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25.サバンナモンキー
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この日も、信二はカゼに会えなかった。
清子も、どこか消沈しているように見える。
何度もカゼに会ううちに、清子もカゼに愛着を持ったらしい。
昼過ぎに、信二たちが居留地に戻ると、ちょうど紘一が出かけるところだった。
「今日は、会えなかったみたいだな」
と、撮影道具の入ったバックパックを担いだ紘一が、信二に声をかけた。
信二は、不機嫌そうな顔をして、何も言わなかった。
「まあ、そんな日もあるさ。
これから撮影に行くんだ。
気晴らしに、一緒に来るか?」
と、紘一が誘ってきた。
「それも面白そうね」
と、清子も信二を誘い、紘一の撮影風景を見学することになった。
「今日は、サバンナモンキーの撮影に行く」
と、車を運転しながら、紘一は説明する。
信二と並んで後部座席に座った清子は、
「そんなの動物園にいたかしら?」
と、聞いた。
「サバンナモンキーっていうのは、属性で、六種類のサルがいる。
ベルベットモンキーなんかが有名かな」
「あー…。そうかもね」
と、清子は適当な相槌を打った。
「すごいのは、あいつらは会話するんだよ。
敵が来たときは、声色を変えて、動作や表情まで駆使して、仲間に警告する。
高度なコミュニケーション能力を持っているんだ」
到着した撮影場所は、うっそうと茂る大木が密集し、近くには天然の水飲み場があった。
ふと見ると、たくさんのサルが、集団で生活している。
車を降りた紘一は、サルたちを驚かさないように、静かに近づき、シャッターを切つた。
信二と清子は、少し離れた場所で、紘一の撮影風景を見学していた。
見ていると、紘一は、汗を拭くことも忘れ、時には、何十分も同じポーズで動かなかった。
そうかと思えば、忙しく動いて、何十枚も連続でシャッターを切る。
そうやって、自分の欲しい、たった一枚の写真のために、何百枚も撮影するのだ。
「自慢の写真を見せたがるのも、わかるな」
と、信二が、ポツリとつぶやいた。
「そうね」
と、清子が、紘一の懸命に働く姿を見て、同意した。
その時、突然サルが騒ぎ始めた。
声色を変え、一斉に木の上に逃げていく。
その時、信二には、サルたちが光り輝きだしたように見えた。
(命の光だ!)
(しかし、なぜ?)
と思っていると、慌てて、紘一が走り戻ってきた。
「なに?どうしたの!?」
と、聞く清子の横を走りぬけて、叫ぶ。
「ヒョウだ!」
紘一は、車の助手席に置いてあった、ライフル銃を取って戻ってきた。
慌てて、清子は、信二の車椅子を押して車に戻ろうとする。
「お袋、車に戻ったら、真っ先にカギを閉めろよ」
紘一は、銃を構えながら、冷静に言った。
そして、信二と清子、両親を守るため、付き添ったまま、後ろ向きで歩く。
すると、逃げ惑うサルの集団に、大きくジャンプしたヒョウが降ってきた。
ひときわ大きくなったサルたちの声を聞いて、車椅子を押していた清子は、思わず振り返った。
ヒョウは、着地した瞬間に、鋭い爪で、子ザルを抱いた母ザルの背中を切り裂いた。
その一撃で、母ザルは絶命した。
自分を守る盾を失った子ザルは、逃げ惑っていた。
その様子を見ていた清子は、悲鳴を上げた。
「紘一!早く、早く助けてあげて!」
その清子の悲鳴を聞いても、信二は振り返れなかった。
(俺にも……俺にも、命の光を見せてくれ!)
だが、後ろを振り返れない信二は、車椅子の上でジタバタするだけだった。
そして、紘一は、清子の悲鳴を聞いても、子ザルを助けることに躊躇していた。
自分が介入することで、サバンナのルールを壊すことになるのではないか、と思っているのだ。
この銃は、あくまでも自衛の銃だ。
好き勝手に、動物を殺すものじゃない。
そんなことを考えている間にも、ヒョウの一撃が、子ザルに突き刺さろうとする。
清子が、息を飲み込んだ時。
突然、ヒョウが吹き飛んだ。
その様子を見ていた清子は、驚きの声を上げると同時に、信二の車椅子を押して、振り返らせた。
やっと、振り返れた信二が見たものは、ひときわ眩しく輝く命の光だった。
それは、カゼの光だった。
光り輝くカゼが、子ザルに背中を預け、ヒョウと対峙していたのだ。
どこからともなく、まさに風のように現れ、ヒョウに体当たりしたのだった。
ヒョウは、吹き飛ばされた状態から素早く立ち上がると、カゼに向かって低い唸り声をあげた。
「カゼ!」
信二は、叫んだ。
「紘一!カゼだ!あれは、カゼだ!」
紘一は、
「まさか」
と、つぶやいた。
だが、ここ数日、カゼと過ごした父親の言葉だ。
父親の言葉を信じざるを得なかった。
紘一は、空に向かって一発、銃を撃ち鳴らし、改めてヒョウに狙いをつけた。
ヒョウが驚き、こちらを見る。
だが、自分に敵意が向けられていることを知ると、ヒョウは母ザルの遺体を咥えて、草原に消えた。
「カゼ!」
と、信二は、声をかけたが、カゼは動こうとしなかった。
カゼは、紘一を見ていた。
カゼの鼻が、ピクピクと動いているのが見えた。
そこで、初めて信二は、気が付いた。
「紘一!銃をしまえ」
「え?なんで?」
「いいから」
紘一が、銃を車に置きに行くと、カゼの命の光が弱まっていく。
そして、やっとカゼは、トットットットッと信二に近づいてきた。
「カゼは、火薬の匂いが嫌いなんだ」
「あぁ、それで」
と、清子も合点がいった。
「ケムワちゃんを、カゼが嫌う理由がわかったわ」
「あいつは、いつも銃を持ってるからな」
と、紘一が言った。
「ケムワちゃんも銃を持たなかったら、仲良くしてくれる?カゼ?」
カゼは、頭を清子の手に擦りつけた。
「それを聞いたら、ケムワも喜ぶぜ」
紘一が笑った。
信二とカゼが逢う時の付き添いで、カゼに心を許されていないのは、ケムワだけだった。
いつも帰りの車中で、ケムワがさみしそうにしているのを、清子は感じていたのだ。
いつの間にか、カゼの体から、命の光は消えていた。
信二は、突然理解した。
(そうか)
(命の光は、〔死〕に直面した時に光り輝くんだ)
(それなら、思い付きで付けた、命の光っていう名前は、なかなかいいじゃないか)
と、信二は、自画自賛をした。
だが、同時に、自分のミスにも気が付いた。
それは、紘一自慢のディクディクの写真のことだ。
(あれは、命の光が宿ってなくて、当たり前だ)
(紘一は、自然になじんだ、安心したディクディクを撮影したのだから)
(紘一は、腕が悪いんじゃない)
(逆だ。腕がいいカメラマンなんだ)
そう気づいて、信二は苦笑した。
まだ清子の手に頭を擦りつけるカゼを見て、信二は、
「ごめんよ、カゼ。
今日は、ビスケット、持ってきてないんだ」
と、言うと、
「あぁ、ビスケット」
と、清子が、バックからビスケットを取り出した。
「一枚だけなら、あったわ」
カゼは器用に、清子の手から直接ビスケットを咥えると、クルリと背を向けて歩き出した。
「おい、どこに行くんだよ。カゼ」
信二が声をかけても、カゼは振り返ろうともしない。
そして、カゼは、子ザルの前にビスケットを置いた。
子ザルは、嬉しそうにビスケットを食べ始めた。
それを見た紘一は、仰天した。
「マジかよ…。こんな奴、初めて見た」
同族ならまだしも、他の種族へ自分の食料を分け与えるのは、珍しい。
その様子を見て、信二が、カゼに声をかけた。
「カゼ。一緒に来ないか。
ビスケットならいっぱいあるぞ」
清子も、どこか消沈しているように見える。
何度もカゼに会ううちに、清子もカゼに愛着を持ったらしい。
昼過ぎに、信二たちが居留地に戻ると、ちょうど紘一が出かけるところだった。
「今日は、会えなかったみたいだな」
と、撮影道具の入ったバックパックを担いだ紘一が、信二に声をかけた。
信二は、不機嫌そうな顔をして、何も言わなかった。
「まあ、そんな日もあるさ。
これから撮影に行くんだ。
気晴らしに、一緒に来るか?」
と、紘一が誘ってきた。
「それも面白そうね」
と、清子も信二を誘い、紘一の撮影風景を見学することになった。
「今日は、サバンナモンキーの撮影に行く」
と、車を運転しながら、紘一は説明する。
信二と並んで後部座席に座った清子は、
「そんなの動物園にいたかしら?」
と、聞いた。
「サバンナモンキーっていうのは、属性で、六種類のサルがいる。
ベルベットモンキーなんかが有名かな」
「あー…。そうかもね」
と、清子は適当な相槌を打った。
「すごいのは、あいつらは会話するんだよ。
敵が来たときは、声色を変えて、動作や表情まで駆使して、仲間に警告する。
高度なコミュニケーション能力を持っているんだ」
到着した撮影場所は、うっそうと茂る大木が密集し、近くには天然の水飲み場があった。
ふと見ると、たくさんのサルが、集団で生活している。
車を降りた紘一は、サルたちを驚かさないように、静かに近づき、シャッターを切つた。
信二と清子は、少し離れた場所で、紘一の撮影風景を見学していた。
見ていると、紘一は、汗を拭くことも忘れ、時には、何十分も同じポーズで動かなかった。
そうかと思えば、忙しく動いて、何十枚も連続でシャッターを切る。
そうやって、自分の欲しい、たった一枚の写真のために、何百枚も撮影するのだ。
「自慢の写真を見せたがるのも、わかるな」
と、信二が、ポツリとつぶやいた。
「そうね」
と、清子が、紘一の懸命に働く姿を見て、同意した。
その時、突然サルが騒ぎ始めた。
声色を変え、一斉に木の上に逃げていく。
その時、信二には、サルたちが光り輝きだしたように見えた。
(命の光だ!)
(しかし、なぜ?)
と思っていると、慌てて、紘一が走り戻ってきた。
「なに?どうしたの!?」
と、聞く清子の横を走りぬけて、叫ぶ。
「ヒョウだ!」
紘一は、車の助手席に置いてあった、ライフル銃を取って戻ってきた。
慌てて、清子は、信二の車椅子を押して車に戻ろうとする。
「お袋、車に戻ったら、真っ先にカギを閉めろよ」
紘一は、銃を構えながら、冷静に言った。
そして、信二と清子、両親を守るため、付き添ったまま、後ろ向きで歩く。
すると、逃げ惑うサルの集団に、大きくジャンプしたヒョウが降ってきた。
ひときわ大きくなったサルたちの声を聞いて、車椅子を押していた清子は、思わず振り返った。
ヒョウは、着地した瞬間に、鋭い爪で、子ザルを抱いた母ザルの背中を切り裂いた。
その一撃で、母ザルは絶命した。
自分を守る盾を失った子ザルは、逃げ惑っていた。
その様子を見ていた清子は、悲鳴を上げた。
「紘一!早く、早く助けてあげて!」
その清子の悲鳴を聞いても、信二は振り返れなかった。
(俺にも……俺にも、命の光を見せてくれ!)
だが、後ろを振り返れない信二は、車椅子の上でジタバタするだけだった。
そして、紘一は、清子の悲鳴を聞いても、子ザルを助けることに躊躇していた。
自分が介入することで、サバンナのルールを壊すことになるのではないか、と思っているのだ。
この銃は、あくまでも自衛の銃だ。
好き勝手に、動物を殺すものじゃない。
そんなことを考えている間にも、ヒョウの一撃が、子ザルに突き刺さろうとする。
清子が、息を飲み込んだ時。
突然、ヒョウが吹き飛んだ。
その様子を見ていた清子は、驚きの声を上げると同時に、信二の車椅子を押して、振り返らせた。
やっと、振り返れた信二が見たものは、ひときわ眩しく輝く命の光だった。
それは、カゼの光だった。
光り輝くカゼが、子ザルに背中を預け、ヒョウと対峙していたのだ。
どこからともなく、まさに風のように現れ、ヒョウに体当たりしたのだった。
ヒョウは、吹き飛ばされた状態から素早く立ち上がると、カゼに向かって低い唸り声をあげた。
「カゼ!」
信二は、叫んだ。
「紘一!カゼだ!あれは、カゼだ!」
紘一は、
「まさか」
と、つぶやいた。
だが、ここ数日、カゼと過ごした父親の言葉だ。
父親の言葉を信じざるを得なかった。
紘一は、空に向かって一発、銃を撃ち鳴らし、改めてヒョウに狙いをつけた。
ヒョウが驚き、こちらを見る。
だが、自分に敵意が向けられていることを知ると、ヒョウは母ザルの遺体を咥えて、草原に消えた。
「カゼ!」
と、信二は、声をかけたが、カゼは動こうとしなかった。
カゼは、紘一を見ていた。
カゼの鼻が、ピクピクと動いているのが見えた。
そこで、初めて信二は、気が付いた。
「紘一!銃をしまえ」
「え?なんで?」
「いいから」
紘一が、銃を車に置きに行くと、カゼの命の光が弱まっていく。
そして、やっとカゼは、トットットットッと信二に近づいてきた。
「カゼは、火薬の匂いが嫌いなんだ」
「あぁ、それで」
と、清子も合点がいった。
「ケムワちゃんを、カゼが嫌う理由がわかったわ」
「あいつは、いつも銃を持ってるからな」
と、紘一が言った。
「ケムワちゃんも銃を持たなかったら、仲良くしてくれる?カゼ?」
カゼは、頭を清子の手に擦りつけた。
「それを聞いたら、ケムワも喜ぶぜ」
紘一が笑った。
信二とカゼが逢う時の付き添いで、カゼに心を許されていないのは、ケムワだけだった。
いつも帰りの車中で、ケムワがさみしそうにしているのを、清子は感じていたのだ。
いつの間にか、カゼの体から、命の光は消えていた。
信二は、突然理解した。
(そうか)
(命の光は、〔死〕に直面した時に光り輝くんだ)
(それなら、思い付きで付けた、命の光っていう名前は、なかなかいいじゃないか)
と、信二は、自画自賛をした。
だが、同時に、自分のミスにも気が付いた。
それは、紘一自慢のディクディクの写真のことだ。
(あれは、命の光が宿ってなくて、当たり前だ)
(紘一は、自然になじんだ、安心したディクディクを撮影したのだから)
(紘一は、腕が悪いんじゃない)
(逆だ。腕がいいカメラマンなんだ)
そう気づいて、信二は苦笑した。
まだ清子の手に頭を擦りつけるカゼを見て、信二は、
「ごめんよ、カゼ。
今日は、ビスケット、持ってきてないんだ」
と、言うと、
「あぁ、ビスケット」
と、清子が、バックからビスケットを取り出した。
「一枚だけなら、あったわ」
カゼは器用に、清子の手から直接ビスケットを咥えると、クルリと背を向けて歩き出した。
「おい、どこに行くんだよ。カゼ」
信二が声をかけても、カゼは振り返ろうともしない。
そして、カゼは、子ザルの前にビスケットを置いた。
子ザルは、嬉しそうにビスケットを食べ始めた。
それを見た紘一は、仰天した。
「マジかよ…。こんな奴、初めて見た」
同族ならまだしも、他の種族へ自分の食料を分け与えるのは、珍しい。
その様子を見て、信二が、カゼに声をかけた。
「カゼ。一緒に来ないか。
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