【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ

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再々非望3

「そんなに受けていたのか?」
「はい、検定試験だけなら」
「何をお持ちなのですか?」
「ノワンナ語、アペラ語、カベリ語、ビアロ語、ノール語、ガガン語、ワシュリア語、キアン語、ココ語、ゴッサムブラン語、プラ語」
「ゴッサムブランって、どこですか?」
「ギリーズマラス王国よ。折角、十個目だから、今まで目にしたこともない、名前が素敵な言語に挑戦しようと思って。トワイ語のものはなかったから、出版社に頼んで、私が知っている言語の教本を取り寄せたの。発音の先生も見付かってね、寒い国だから、口をあまり開かずに発音するの。面白いでしょう?」

 素敵な名前だけで選び、面白いからと憶えられるものではない。そもそも、母国語の教本がない時点で、母国語ではない言葉で学ぶことになる。

「検定試験を受けたんですか」
「ええ、わざわざ来てくださったわ」

 習ったはいいものの、自国で検定試験を受けることが出来ないため、出版社の担当者の伝手で、妃殿下が検定を受けたいがどうしたらいいかと連絡すると、外交担当の大臣夫妻、検定試験のための通訳、翻訳家、何も関係のない王族、何だか沢山やって来て、検定試験を受け、合格を貰った。なぜか拍手喝采であった。

「全部、話せるんですか?」
「日常会話ならね」
「圧巻です…私が言うことではないですけど、私を含めて、よくも自分の方が相応しいと言えたものですよ。その全ての言語で、『コルボリット』の翻訳版が出ているということですか?」
「全部ではないけれど、ゴッサムブラン語では出ているわ。売れ行きも、とても良いそうよ」
「それは、ギリーズマラス王国も喜んで来ますね」

「来ていたのか?」
「存じませんでしたが、記録を見れば分かるでしょう」

 外交として来たわけではないので、殿下に情報が伝わることはなかった。驚いたが、今はエマ・ネイリーを片付ける方が先決だ。

「で、なぜそんな思考になったのだ?」
「だって、クリコット様がノワンナ語だけで側近になったと聞いて、側近ならずっと側にいられるでしょう。それなら愛妾で我慢しようと思って」
「なぜ君に決定権がある?」
「えっ、だって、私を素敵だって…」
『余程、誰にも言って貰えなかったようです(ノワンナ語)』

 エマは結婚しないままであった。両親は敢えて動くことはせず、嫁ぐことが出来ても、迷惑を掛けることになったら、堪らないからだ。ゆえに領地で大人しく勉強している方が都合が良かった。

『もういいな。牢に入れて、ネイリー子爵を呼んで、事情を話して引き取って貰ってくれ。あと、保留にしてあったが、招待客からも外してくれ。陛下には後から話しておく(ノワンナ語)』
『承知しました(ノワンナ語)』
『愛妾はお好きにすればよろしいですよ?(ノワンナ語)』
『いいや、あり得ない(ノワンナ語)』
『結局、ごきげんようしか、ノワンナ語ではなかったわね?(ノワンナ語)』

 ノワンナ語を披露することもなく、理解できていないエマは、何も分からないまま、クリコットと護衛に貴族牢に入れられた。

「えっ、何ですか、どこに行くんですか。契約書ですか」

 子爵夫妻は慌てて引き取りやって来た。事情を話すと真っ青になり、子爵家に罰を与える気はないが、エマ・ネイリーは生涯監視し、もし監視できる者のがいなくなった場合は、修道院を紹介すると告げると、承知しましたと頭を下げた。

 王都に来ていると知ったのも、連絡を受けてからであった。同級生に会いに行くと書き置きを残して、出て行ったそうだ、まさか王太子夫妻だと思わないだろう。

 そして、エマに対面した夫人は失礼しますと言って、振り被って引っ叩いた。

「失礼しました。必ず生涯、監視して、私たちがいなくなれば修道院に入れます。ですが、これから家族とは扱いません。働きに合った生活にさせます」
「…どうして」
「お目汚しになるだけですので、すぐ帰ります。大変、申し訳ありませんでした。謝罪、慰謝料についてはいつでもご連絡をください」
「それは必要ない。もう二度とエマ・ネイリーの姿を見せないでくれ」
「「はい」」

 夫人は『私はここに住むの』『ここが私の居場所なの』と喚くエマの腹を殴り付けながら、引きずって去って行った。

「なかなか、暴力的な奥方だったんだな」
「ええ、どうやら母君はお若い頃は、騎士を目指していたそうです」
「それは…良かったのか、悪かったのか。せめて、あのような格好をするのなら、訓練してもらえば良かったじゃないか」
「弟君から聞いたのですが、女性は男性に守ってもらうものというのは、母君を見てそう思っていたようですよ。お母様は誰にも守って貰えないからでしょうと、それで母君は気持ち悪いと、見限っておいでだったそうです」

 クリコットはエマの弟から謝罪を受け、今の話を聞かされたのだ。こんなに長きに渡って、エマ・ネイリーに煩わされるとは思わなかった。

「はあ…それより、サリーとレベッカはなぜあんなに親しいのだ?」
「リビアナからも報告は受けていません」
「それは仕方ないな。リビアナから離縁状の一件で、信用を失ってしまったからな。サリーに害がない場合は報告しなくなったのだろうな」
「ああ、おそらく報告するようなことではないと言われて、終わりでしょう。善意で報告を受けていただけで、諜報というわけではありませんでしたから」

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