伝説のパーティ!~王子アルベールとその仲間達は如何にして伝説と謳われる様になったか~

雨雲之水

文字の大きさ
10 / 57
王子様、冒険者になる

王子様、冒険者になれる

しおりを挟む
 王宮に帰ったアルベールは、その足でフィリップの元へと向かった。

 案内された先はフィリップの部屋。既に心は決まっていた



「父上、よろしいでしょうか?」



 部屋の外から声をかけ、許されて入室する。すると中には何故かフィリップのほかに、エンゾとチャンドスがいた。御三方そろい踏みの状態である。



 アルベールとしては一気にプレッシャーが何倍にもなったような気がした。決心したのは確かだが、だからと言って言い難さを増さなくてもいいだろうにと思った。



「何だ?アルベール。」



 フィリップとしては努めて平静を装っているが、遂に来たのかと内心ワクワクしていた。親友二人の稽古を受け、実力的には申し分ないはずだ。冒険者になりたいと思っているのなら、言ってくれれば二つ返事で快諾するだろう。もっとも、実際には少し勿体つけて言うだろうが。

 何せ自分がなりたくてなれなかった冒険者に息子がなるかも知れない。自分は国王にならねばならぬ責任があった。身分を偽って冒険者の仕事はしていたが、それは飽くまで一時の事、生涯の仕事ではない。



 エンゾやチャンドスとしても思いは同じだった。二人の息子も王宮に入り、それぞれ専属の魔術師や近衛兵として働いている。勿論実力あっての事で、息子が冒険者にならなかった事が残念という訳でも無い。

 しかし、三人にとってやはり冒険者というのは特別だった。それは三人の輝かしい思い出であり、絆を紡いだ物語の一節であったのだ。美化された所も多分にあるだろうが、それを差し引いても十分だった。



 つまり三人は、アルベールを通して若い日の夢を見ているかのような気分だったのだ。



「突然こんな事を言うのは、大変申し訳なく思うのですが・・・」



 アルベールは若干言い淀む。しかしそれは逆に三人にとっては、もう殆ど期待する言葉がアルベールの口から出かかっているのだという事を示唆していた。

 もう早く言え、言ってくれと三人は思っている。アルベールにとっては待ち受ける審判の時だが、三人にとっては待ち望んだ一瞬だ。チャンドスなどは口の端が持ち上がらないよう奥歯を噛み締めている。



「私は、冒険者を志そうと思っているのです。」



 言った、遂に言ったと四人は思った。大人三人は飛び跳ねたい衝動を抑えている。しかし、アルベールにとっては緊張の一瞬だ。



 フィリップは静かに、そうか、と言う。そして一瞬間を溜めてから口を開いた。



「うむ、良い。許すぞ。」



 簡潔に伝える。もう少し引っ張ってもいいだろうかとも思ったが、アルベールからすれば緊張の一瞬の筈だ。あまり勿体付けるのも可哀想だとフィリップは思った。



「よろしいの、ですか?」



 簡潔に伝え過ぎたのか、アルベールはぎこちない表情で問いかけてきた。しかし、もう言ってしまったし今更考え込む振りでもない。



「うむ、実を言うとなアルベール。お前が冒険者になりたいのだろうなというのは、薄々感じていたのだ。そしてな・・・」



 フィリップはエンゾとチャンドスに目配せして、語り出した。かつて一時ではあったが自分も冒険者をしていたという事。エンゾやチャンドスも元冒険者で、彼等とは冒険者ギルドで出会った仲間である事。そしてもしアルベールの口から冒険者になりたいという言葉がでれば、それを認める心づもりでった事を。



「とは言え、今すぐにと言う訳にはいかん。二か月ほど待ってもらう。手続きというわけでも無いのだが、色々やっておかねばならんこともあるしな。」



 自分の時は身分を偽って冒険者の登録をしてしまった。だからエンゾやチャンドスといういつも行動を共にしていた仲間にしか素性を明かせなかったが、アルベールは違う。冒険者ギルドに入り浸っていたであろうし、ならば周囲の冒険者も彼の事をよく知っているはずだ。

 だから冒険者云々という事ではない。登録するのであれば今から冒険者ギルドに行っても可能だろう



 色々とは主に王宮関連だった。催事やパーティー等への出席、政務に関わっている訳ではないので多くは無いが、それでも少しは調整などが必要だった。

 まぁ、実の所それらも後で出来る。本当の所は別なのだが。



 ともあれ、アルベールの顔は喜びと安堵、そして父親達が昔冒険者をしていたという驚きに満ちていた。

 アルベールの他の兄妹にはこの事は言っていない。これから冒険者になるというアルベールにだからこそ伝えたのだ。



 そしてエンゾとチャンドスも喜びの声をあげ、アルベールに語りかける。二人とも心底嬉しそうだ、いや二人だけではない。フィリップだってそうだし、夢に向かって進むことを許されたアルベールだって嬉しいはずだ。



 しかし。



「まだ冒険者になったわけではない。アルベール、私は二か月待てと言った。その間に更なる鍛錬を積んでもらうぞ。いざ冒険者になったとてすぐに死んでしまっては、冒険者の楽しさもそして厳しさも分からぬ。それに、やはり我が子に早々死んで欲しくもないしな。」



 フィリップはアルベールが冒険者になるのを心から祝福はする。しかしだからと言って早死にされたくは無いのだ。これは、親ならば当然の気持ちだろう。



「フフ、二か月で取り合えず出来るだけの鍛錬は積んでもらいますぞ、アルベール様。剣は冒険者にとっては命を共にする親友です。この親友との付き合い方をさらに学んでいただかなくては。」



 チャンドスが朗らかに言う。



「いやいやアルベール様、剣術も確かに大事。しかし冒険をする上では魔術こそが本当にその真価を発揮するのです。自分を助け、仲間を助け、何をするにも手が届く。魔術師の腕は長いのですよ。その腕を更に長くするため、今後は更に学んでいただきますよ。」



 エンゾも笑いながら言う。



 そして、アルベールは笑顔ともはにかみともつかない顔で、しかし嬉しそうな声で言う。



「あぁ、二人の稽古に学ぶことが出来て私も嬉しい。しかし、一つだけ疑問を口にしてもいいだろうか?」



 アルベールの言にエンゾとチャンドスは少しばかり居住まいを正す。



「最近稽古のが厳しくなったのは、やはりそういう事だったのだろうか?」



 エンゾとチャンドスは顔を見合わす。皆まで語る事は無い、二人は笑顔でこれに答えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...