あの日のキスを、まだ覚えてる

ゆう

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恋人未満

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「好き」

「俺も好き」

そう言い合える距離に、私たちはいる。


けれど、もう恋人ではない。



前は付き合っていた。
確かに、ちゃんと恋人だった。


でもある日、私は思ってしまった。

――彼は、私の身体が好きだから一緒にいるんじゃないかって。


それをぶつけたとき、彼は強く否定しなかった。

その沈黙が、私には答えに聞こえて。

悲しくて、悔しくて、少しだけ怒った。



それがきっかけで、私たちは別れた。


それなのに不思議だ。

別れたあとも、私は彼を手放せなかった。


理由は簡単で、残酷で、正直だった。

彼との触れ合いが、どうしようもなく心地よかったから。

それに私はずっと、どこかで求めていたのだ。

「安全で、定期的で、余計な責任のない関係」を…。


彼は、それにぴったりだった。


だから私たちは恋人をやめて、セフレになった。




……はずだった。


でも現実は、そんなに都合よく割り切れなかった。


会えば自然に隣を歩いて、当たり前みたいに手をつなぐ。

キスも、ハグも、その距離感は恋人のまま…。


誕生日も、クリスマスも、理由をつけて会う約束をする。


外から見たら、きっと恋人だ。

だって私たちは、好きな気持ちを残したまま別れているのだから。



触れ合ったあと、同じ空間でシャワーを浴びて、どうでもいい話で笑い合う。

その時間が、いちばん苦しい。

いちばん幸せで、いちばん残酷だから。



ある夜、私はぽつりと言った。

「ねえ……私たちさ。なんで別れたんだっけ。」


彼は少し考えてから、静かに答えた。

「……みゆが、体目的に感じるのが嫌だって言ってたから。」


「……確かに」

そう言って、私は笑った。

でも、胸の奥が少しだけ痛んだ。


沈黙が落ちる。

私はその空気に耐えられなくなって、彼にキスをした。


「……好き」

囁くように言うと、彼は一瞬だけ目を伏せてから、同じ距離で返してきた。


「俺も好き」



その言葉は、告白でも、約束でもなくて。

ただ、今この瞬間の本音。


付き合っていない。

でも、嫌いでもない。


恋人じゃない。

でも、離れられない…。



私たちは今日も、

答えのない関係の中で、好きだと言い合っている。



この曖昧さが壊れる日まで。

――あるいは、壊れないまま、ずっと。
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