伝説のパーティ!~王子アルベールとその仲間達は如何にして伝説と謳われる様になったか~

雨雲之水

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それは夜を統べるもの

死者の兵、鎮護の石像

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 さて、二百という人数を聞いて皆さんは多いと思うだろうか?それとも少ないと思うだろうか?

 何せ絶妙な数だ。小隊が一つ十人として、二十小隊。中隊規模だろうか。

 大きな魔術が使える状況下であったならば、先ず問題にはならなかっただろう。アルベールかセリエのエクスプロージョンなりなんなりで吹き飛ばしてしまえばそれで解決だ。しかし、今回は跳ね橋を落としたくなかったので火に関係する魔術や破壊力の大きい魔術は使えない。

 ではフロストストームならばどうか?リッチ戦で見せたあの魔術ならば、死者の兵を凍らせて無傷で勝利できるのではないだろうか。そうお思いの事だろう。



 しかし、それは出来ない。



 この後アルベール達は勿論城の中に入らなければならない。成程確かにフロストストームはこの場における最善策にも見える。だが跳ね橋から門にかけて二百の氷像が所狭しと並ぶことになる。これらをどかすのも大変な手間だが、あまり時間をかけて解けてしまうとまたこちらに襲い掛かってくるだろう。



 結局、風の刃や石の弾を魔術で撃ち出して個々に撃破していくしかなかったのである。



「首だ、首を狙え!首を落とせば動きは止まる!」



 アルベールが叫ぶ。跳ね橋の上に作り出した壁は腰ほどの高さで、兵たちの進行を阻害している。

 とは言え数が数だ。魔術で一体の首を落としても、その後ろから続々とお代わりがやってくる。



「むうぅ、魔術の使えぬこの身が恨めしい・・・」



 ジルベルタは身構えたままで待機しているが、ジェラールは手持無沙汰なのにやきもきしている。なにせジェラールは鎧兜に身を包んでおり、本来ならば一番に切り込みたい所なのだ。

 しかし魔術の攻撃が降り注いでいる中に身を投じればどうなるかなど考えなくともわかる。鉄の鎧ならば風の刃くらいは防いでくれるのだろうが、石の塊は痛かろう。



「死んでるのにちゃんと盾は使うのね。王国の兵隊さんたちは優秀な事。」



 ウインドカッターをひっきりなしに撃ち出しているジョンがこぼす。というのも兵達は飛来する魔術に対してしっかりと盾を使って防御しているのだ。

 勿論防ぎきれている訳では無い。しかし彼らは動けさえすれば動くのだ。一撃で盾が砕かれようと一歩進めればそれだけアルベール達に近づくことになる。壁を超える時だけは無防備になるが、超えてしまいさえすれば彼らは後続の為にひたすら受け続ければいい。



 しばらく魔術による攻撃を続けたのち、冒険者達がやって来た。



「おい、どうした。何をやってるんだ。」



 ヴォルフガングが先頭でやってきてアルベール達の様子を見た。四人が前面に立ってひたすら魔術を繰り出しているのは分かるが、相手は王国の兵士だ。



「動きがおかしいが・・・」



 彼らの動きは少し見ただけでおかしいとヴォルフガングには分かった。何せ魔術を盾で受けるなど通常ならばしないようなことを平然と行っているからだ。普通なら壁に隠れて出てこないだろう。



「ヴォルフガング殿か、実はあれらの兵は・・・」



 暇なジェラールが説明する。アルベール達は魔術を撃つのに忙しくてとても質疑応答など出来ない。



「死者を冒涜する輩がこの城にはいるという事か。」



 ヴォルフガングの声が一層低くなる。色々と話には聞いていたが、いざ目にすればこれほどおぞましいものはない。冒険者達の間には動揺も広がっている。当然だ、死体をいい様に操る邪悪な存在もさることながら、王国の兵二百人を相手にこれを弑する事の出来る者が、或いは者達がこの城の中にはいるのだろうから。



「弓を使える者は跳ね橋手前の両側に広がって矢を射かけろ。魔術が使える者は火以外の魔術で攻撃するんだ!」



 ヴォルフガングが振り返り、冒険者達に指示を飛ばす。

 死者の兵達はその歩みは遅いものの、着実に距離を詰めてきている。押し込まれても散開すればいいのだが、その場合乱戦となる可能性がある。そうすればこちら側に負傷者、或いは死者が出てもおかしくない。



 Bランクの冒険者ともなれば流石に備えている者も多かった。調査とはいえ何が起こるか分からない以上、武器は豊富な方が良いと判断したのだろう。



 正面に魔術を使える者たちが陣取り、両翼に弓を使える者たちが展開した。こうなればもう後はつるべ撃ちに仕留めていくだけだ。兵達は徐々にその数を減らし、趨勢は決したと言って良かった。



「やっと終わったぁ。」



 暫くの後、最後の一人が斃れた。跳ね橋の上は死屍累々だが、彼らは既に死んでいる。すべてが終わった後、遺体の検分が為されるだろう。



「さぁ、中に入ろう。」



 アルベールは歩を進める。既に夕刻に差し掛かった頃合いで、あまり時間もかけたくない。一旦退くと言う選択肢もあったが、そうすれば遺体は放置しなければならないしまた何か企てられても後手に回ってしまうだけだった。



 ここは速攻と行きたい。



「先に行って中の様子を伺ってくる。やばそうだったらすぐ戻ってくるよ。」



 そういって数人の冒険者が跳ね橋を渡って行った。何せ死者を操る不逞の輩がいる城だ。いきなり全員が乗り込めばどんな危険が待ち構えているか分からない。

 とはいえ、最初に乗り込む者の危険が少ない訳では無い。むしろ危険の度合いとしては大きいだろう。しかし、誰かがやらなければならなかった。先に向かった冒険者はこの中でも特に見張りや偵察を得意としている者達だ。何かあっても柔軟に対応できると思われた。



 アルベール達はしかし全員で乗り込む事はせず、十人程は街の外の軍に報告に行かせた。戦力が減るという見方も出来るが、最大戦力がアルベールのパーティで更に異界からの敵に対するのが初めての冒険者達。いなくてもいいと言う訳では無いが、混乱が起きる恐れがあるため数は多すぎない方が良かった。



「大丈夫そうね、少なくともあそこまでは危険はないみたい。」



 セリエが門の中から手招きをする冒険者を見て言う。歩みを進めて中に入ればそこは開けた作りになっており、城の中から兵が出る場合の集合場所の様になっていた。

 城の入り口の扉に待機している偵察の冒険者は、扉を開けられるか試している様だった。

 外部から見たこの城は一枚の城壁に覆われており、正面から中に進めば開けた広場。とすれば正面奥にある扉さえ開けばおそらく城主のいるであろう天守へは直ぐだ。



「しかし見れば見るほど立派な城だ。これほどの者は国内でも無いのではないだろうか。」



 城壁に覆われた城と言うのはリッシュモン王国内にもある。しかしこの城の城壁は多角形となっており、さらに言えば高い。建築技術の高さもさることながら、要塞としての防御力も目を見張るものがあった。城下に街がある所を見ると、おそらくこの城は要塞としては使われなくなっていたのだろう。



 中にいるのが何者なのかは分からないが、この城だけは素晴らしいと言えた。



 後から付けられたのであろう装飾も良かった。無骨な要塞ではあるが、それでも飾り立てはしたのだろう。主に内側に向けて作られた外装は向こうの世界の物だろう。門の上に飾られた二体の、あれは武器を持つドラゴンの石像だろうか?今にも動き出しそうなくらいの出来栄えである。



「ん?」



 幾人かが眉根を寄せる。見間違えかと思ったからだ。

 いや、そんなはずはないのだ。生きている訳はない。あんなのがもし生きているとしたら異界はとんだ化け物の巣窟だ。だから動く筈が無い。



 よもや石像が動く筈が無いのだ。



「そこから離れろぉーっ!」



 ヴォルフガングが門の傍にいる冒険者達に叫んだ。しかし、遅い。

 ズドンと言う音と共にそれらは降って来た。体躯は二メートルを超えるだろう二つの足で立つドラゴンの石像。手にはクレセントアクスに槍の穂先が付いた武器、ハルバードを持っている。



 それが、二体。



 門の傍にいた五人の冒険者達は声をあげる間もなく動く石像のハルバードになぎ倒された。横なぎに力任せに振られたハルバード。完全に虚を突かれたこの攻撃をどうにか出来るはずもなく、五人はなぎ倒されたまま動かない。あれで生きているとは到底思えなかった。



「おいおいおい、異界にゃあんなのまでいるのかよ・・・」



 ジョンが顔を青ざめさせて言う。ジョンだけでは無い。その場にいた誰もが顔を引きつらせていた。

 動く石像、しかも凄まじい力を有している。今の一振りで五人がやられた。大体あの斧と槍が一つになったような武器は何だ。

 皆の頭をそれぞれに思考が巡る。しかし時間が決して悠長に待ってはくれないように、石像たちも待ってはくれなかった。



 ゆっくりと首が動き、そしてこちらを見る。次はお前たちだと言わんばかりに。



 その石像の名はガーゴイル。侵入者を許しはしない寝ずの門番である。
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