文字の大きさ
大
中
小
65 / 203
再々非望3
「そんなに受けていたのか?」
「はい、検定試験だけなら」
「何をお持ちなのですか?」
「ノワンナ語、アペラ語、カベリ語、ビアロ語、ノール語、ガガン語、ワシュリア語、キアン語、ココ語、ゴッサムブラン語、プラ語」
「ゴッサムブランって、どこですか?」
「ギリーズマラス王国よ。折角、十個目だから、今まで目にしたこともない、名前が素敵な言語に挑戦しようと思って。トワイ語のものはなかったから、出版社に頼んで、私が知っている言語の教本を取り寄せたの。発音の先生も見付かってね、寒い国だから、口をあまり開かずに発音するの。面白いでしょう?」
素敵な名前だけで選び、面白いからと憶えられるものではない。そもそも、母国語の教本がない時点で、母国語ではない言葉で学ぶことになる。
「検定試験を受けたんですか」
「ええ、わざわざ来てくださったわ」
習ったはいいものの、自国で検定試験を受けることが出来ないため、出版社の担当者の伝手で、妃殿下が検定を受けたいがどうしたらいいかと連絡すると、外交担当の大臣夫妻、検定試験のための通訳、翻訳家、何も関係のない王族、何だか沢山やって来て、検定試験を受け、合格を貰った。なぜか拍手喝采であった。
「全部、話せるんですか?」
「日常会話ならね」
「圧巻です…私が言うことではないですけど、私を含めて、よくも自分の方が相応しいと言えたものですよ。その全ての言語で、『コルボリット』の翻訳版が出ているということですか?」
「全部ではないけれど、ゴッサムブラン語では出ているわ。売れ行きも、とても良いそうよ」
「それは、ギリーズマラス王国も喜んで来ますね」
「来ていたのか?」
「存じませんでしたが、記録を見れば分かるでしょう」
外交として来たわけではないので、殿下に情報が伝わることはなかった。驚いたが、今はエマ・ネイリーを片付ける方が先決だ。
「で、なぜそんな思考になったのだ?」
「だって、クリコット様がノワンナ語だけで側近になったと聞いて、側近ならずっと側にいられるでしょう。それなら愛妾で我慢しようと思って」
「なぜ君に決定権がある?」
「えっ、だって、私を素敵だって…」
『余程、誰にも言って貰えなかったようです(ノワンナ語)』
エマは結婚しないままであった。両親は敢えて動くことはせず、嫁ぐことが出来ても、迷惑を掛けることになったら、堪らないからだ。ゆえに領地で大人しく勉強している方が都合が良かった。
『もういいな。牢に入れて、ネイリー子爵を呼んで、事情を話して引き取って貰ってくれ。あと、保留にしてあったが、招待客からも外してくれ。陛下には後から話しておく(ノワンナ語)』
『承知しました(ノワンナ語)』
『愛妾はお好きにすればよろしいですよ?(ノワンナ語)』
『いいや、あり得ない(ノワンナ語)』
『結局、ごきげんようしか、ノワンナ語ではなかったわね?(ノワンナ語)』
ノワンナ語を披露することもなく、理解できていないエマは、何も分からないまま、クリコットと護衛に貴族牢に入れられた。
「えっ、何ですか、どこに行くんですか。契約書ですか」
子爵夫妻は慌てて引き取りやって来た。事情を話すと真っ青になり、子爵家に罰を与える気はないが、エマ・ネイリーは生涯監視し、もし監視できる者のがいなくなった場合は、修道院を紹介すると告げると、承知しましたと頭を下げた。
王都に来ていると知ったのも、連絡を受けてからであった。同級生に会いに行くと書き置きを残して、出て行ったそうだ、まさか王太子夫妻だと思わないだろう。
そして、エマに対面した夫人は失礼しますと言って、振り被って引っ叩いた。
「失礼しました。必ず生涯、監視して、私たちがいなくなれば修道院に入れます。ですが、これから家族とは扱いません。働きに合った生活にさせます」
「…どうして」
「お目汚しになるだけですので、すぐ帰ります。大変、申し訳ありませんでした。謝罪、慰謝料についてはいつでもご連絡をください」
「それは必要ない。もう二度とエマ・ネイリーの姿を見せないでくれ」
「「はい」」
夫人は『私はここに住むの』『ここが私の居場所なの』と喚くエマの腹を殴り付けながら、引きずって去って行った。
「なかなか、暴力的な奥方だったんだな」
「ええ、どうやら母君はお若い頃は、騎士を目指していたそうです」
「それは…良かったのか、悪かったのか。せめて、あのような格好をするのなら、訓練してもらえば良かったじゃないか」
「弟君から聞いたのですが、女性は男性に守ってもらうものというのは、母君を見てそう思っていたようですよ。お母様は誰にも守って貰えないからでしょうと、それで母君は気持ち悪いと、見限っておいでだったそうです」
クリコットはエマの弟から謝罪を受け、今の話を聞かされたのだ。こんなに長きに渡って、エマ・ネイリーに煩わされるとは思わなかった。
「はあ…それより、サリーとレベッカはなぜあんなに親しいのだ?」
「リビアナからも報告は受けていません」
「それは仕方ないな。リビアナから離縁状の一件で、信用を失ってしまったからな。サリーに害がない場合は報告しなくなったのだろうな」
「ああ、おそらく報告するようなことではないと言われて、終わりでしょう。善意で報告を受けていただけで、諜報というわけではありませんでしたから」
「はい、検定試験だけなら」
「何をお持ちなのですか?」
「ノワンナ語、アペラ語、カベリ語、ビアロ語、ノール語、ガガン語、ワシュリア語、キアン語、ココ語、ゴッサムブラン語、プラ語」
「ゴッサムブランって、どこですか?」
「ギリーズマラス王国よ。折角、十個目だから、今まで目にしたこともない、名前が素敵な言語に挑戦しようと思って。トワイ語のものはなかったから、出版社に頼んで、私が知っている言語の教本を取り寄せたの。発音の先生も見付かってね、寒い国だから、口をあまり開かずに発音するの。面白いでしょう?」
素敵な名前だけで選び、面白いからと憶えられるものではない。そもそも、母国語の教本がない時点で、母国語ではない言葉で学ぶことになる。
「検定試験を受けたんですか」
「ええ、わざわざ来てくださったわ」
習ったはいいものの、自国で検定試験を受けることが出来ないため、出版社の担当者の伝手で、妃殿下が検定を受けたいがどうしたらいいかと連絡すると、外交担当の大臣夫妻、検定試験のための通訳、翻訳家、何も関係のない王族、何だか沢山やって来て、検定試験を受け、合格を貰った。なぜか拍手喝采であった。
「全部、話せるんですか?」
「日常会話ならね」
「圧巻です…私が言うことではないですけど、私を含めて、よくも自分の方が相応しいと言えたものですよ。その全ての言語で、『コルボリット』の翻訳版が出ているということですか?」
「全部ではないけれど、ゴッサムブラン語では出ているわ。売れ行きも、とても良いそうよ」
「それは、ギリーズマラス王国も喜んで来ますね」
「来ていたのか?」
「存じませんでしたが、記録を見れば分かるでしょう」
外交として来たわけではないので、殿下に情報が伝わることはなかった。驚いたが、今はエマ・ネイリーを片付ける方が先決だ。
「で、なぜそんな思考になったのだ?」
「だって、クリコット様がノワンナ語だけで側近になったと聞いて、側近ならずっと側にいられるでしょう。それなら愛妾で我慢しようと思って」
「なぜ君に決定権がある?」
「えっ、だって、私を素敵だって…」
『余程、誰にも言って貰えなかったようです(ノワンナ語)』
エマは結婚しないままであった。両親は敢えて動くことはせず、嫁ぐことが出来ても、迷惑を掛けることになったら、堪らないからだ。ゆえに領地で大人しく勉強している方が都合が良かった。
『もういいな。牢に入れて、ネイリー子爵を呼んで、事情を話して引き取って貰ってくれ。あと、保留にしてあったが、招待客からも外してくれ。陛下には後から話しておく(ノワンナ語)』
『承知しました(ノワンナ語)』
『愛妾はお好きにすればよろしいですよ?(ノワンナ語)』
『いいや、あり得ない(ノワンナ語)』
『結局、ごきげんようしか、ノワンナ語ではなかったわね?(ノワンナ語)』
ノワンナ語を披露することもなく、理解できていないエマは、何も分からないまま、クリコットと護衛に貴族牢に入れられた。
「えっ、何ですか、どこに行くんですか。契約書ですか」
子爵夫妻は慌てて引き取りやって来た。事情を話すと真っ青になり、子爵家に罰を与える気はないが、エマ・ネイリーは生涯監視し、もし監視できる者のがいなくなった場合は、修道院を紹介すると告げると、承知しましたと頭を下げた。
王都に来ていると知ったのも、連絡を受けてからであった。同級生に会いに行くと書き置きを残して、出て行ったそうだ、まさか王太子夫妻だと思わないだろう。
そして、エマに対面した夫人は失礼しますと言って、振り被って引っ叩いた。
「失礼しました。必ず生涯、監視して、私たちがいなくなれば修道院に入れます。ですが、これから家族とは扱いません。働きに合った生活にさせます」
「…どうして」
「お目汚しになるだけですので、すぐ帰ります。大変、申し訳ありませんでした。謝罪、慰謝料についてはいつでもご連絡をください」
「それは必要ない。もう二度とエマ・ネイリーの姿を見せないでくれ」
「「はい」」
夫人は『私はここに住むの』『ここが私の居場所なの』と喚くエマの腹を殴り付けながら、引きずって去って行った。
「なかなか、暴力的な奥方だったんだな」
「ええ、どうやら母君はお若い頃は、騎士を目指していたそうです」
「それは…良かったのか、悪かったのか。せめて、あのような格好をするのなら、訓練してもらえば良かったじゃないか」
「弟君から聞いたのですが、女性は男性に守ってもらうものというのは、母君を見てそう思っていたようですよ。お母様は誰にも守って貰えないからでしょうと、それで母君は気持ち悪いと、見限っておいでだったそうです」
クリコットはエマの弟から謝罪を受け、今の話を聞かされたのだ。こんなに長きに渡って、エマ・ネイリーに煩わされるとは思わなかった。
「はあ…それより、サリーとレベッカはなぜあんなに親しいのだ?」
「リビアナからも報告は受けていません」
「それは仕方ないな。リビアナから離縁状の一件で、信用を失ってしまったからな。サリーに害がない場合は報告しなくなったのだろうな」
「ああ、おそらく報告するようなことではないと言われて、終わりでしょう。善意で報告を受けていただけで、諜報というわけではありませんでしたから」
感想
あなたにおすすめの小説
私が使うはずだった部屋に病弱令嬢を寝かせた婚約者とは、白紙に戻します
さんけい王家の意向で進められた婚約。
リーゼロッテ・エーレンフェルトは、婚約者ヒューバート・ラドクリフの屋敷を訪れた日、婚礼後に自分が使うはずだった部屋で、病弱な男爵令嬢アネットが眠っているのを見る。
「君なら分かってくれると思った」
ヒューバートはそう言った。
けれどリーゼロッテが問いたいのは、アネットが可哀想かどうかではない。
弱い方を助けるために、なぜ私の部屋を使ったのですか。
なぜ私の席を、あなたの優しさのために差し出したのですか。
部屋、席、茶会、呼び名。
少しずつずらされた扱いを、リーゼロッテは一つずつ確認していく。
善意を理由に他人の場所を使う婚約者とは、白紙に戻します。
※初日以外は6時・17時の更新といたします。
私のことはお気になさらず
みおな 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。
そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。
私のことはお気になさらず。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
どうぞお好きになさってください
みおな学園に入学して一ヶ月。
婚約者の第一王子殿下は言った。
「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕はひとりの男として自由に過ごしたい」
公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。
「好きになさればよろしいわ」
彼女の離縁とその波紋
豆狸夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi(がっち)13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
はっきり言ってカケラも興味はございません
みおな 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。
病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。
まぁ、好きになさればよろしいわ。
私には関係ないことですから。