【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ

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消魂

 一方、絶望の淵に立たされたのが、リール殿下である。

 殿下とクリコットは、侍女・リビアナからサリーとルイソードとの話を聞かされることになった。前はクリコットを介していたが、時間がある際はリビアナから直接聞くようになっていた。

 内容を聞き終えると、部屋はずっしりと重くなった。それもそうだ、サリーが死を考えていたなどと思わなかった。いや、思わないようにしていた。殿下も色事には愚かであったが、馬鹿ではない、ここまでサリーが酷い目に遭っていて、味方もおらず、耐えていたとしたならば、出ない選択肢ではなかった。

「嘘だ…」「そんな」
「事実です。発言を記してあったのも、前から準備してあったのかもしれません」
「まさか…」
「辻褄が合うのです。妃殿下は暴露本を出す予定はなくとも、どこかに残しておいでだった。お二人が離縁状を奪った前の金庫に入っていませんでしたか?」
「…」

 サリーを騙した離縁状を奪ったのは殿下とクリコットだ。

 リビアナは勿論、妃殿下に出て行って欲しくはなかったが、ほとんどの事情を聞いている立場で、引き留めることは出来なかった。

 だが、離縁状がなくなったと知って、クリコットを人として最低だと、責め立てた。どうやら妃殿下の護衛に見張らせて、二人で奪ったそうだ。殿下もリビアナに責められるのは、承知の上だったので、事情を話すように言ってあった。

 しかも、奪ったのは妃殿下が絶対来ない、出産の最中だったという。二人への信頼は失ったが、報告は伝えることで、殿下に後悔させられるのならばと続けている。

 金庫は王家の物であるため、暗証番号は王宮の管理部で、万が一の時に控えてあり、調べればわかる。サリーも把握しており、あれから一度も誰が取ったのか、どこへ行ったのかと追及もしていない。

「あの中にあったのか…」
「あり得る、かもしれませんね」

 金庫には離縁状以外は少しのお金と、翻訳の原本くらいであったが、束になって積んであり、読めない言語であったため、中身を見てはいない。もしかしたら、既にあったのかもしれない。

 現在の金庫はサリーが自身で用意したもので、サリーにしか開けられない。誰かではなく、自身で報復のために移したのだろう。そして、リビアナも、護衛たちも金庫が運ばれて来て、信用を失ったのだと実感した。

 前の金庫も置いてはあるが、空になっている。

「妃殿下は揉み消されると思ったようですが、それはないでしょう」
「ああ、間違いなく、私も王家も、女性たちも非難の的になっただろうな。国内だけでは済まなかっただろう。コルボリットのルアース・ベルア氏が動けば、終わりだったかもしれない」

 ルアース・ベルア氏宛てにサリーがもし、何か残していたら、必ず動いただろう。大事なファンで、安心して任せられる翻訳家でもある。翻訳をして色んな国で読まれるようになって、さらにファンも増えた。ファンだと言っていたソアート帝国の皇帝がいい例である。

「ソアート帝国も動いたかもしれない」
「っな、まさか」
「皇帝がファンなのだ、矛先はこちらに向くだろう。ルアース・ベルア氏が翻訳版はサリーがいないから、もう出さないと言われる可能性も高い。そうなれば、ファンは黙っていないだろう。お前のせいで読めなくなった、そう言われたら、私は答えを持っていない」
「殿下…」

 翻訳版が出版されるようになってから、物語にも語学が達者なキャラクターが登場して、途中から登場したにも関わらず、とても人気になっている。ルアース・ベルア氏は肯定はしていないが、ファンの間ではサリーがモデルではないかと言われており、世界中のファンが我が国に敵意を向けるだろう。

 一番の毒を盛ったのは私だ。サリーを守ることもせず、自由を奪い続け、命まで奪おうとしていた。気付かなかった、知らなかったでは済まされない。どう過ちを償えばいいのか、ますます分からなくなった。

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