【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ

文字の大きさ
19 / 203

決裂

 離縁状が消えても、リール殿下がサインしたのは事実である。何を言われても、このまま出て行けばいいと、正面から宮を出て行くことにした。

 動きがあれば殿下に報告が行くことになっていたのだろう。門に着く前に殿下が慌てた様子でやって来た。

「サリー、どこへ行く?外出は聞いていないぞ」
「出て行くんです」
「出て行く!?」
「そういうお約束だったはずです」
「約束?」

 最初から離縁状をなかったことにするつもりだったのだろう。金庫の番号を知っている者は限られる。疑わなかったわけではないが、賭けてみてもいいかと思ったのに、最後まで信用を失わせてくれるものだ。

「はあ…もう出ていければ何でもいいです」
「約束とは何だ?」
「そういう思惑で進むんですね、報復させたいですか」

 報復の準備をしなければならないのか、面倒ではあるが仕方ない。

「何を言っているんだ?息子を放って出て行くというのか」
「言いましたね、それ」
「何を言っているんだ!戻りなさい、我儘は許さない」
「分かりました」

 サリーは大人しく宮に戻ったが、鞄の中身を出すことはなかった。そして同時に微笑みすら消えた。

「最初から一人ずつ行きましょうかね。まずは…」

 クリコットは恐る恐る、殿下に大丈夫だったのか聞くが、この作戦を言い出したのは殿下で、行うと決めたのも殿下ある。

 サリーに離縁を約束すると言って、子どもを産ませて、その後にそんな話はしていないと白を切る。サリーに役者にもなれると言われたのを逆手に取ることにした。

「大人しく宮に戻ったよ」
「大人しくですか?」
「ああ、怒鳴り散らされる覚悟であったが、分かっていたのかもしれない。子どもを産んで変わったのだろう」
「でもその割に一度も会いに行かれていませんよ」
「母親なんだ、いずれ会いに来るさ」

 しかし、サリーは毎日、ミーラ王子の様子は侍女に聞くものの、会いに行くことはなかった。

 そして、サリーは宮にある女性を呼び出した。

 名前はグリズナー・トラス。爵位は伯爵。

「お久しぶりね、グリズナー夫人」
「妃殿下、ご無沙汰しております」
「実はね、あなたの発言の責任を取って貰おうと思いましてね」
「発言、でございますか」
「ええ。皆さん、私をやり込めたいだけだと思っていたのだけど、実は慢心だったと反省しましたの。一ヶ月後にバリミューア島で、交流会があるのはご存知?様々な国の重鎮が来られるの」

 バリミューア島はリゾート地である。そこで他国との交流会が開かれることになっている。サリーは毎回参加し、他国同士の通訳を務めることもある。

「いっ、いえ」
「そちらにグリズナー夫人に行っていただきます。私の代理として、ねっ?」
「は?私などが代理など、許可されるはずがありません」
「いいえ、あるんですの。王太子妃が指名した者に代理を任命することが出来ますの。特権というものですわね」

 王太子妃は母国語も合わせれば、四ヶ国語が必須となる。ゆえに代理という権限がある。通常は側妃に代理をさせるのだが、現在側妃はいないため、別の者に王太子妃の権限のみで指名が出来る。

 交流会の参加者や周辺地域の者はサリーの語学力を知っている。ゆえに話せないから、出席しないというものではないことは明らかである。

「でも、なぜ私が…」

「ですから、あなたが発言されたではないですか?憶えていないとしても、関係ありません。『王太子様とは年齢が合わなかっただけなのよ、本来なら私の方が王家に相応しかったのに、とっても残念だわ』と、頬に手を当てて発言されました。一言一句、間違いはありません。六年前の六月七日の王家主催の夜会でした。私、記憶力がとてもいいんですの」

「そ、それは」
「だって、あの時点で私は王太子の婚約者だったのよ。嘘を付くはずないものね?そうよね?まあ、もう承認してありますから、私が取り下げることがない限り行っていただきます。よろしいですね?」
「待ってください!もし、粗相でもしたら、大変なことになりますよ」

 グリズナー夫人でもさすがに自分では務まらないことは分かる。そして、なぜお前がいるんだという顔をされることも容易である。

「構いません。だって出来ないはずがないですもの。そうでしょう?詳細が決まりましたら、文で知らせますから、よろしくお願いいたしますわね。もうお帰りになって結構ですよ」
「出来ません、申し訳ございませんでした」
「いいえ、出来ます。いいえ、やっていただきます。お送りして頂戴」

 グリズナー夫人は足に力が入らず、覚束ない足取りで、護衛に支えられて、部屋を出されることになった。

 リビアナは報復が始まったのだと体が震えた。

あなたにおすすめの小説

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

妹に奪われた婚約者は、私を壊す災厄でした

あう
恋愛
伯爵家の長女セレナは、侯爵令息の婚約者として家を支え、妹のわがままにも耐え続けてきた。 しかし妹ミレイユは、“可哀想な妹”を演じて姉の婚約者を奪い、ついに婚約破棄へ持ち込んでしまう。 すべてを奪われた――そう思われたセレナだったが、伯爵家を離れたことで見えてきたのは、自分を縛っていた歪な家族と婚約の真実だった。 そして、奪ったはずの妹のほうもまた、望んだ未来とは違う現実へ追い詰められていく。 奪い返さない。縋らない。 静かに手放した令嬢が、自分の人生を取り戻していくざまぁ恋愛譚。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

旦那様から出て行ってほしいと言われたのでその通りにしたら、今になって後悔の手紙が届きました

伊久留りさ
恋愛
 北辺の国境を守る小さな領地、ヴァルドリア。その城館の一室で、若き領主の妻アリシアは、夫レオンハルトの言葉に静かに耳を傾けていた。 「アリシア、君にはもう少し、この城から離れてもらいたい」  レオンハルトの声は、いつものように低く、落ち着いていた。しかし、その言葉の意味は、アリシアにとってあまりにも唐突で、あまりにも冷たいものだった。 「……離れる、とはどういう意味でございますか」 「つまり、この城にいないでほしい、ということだ。しばらくの間、君には別の場所で暮らしてもらいたい」  アリシアは、ゆっくりと目を閉じた。指先がわずかに震えるのを、彼女は必死に抑えていた。この男の前で、自分が動揺している姿を見せたくなかったからだ。

私のことはお気になさらず

みおな
恋愛
 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。  そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。  私のことはお気になさらず。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・