カゼとサバンナの物語~カゼとともに~

ヤナキュー

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23.夕日

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 最初は、早めのランチだったはずだ。
 ところが、知らぬ間にアルコールも入り、紘一もビールをガブガブ飲み始めた。
 紘一は、いい気持ちになってきたところで、スティーブンスを見つけた。
 スティーブンスは、豆腐に醤油をかけ、満喫していた。
 アメリカでも、アフリカでも、豆腐は売っている。
 しかし、日本から持ってきた、という豆腐は別物だった。
 滑らかで、コクがあり、味に深みがある。
 しかも、この柔らかさと言ったら。
「ライク・ア・プティング!」(まるで、プリンだ)
 そう叫んだスティーブンスを見て、紘一が声をかけた。
「違う、違う!」
 と、日本語を発した紘一は、新しい豆腐をテーブルから取り上げた。
 そして、台所から、岩塩を持ってくる。
 それを見たオニャンゴが、悲鳴を上げる。
「コーイチ!それ、高い塩だよ!」
「だから、美味いんだろ!」
 と、岩塩を細かくし、豆腐にパラパラとかける。
 そして、そのままスティーブンスに、
「ほら!」
 と、手渡した。
 スティーブンスは、恐る恐る岩塩付き豆腐を口にすると、
「エクセレント!」
 と、紘一に抱き着いた。
 万事、こんな調子で、宴会を続けていたが、もう夕暮れになり、各自解散となった。
 すると、酔いがさめた紘一が、
「すごいものを見せてやる」
 と、信二の車椅子を押し、外へ出た。
 清子もついていく。
 建物の角を曲がると、真っ赤な夕日が、地平線に沈んでいくのが見えた。
 夕日は、日本で見るより、もっと大きく、もっと赤かった。
 地平線が、沈む太陽に熱せられているように、ゆらゆらと揺れていた。
「どうだ。すごいだろ」
 と、紘一が言うと、信二も清子も返事がなかった。
 それは、二人ともポカーンと口を開けて、子供の様に見とれていたからだ。
 そんな両親を見て、紘一が笑う。
 そして、三人で、じっと、夕日を見ていた。
 ふと、信二の目の端に、夕日に照らされた清子の姿が入った。
 信二の頭の中で、知らず、知らず、清子の姿が意識される。
「すごいね」
 と、清子が、一言を発した。
 信二には、清子が、微笑んでいるように感じた。
 だが、信二に背中を向けている清子の顔が、見えるはずがない。
 だから、信二には、感じた、としか言いようがないのだ。
 そして、信二は、夕日に照らされた清子の笑顔が、きっと優しく、心安らぐに違いない、と思った。
 なぜなら、その幸せを感じる笑顔は、30年間、何も変わっていないのだから。
「ああ。すごい」
 と、信二は、まっすぐ夕陽を見て言った。
 しばらくして、紘一が、
「なあ、親父。
 どうして、サバンナに来たかったんだ?」
 と、聞いてきた。
 信二は、少しの間、考えた。
 答えを導き出すのが、難しいようだった。
 しばらくして、信二がつぶやいた。
「………探し物を見つけに来たんだ」
「その探し物は……。見つかりそうか?」
 と、紘一が聞くと、信二は笑った。
 夕日に照らされた父親の笑顔を見て、紘一は、
「それなら、よかった」
 と、笑い返した。
「そろそろ戻りましょう」
 だんだん暗くなる景色を見て、清子が言った。
 どうやら、昼間の恐怖を思い出したらしい。
 紘一は、信二の車椅子を押しながら、どうしても聞きたかったことを、冗談めかして聞いてみた。
「どうだ、親父。俺の仕事も悪くないだろう?」
「ああ。そうだな」
 父親の即答に、思わず紘一は、驚きの表情になった。
 だが、次の瞬間、
「そうだろう、そうだろう!」
 と、紘一は、信二の肩をバンバンと叩き始めた。
「痛い!調子に乗るんじゃあ、ない!」
 と、信二は怒ったが、紘一は構わず信二の肩を叩き続けた。
 清子には、笑顔を見せ続ける紘一の目に、わずかに涙が浮かんでいるのが見えた。
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