妙な誤解を招きそうだな…。」
やり場のない気持ちに、幻洛は思わず苦笑いした。
「…大丈夫だ、それくらいわかっている。」
ナギは安心させるように、一瞬だがフッと笑みを見せた。
すぐに元の無表情に戻ってしまったものの、喜びを露わにするふゆはを優しい眼差しで眺めていた。
「幻洛!!伊丹!!」
「此処に居たのか…!!」
ふゆはたちに続くように、劔咲と裂も現れた。
「劔咲さん…!裂さん…!」
伊丹は帰ってきた二人の姿に、再び安堵の表情を見せた。
「良かった…、二人共、何処かへ連れて行かれてしまったから…、心配したぞ…。」
劔咲は幻洛たちの無事を確認すると、こみ上げる涙を堪えるようにスンと鼻を鳴らした。
「あの妙な暗がりも、急に晴れてな。もしかしたらと思って、皆で探していたんだ。」
裂も戦闘時の狂気が嘘だったかのように、ホッとした柔らかい表情で笑みを向けた。
「…ありがとうございます、本当に、皆さん無事で良かった…。」
伊丹は全員の無事を確認すると、再び涙をポロリと零した。
「…全部終わった…、ということなのかしら…。」
ふゆはは清々しいほど晴れ間の広がった周囲を眺めながら呟いた。
「ああ、終わったんだ。そして…、」
幻洛は達観したかのように青空を仰いだ。
「俺たちの、新しい刻の始まりだ。」
ふわりとした風が、一枚の蒼い花びらを巻き込み舞い上がった。
まるで一匹の龍が旅立つように、花びらは風を纏いながら高い空へと消えていった。
眩く差し込む光に、伊丹は重い瞼を開けた。
清々しいほど澄んだ青い空。
心地よく吹き付ける風。
見覚えのある風景。
「助かっ…た…?」
あの亜空間から脱出し、万華鏡村へ帰ってこれたのだ。
「ぐ、…ッ」
「…!幻洛さん…!!」
伊丹は傍らから聞こえる声にハッと目をやった。
そこには龍神の面影を残したボロボロの姿の幻洛が、唸りながら横たわっていた。
「幻洛さん!幻洛さん…!」
伊丹は幻洛の元に駆け寄り、必死にその名を呼んだ。
幻洛はゆっくりと重い瞼を開けると、黄金色の目で伊丹を見返した。
「っ…!ぼ、僕が、わかりますか…?」
伊丹の必死な問いかけに、幻洛は辛そうにしながらもフッと笑みを見せた。
「は、…伊丹にこんなに呼ばれるとは、俺は幸せ者だな…」
幻洛は心配そうにする伊丹の頬を優しく撫でた。
途端に、耐えていたものが溢れるように、伊丹は大粒の涙を零した。
「っ…!!良かった…、無事で、本当に…、うぐぅ…っ」
かつて無いほど泣きながら、伊丹は幻洛に抱きついた。
「ああ…、伊丹は…無事だった、か…?」
幻洛は泣きじゃくる伊丹の頭を優しく撫でた。
見たところ、伊丹はいつも通りの狩衣姿で、怪我をした様子も無かった。
龍神の名残を留める幻洛の指先が、柳緑色の髪をするりと梳いていく。
「っ、僕は、だいじょ、ぶ、です…っ」
伊丹は幻洛を感じるように、その手に頬擦りをした。
「ふ、そうか、…ッ」
「!」
幻洛は安堵の表情を浮かべ、起き上がろうとした途端、全身に走る鈍い痛みに顔を歪めた。
「ッ…クソ…何なんだコレは…」
幻洛は改めて自分の状況を目の当たりにした。
上半身は既に纏うものが無く、下半身の服もボロボロだった。
そして、指先の青い爪は獣のように鋭く伸び、手には鮮やかな鱗のようなものが転々と残っていた。
更に、なんとなく話し辛いと思ったら、大きな牙が生えて口元を邪魔していた。
「げ、幻洛さん…大丈夫ですか…?」
龍神の姿から戻りつつあるものの、痛そうに唸る幻洛に、伊丹は心配そうな表情を浮かべた。
「ああ、すまん…、何故こんな有様になったのか、あまり覚えていなくてな…。」
幻洛は身体の痛みに耐えながらフッと笑みを向けた。
「ただ、何も無い真っ白な空間に伊丹が居て、お前を取り戻そうと必死に足掻いていた。…足掻いて足掻いて、…気が付いたらここに居た…。」
幻洛の話に、伊丹は唖然とした。
幻洛には、龍神だった記憶が無かった。
故に、幻洛自身、自らの身体に龍神の血が流れていることも知らなかったのだ。
「…クソッ、なかなか引かねぇな…。」
幻洛は自身の大きな牙を触りながら、分が悪そうに呟いた。
「なあ、伊丹。俺、いま凄く変な顔してるんだろ…?」
幻洛は気まずそうに溜息を付き、顔に覆いかぶさる長髪を掻き分けながら伊丹を見つめた。
その姿に、伊丹は胸がキュンと高鳴った。
「…すごく、格好いいです…。いつも格好いいですけれど、今の幻洛さんも、とても好きです…。」
伊丹は頬を染めながら、うっとりと幻洛の姿を見ていた。
その尻尾は、伊丹の感情を露わにするようにゆらゆらと揺れていた。
自らの姿をべた褒めしながら見蕩れる伊丹に、幻洛もドッと体温が急上昇した。
「………たまらん、な…。」
心音を鳴り響かせ、幻洛はニヤける口元を手で覆った。
今すぐにでも無茶苦茶に口付けをしてやりたい。
そう思う幻洛だったが、伸びた牙が邪魔で致し方なく断念した。
先程より徐々に、確実に、元の姿に戻っているものの、完全に引くにはもう少し時間がかかりそうだった。
「…というか、此処は…、屋敷の裏か…?」
「ええ、そのようですね…。」
改めて、幻洛と伊丹はこの場所を見渡した。
そこはかつて、幻洛が伊丹の異変を感じたときに彼を追って来た場所と同じ、屋敷から出てすぐ裏手にある小高い丘だ。
「此処、こんなに綺麗な場所だったんだな…。」
あの日は気にする余裕も無かったが、改めて見る丘からの景色に、心が洗われる感じがした。
丘に吹き付けるそよ風が、幻洛の傷を労るように優しく撫でた。
「ええ、僕のお気に入りの場所、です…。」
伊丹も幻洛に身を寄せ、丘から見える万華鏡村の山々や、遠くで煌めく海を眺めた。
先程までの禍々しく暗い天気だったのが嘘だったかのように、雲ひとつ無い晴天が広がっていた。
「…ああ、そういえば服も、ズタボロになってしまったな…。」
幻洛は改めて自分の身なりを見て苦笑いした。
先程より爪や牙などは引き、ほぼ元の姿へと戻ったものの、ボロボロになってしまった衣装はどうにもならなかった。
「そうですね。皆さんの分も、また新しく調達しましょう。…これから新しい時間を過ごすためにも、丁度いいですし。」
伊丹も苦笑いしながら、幻洛の破れた衣装にそっと手を触れた。
大切な者と共に、新たな一歩を踏み出すことが出来るのだ。
過去のシガラミから解放された今、伊丹の心は喜びで満ち溢れていた。
「…!幻洛っ!!伊丹っ!!」
「!!」
柔らかなその呼び声に、幻洛と伊丹は振り返った。
そこには、幻洛が置いていった薙刀を抱えながら必死に駆け寄るふゆはの姿があった。
「ふゆはさん!ナギ!」
伊丹は手を広げ、駆け寄るふゆはをギュッと抱きしめた。
「…無事、だったか…?」
ふゆはに遅れて自らの前に跪くナギに、伊丹は安堵の表情で頷いた。
「っ、うぅ…良かった、良かっ、た…っ、ううっ…」
「ふゆはさんも、無事そうで良かった…!もう、どこにも行ったりしませんからっ…!」
泣きながら抱きつく娘同様の愛弟子に、伊丹も再び涙が零れ落ちた。
ふゆははそのまま幻洛にも抱きついた。
「うう、っ…幻洛、も…」
「ああ、心配させてすまなかった、ふゆは。もう大丈夫だ。」
幻洛は抱きつくふゆはの華奢な身体に腕を回し、藤色の頭を優しく撫でた。
伊丹以外の者と抱擁するなど、いつぶりだろうか。
幻洛はそう思うも、今は純粋に、無事だった喜びで心がいっぱいだった。
いつしか過去の忌々しい思い出は完全に上書きされ、幻洛の心から雲散霧消されていった。
「…。」
幻洛に抱きつくふゆはの様子を、ナギは無表情でジッと見ていた。
「………妙な誤解を招きそうだな…。」
やり場のない気持ちに、幻洛は思わず苦笑いした。
「…大丈夫だ、それくらいわかっている。」
ナギは安心させるように、一瞬だがフッと笑みを見せた。
すぐに元の無表情に戻ってしまったものの、喜びを露わにするふゆはを優しい眼差しで眺めていた。
「幻洛!!伊丹!!」
「此処に居たのか…!!」
ふゆはたちに続くように、劔咲と裂も現れた。
「劔咲さん…!裂さん…!」
伊丹は帰ってきた二人の姿に、再び安堵の表情を見せた。
「良かった…、二人共、何処かへ連れて行かれてしまったから…、心配したぞ…。」
劔咲は幻洛たちの無事を確認すると、こみ上げる涙を堪えるようにスンと鼻を鳴らした。
「あの妙な暗がりも、急に晴れてな。もしかしたらと思って、皆で探していたんだ。」
裂も戦闘時の狂気が嘘だったかのように、ホッとした柔らかい表情で笑みを向けた。
「…ありがとうございます、本当に、皆さん無事で良かった…。」
伊丹は全員の無事を確認すると、再び涙をポロリと零した。
「…全部終わった…、ということなのかしら…。」
ふゆはは清々しいほど晴れ間の広がった周囲を眺めながら呟いた。
「ああ、終わったんだ。そして…、」
幻洛は達観したかのように青空を仰いだ。
「俺たちの、新しい刻の始まりだ。」
ふわりとした風が、一枚の蒼い花びらを巻き込み舞い上がった。
まるで一匹の龍が旅立つように、花びらは風を纏いながら高い空へと消えていった。
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